製菓理論 第15章:洋菓子(2)クリーム・デザートの理論

15

第4部 製品理論編

洋菓子(2)クリーム・デザートの理論

はじめに

前章では「膨らませる・焼く」生地の理論を扱った。本章で扱うのは「混ぜる・固める・冷やす」の理論である。クリームは乳化と糊化と起泡の産物であり、デザートは凝固と冷却の産物である。ここでは焼成の熱ではなく、卵の凝固温度、でんぷんの糊化温度、生クリームの泡立て温度、ゼラチンのゲル化温度といった、より繊細な温度管理が要求される。本章では、クリーム類・デザート類・コンフィズリー(糖菓)・工芸菓子を体系的に解説する。

1. クリーム類の全体像

洋菓子のクリームは、その構造により以下のように整理できる。

構造の原理クリーム名
でんぷんの糊化+卵の凝固クレーム・パティシエール
卵の凝固のみ(とろみ)クレーム・アングレーズ
生クリームの起泡クレーム・シャンティイ
バターの乳化+気泡クレーム・オ・ブール
上記の組み合わせクレーム・ディプロマット、クレーム・ムスリーヌ、クレーム・シブースト
アーモンドの乳化クレーム・ダマンド、クレーム・フランジパーヌ
チョコレートの乳化ガナッシュ

2. クレーム・パティシエール(カスタードクリーム)

2-1. 構成

牛乳+卵黄+砂糖+薄力粉またはコーンスターチ

洋菓子のクリームの基本にして最重要。シュークリーム、タルト、ミルフイユなど多くの菓子の土台となる。

2-2. 製法の原理

① 牛乳を温める:バニラビーンズを加え、沸騰直前まで加熱して香りを移す。

② ブランシール:卵黄と砂糖を白っぽくなるまで混ぜること。砂糖を加えたまま放置すると卵黄が砂糖に「焼けて」ダマになるため、加えたらすぐに混ぜる。

③ 粉類を加える:薄力粉またはコーンスターチを加える。コーンスターチの方がなめらかで軽い仕上がり、薄力粉の方がしっかりとしたコシが出る。

④ 牛乳と合わせ、鍋に戻して加熱

⑤ しっかり沸騰させる ← 最重要ポイント

2-3. なぜ沸騰させるのか

これは試験でも実務でも極めて重要な論点である。

理由①:でんぷんを完全に糊化させるため
でんぷんは十分な温度に達しないと糊化が完了しない。糊化が不完全だと、粉っぽさが残り、とろみも不十分になる。

理由②:卵黄のアミラーゼを失活させるため
卵黄にはでんぷん分解酵素(アミラーゼ)が含まれている。十分に加熱してこの酵素を失活させないと、時間の経過とともにでんぷんが分解され、クリームが緩んで水っぽくなる。

したがって、「カスタードクリームは沸騰させてはいけない」という理解は誤りである。 しっかり沸騰させ、コシが切れてなめらかになるまで炊き上げる。

2-4. 冷却

炊き上がったら速やかに冷却する。バットに薄く広げ、ラップを密着させて急冷する。

理由:カスタードクリームは栄養豊富で水分も多く、細菌が繁殖しやすい。特に黄色ブドウ球菌による食中毒のリスクがあるため、危険温度帯(10〜60℃)を素早く通過させる必要がある。衛生管理上、極めて重要な工程である。

3. クレーム・アングレーズ

3-1. 構成

卵黄+砂糖+牛乳。粉類を使わない。

3-2. 製法の原理

卵黄のタンパク質の熱凝固のみでとろみをつける。粉が入らないため、非常に繊細な温度管理を要する。

加熱温度:83℃前後(80〜85℃)

なぜこの温度か:卵黄は65℃から凝固し始め、75℃でしっかり固まる(第5章参照)。83℃前後は「とろみがつくが、完全には固まらない」ぎりぎりの温度である。85℃を超えると卵黄が凝固して分離し、そぼろ状になってしまう

判断の目安:木ベラですくって、指でなぞった跡が残る状態(ナップ状)。

3-3. 用途

ソース・アングレーズ(デザートソース)、バヴァロワのベース、アイスクリームのベース、クレーム・オ・ブール(アングレーズ法)のベース。

4. クレーム・シャンティイ(ホイップクリーム)

4-1. 構成

生クリーム+砂糖(好みでバニラや洋酒)

