製菓理論 第16章:和菓子(1)分類と餡の理論

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第4部 製品理論編

和菓子(1)分類と餡の理論

はじめに

和菓子を理解するための最初の鍵は「水分」である。生菓子・半生菓子・干菓子という分類は、見た目や材料ではなく、水分含量によって定義されている。そして2つ目の鍵が「餡」である。洋菓子におけるクリームが乳化の産物であるのに対し、和菓子の餡は「餡粒子」という独特の構造体である。小豆の細胞の中でタンパク質がでんぷんを包み込むという、他に類を見ない仕組みによって、あのなめらかな舌触りが生まれる。本章では、和菓子の分類体系と、その中心にある餡の理論を解説する。

1. 和菓子とは

和菓子は日本固有の菓子の総称である。明治時代以降に海外から伝えられた洋菓子と区別するために生まれた言葉であり、それ以前は単に「菓子」と呼ばれていた。

四季折々の自然の風物を表現するものが多く、茶道との結びつきも深い、文化的な性格を強く持つ菓子である。

2. 和菓子の分類

2-1. 水分含量による分類

和菓子の最も基本的な分類は、水分含量による3区分である。

分類水分含量代表例
生菓子30%以上餅、饅頭、練り羊羹、練切、求肥、どら焼き、カステラ
半生菓子10〜30%もなか、すはま、甘納豆、落し焼き
干菓子10%以下打ち物(落雁等)、有平糖、せんべい、飴玉

注意点:カステラは洋風の見た目だが、水分30%以上のため生菓子に分類される。また、もなかは皮が乾いているが、餡を含むため半生菓子である。

水分含量は保存性と直結する。水分が少ないほど水分活性が低く、微生物が繁殖しにくいため日持ちする。干菓子が長期保存できるのはこのためである。

2-2. 製法による分類(生菓子)

生菓子はさらに、製法により以下のように分類される。

分類代表的な製品
餅物大福餅、おはぎ、赤飯、柏餅、桜餅(道明寺)
蒸し物饅頭、蒸し羊羹、ういろう
焼き物(平鍋)どら焼き、桜餅(長命寺)、きんつば、あゆ焼き
焼き物(オーブン)カステラ、桃山、栗饅頭
流し物練り羊羹、水羊羹、錦玉羹
練り物練切、こなし、求肥、雪平
揚げ物あんドーナツ、かりんとう

各製法の詳細は次章(第17章)で扱う。

3. 餡の理論

3-1. 餡粒子とは

和菓子の餡は、単に豆を潰したペーストではない。「餡粒子」という独特の微細構造を持つ。

餡粒子ができる過程

① 小豆を水とともに加熱する
② 子葉(しよう)の細胞壁が軟らかくなり、細胞同士がばらばらに分離する
③ 細胞内のでんぷんが糊化して膨張する
④ 細胞内のタンパク質が60℃くらいで凝固し、糊化したでんぷん粒を包み込む
⑤ この「タンパク質の膜に包まれたでんぷんの粒」が餡粒子である

この構造により、餡は口の中でべたつかず、ほろりとほどける独特の食感を持つ。細胞が壊れてでんぷんが露出してしまうと、糊状のねばついた質感になり、良質な餡にならない。

