衛生法規 第三部 健康と地域の法律
地域保健法と感染症法
はじめに
本章では、地域の衛生行政の拠点である保健所について定めた地域保健法と、感染症の予防とまん延の防止について定めた感染症法を扱う。
製菓衛生師にとって、保健所は営業許可や食中毒の調査を行う、最も身近な行政機関である。また、菓子は多くの人の口に直接入るため、菓子をつくる人が感染症にかかっているときは、法律によって仕事が制限されることがある。試験では、保健所の設置主体と業務、感染症の分類、そして就業制限の対象がよく問われる。
Ⅰ 地域保健法
1. 制定の経緯と目的
1-1. 保健所法から地域保健法へ
| 年 | できごと |
|---|---|
| 昭和12年(1937年) | 保健所法が制定される |
| 昭和22年(1947年) | 保健所法が全面改正され、保健所が地域の公衆衛生の中心機関となる |
| 平成6年(1994年) | 保健所法が改正され、地域保健法に改称される |
| 平成9年(1997年) | 地域保健法が全面施行される |
少子高齢化や疾病構造の変化により、地域の保健サービスには、身近な市町村が行うべきものが増えた。そこで、住民に身近なサービスは市町村が、専門的・広域的なサービスは保健所が担うよう役割分担を見直すために、地域保健法が制定された。
1-2. 目的(第1条)
地域保健法の目的は、要約すると次のとおりである。
地域保健対策の推進に関する基本指針、保健所の設置その他地域保健対策の推進に関し基本となる事項を定めることにより、母子保健法その他の地域保健対策に関する法律による対策が地域において総合的に推進されることを確保し、もって地域住民の健康の保持及び増進に寄与すること。
基本指針
厚生労働大臣は、地域保健対策の円滑な実施と総合的な推進を図るため、地域保健対策の推進に関する基本指針を定める(第4条)。
2. 保健所
2-1. 設置主体(第5条)
保健所を設置するのは、次の地方公共団体である。
- 都道府県
- 指定都市(地方自治法の政令指定都市)
- 中核市
- その他の政令で定める市(保健所政令市)
- 特別区(東京23区)
一般の市町村(上記以外の市・町・村)は、保健所を設置しない。都道府県が設置する保健所は、その所管区域を設定するにあたって、医療計画の二次医療圏などを参考にする。
保健所の所長は、原則として医師でなければならない。
2-2. 保健所の業務(第6条)
保健所は、次の事項について、企画、調整、指導と、これらに必要な事業を行う。
- 地域保健に関する思想の普及と向上
- 人口動態統計その他地域保健に関する統計
- 栄養の改善と食品衛生
- 住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃その他の環境の衛生
- 医事と薬事
- 保健師に関する事項
- 公共医療事業の向上と増進
- 母性、乳幼児、老人の保健
- 歯科保健
- 精神保健
- 治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健
- エイズ、結核、性病、伝染病その他の疾病の予防
- 衛生上の試験と検査
- その他地域住民の健康の保持と増進
このほか、保健所は必要に応じて、地域保健に関する情報の収集・整理・活用、調査研究、歯科疾患などの治療などを行うことができる(第7条)。
製菓衛生師との関わり
保健所には食品衛生監視員が置かれ、次のような仕事を行っている。
- 菓子製造業などの営業許可の申請の受付、施設の確認
- 営業施設への立入検査、食品の収去(第3章参照)
- 食中毒の届出の受理と原因の調査
- 製菓衛生師の免許申請の受付(多くの都道府県で、住所地を管轄する保健所が窓口となる)
2-3. 健康危機への対応
新型コロナウイルス感染症への対応の経験をふまえ、保健所は、感染症の大流行などの健康危機に備えて、あらかじめ対処の計画を立て、応援の体制を整えるよう求められている。
3. 市町村保健センター(第18条)
| 項目 | 保健所 | 市町村保健センター |
|---|---|---|
| 設置主体 | 都道府県、指定都市、中核市、保健所政令市、特別区 | 市町村 |
| 設置の義務 | 設置主体は設置する(第5条) | 設置することができる(任意) |
| 役割 | 専門的・技術的・広域的な拠点 | 住民に身近な保健サービスの拠点 |
