製菓理論 第9章:果実・種実類

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第1部 素材編

果実・種実類

はじめに

果実は、菓子に瑞々しさ・酸味・香り・色彩をもたらす素材である。そして種実類(ナッツ)は、コク・香ばしさ・食感の要となる。両者はいずれも「主役にも脇役にもなれる」素材であり、その特性を理解することで菓子の表現の幅は大きく広がる。本章では、果実の分類と成熟のメカニズム、加工品としての扱い、そして製菓に不可欠なナッツ類とその加工品について体系的に解説する。

1. 果実類の分類

果実は、植物のどの部分が発達して食用部分となるかによって、以下の5つに分類される。

仁果類(じんかるい)

特徴:子房だけでなく、がくや花托(かたく)が発達して果肉となったもの。芯(種の部分)が中心にある。

代表例:リンゴ、ナシ、ビワ

製菓での利用:タルト・タタン、アップルパイ、コンポート、ジャムなど。ペクチンを豊富に含むため、ジャム作りに適する。

準仁果類(じゅんじんかるい)

特徴:子房が発達して果肉となったもの。仁果類に構造が似ているためこの名がある。

代表例:柿、ミカンなどの柑橘類(オレンジ、レモン、グレープフルーツなど)

製菓での利用:柑橘類は果汁と表皮(ゼスト)の両方が使われる。表皮には香気成分(精油)が豊富で、ケーキやクリームの香り付けに用いられる。マーマレード、コンフィ、ピール。

核果類(かくかるい)

特徴:中心に硬い核(種)があり、可食部は中果皮にあたる部分。

代表例:モモ、アンズ、スモモ、サクランボ、ウメ、オリーブ

製菓での利用:コンポート、タルト、ジャム、ドライフルーツ。アンズ(アプリコット)のジャムはナパージュとして広く使われる。サクランボから作られる蒸留酒がキルシュワッサーである。

漿果類(しょうかるい)/液果類

特徴:多汁質で軟らかく、果肉全体が食用となる。

代表例:イチゴ、ブドウ、イチジク、パインアップル、バナナ、ベリー類

製菓での利用:生菓子のデコレーション、ピューレ、ソース、ムース。

堅果類(けんかるい)

特徴:硬い外皮に包まれている。

代表例:栗、ギンナン、クルミ、アーモンド、ピスタチオ

注意:栗やアーモンドは「果実の分類」では堅果類だが、製菓の実務上は「種実類(ナッツ)」として扱われることが多い。

2. 果実の成熟と呼吸

2-1. 追熟型と非追熟型

果実には、収穫後に呼吸量が急激に増大して成熟が進むものと、そうでないものがある。この呼吸量の急激な上昇を「クライマクテリック・ライズ」と呼ぶ。

追熟型(クライマクテリック型):収穫後も追熟が進み、甘みや香りが増す。エチレンガスの生成により成熟が促進される。

  • 代表例:リンゴ、バナナ、モモ、洋ナシ、アボカド、メロン、キウイ

非追熟型(非クライマクテリック型):収穫後は成熟が進まない。収穫時が最も食べ頃である。

  • 代表例:ミカンなどの柑橘類、ブドウ、イチゴ、サクランボ、パインアップル

製菓上の意味:非追熟型の果実は、完熟したものを仕入れる必要がある。追熟型は、硬い状態で仕入れて使用日に合わせて追熟させることができる。

3. 果実の成分と製菓での注意点

3-1. 主要成分

果実は水分が85〜90%を占め、炭水化物(果糖、ブドウ糖、ショ糖)と有機酸(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸など)に富む。ビタミンC、カリウム、食物繊維(ペクチン)を含む。

3-2. ペクチン

果実の細胞壁に含まれる多糖類で、ゲル化剤として働く。詳細は第10章(凝固剤)で扱うが、果実加工において極めて重要である。

未熟な果実にはプロトペクチン(不溶性)が多く、成熟に伴いペクチン(水溶性)に変化し、過熟するとペクチン酸に分解されてゲル化力を失う。ジャム作りには適熟の果実が最適である。

ペクチンが多い果実:リンゴ、柑橘類の皮、アンズ、スグリ
ペクチンが少ない果実:イチゴ、モモ、サクランボ

3-3. タンパク質分解酵素による注意点

生のパイナップル、キウイ、パパイヤ、イチジク、メロンなどには、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が含まれる。