煮方の要点:細胞壁を軟らかくして細胞をばらばらにしつつ、細胞そのものは壊さないこと。急激に沸騰させたり乱暴にかき混ぜたりすると、細胞が破壊されてしまう。

3-2. 砂糖の役割

餡に砂糖を加えるのは、甘味のためだけではない。

老化の抑制:砂糖の保水性により、α化(糊化)した餡粒子内のでんぷんがβ化(老化)するのを遅らせる。これにより、餡のなめらかさと軟らかさが長く保たれる。

保存性の向上:糖度を上げることで水分活性が下がり、微生物の繁殖が抑制される。練り羊羹が長期保存できるのはこの原理による。

4. 生餡の製造工程

生餡(なまあん)とは、砂糖を加える前の、水分を含んだ餡のことである。以下の8工程で製造される。

① 選定

小豆を選別し、異物や虫食い豆、不良豆を取り除く。

② 浸漬

水に浸して吸水させる。ただし小豆は種皮が硬く、豆によっては浸漬せずに直接加熱する方法もとられる。

③ 下煮・びっくり水

鍋にかぶる程度の水で加熱する。沸騰したらびっくり水(差し水)を加える。

びっくり水の目的:急激に温度を下げることで、豆の表面と内部の温度差を小さくし、皮だけが先に軟らかくなって破れるのを防ぐ。皮のしわがのび、乾燥時の2〜2.5倍に膨らむまで繰り返す。

④ 渋切り

ざるにあげて煮汁を捨て、水をかける。

渋切りの目的:小豆に含まれるサポニンやタンニンなどの渋味・えぐ味成分を除去する。これを行わないと、餡に苦味や渋味が残る。

⑤ 本煮

たっぷりの水で強火にかけ、沸騰後は落としぶたをして弱火でゆっくり火を通す。指で簡単に潰れるまで煮る。

⑥ 潰し・裏ごし

餡こしざるにあげ、水をかけながら裏ごしして、呉(ご=餡粒子)に分離する。

⑦ 晒し(水さらし)

水槽で2〜5回、水にさらす。これにより、残った渋味成分や不純物を除去し、餡の色と風味をきれいにする。

⑧ 水絞り

餡絞り袋に入れて圧搾し、水分60〜63%まで絞る。これが生餡である。

収量の目安:小豆生餡の重量は、生豆の約1.6〜1.7倍になる。

5. 練り餡の製造

生餡に砂糖を加えて練り上げたものが練り餡である。

5-1. 小豆並餡(あずきなみあん)

配合例:小豆生餡500g、グラニュー糖300g、水200g(仕上がり約800〜850g、糖度Brix50〜52%)

製法
① 鍋にグラニュー糖と水を入れて沸騰させる
② 火にかけたまま小豆生餡を加え、へら数は少なく手早く混ぜて全体に火を入れる
③ 煮詰まったら火を弱め、へらですくった餡を落として角が立つ程度まで練り上げる
④ バットに小分けし、濡れ布巾をかけて冷ます

ポイント:へらで混ぜすぎると餡粒子が壊れ、粘りが出て食感が悪くなる。

5-2. 小豆つぶし餡

小豆の粒を残した餡。生餡工程の①〜④を行った後、指で潰れるまで煮て、蓋をして1〜2時間蒸らし煮する。砂糖液に一晩浸けてから、蜜を煮詰めて豆を戻し、練り上げる。

5-3. 黄身餡

配合例:白生餡500g、グラニュー糖300g、水300g、卵黄3個分

白餡をやや軟らかめに炊き、火から下ろしてから卵黄を加えて再度炊き上げる。饅頭の中餡や桃山の生地に用いられる。

5-4. 火取り餡

餡を硬く練り上げることを「火取る」という。桃山や乳菓など、成形が必要な生地のベースに用いる。

6. 餡の種類

こし餡:皮を除き、餡粒子のみで作った滑らかな餡。

つぶし餡:豆の粒を残したまま練り上げた餡。

小倉餡:こし餡に、蜜漬けした大納言小豆などの粒を混ぜた餡。

白餡:白いんげん豆(手亡豆、白小豆など)から作る白い餡。着色して練切などに用いる。

うぐいす餡:青えんどう豆から作る、緑色の餡。

ずんだ餡:枝豆から作る餡。

黄味餡:白餡に卵黄を加えた餡。

餡の硬さの分類

並餡:標準的な硬さ。糖度Brix50〜52%程度。
中割餡:やや硬め。
火取り餡:硬く練り上げたもの。

7. 「種」の比率

和菓子では、生地(種)と餡の比率を表す独特の用語がある。

二つ種:生地:餡=1:1(同量)
三つ種:生地:餡=1:2(生地が全体の1/3)