4-2. 製法の原理

第6章で述べたとおり、撹拌により脂肪球膜が破壊され、露出した脂肪同士が結合してネットワークを形成し、気泡を抱え込む。

4-3. 温度管理が最重要

泡立て温度:5〜8℃の低温。氷水に当てながら泡立てるのが基本である。

温度が高いとどうなるか:脂肪が軟らかくなりすぎ、脂肪球が崩れて分離する(ボソボソになる)。一度分離したクリームは元に戻らない。

「生クリームは湯煎で温めながら泡立てる」というのは明確な誤りである。

4-4. 泡立ての段階

6分立て:とろりと流れる。ソース状。ムースに混ぜ込む用途。
7分立て:すくうと角が立つがすぐ倒れる。ナッペ(塗り広げ)用。
8〜9分立て:しっかりと角が立つ。絞り出し用。
泡立てすぎ:分離してバター状になる。

5. クレーム・オ・ブール(バタークリーム)

5-1. 製法の2種類

イタリアンメレンゲ法

卵白に120℃前後のシロップを加えてイタリアンメレンゲを作り、ホイップしたバターと合わせる。

特徴:軽い口当たり。白く仕上がる。メレンゲが熱で殺菌されるため衛生的。

アングレーズ法

クレーム・アングレーズをベースに、ホイップしたバターと合わせる。

特徴:卵黄由来のコクがあり、口溶けがよい。色は淡い黄色。

5-2. 作業のポイント

バターとベースの温度を揃えることが成功の鍵。温度差があると乳化が壊れて分離する。バターは室温に戻し、ベースも同程度の温度にしてから合わせる。

分離した場合は、少し温めながら撹拌すると再乳化することがある。

6. 複合クリーム

クレーム・ディプロマット

クレーム・パティシエール+泡立てた生クリーム

軽く、口溶けがよい。シュークリームやタルトに使用される。

注意:「カスタード+メレンゲ」ではない。「カスタード+生クリーム」である。

クレーム・ムスリーヌ

クレーム・パティシエール+バター

しっかりとしたコシがあり、保形性が高い。フレジエなどに使用される。

クレーム・シブースト

クレーム・パティシエール+ゼラチン+イタリアンメレンゲ

軽くふんわりとして、冷やすとゼラチンで形が保たれる。シブースト(タルト)に使用される。

名の由来:1840年頃、パリのサントノレ通りの菓子職人シブースト(またはその弟子オーギュスト・ジュリアン)が考案したとされる。

7. アーモンド系クリーム

クレーム・ダマンド(アーモンドクリーム)

バター+砂糖+卵+アーモンドパウダー

タルトの中に敷き込んで焼く。焼くことで初めて完成するクリームである。

ポイント:作ってから30分ほど置くと味がなじむ

クレーム・フランジパーヌ

クレーム・ダマンド+クレーム・パティシエール

クレーム・ダマンドよりなめらかで軽い。ガレット・デ・ロワなどに使用される。

8. デザート(アントルメ)類

8-1. 用語の整理

デセール(Dessert):フランス語で、本来は食事の後に出すもの全般(菓子・チーズ・果物を含む)。

アントルメ(Entremets):日本では食事の最後に出す甘味を指してこう呼ぶ。

8-2. 冷菓(アントルメ・フロワ)

バヴァロワ(ババロア)

構成:クレーム・アングレーズまたは果物ピューレ+ゼラチン+泡立てた生クリーム

由来:ドイツのヴィッテルスバッハ王国(バイエルン)のフランス人シェフが考案したとされる。「バイエルン風の」という意味。

ムース

「ムース(Mousse)」はフランス語で「泡」の意味(「雪」ではない。試験頻出)。

構成:果物ピューレやチョコレートに、泡立てた卵白や生クリームを加えて冷やし固める。

凝固剤:ゼラチン。

バヴァロワとの違い:ムースの方が気泡が多く、より軽い食感である。

ブラン・マンジェ

「白い食べ物」の意味。アーモンドミルクまたは牛乳をゼラチンで固めた白いデザート。

ゼリー(ジュレ)

ゼラチン・ペクチン・寒天・カラギーナンに砂糖・果汁・ワインを加えて冷やし固めた清涼感のある菓子。

プディング(プリン)

構成:牛乳+卵+砂糖を湯煎焼きまたは蒸し焼き。

原理卵の熱凝固性で固める。ゼラチンは使わない(使うものは「なめらかプリン」等の別系統)。

イギリス発祥。ヨークシャープディング、プラムプディング(クリスマスの蒸しプディング)など、伝統的なものも多い。

「す」が立つ原因:加熱温度が高すぎること。湯煎の湯温を管理し、低めの温度でじっくり加熱する。砂糖がタンパク質の凝固温度を上げるため、砂糖が少ないと「す」が立ちやすくなる(第1章参照)。

