Scene 1:クイック回答

エピソード4でカケルくんが大失敗したバター。今日はマリ先生が、その「なぜ」を深ーく掘り下げるよ〜!ちょっと作れるようになった人ほど「おっ」てなる話なの💡
まず結論からお伝えします。
クッキーがサクサクになるかどうかは、バターが「可塑性」を保っているかで決まります。可塑性とは、バターが粘土のように形を変えられる、固体でも液体でもない絶妙な状態のこと。この状態のバターだけが、小麦粉のグルテンをコーティングして「サクサク」を生み出します。
そして、その可塑性が働く温度は 13〜18℃。たった数℃を外れただけで、バターはサクサクの味方から敵に変わります。
さらに今日は、現場でよく使う「ポマード状」という言葉の、ちょっと意外な正体にも踏み込みます。
Scene 2:マリの講義〜可塑性という「奇跡の状態」〜

カケルの失敗、覚えてる?バターを溶かしちゃったやつ。あれがなんでダメなのか、「なんとなく」じゃなくて「理由」で説明できる?

えっと……溶けると、サクサクにならない……から?

そう。でも「なぜ」が抜けてる。今日はそこを埋めるわよ
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バターには「可塑性」という性質があります。
固すぎる冷蔵庫のバターは、硬い粒のまま。生地の中でうまく広がれず、グルテンの形成を邪魔できません。逆に溶けて液体になったバターは、生地に染み込んでしまい、これもサクサクを作れません。
その中間、粘土のように自由に形を変えられる状態——これが可塑性です。この状態のバターだけが、小麦粉の粒子一つひとつを薄い油の膜でコーティングできます。

この油の膜が、水と小麦粉が出会ってグルテンを作るのを「邪魔」するの。これがショートニング性。サクサクは、グルテンを「作らせない」ことで生まれる引き算の美学なのよ

引き算……!エピソード2でルヴァンさんも「拒絶の芸術」って言ってました!

そう。よく覚えてたわね
Scene 3:マリの講義〜「ポマード状」の意外な正体〜
ここからが、今日の本題です。

マリさん、レシピによく「ポマード状にする」って書いてありますけど、あれ何℃のことなんですか?

いい質問ね。……でも、ここが面白いところなの。実は「可塑性」と「ポマード状」は、ぴったり同じじゃないのよ
教科書的に「可塑性」が働くのは13〜18℃。これは科学的な定義です。
でも、現場でパティシエが「ポマード状にして」と言うとき、体感的に指しているのはもう少し高めの 18〜20℃ くらいであることが多いのです。

えっ、ズレてるんですか!?どうして!

「ポマード」って、もともと整髪料のポマードのことよ。あの、髪をなでつける油性の整髪料。あれくらいの、指ですっと伸びる柔らかさ——それを例えて「ポマード状」って呼ぶようになったの。だから教科書の数字じゃなくて、職人の「手の感覚」から生まれた言葉なのよ

なるほど!数字じゃなくて、触った感じの言葉だったんだ!

そう。だから大事なのは温度計の数字を暗記することじゃない。指で押したときに「すっと入って、でもダレてない」——その感覚を手で覚えること。数字は目安、最後は手が知ってるの
ここが、レシピ本だけ読んでいてもなかなか辿り着けない、現場の知恵です。
Scene 4:マリの講義〜溶けかけバターの「光沢」という危険信号〜

カケルが失敗したとき、バターに「光沢」が出てたでしょ。あれ、すごく重要なサインなの
ポマード状の正しいバターは、白っぽくマットな質感をしています。
ところが、ここから温度が上がって溶けはじめると、表面がつやつやと光りはじめます。この光沢は「脂肪が液体になりはじめた」証拠です。

つやつや……たしかに、僕のバター、ぬるっと光ってました……

そう。一度溶けて液体になった脂肪は、冷やし直しても元の可塑性には完全には戻らないの。結晶の構造が変わっちゃうから。だから「ちょっと溶けたくらい大丈夫」が、取り返しのつかない失敗になるのよ
光沢が出たバターを使うと、焼いたときに生地が横にだれて広がり、薄く硬いクッキーになります。カケルの「平べったい30枚」は、まさにこれが原因でした。

あの平べったいやつ……バターが教えてくれてたんですね、光って……
Scene 5:ルヴァンの歴史講義〜「ポマード」という言葉の旅〜
奥の椅子から、ルヴァンがゆっくりと口を開きました。

「ポマード」という言葉はな、ラテン語の「ポマム」——つまり「りんご」に由来すると言われておる。その昔、りんごの果肉を使って作られた軟膏が「ポマード」の起源なのじゃ

りんご!?整髪料じゃなくて!?

ほっほっほ。やがてそれは、髪や肌に塗る、なめらかで柔らかな油性のものを指すようになった。その「なめらかな柔らかさ」が、いつしか厨房にも持ち込まれ、バターの状態を表す言葉になったというわけじゃ。一つの言葉が、薬から、髪を経て、菓子の世界へ旅をしてきたのじゃよ

言葉にも歴史があるんだ……なんかロマンチックですね

……たまにはいいこと言うわね、ルヴァン
Scene 6:要約「サクサクの科学、まとめ」💡

今日のマリ先生の講義、ポイントをまとめるよ〜💡
今日学んだサクサクの科学は、こちらです。
可塑性とは、バターが固体でも液体でもなく、粘土のように形を変えられる状態のこと。この状態でだけ、バターは小麦粉をコーティングしてグルテンを抑え、サクサクを生み出します。
教科書的に可塑性が働く温度は13〜18℃。ただし現場で言う「ポマード状」は、整髪料のポマードの柔らかさが語源で、体感的には18〜20℃くらいを指すことが多い。数字と現場の言葉には、こうした微妙なズレがあります。
最後は温度計より「手の感覚」。指で押してすっと入り、でもダレていない状態を、手で覚えることが大切です。
そして、バターの表面に「光沢」が出たら溶けはじめのサイン。一度溶けた脂肪は元に戻らないので要注意です。

もっと深く知りたい人は、こっちもチェックだよ〜!
→ バターが溶けるとなぜ戻らない?「乳化」の深い話はこちら(近日公開予定)
→ 実際に失敗しないクッキーの作り方はこちら(近日公開予定)
→ カケルくんの失敗ドラマを最初から読む:【エピソード4】サクサクの悪夢〜バターよ、お前もか〜
Scene 7:終わりに

マリさん!僕、わかりました。温度計を買います!1℃単位で完璧に管理すれば、もう絶対失敗しません!

……話聞いてた?最後は手の感覚だって言ったでしょ

あ、そうだ!じゃあ手に温度計を……

手をオーブンに入れる気!?

ほっほっほ。手で覚えるとは、そういう意味ではないのじゃがのう……



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