これらの生果実をゼラチンゼリーに加えると、ゼラチン(タンパク質)が分解されてしまい、固まらない

対処法:果実を一度加熱して酵素を失活させてから使用する。または、缶詰(加熱処理済み)を使用する。あるいは、ゼラチン以外の凝固剤(寒天、ペクチン、カラギーナンなど多糖類のもの)を使用する。

主な酵素の名称:パイナップル=ブロメライン、キウイ=アクチニジン、パパイヤ=パパイン、イチジク=フィシン。

4. 果実加工品

ジャム類:果実に砂糖を加えて煮詰め、ペクチン・糖・酸の作用でゲル化させたもの。ジャム(果肉入り)、ゼリー(果汁のみ)、マーマレード(柑橘の皮入り)、プレザーブ(果実の形を残したもの)に細分される。

瓶詰・缶詰類:果実をシロップとともに加熱殺菌して保存性を高めたもの。

ドライフルーツ:乾燥により水分活性を下げて保存性を高めたもの。レーズン、プルーン、ドライアプリコット、ドライイチジクなど。焼き菓子(フルーツケーキ、シュトレン)に用いられる。洋酒に漬け込むことで風味が増し、保存性も向上する。

ピューレ・ソース:果実を裏ごしし、ペースト状にしたもの。冷凍ピューレは製菓で広く使われる。ムース、ソルベ、ソースのベース。

コンフィ:果実を高濃度の糖液に漬け込み、糖度を徐々に上げて保存性を持たせたもの。オレンジピール、砂糖漬けの果実など。

コンポート:香料やワインを加えたシロップで果実を軟らかく煮たもの。

5. 種実類(ナッツ)

5-1. 主なナッツの種類と特徴

アーモンド:製菓において最も重要なナッツ。ビター種(苦扁桃)はオイル用スイート種(甘扁桃)は食用として区別される。アーモンドパウダー(アーモンドプードル)は、フィナンシェ、マカロン、クレーム・ダマンドなど多くの菓子に不可欠。

ヘーゼルナッツ:ハシバミの実。独特の甘い香りを持つ。ジャンドゥーヤ、プラリネ、ヌガーなどに用いられる。ローストすることで香りが際立つ。

ウォールナッツ(クルミ)脂質が約70%と非常に多く、種実類の中でも特に高脂肪。不飽和脂肪酸が豊富。ブラウニー、パウンドケーキ、タルトに使用される。渋みがあるため、湯通しやローストで調整する。

ピスタチオ:「ナッツの女王」と呼ばれる。鮮やかな緑色と上品な風味が特徴。ピスタチオペーストはクリームやアイスクリームに使用される。

カシューナッツ:やわらかく甘みがある。菓子のほか料理にも広く使われる。

ピーナッツ(落花生):厳密にはマメ科の植物で、ナッツではなく豆類である。食物アレルギーの特定原材料(表示義務あり)に指定されている。

ココナッツ:ヤシの実の胚乳部分。ココナッツファイン、ココナッツロング、ココナッツミルクとして使われる。

ゴマ脂質が約50%。和菓子・洋菓子の双方で香ばしさの付与に用いられる。

:種実類の中では例外的に脂質がわずか約0.5%と少なく、炭水化物が約37%と多い。マロングラッセ、モンブラン、栗饅頭など。

ギンナン:炭水化物が約35%と多い。微量の毒性成分(メチルピリドキシン)を含むため、多食は避ける。

5-2. 種実類の成分比較

ゴマ:脂質約50%、タンパク質約20%、炭水化物約18%
クルミ:脂質約70%、タンパク質約15%、炭水化物約12%
落花生:脂質約48%、タンパク質約25%、炭水化物約19%
:脂質約0.5%、タンパク質約3%、炭水化物約37%
ギンナン:脂質約2%、タンパク質約5%、炭水化物約35%

このように、栗とギンナンは他のナッツと成分構成が大きく異なる(脂質が少なく炭水化物が多い)点が特徴である。

5-3. ナッツの保存

ナッツは脂質を多く含み、その多くが不飽和脂肪酸であるため、酸化しやすい。光、熱、酸素を避け、密閉して冷暗所または冷蔵・冷凍で保存する。ローストしたものは特に酸化が進みやすいため、使用直前にローストするのが理想的である。