8-3. 氷菓

アイスクリーム(グラス)

構成:乳製品+卵+砂糖を撹拌しながら凍結。

17世紀に原型が成立したとされる。日本には明治時代に伝わった。

ジェラート

イタリア・フィレンツェ発祥。乳脂肪分が低く、空気含有量(オーバーラン)が少ない。そのため密度が高く、濃厚でなめらかな食感になる。

ソルベ(シャーベット)

乳製品・卵は不使用。シロップ+果汁・リキュールを撹拌凍結する。

グラニテ

糖度が低く、キメを粗く仕上げた氷菓。「グラニテ(Granité)」は「花崗岩」の意味で、ざらざらとした結晶の質感に由来する。

8-4. 温菓(アントルメ・ショー)

スフレ

硬く泡立てた卵白と他の材料を混ぜて焼く。ココット型で湯煎焼きにする。2〜3倍に膨張し、しぼまないうちに提供する。冷製の「スフレ・グラッセ」もある。

型のポイント:側面が垂直の型がきれいに立ち上がる。

クレープ

パンケーキを薄く焼いた菓子。元はブルターニュ地方のガレット(そば粉)

クレープ・シュゼットが代表的で、テーブルサービスでフランベして仕上げることもある。

コンポート

香料やワインを加えたシロップで果物を軟らかく煮たもの。

9. コンフィズリー(糖菓)

砂糖を主体とした菓子の総称。砂糖の煮詰め温度によって食感が決まる(第1章参照)。

フォンダン:107〜115℃の糖液を撹拌して微細な結晶を析出させた糖衣。

キャラメル:砂糖・生クリーム・バターを煮詰めたもの。

ヌガー:砂糖を煮詰めてナッツを混ぜ込んだ菓子。ヌガー・モンテリマール(白、メレンゲ入り)とヌガティーヌ(茶、カラメルとアーモンド)がある。

マシュマロ(ギモーヴ):ゼラチンまたは卵白で泡立てた糖菓。

グミ:ゼラチンやペクチンで固めた弾力のある菓子。

パート・ド・フリュイ:果物ピューレとHMペクチンで作るゼリー状の糖菓。糖度が高く保存性がよい。

ドラジェ:アーモンドなどを糖衣で覆った菓子。

プラリネ:ナッツをキャラメリゼして微細化したペースト。

マジパン:アーモンド+砂糖のペースト。

有平糖(あるへいとう):白双糖に水飴を加え150℃に煮詰め、折り返しながら冷まして成形する。和菓子だが、飴細工の技法として工芸菓子にも使用される。

10. その他の菓子

メレンゲ菓子

メレンゲ3種の使い分け(第5章参照):

  • フレンチメレンゲ:加熱しない
  • スイスメレンゲ:湯煎50℃で泡立て
  • イタリアンメレンゲ:118〜120℃のシロップを加える

用途:乾燥焼きのメレンゲ菓子、クリームサンド、ダコワーズ生地など。

サブレ

バター含有量は小麦粉に対して50%以上。「砂」のような、ほろほろと崩れる食感が名の由来。

のばし生地、絞り生地、アイスボックス、水種生地など多様な製法がある。フロランタン(サブレ生地+アーモンドヌガー)もこの系統。

マカロン

アーモンドパウダー+砂糖+卵白が主原料。マカロン・ダミアン、マカロン・ナポリなどの地方菓子が原型である。

ガトー・ウィークエンド

レモン風味の生地にアプリコットジャムを塗り、グラス・ア・ロー(レモン汁+粉砂糖のアイシング)で仕上げる。「週末に大切な人と食べるお菓子」の意味。

11. 工芸菓子

コンクールなどで技術を競う装飾菓子。

飴細工

  • シュクル・ティレ(引き飴)
  • シュクル・スフレ(吹き飴)
  • シュクル・クーレ(流し飴)

