Scene 1:運命の朝、バターとの誤算

今日はサクサクのクッキーが、なぜサクサクじゃなくなるのかを学ぶよ〜!バターと粉の「ちょっとくらいいいか」が、とんでもない結果を生むんです💡さあ、カケルくんの奮闘を見ていきましょう!
夜明け前のパティスリー・ルヴァン。今日のカケルには、特別なミッションがありました。
マリから「基本のクッキーを100枚、完璧に焼き上げること」を命じられていたのです。
カケルはレシピを三回読んで、材料を前夜から準備していました。バターも、粉も、砂糖も。完璧なはずでした。
ところが、カケルはひとつだけ「うっかり」をやらかしていたのです。

準備バッチリです!バターも昨日の夜から出しておいたし、粉も計量済み!今日こそ、完璧なクッキーを焼いてみせます!
Scene 2:「ちょっとくらいいいか」の代償
マリが厨房に入ってきたとき、カケルはちょうどバターをボウルに入れたところでした。

……カケル。そのバター、さわってみなさい

え……あ!ちょっとぬるっとしてる……?前の日から室温に出してたら、朝になったらちょうど良くなると思って……!

これ、もう溶けはじめてるわ。ポマード状を通り越して、光沢が出ちゃってる。この状態で使ったら、クッキーはベタッと広がって硬くなるだけよ

で、でも……ちょっとくらいなら、そんなに変わらないんじゃ……

……じゃあ、そのまま使ってみなさい。自分の目で確かめなさい
カケルは半信半疑のまま、つやつやと光るバターを混ぜはじめました。
Scene 3:なもの「スイーツ・メモ」:バターの温度が命取り💡

バターの温度とクッキーの関係、ここが今日の最重要ポイントです💡
理想のバターの状態は「ポマード状」。指で押すとすっと入るくらいの柔らかさで、だいたい18〜20℃が目安です。
でも、ちょっとでも溶けはじめると何が起きるのでしょう?
バターが溶けると、固体だった脂肪が液体の油になります。液体の油は生地全体にじわじわと広がり、焼いたときにクッキーが横にベタッと広がりやすくなります。さらに、サクサクの決め手である「空気を抱え込む力」も失われてしまいます。
ポマード状のバターはクリーミングのとき、泡立て器で空気をたっぷり含んで白っぽくなります。この「空気の気泡」こそが、焼き上がりのサクサク感の正体なんです💡
Scene 4:強力粉という名の第二の刺客
バターの一件でシュンとするカケルでしたが、すぐに気を取り直しました。

うう……「ちょっとくらい」が命取りだったんだ……。じゃあ次は完璧にやります!強力粉も余ってたから、粉の量を増やして……

ちょっと待って。「強力粉が余ってた」って……まさかそれ使おうとしてたの?

だって同じ小麦粉じゃないですか……どう違うんですか?
マリは大きくため息をつくと、戸棚から二種類の粉の袋を取り出しました。
Scene 5:なもの「スイーツ・メモ」:粉の種類と混ぜ方の科学💡

粉の選択と混ぜ方も、サクサクを左右する大事なポイントです💡
薄力粉と強力粉の違いはタンパク質の量です。薄力粉は約6〜9%、強力粉は約11〜13%。タンパク質が多いほど、水分と結びついたときにグルテンができやすくなります。
クッキーに強力粉を使うと、ただでさえグルテンができやすいのに、混ぜすぎることで「鉄板のような硬さ」に一直線です。
さらに「混ぜ方」も重要です。バターと粉を合わせたあとは、切るように、さっくりとまとめるのが鉄則。練れば練るほど、グルテンが発達してサクサクから遠ざかります。
薄力粉を使っても、混ぜすぎれば結果は同じ。エピソード2の「ねっとねと事件」と、根っこは同じなのです💡
→ グルテンについて詳しくはこちら:【エピソード2】グルテンの罠〜ねっとねとの大惨事〜
Scene 6:ルヴァンの歴史講義〜バターと人類の400年〜
カケルが反省をかみしめていると、奥の椅子からルヴァンがゆっくりと立ち上がりました。

カケルよ、バターというものはな……17世紀のヨーロッパでは、今と全く違う扱いを受けておったのじゃ。貴族の食卓にしか並ばぬ、黄金の脂肪。それが庶民のクッキーに使われるようになった歴史は、人間の欲と知恵の物語でもあるのじゃ……

あの……ルヴァンさん、話が長くなってきた気が……僕のクッキー、まだオーブンに入れてないんですが……

ほっほっほ。焦るでない。歴史を知らずに焼いたクッキーより、歴史を知って焼いたクッキーの方が、必ず美味しくなる。ワシが保証しよう

……誰も証明できないわよ、それ
Scene 7:要約「サクサクの敵、まとめ」💡

今日のエピソードで学んだことをまとめます💡
サクサクのクッキーを台無しにする「三大失敗」はこちらです。
一つ目、バターを溶かしすぎること。溶けたバターは空気を抱えられず、クッキーが広がって硬くなります。ポマード状(18〜22℃)が正解です。
二つ目、強力粉を使うこと。タンパク質が多く、グルテンができやすいため、サクサクとは無縁の仕上がりになります。クッキーには薄力粉を使いましょう。
三つ目、混ぜすぎること。どんなに良い材料を使っても、練りすぎればグルテンが発達してサクサクが消えます。粉を入れたらさっくりが基本です。
→ もっと詳しくバターの科学を知りたい方はこちら(近日公開予定)
→ 失敗しない基本クッキーの作り方はこちら(近日公開予定)
Scene 8:オチ〜100枚の行方〜
焼き上がった100枚を前に、カケルはしばらく無言でした。
平べったく広がったものが約30枚。端が焦げたものが約20枚。形が崩れたものが約15枚。
それでも、残りの35枚は、かろうじてクッキーの形をしていました。
マリはそのうちの一枚を手に取り、パキッと割って、口に入れました。

……35枚は、まあ、食べられるわね

35パーセントの成功率って……褒めてもらえてるんですか、これ……?

……理由がわかってる失敗は、次に必ず活かせる。バターの温度、粉の選び方、混ぜ方。今日それを全部体で覚えたでしょ。次は100枚、100枚全部よ

……はい!次こそ100枚、サクサクに焼いてみせます!



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