6. ナッツの加工品

アーモンドパウダー(アーモンドプードル):アーモンドを粉末にしたもの。皮付き(ブラウン)と皮なし(ホワイト)がある。小麦粉の一部を置き換えることで、しっとりとした食感とコクを与える。グルテンを形成しないため、生地が軽く仕上がる。

マジパン/パート・ダマンドアーモンドと砂糖をペースト状に加工したもの。アーモンドと砂糖の比率により、以下の2種に大別される。

  • ローマジパン(マジパン・ローマッセ):アーモンドの割合が高く、加熱せずに作る。菓子生地への混ぜ込みに。
  • マジパン・コンフィズール:砂糖の割合が高く、加熱して作る。細工物・装飾用に適する。

プラリネナッツ(主にアーモンドやヘーゼルナッツ)をキャラメリゼし、ローラーで微細化してペースト状にしたもの。濃厚な香ばしさとコクを持ち、クリーム、ムース、チョコレート菓子に使用される。

ジャンドゥーヤ:プラリネにチョコレートを合わせたもの。イタリア・トリノ発祥。

ヌガー:砂糖を煮詰めてナッツを混ぜ込んだ菓子。ヌガー・モンテリマール(白ヌガー、メレンゲ入り)と、ヌガティーヌ(茶ヌガー、カラメルとアーモンド)がある。ヌガティーヌは工芸菓子の素材としても使われる。

クレーム・ダマンド:バター+砂糖+卵+アーモンドパウダーを混ぜ合わせたクリーム。タルトの中に敷き込んで焼く。作ってから30分ほど置くと味がなじむ。

クレーム・フランジパーヌ:クレーム・ダマンドにクレーム・パティシエール(カスタード)を合わせたもの。

試験対策:よくある間違いポイント

試験でよく出る「ひっかけ」の文です。正しいか間違いか、選んでから答えを確かめてください。

Q1ミカン・ブドウ・イチゴは成熟時に呼吸量が増大する

正しくは:これらは「非追熟型」であり、急激な呼吸量の増大(クライマクテリック・ライズ)は起こさない。追熟型はリンゴ・バナナ・モモなど。

Q2ビター種とスイート種の区別があるのはカシューナッツ

正しくは:ビター種(オイル用)とスイート種(食用)の区別があるのは「アーモンド」。

Q3生のパイナップルはゼラチンゼリーにそのまま使える

正しくは:タンパク質分解酵素(ブロメライン)がゼラチンを分解するため固まらない。加熱して酵素を失活させてから使用する。

Q4栗は他のナッツと同様に脂質が豊富

正しくは:栗は脂質が約0.5%と極めて少なく、炭水化物が約37%と多い。ナッツ類の中では例外的。

Q5プラリネはナッツをそのまま砕いたもの

正しくは:プラリネはナッツを「キャラメリゼしてから」ローラーで微細化したもの。

Q6マジパンの構成はアーモンド+バター

正しくは:マジパンは「アーモンド+砂糖」のペースト。

Q7クルミは脂質が少ないナッツである

正しくは:クルミは脂質が約70%と、種実類の中でも特に脂質が多い。

Q8落花生(ピーナッツ)は食物アレルギーの表示義務がない

正しくは:落花生は特定原材料であり、表示義務がある。

Q9ジャムには完熟しすぎた果実が最適

正しくは:過熟するとペクチンが分解されてゲル化力を失う。「適熟」の果実が最適。

Q10ナッツは脂質が多いので酸化しにくい

正しくは:不飽和脂肪酸を多く含むため「酸化しやすい」。冷暗所・密閉保存が必要。
結果:

まとめ

果実は仁果類・準仁果類・核果類・漿果類・堅果類の5つに分類され、収穫後の呼吸量の変化により追熟型と非追熟型に分かれる。ミカン・ブドウ・イチゴは非追熟型であり、完熟品を仕入れる必要がある。生のパイナップルやキウイに含まれるタンパク質分解酵素はゼラチンを分解するため、加熱による酵素の失活が不可欠である。種実類ではアーモンドが製菓の中心的存在であり、ビター種とスイート種の区別、アーモンドパウダー、マジパン(アーモンド+砂糖)、プラリネ(ナッツをキャラメリゼして微細化)といった加工品が多彩な表現を可能にする。ナッツは脂質が多く不飽和脂肪酸に富むため酸化しやすく、適切な保存管理が品質維持の鍵となる。

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