チョコレート細工マジパン細工ヌガー細工ムラング細工

パスティヤージュ細工:砂糖+ゼラチンで作る工芸用の生地。乾燥すると硬く固まり、白く美しい造形ができる。

飴ランプ:飴細工の作業時に、テーブル上のランプで飴を照らし、作業しやすい温度に保つ機器。

12. 洋菓子用語集

用語意味
アンビバージュシロップ。スポンジに染み込ませ、しっとり感と風味を付ける
ナッペクリーム等を塗り広げる作業(仕上げ塗り)
ナパージュ果物に艶を出し乾燥を防ぐ仕上げ材(アプリコットジャム等を煮詰めたもの)
フォンサージュ型に生地を敷き込む作業
ピケタルト・パイ生地に穴を開ける作業(膨らみ防止)
ドリュール塗布用の卵液。焼き色をつけるために表面に塗る
フランベアルコールを注ぎ火をつけて燃やす(風味付け・演出)
ブランシール卵黄と砂糖を白っぽくなるまで混ぜること
グラス・ア・ローレモン汁と粉砂糖で作るアイシング
マセレ果物を洋酒やシロップに浸す作業
ノワイヨタルトの白焼き時に使う重石(タルトストーン)
エグテ缶詰の果物の汁を切ること
アパレイユ流動状の混合液
パータ・ボンブ卵黄にシロップを加えて泡立てたもの。ムースのベース
クーヴェルチュールカカオバター31%以上の製菓用チョコレート。テンパリングが必要
メランジュール製菓用ミキサー
コルヌ/ドレッジカード(生地を混ぜる道具)
シノワ逆円すい形のこし器

試験対策:よくある間違いポイント

試験でよく出る「ひっかけ」の文です。正しいか間違いか、選んでから答えを確かめてください。

Q1カスタードクリームは決して沸騰させてはいけない

正しくは:でんぷんを完全に糊化させ、卵黄のアミラーゼを失活させるため、しっかり沸騰させる必要がある。

Q2生クリームは湯煎で温めながら泡立てる

正しくは:氷水で5〜8℃に冷やしながら泡立てる。温度が高いと脂肪球が崩れて分離する。

Q3クレーム・ディプロマットの構成はカスタード+メレンゲ

正しくは:カスタード+泡立てた生クリーム。

Q4クレーム・ムスリーヌはカスタード+生クリーム

正しくは:クレーム・ムスリーヌはカスタード+バター。カスタード+生クリームはディプロマット。

Q5クレーム・シブーストはカスタード+生クリーム

正しくは:カスタード+ゼラチン+イタリアンメレンゲ。

Q6クレーム・アングレーズは95℃まで加熱する

正しくは:83℃前後(80〜85℃)。85℃を超えると卵黄が凝固し分離する。

Q7ムース(Mousse)はフランス語で『雪』の意味

正しくは:ムースは「泡」の意味。

Q8メレンゲに砂糖は一度に加える

正しくは:数回に分けて加え、強固で安定した気泡を作る。

Q9ジェラートはアイスクリームより空気含有量が多い

正しくは:ジェラートは乳脂肪分が低く空気含有量が「少ない」。そのため密度が高くなめらか。

Q10ソルベには乳製品と卵が入る

正しくは:ソルベは乳製品・卵を使用しない。シロップ+果汁が基本。

Q11グラニテは『氷』の意味

正しくは:グラニテは「花崗岩」の意味。ざらざらした結晶質感に由来。

Q12プディングはゼラチンで固める

正しくは:プディングは卵の熱凝固性で固める。

Q13サブレのバター含有量は小麦粉に対して20%程度

正しくは:50%以上。

Q14パスティヤージュは砂糖+寒天で作る

正しくは:パスティヤージュは砂糖+ゼラチン。

Q15バヴァロワはムースより軽い

正しくは:ムースの方が気泡が多く軽い。
結果:

まとめ

洋菓子のクリームは、でんぷんの糊化(パティシエール)、卵の凝固(アングレーズ)、脂肪の起泡(シャンティイ)、バターの乳化(オ・ブール)という4つの原理に大別され、これらを組み合わせることでディプロマット、ムスリーヌ、シブーストといった複合クリームが生まれる。クレーム・パティシエールはしっかり沸騰させることででんぷんを糊化させ卵黄のアミラーゼを失活させ、クレーム・アングレーズは83℃という凝固ぎりぎりの温度を守り、クレーム・シャンティイは5〜8℃の低温を保つ。いずれも温度管理が品質を決定する。デザート類ではゼラチンによる冷菓(バヴァロワ、ムース)、卵の凝固による温菓(プディング、スフレ)、撹拌凍結による氷菓(アイスクリーム、ソルベ)が区別され、コンフィズリーは砂糖の煮詰め温度によって食感が定まる。焼成のない世界では、温度こそが唯一にして最大の技術である。

タイトルとURLをコピーしました