製菓理論 第6章:牛乳・乳製品

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第1部 素材編

牛乳・乳製品

はじめに

牛乳と乳製品は、菓子に風味・コク・色・なめらかさを与える基幹的な原材料である。生クリーム、バター、チーズ、練乳、粉乳といった多様な加工品は、いずれも牛乳を出発点としており、その性質は牛乳中の3つの主要成分(乳脂肪・タンパク質・乳糖)の挙動によって決まる。本章では、牛乳の組成から各乳製品の製法と特性まで、製菓の視点から体系的に解説する。

1. 牛乳の基礎知識

1-1. 乳牛の品種

日本国内で飼育されている乳用牛の約99%はホルスタイン種である。乳量が多く、乳脂肪分は標準的である。

ジャージー種はホルスタイン種より乳量は少ないが、乳脂肪分やタンパク質が多く濃厚な風味を持つ。

1-2. 生乳と牛乳の定義

生乳(せいにゅう):牛から搾取したままの、何も加えていない乳。

牛乳:生乳を殺菌処理し、飲用として流通させるもの。成分を調整せず、乳脂肪分3.0%以上・無脂乳固形分8.0%以上のものを「牛乳」と表示できる。

加工乳:生乳に脱脂粉乳やバターなどの乳製品を加えて成分を調整したもの。低脂肪タイプや濃厚タイプがある。

乳飲料:乳製品にコーヒー、果汁、ビタミン類など乳以外の成分を加えたもの。

2. 牛乳の成分

2-1. 全体の組成

牛乳は水分約87%と、乳固形分約13%で構成される。

普通牛乳(100gあたり):エネルギー67kcal、水分87.4g、タンパク質3.3g、脂質3.8g、炭水化物4.8g、カルシウム110mg

加工乳・低脂肪(100gあたり):エネルギー46kcal、水分88.8g、タンパク質3.8g、脂質1.0g、炭水化物5.5g、カルシウム130mg

加工乳・濃厚(100gあたり):エネルギー73kcal、水分86.3g、タンパク質3.5g、脂質4.2g、炭水化物5.2g、カルシウム110mg

2-2. 成分の内訳

乳脂肪分(約3.8%):中性脂肪が96〜98%を占め、その他にリン脂質、コレステロール、脂溶性ビタミンを含む。

タンパク質(約3.3%):カゼインが約80%、乳清(ホエー)タンパク質が約20%。

炭水化物(約4.8%):その99.6%がラクトース(乳糖)である。

無機質(約0.7%):カルシウムなど。

重要な事実:牛乳の固形分の中で最も多い成分は炭水化物(乳糖)の4.8%であり、タンパク質(3.3%)ではない。これは試験で頻出の論点である。

牛乳は栄養価が高い食品だが、鉄とビタミンCの含有量はごく微量である。

3. 牛乳の3大成分の性質

3-1. 乳脂肪

牛乳中の脂肪は、「脂肪球膜」というタンパク質とリン脂質の膜に包まれた球状の粒子(直径0.1〜10μm)として存在し、水の中に分散した乳化状態にある。

均質化(ホモジナイズ):市販の牛乳は、脂肪球を機械的に1μm以下に砕く処理が施されている。これにより脂肪が浮上して分離するのを防ぎ、口当たりを均一にしている。

牛乳の乳化型:水の中に脂肪が分散した水中油滴型(O/W型)である。

生クリームとバターへの分岐:脂肪球を遠心分離により18%以上に濃縮したものが生クリーム、さらに激しく撹拌して脂肪球膜を破壊し、脂肪同士を結合させて練圧したものがバターである。

風味の源:牛乳に含まれる揮発性脂肪酸(酪酸など)が、バター特有のフレーバーを生み出している。

3-2. カゼイン(タンパク質)

牛乳のタンパク質の約80%を占めるのがカゼインである。カゼインは「カゼインミセル」と呼ばれる微細な粒子として液体中に安定して分散している。

カゼインの凝固特性

  • 酸を加えると凝固する → ヨーグルト、カッテージチーズ
  • 酵素(キモシン/レンネット)を加えると凝固する → チーズ。レンネットはκ(カッパ)カゼインを切断し、カード(凝乳)を形成させる
  • 熱では凝固しない ← これが極めて重要

牛乳を加熱したときに表面にできる膜(ラムスデン現象)は、カゼインではなく乳清タンパク質と脂肪が熱で凝集したものである。

3-3. 乳糖(ラクトース)

牛乳中の炭水化物のほぼすべて(99.6%)が乳糖である。ブドウ糖とガラクトースが結合した二糖類。甘味度は砂糖の約1/3程度と低い。

乳糖は還元糖であるため、加熱によりメイラード反応を起こし、焼き色の形成に寄与する。乳製品を配合した焼き菓子が良い焼き色になるのはこのためでもある。

なお、乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)の働きが弱い人が牛乳を飲むと腹部不快感を起こす場合があり、これを乳糖不耐症という。