| 主な業務 | 食品衛生、環境衛生、感染症対策、医事・薬事、精神保健、難病 など | 健康相談、保健指導、健康診査、乳幼児健診、予防接種 など |
| 所長 | 原則として医師 | 医師である必要はない |
| 主な職員 | 医師、保健師、食品衛生監視員、環境衛生監視員、薬剤師、獣医師、管理栄養士 など | 保健師、管理栄養士、看護師 など |
Ⅱ 感染症法
4. 制定の経緯と目的
4-1. 正式名称と制定
感染症法の正式名称は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」である。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 明治30年(1897年) | 伝染病予防法が制定される |
| 平成10年(1998年) | 伝染病予防法、性病予防法、エイズ予防法を統合し、感染症法が制定される |
| 平成11年(1999年)4月1日 | 感染症法が施行される |
| 平成19年(2007年)4月1日 | 結核予防法を統合する |
| 令和5年(2023年)5月8日 | 新型コロナウイルス感染症が五類感染症に移される |
4-2. 前文と基本的な考え方
感染症法には前文がある。前文では、かつてハンセン病やエイズの患者などに対するいわれのない差別や偏見があったことを重く受け止め、教訓として今後に生かすことが必要であると述べている。そのうえで、感染症の患者などの人権を尊重しつつ、良質かつ適切な医療を提供し、感染症に迅速かつ適確に対応することを求めている。
入院や就業の制限などの措置は、患者の人権に配慮して、感染症の予防のために必要な最小限度のものでなければならない。
4-3. 目的(第1条)
この法律は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを目的とする。
4-4. 関係者の責務
| 関係者 | 責務 |
|---|---|
| 国・地方公共団体 | 感染症に関する正しい知識の普及、情報の収集・分析・公表、研究の推進、医療体制の整備などを行う。その際、患者などの人権を尊重する |
| 国民 | 感染症に関する正しい知識をもち、その予防に必要な注意を払うよう努める。患者などの人権が損なわれないようにしなければならない |
| 医師など | 国などの施策に協力し、良質かつ適切な医療を行うよう努める |
5. 感染症の分類(第6条)
感染症法は、感染力の強さや、かかったときの重さなどをもとに、感染症を分類している。分類によって、届出の方法や、入院・就業制限などの措置が変わる。
| 分類 | 主な感染症 | 主な措置 |
|---|---|---|
| 一類感染症 | エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱(7疾患) | 原則入院、就業制限、消毒、交通制限など |
| 二類感染症 | 急性灰白髄炎(ポリオ)、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9) | 状況に応じて入院、就業制限、消毒など |
| 三類感染症 | コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス(5疾患) | 就業制限(特定の職業)、消毒など |
| 四類感染症 | E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、ボツリヌス症、マラリア、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9以外)など、動物や飲食物を介して人に感染するもの | 動物の措置、消毒など(就業制限はない) |
| 五類感染症 | 季節性インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(令和5年5月8日から)、ウイルス性肝炎(E型・A型を除く)、麻しん、風しん、感染性胃腸炎(ノロウイルスなど)、後天性免疫不全症候群(エイズ)など | 発生の動向の調査と情報の提供(就業制限はない) |
| 新型インフルエンザ等感染症 | 新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19とは別の新たなもの)など | 入院、就業制限、外出自粛の要請など |
