衛生法規 第四部 環境・労働・責任の法律
製造物責任法(PL法)
はじめに
焼き菓子に金属片が混じっていて、お客様が歯を折ってしまった。アレルゲンの表示を書き忘れたケーキで、子どもがアナフィラキシーを起こした。こうしたとき、菓子をつくった者は、たとえ注意を払っていたとしても、被害者に損害を賠償する責任を負うことがある。その根拠となるのが、本章で扱う製造物責任法である。
製造物責任法は、英語の Product Liability(製造物責任)の頭文字から、PL法とも呼ばれる。条文は全部で6条しかない短い法律であるが、「過失がなくても責任を負う」という考え方は、食品をつくる者の責任の重さをよく表している。
試験では、法律の目的、「製造物」「欠陥」「製造業者等」の定義、免責事由、請求できる期間がよく問われる。
1. 制定の経緯
1-1. PL法がなかった時代
PL法ができる前、製品の事故で被害を受けた人が損害賠償を求めるには、民法の不法行為(第709条)の規定によるしかなかった。民法では、被害者が、加害者に故意または過失があったことを証明しなければならない。
しかし、製品がどのような工程でつくられたかを、一般の消費者が調べて、製造者の過失を証明することは極めて難しい。そのため、被害を受けても救済されない人が多く生まれた。
食品の分野でも、次のような大きな被害が起きている。
| 年 | 事件 | 内容 |
|---|---|---|
| 昭和30年(1955年) | 森永ヒ素ミルク中毒事件 | 粉ミルクの製造に使われた添加物にヒ素が混入し、多くの乳児が被害を受けた |
| 昭和43年(1968年) | カネミ油症事件 | 食用の米ぬか油の製造工程でPCB(ポリ塩化ビフェニル)などが混入し、約1万4,000人が被害を届け出た |
こうした経験や、欧州共同体(EC)が昭和60年(1985年)に製造物責任についての指令を定めたことなどを背景に、日本でも製造者の過失を問わない新しい責任の制度が求められるようになった。
1-2. 制定
| 年月日 | できごと |
|---|---|
| 平成6年(1994年)7月1日 | 製造物責任法が公布される(法律第85号) |
| 平成7年(1995年)7月1日 | 製造物責任法が施行される(施行後に引き渡された製造物に適用) |
| 令和2年(2020年)4月1日 | 民法改正にあわせて、生命・身体の被害についての請求期間が延長される |
2. 目的(第1条)
この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
- 対象となる被害は、人の生命・身体・財産に生じた被害である
- 直接の目的は被害者の保護である
- 最終の目的は、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展の2つである
3. 定義(第2条)
3-1. 製造物
製造物とは、製造または加工された動産をいう。
| 製造物にあたるもの | 製造物にあたらないもの |
|---|---|
| 菓子、パン、加工食品、調味料、飲料、家電製品、自動車、医薬品 など | 不動産(建物、土地)、未加工の農林畜水産物(収穫したままの野菜・果物、とれたての魚など)、サービス(修理、運送など)、電気、ソフトウェアなどの形のないもの |
「加工」とは
動産に手を加えて、新しい性質や価値を付け加えることをいう。加熱、味付け、粉砕、搾汁、混合などがこれにあたる。
- 小麦を挽いた小麦粉、果物を搾ったジュース、卵と砂糖と小麦粉を混ぜて焼いたケーキは、いずれも製造物である
- 収穫したままのいちごや、生卵そのものは、未加工の農林畜水産物であり、製造物にあたらない
- 菓子は、つくる過程で必ず加工が行われるため、すべて製造物にあたる
3-2. 欠陥
欠陥とは、製造物の特性、通常予見される使用形態、製造業者等がその製造物を引き渡した時期その他の事情を考慮して、その製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
ポイントは「安全性」の欠如である。品質が悪い、味が落ちている、期待した効果がないといった、安全に関わらない不具合は、PL法の「欠陥」にはあたらない。
欠陥の3つの類型
| 類型 | 内容 | 菓子での例 |
|---|---|---|
| 製造上の欠陥 | 設計や仕様どおりにつくられず、安全性を欠いたもの | 製造ラインの部品が欠けて金属片が混入した。殺菌が不十分で食中毒菌が残った |
| 設計上の欠陥 | 設計そのものに問題があり、製品全体が安全性を欠いたもの | 小さな子どもがのどに詰まらせやすい形状・硬さで菓子を設計した |
| 指示・警告上の欠陥 | 危険を避けるための説明や警告が不十分なもの | アレルゲンの表示が漏れていた。「必ず冷蔵保存」「凍ったまま食べない」などの注意書きがなかった |
欠陥にあたらない例
包丁で野菜を切っているときに指を切った場合、包丁が「切れる」ことは本来の性質であり、通常有すべき安全性を欠いているとはいえない。このように、製品を通常の方法で使っていて、その製品が本来もつ危険が現れただけの場合は、欠陥にあたらない。