4. 生クリーム

4-1. 定義と種類

乳等省令上の定義:乳脂肪分18%以上のものを「クリーム」と定義する。生乳や牛乳のみを原料とし、乳脂肪以外の添加物を含まないものが「純生クリーム」である。

製菓用としては、乳脂肪分35〜50%程度のものが使用される。乳脂肪分が高いほどコクが強く、泡立ちやすく、しっかりとした保形性を持つ。

植物性ホイップクリーム:植物性油脂を主原料とし、乳化剤や安定剤を加えたもの。乳脂肪クリームより安価で泡立てが安定し、保形性が高いが、風味は劣る。「クリーム」という名称は使用できず、「ホイップ」等と表示される。

4-2. ホイップのメカニズム

生クリームを撹拌すると、以下の変化が起こる。

① 撹拌により脂肪球同士が激しくぶつかり合う
② 脂肪球膜が部分的に破壊される
③ 露出した脂肪同士が結合し、ネットワークを形成する
④ このネットワークが取り込まれた気泡を取り囲み、安定させる
⑤ 全体が泡立って保形性を持つホイップクリームになる

泡立てすぎに注意:さらに撹拌を続けると、脂肪球の結合が進みすぎて水分(バターミルク)が分離し、バター粒に変化してしまう。これが「分離した」状態である。

温度管理:生クリームは低温(5〜8℃程度)で泡立てるのが基本である。温度が高いと脂肪が軟らかくなりすぎ、安定した泡が形成されず、分離しやすくなる。ボウルを氷水で冷やしながら泡立てるのはこのためである。

5. バター

5-1. 定義と製造工程

バターは乳脂肪分80%以上、水分17%以下と定められている。

製造工程
遠心分離:牛乳からクリームを分離する
殺菌:加熱殺菌する
エイジング(熟成):低温で保持し、脂肪を結晶化させる
チャーニング(撹拌):激しく撹拌して脂肪球膜を破壊し、脂肪粒を作る。このとき分離する液体がバターミルク
ワーキング(練圧):脂肪粒を練り合わせ、水分を均一に分散させる

5-2. バターの乳化構造

牛乳がO/W型(水中油滴型)であるのに対し、バターはW/O型(油中水滴型)である。チャーニングとワーキングの工程で、乳化の型が逆転(相転移)している。これは試験で頻出の論点である。

5-3. バターの種類

非発酵バター:日本で一般的なバター。クリームをそのまま加工する。

発酵バター:クリームに乳酸菌を加えて発酵させてから加工する。乳酸発酵により強い芳香を持つ。ヨーロッパでは主流。

有塩バター/無塩(食塩不使用)バター:食塩の有無による分類。製菓では通常、無塩バターを使用する。塩分が製品の風味や配合設計に影響するためである。

5-4. バターの調理特性(3大特性)

可塑性:固形脂が温度により硬さを変え、力を加えると変形して形を保つ性質。バターは13〜18℃で最も良好な可塑性を示す。パイ生地の折り込み作業では、この温度帯を保つことが成功の鍵となる。

ショートニング性:油脂が生地中で薄い膜状に広がり、グルテンの網目形成を抑制することで、サクサクともろい食感を生む性質。クッキー、パイ、タルトなどの食感の源。

クリーミング性:撹拌により空気を細かい気泡として取り込む性質。パウンドケーキやバターケーキで、バターと砂糖をすり混ぜて白っぽくふんわりさせる工程はこの性質を利用している。

注意:ショートニング性とクリーミング性は混同されやすい。気泡を抱き込むのはクリーミング性であり、ショートニング性はサクサクもろくする性質である。

6. チーズ

6-1. ナチュラルチーズの分類

ナチュラルチーズは、乳を乳酸菌や酵素(レンネット)で凝固させ、ホエーを除去して熟成させたものである。硬さとタイプにより以下のように分類される。

軟質・フレッシュ:カッテージ、モッツァレラ、クリームチーズ、マスカルポーネ。非熟成。ソフトで軽い酸味。チーズケーキに用いられる。

軟質・白カビ:カマンベール、ブリー。表面に白カビを繁殖させ、表面から中心に向かって熟成させる。

軟質・ウォッシュ:ポン・レヴェック、エポワス。表面を塩水や酒で洗いながら熟成させる。匂いが強烈。

軟質・シェーブル:ピラミッド、バノン。山羊乳から製造される。独特の風味。

半硬質・青カビ:ロックフォール、ゴルゴンゾーラ。カード(凝乳)に青カビを混ぜ込み、内部から熟成させる。

半硬質・セミハード:ゴーダ、コンテ。マイルドな味わい。

硬質・ハード:エメンタール、チェダー。強く圧搾して水分を減らし、長期保存が可能。

超硬質:パルミジャーノ・レッジャーノ。1〜2年以上熟成させる、最も硬いチーズ。

6-2. プロセスチーズ

ナチュラルチーズを粉砕し、加熱溶融して乳化剤を加え、再成型したもの。加熱により微生物と酵素が失活しているため、熟成が進まず品質が安定し、保存性が高い。

7. その他の乳製品

7-1. 粉乳(ミルクパウダー)