| 指定感染症 | 既知の感染症で、一類〜三類に準じた対応が必要と判断され、政令で指定されたもの | 政令で定める |
| 新感染症 | 人から人に伝染する未知の感染症で、重大な危険性があるもの | 一類に準じた対応 |
覚え方
- 三類感染症は、すべて腸管感染症(飲食物を介してうつる病気)である。菓子をつくる人にとって最も重要な分類である
- ペストは一類、結核は二類、腸管出血性大腸菌感染症(O157など)は三類
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在は五類である
6. 医師の届出(第12条)
感染症の患者などを診断した医師は、最寄りの保健所長を経由して、都道府県知事に届け出なければならない。
| 分類 | 届出の時期 | 対象 |
|---|---|---|
| 一類〜四類感染症、新型インフルエンザ等感染症 | 直ちに | すべての患者など(全数把握) |
| 五類感染症の一部(麻しん、風しんなど) | 直ちに | すべての患者(全数把握) |
| 五類感染症の一部(エイズ、梅毒など) | 7日以内 | すべての患者(全数把握) |
| 五類感染症の一部(季節性インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、感染性胃腸炎など) | 週単位・月単位 | 指定された医療機関(定点医療機関)だけが届け出る(定点把握) |
食中毒の届出(食品衛生法第63条・第3章参照)とは、別の制度である。たとえば腸管出血性大腸菌による食中毒の場合、医師は、食品衛生法にもとづく食中毒の届出と、感染症法にもとづく三類感染症の届出の両方を行う。
7. 就業制限(第18条)
7-1. 就業制限とは
都道府県知事は、一類〜三類感染症、新型インフルエンザ等感染症の患者または無症状病原体保有者(症状はないが病原体をもっている人)に対して、感染症をまん延させるおそれのある業務に、一定の期間従事してはならない旨を通知することができる(第18条)。通知を受けた者は、その業務に従事してはならない。
- 対象には、症状のない保菌者も含まれる
- 制限される期間は、病原体を保有しなくなるまで、または症状が消えるまでの期間である
- 就業制限は、仕事そのものを禁止するものではない。感染を広げるおそれのある業務に就くことを制限するものであり、それ以外の業務に就くことはできる
7-2. 制限される業務(施行規則第11条)
| 感染症 | 制限される業務 |
|---|---|
| エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、南米出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱 | 飲食物の製造・販売・調製・取扱いの際に飲食物に直接接触する業務、および他者の身体に直接接触する業務 |
| 結核 | 接客業その他の多数の者に接触する業務 |
| ジフテリア、SARS、MERS、新型インフルエンザ等感染症、痘そう、特定鳥インフルエンザ、ペスト | 飲食物の製造・販売・調製・取扱いの際に飲食物に直接接触する業務、および接客業その他の多数の者に接触する業務 |
| 急性灰白髄炎、コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス | 飲食物の製造・販売・調製・取扱いの際に飲食物に直接接触する業務 |
製菓衛生師にとってのポイント
- 三類感染症(腸管感染症)の患者と保菌者は、菓子の製造など、飲食物に直接触れる業務に就くことができない
- 結核の就業制限は「接客業など多数の者に接触する業務」であり、飲食物に触れる業務は対象になっていない
- 四類・五類感染症は就業制限の対象ではない。季節性インフルエンザやノロウイルスによる感染性胃腸炎、新型コロナウイルス感染症も、感染症法による就業制限はない
7-3. 就業制限がない感染症への対応
感染症法の就業制限がない場合でも、菓子をつくる現場では、食品衛生法にもとづく衛生管理が求められる。食品衛生法施行規則の衛生管理の基準では、営業者は、食品取扱者が下痢、嘔吐、発熱などの症状を示したときや、手指に化膿した傷があるときは、その状態を報告させ、食品を取り扱う作業に従事させないようにするなどの措置をとることとしている(第3章参照)。
ノロウイルスは、わずかな量でも感染し、症状が治まった後もしばらく便の中にウイルスが出続ける。症状が治まった後も、手洗いを徹底し、しばらくは直接食品に触れる作業を控えることが望ましい。