3-3. 製造業者等
PL法で責任を負う「製造業者等」は、次の3つである。
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 製造業者・加工業者・輸入業者 | 製造物を業として製造、加工、または輸入した者 | 菓子メーカー、菓子店、洋菓子の輸入業者 |
| 表示製造業者 | 自ら製造していなくても、製造業者として氏名や商標などを表示した者、または製造業者と誤認させる表示をした者 | 他社に製造を委託し、自社の名前で販売するプライベートブランドの販売者 |
| 実質的製造業者 | 製造・加工・輸入・販売の形態などから、実質的な製造業者と認められる表示をした者 | 「○○販売元」と表示しているが、実質的に製造をとりしきっている者 |
- 輸入業者も製造業者等に含まれる。海外の製造者に責任を問うことは難しいため、国内に持ち込んだ者が責任を負う
- 製品を仕入れて売るだけの販売業者は、原則として製造業者等にあたらない。ただし、民法の不法行為責任などを問われることはある
4. 製造物責任(第3条)
製造業者等は、自らが引き渡した製造物の欠陥により、他人の生命、身体または財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
4-1. 過失がなくても責任を負う
民法の不法行為では「過失」が責任の条件であったのに対し、PL法では「欠陥」が責任の条件となる。これを欠陥責任(無過失責任の一種)という。
| 項目 | 民法の不法行為(第709条) | 製造物責任法 |
|---|---|---|
| 責任の条件 | 加害者の故意・過失 | 製造物の欠陥 |
| 被害者が証明すること | 故意・過失、損害の発生、因果関係 | 欠陥、損害の発生、因果関係 |
| 製造者が注意を払っていた場合 | 過失がなければ責任を負わない | 欠陥があれば責任を負う |
被害者は、製造者の工程管理のどこに落ち度があったかまで証明する必要はない。製品に欠陥があり、それによって損害が生じたことを証明すればよい。
4-2. 製造物そのものだけの損害は対象外
損害がその製造物についてのみ生じたとき(たとえば、買ったケーキが崩れていただけで、ほかに被害がない場合)は、PL法の対象とならない。この場合は、売買契約などにもとづいて、交換や返金を求めることになる。
5. 免責事由(第4条)
製造業者等は、次のいずれかを自ら証明したときは、賠償の責任を負わない。
| 免責事由 | 内容 |
|---|---|
| 開発危険の抗弁 | 製造物を引き渡した時点での科学または技術に関する知見によっては、その製造物に欠陥があることを認識することができなかったこと |
| 部品・原材料製造業者の抗弁 | 製造物が他の製造物の部品や原材料として使われた場合に、その欠陥が、もっぱら他の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことによって生じ、かつ、欠陥が生じたことについて過失がないこと |
- 「抗弁」とは、相手の主張に対して、責任を免れるために反論することをいう
- 開発危険の抗弁でいう「知見」は、その時点で入手できる最高水準の科学・技術の知識をいう。その製造業者が知らなかったというだけでは免責されない
- 証明しなければならないのは、製造業者等の側である
6. 請求できる期間(第5条)
PL法にもとづく損害賠償の請求権は、次のいずれかにあてはまると、時効によって消滅する。
| 起算点 | 期間 |
|---|---|
| 被害者が損害と賠償義務者を知った時から | 3年(人の生命または身体を侵害した場合は5年) |
| 製造業者等が製造物を引き渡した時から | 10年 |
- 生命・身体の被害についての「5年」は、令和2年(2020年)4月1日の民法改正にあわせて、3年から延長されたものである
- 「引き渡した時」とは、消費者の手に渡った時ではなく、製造業者等が製造物を流通に置いた時である
- 身体に蓄積して健康を害する物質による損害や、一定の潜伏期間の後に症状が現れる損害については、損害が生じた時から10年を数える
⚠️ 令和元年度以前の教材では、請求期間を「知った時から3年」とだけ記載しているものがある
7. 民法の適用(第6条)
製造物責任については、PL法に定めのないことは民法の規定による。PL法は、民法の不法行為責任を排除するものではなく、被害者は、民法にもとづいて販売業者などの責任を問うこともできる。
8. 菓子店とPL法
8-1. 起こりうる事故と欠陥の類型
| 事故の例 | 欠陥の類型 |
|---|---|
| 焼き菓子に、天板やミキサーの金属片、ガラス片が混入していた | 製造上の欠陥 |
| 生菓子の温度管理が不十分で、食中毒が発生した | 製造上の欠陥 |
| 特定原材料の表示が漏れていた、別の商品のラベルを貼った | 指示・警告上の欠陥 |
| 硬くて丸い一口サイズの菓子で、子どもや高齢者がのどを詰まらせた | 設計上の欠陥、指示・警告上の欠陥 |