全粉乳(全脂粉乳):牛乳をそのまま濃縮・乾燥させて粉末にしたもの。乳脂肪を含むため、風味は良いが酸化しやすく保存性はやや劣る。

脱脂粉乳(スキムミルク):牛乳から乳脂肪を除去してから濃縮・乾燥させたもの。脂肪がないため保存性が高く、価格も安い。パンや菓子の製造に広く使用される。

7-2. 練乳(コンデンスミルク/エバミルク)

無糖練乳(エバミルク):牛乳を約1/2〜1/3に濃縮したもの。砂糖を加えていないため保存性は低く、缶詰の場合は加熱殺菌されている。

加糖練乳(コンデンスミルク):牛乳を濃縮し、砂糖を加えたもの。ショ糖を40%以上含有するため、高い浸透圧により微生物の繁殖が抑制され、保存性が高い。和菓子の「乳菓」や、菓子の風味付けに用いられる。

7-3. ヨーグルト

牛乳や脱脂乳を殺菌・冷却した後、乳酸菌(ブルガリア菌、サーモフィラス菌など)を加えて発酵させたもの。乳酸菌が生成する乳酸によりpHが下がり、カゼインが等電点で凝固してゲル状になる。

7-4. バターミルク

バター製造時(チャーニング)に分離する液体。脂肪はほとんど含まないが、リン脂質(レシチン)やタンパク質を含み、独特の風味を持つ。パンや菓子に使用される。

8. 製菓における乳製品の役割

風味とコクの付与:乳脂肪と乳タンパク質が、菓子に豊かな風味と深みを与える。

焼き色の形成:乳糖(還元糖)と乳タンパク質のアミノ酸がメイラード反応を起こし、良好な焼き色を生む。

組織の改良:乳タンパク質が生地の保水性を高め、しっとりとした食感を維持する。

乳化と分散:乳脂肪が生地中で分散し、なめらかな組織を作る。

発酵の補助:パンにおいて、脱脂粉乳は生地の伸展性を高め、風味と焼き色を向上させる。

試験対策:よくある間違いポイント

試験でよく出る「ひっかけ」の文です。正しいか間違いか、選んでから答えを確かめてください。

Q1牛乳の固形分で最も多いのはタンパク質

正しくは:最も多いのは「乳糖(炭水化物)」の4.8%。タンパク質は3.3%。

Q2牛乳中の炭水化物の大部分はマルトース

正しくは:大部分は「ラクトース(乳糖)」。その割合は99.6%。

Q3牛乳の炭水化物はほとんどがカゼイン

正しくは:カゼインは「タンパク質」であり、炭水化物ではない。

Q4牛乳のタンパク質で最も多いのはラクトアルブミン

正しくは:最も多いのは「カゼイン」(約80%)。

Q5カゼインは100℃で凝固する

正しくは:カゼインは「熱では凝固しない」。酸や酵素(レンネット)で凝固する。

Q6酪酸などは不揮発性の脂肪酸

正しくは:酪酸は「揮発性」脂肪酸。これがバターの香りの源。

Q7バターの乳化構造は水中油滴型

正しくは:バターは「油中水滴型(W/O型)」。水中油滴型(O/W型)は牛乳や生クリーム。

Q8発酵バターは匂いがない

正しくは:発酵バターは乳酸発酵により「強い芳香」がある。

Q9バターは牛乳にレンネットを加えてカゼインを凝固させたもの

正しくは:それは「チーズ」の製法。バターはクリームのチャーニング(脂肪球膜の破壊と融合)で製造される。

Q10ショートニング性は油脂が気泡を抱き込む性質

正しくは:気泡を抱き込むのは「クリーミング性」。ショートニング性はサクサクもろくする性質。

Q11脱脂粉乳は牛乳をそのまま乾燥したもの

正しくは:それは「全脂粉乳(全粉乳)」。脱脂粉乳は脂肪を除去してから乾燥したもの。

Q12全脂加糖練乳は保存性が低い

正しくは:ショ糖40%以上を含むため、保存性は「高い」。

Q13プロセスチーズは加熱処理されないチーズ

正しくは:プロセスチーズはナチュラルチーズを「加熱溶融して再成型」したもの。

Q14マーガリンは乳製品

正しくは:マーガリンは主に「植物性油脂」が原料であり、乳製品ではない。
結果:

まとめ

牛乳は水分約87%と乳固形分約13%からなり、その固形分で最も多いのは乳糖(4.8%)である。タンパク質の80%を占めるカゼインは酸と酵素で凝固するが熱では凝固せず、この性質がヨーグルトやチーズの製造原理となっている。牛乳はO/W型の乳化状態にあり、脂肪球を濃縮すると生クリーム、脂肪球膜を破壊して練り上げるとW/O型のバターになる。バターの3大調理特性は可塑性(13〜18℃)、ショートニング性(サクサク)、クリーミング性(気泡抱き込み)であり、これらを使い分けることが洋菓子製造の核心である。乳製品は風味・コク・焼き色・組織のすべてに関与する、菓子作りに不可欠な素材群である。

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