8. その他の主な措置
| 措置 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 健康診断の勧告 | 感染しているおそれのある者に健康診断を受けるよう勧告し、従わないときは強制的に受けさせることができる | 一類〜三類、新型インフルエンザ等 |
| 入院の勧告 | 感染症指定医療機関への入院を勧告し、従わないときは入院させることができる | 一類、二類、新型インフルエンザ等 |
| 消毒 | 汚染された場所や物の消毒を命じる | 一類〜四類、新型インフルエンザ等 |
| 建物の立入制限・交通の制限 | 建物への立入や、一定の区域の交通を制限する | 一類 |
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1就業制限は、症状がある患者だけが対象であり、無症状病原体保有者は対象とならない
Q2保健所は、人口おおむね20万人に1か所の基準で設置される
Q3感染症の患者を診断した医師は、市町村長に届け出る
Q4ノロウイルスによる感染性胃腸炎の患者は、感染症法により、食品を取り扱う業務への就業が制限される
Q5就業制限の対象となるのは、一類〜三類感染症と新型インフルエンザ等感染症である
Q6地域保健法は、保健所法を改正・改称したものである
Q7保健所の業務には、食品衛生は含まれない
Q8三類感染症の患者は、すべての業務への就業が禁止される
Q9結核の患者は、飲食物に直接接触する業務への就業が制限される
Q10季節性インフルエンザにかかった者は、感染症法により就業制限の対象となる
Q11地域保健対策の推進に関する基本指針は、都道府県知事が定める
Q12コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフスは、三類感染症である
Q13母性、乳幼児、老人の保健に関する事項は、保健所の業務である
Q14保健所は、すべての市町村が設置しなければならない
Q15腸管出血性大腸菌感染症は、四類感染症である
Q16ペストは二類感染症である
Q17新型コロナウイルス感染症は、令和5年5月8日から五類感染症である
Q18保健所は、都道府県、指定都市、中核市、その他の政令で定める市、特別区が設置する
Q19結核は三類感染症である
Q20三類感染症の患者と無症状病原体保有者は、飲食物の製造・販売・調製・取扱いの際に飲食物に直接接触する業務に従事してはならない
Q21新型コロナウイルス感染症は、現在も新型インフルエンザ等感染症に位置づけられている
Q22感染症法は、伝染病予防法だけを改正して制定された
Q23感染症法の前文には、ハンセン病やエイズの患者に対する差別や偏見の教訓が述べられている
Q24市町村は、市町村保健センターを設置しなければならない
まとめ
地域保健法
- 保健所法(昭和22年)が平成6年に改称されて地域保健法となり、平成9年に全面施行された
- 目的は地域住民の健康の保持及び増進。基本指針は厚生労働大臣が定める
- 保健所の設置主体は、都道府県、指定都市、中核市、保健所政令市、特別区。一般の市町村は設置しない
- 保健所の業務には、栄養の改善と食品衛生、環境衛生、医事・薬事、母子・老人保健、精神保健、感染症の予防などが含まれる
- 市町村保健センターは、市町村が設置できる(任意)。住民に身近なサービスを担う
感染症法
- 伝染病予防法・性病予防法・エイズ予防法を統合し、平成10年に制定、平成11年施行。平成19年に結核予防法を統合
- 前文で、ハンセン病やエイズへの差別・偏見の教訓と人権の尊重をうたう
- 一類:ペスト、エボラなど。二類:結核、ジフテリアなど。三類:コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス(すべて腸管感染症)
- 新型コロナは令和5年5月8日から五類
- 就業制限の対象は一類〜三類と新型インフルエンザ等感染症。無症状病原体保有者も対象
- 三類感染症では、飲食物に直接接触する業務が制限される。結核は接客業などが制限される
- 季節性インフルエンザ、ノロウイルス、新型コロナ(いずれも五類)は、感染症法の就業制限の対象外。ただし食品衛生法の衛生管理として、症状のある人は食品を扱う作業から外す
※ 本書は令和8年(2026年)9月時点の法令にもとづいています。