| 「要冷蔵」の表示がなく、常温で置かれた商品で食中毒が発生した | 指示・警告上の欠陥 |
こんにゃく入りゼリーによる窒息事故では、製品の形状や警告表示が欠陥にあたるかが裁判で争われた。この事故をきっかけに、形状や硬さの見直し、袋への警告マークの表示などが業界で進められた。
8-2. 事故を防ぐための取組
PL法による責任を負わないためには、何よりも事故を起こさないことが大切である。
- 異物混入の防止:器具の破損点検、金属探知機の使用、ガラス製品の持ち込み制限
- 衛生管理の徹底:HACCPに沿った温度と時間の管理、記録の保存(第3章参照)
- 正確な表示:アレルゲン、保存方法、期限の表示の確認、ラベルの貼り間違いの防止(第5章参照)
- 注意喚起:「小さく切ってお召し上がりください」「お子様や高齢の方は注意してお召し上がりください」など、必要な警告をわかりやすく表示する
- 記録とトレーサビリティ:原材料の仕入れ先、製造日、ロットを記録し、問題が起きたときにすぐに原因を特定し、回収できるようにする
8-3. PL保険
万一の事故に備えて、生産物賠償責任保険(PL保険)に加入しておくことも有効である。製造・販売した商品が原因で他人にけがをさせたり、物を壊したりした場合の賠償金や訴訟費用などが補償される。商工会議所などを通じて、中小の事業者が加入しやすい制度も設けられている。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1製造物責任法の目的は、製造業者の保護である
Q2損害がその製造物についてのみ生じた場合も、製造物責任法にもとづいて賠償を請求できる
Q3アレルゲンの表示漏れによる事故は、指示・警告上の欠陥にあたりうる
Q4製造業者は、注意を十分に払っていたことを証明すれば、責任を免れる
Q5製造物責任法では、被害者は製造業者の過失を証明しなければならない
Q6収穫したままの野菜や果物も、製造物責任法の製造物にあたる
Q7製造物責任法は、製造物の欠陥により人の生命、身体または財産に被害が生じた場合の、製造業者等の損害賠償の責任について定めている
Q8欠陥とは、その製造物の品質が劣っていることをいう
Q9他社に製造を委託した商品に自社名を製造者として表示しても、自ら製造していなければ責任を負わない
Q10製造物責任法は、昭和43年に制定された
Q11製造物とは、製造または加工された不動産をいう
Q12開発危険の抗弁は、その製造業者が欠陥の存在を知らなかった場合に認められる
Q13包丁で手を切った場合は、包丁の欠陥にあたる
Q14引き渡した時から10年とは、消費者が購入した時から10年という意味である
Q15小麦粉やケーキなどの加工食品は、製造物責任法の製造物にあたる
Q16製造物とは、製造または加工された動産をいう
Q17製造物責任法に定めのない事項については、民法の規定が適用される
Q18製造物責任法にもとづく損害賠償の請求権は、損害と賠償義務者を知った時から1年で消滅する
Q19製造物責任法の対象となる被害は、身体に生じた被害に限られる
Q20欠陥とは、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう
Q21輸入業者は、製造物責任法の製造業者等に含まれない
Q22製造物責任法では、製造業者等に過失がなくても、欠陥があれば損害賠償の責任を負う
Q23人の生命または身体を侵害した場合の損害賠償の請求権は、損害と賠償義務者を知った時から5年間行使しないと、時効によって消滅する
まとめ
- 製造物責任法(PL法)は、平成6年(1994年)公布、平成7年(1995年)7月1日施行
- 背景には、民法の不法行為では被害者が過失を証明しなければならず、救済が難しかったことがある
- 目的は、被害者の保護を図り、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与すること。対象は生命・身体・財産の被害
- 製造物=製造または加工された動産。不動産、未加工の農林畜水産物、サービスは対象外。菓子はすべて製造物
- 欠陥=通常有すべき安全性を欠いていること。製造上・設計上・指示警告上の3類型。品質の悪さは欠陥ではない
- 製造業者等=製造・加工・輸入業者、表示製造業者、実質的製造業者。単なる販売業者は原則含まれない
- 製造業者等は、過失がなくても、欠陥があれば賠償責任を負う(欠陥責任)。被害者は欠陥・損害・因果関係を証明する
- 製造物そのものだけの損害は対象外
- 免責事由は、開発危険の抗弁と部品・原材料製造業者の抗弁。証明するのは製造業者等の側
- 請求期間は、損害と賠償義務者を知った時から3年(生命・身体は5年)、引き渡した時から10年
- 菓子店では、異物混入、食中毒、アレルゲン表示漏れ、窒息などがPL法上の事故となりうる。事故の予防とPL保険への加入が大切
※ 本書は令和8年(2026年)9月時点の法令にもとづいています。具体的な事故やトラブルについては、弁護士や消費生活センターにご相談ください。