例えば「二つ種で50g」とは、生地25g・餡25gという意味である。「三つ種」は生地が全体の3分の1という意味であり、生地と餡が3:1という意味ではない。

この読み替えは試験でも頻出する。

8. 和菓子の主な材料(補足)

第1〜13章で扱った材料のうち、和菓子で特に重要なものを整理する。

米粉類:上新粉、上用粉、餅粉、白玉粉、道明寺粉、寒梅粉、焼き味甚粉(第4章参照)

砂糖:上白糖、グラニュー糖、白双糖、和三盆、黒砂糖(第1章参照)

水飴:シャリ止めと保水(第1章参照)

トレハロース:でんぷんの老化防止(第1章参照)

寒天:流し物の凝固剤(第10章参照)

膨張剤:重曹(黄色く発色)、イスパタ(蒸し物・白く仕上がる)、炭酸アンモニウム(ちゃぶくさ等)(第11章参照)

浮き粉(小麦でんぷん):柏餅などのつやと食感向上(第2章参照)

9. 和菓子製造の主な器具

餡用具

さわり(餡練り鍋):底が丸い鍋。素材は銅・ステンレス・砲金(銅とスズの合金)。銅製のものが「さわり」と呼ばれ、熱伝導性がよく餡練りに適しているが、手入れを怠ると緑青が出る。

餡こしざる:煮上げた豆を入れ、水をかけながら皮と呉を分離させる。

餡絞り袋・餡絞り機:水さらしした呉の水分を絞る。

水槽付き製餡機:煮上げた豆の皮を除き、呉を水さらしする機器。フィルター交換で餡のきめの細かさを変えられる。

蒸し物用具

セイロウ:和菓子では主に角セイロウを使用。

露取り:蒸気が水滴となって菓子に落ちるのを防ぐ道具。山形になっており、水滴が枠部分に流れ落ちる。

蒸し枠:四角形の底なしの枠。軟らかい生地を流し込んで蒸す。蒸し羊羹やういろうに使用。

餅綿(綿布巾):もち米を蒸す際にセイロウ底に敷く。蒸気の通りをよくし、もち米が蒸し器に付くのを防ぐ。

焼き物用具

平鍋(一文字、中花鍋):どら焼きや中花種を焼く銅製器具。使用後は水で洗わず、熱いうちに布で汚れをふき取る

どらさじ(中花さじ):軟らかい生地をすくって平鍋に流す浅いさじ。しんちゅう製。

起こし金(返しべら):焼いた皮を裏返すへら。

カステラ枠:本枠、一段枠(中枠)、二段枠(灰枠)。底はない。生地の膨らみに合わせて枠を積み重ねる。

仕上げ用小道具

三角棒(三角べら):練切餡やこなしに模様をつける。

菊ばさみ(花切りばさみ):練切餡を切り起こし、菊の花びらに見立てる。

針切り箸:箸の先端に絹針を縛り付けた道具。練切餡や羊羹を切り抜く。

小田巻き(引き筒):練切餡を糸状にする。きんとん用。

そぼろこし(きんとんぶるい):練切餡やきんとんをそぼろ状にするこし器。

焼き印・焼きごて:焼き印は棒の先に鉄製の型(花鳥風月・文字)を付けた道具。焼きごては模様なしの平面。

10. 和菓子用語集

用語意味
泡切り混ぜ合わせた生地などの泡を潰すこと
いらすり蜜のこと
いら引き製品表面に軽く熱を入れ、すり蜜をはけでさっと塗ること
岡混ぜ加熱しないで容器や作業台の上で混ぜ合わせること
落ちる膨張した製品の表面がくぼむこと
かわばる生地の表面が乾くこと
久助製造工程で規格外になったもの
三同割砂糖・粉・卵の分量が同量
四同割砂糖・粉・卵・バターの分量が同量
シャル砂糖が結晶化すること
銘立ち気泡がよくのびていること
生地のこと
つや天寒天と砂糖を水で煮とかした液。つや出しに使用
手粉生地が手や台に付かないように振る粉
手蜜生地が付かないように手に付ける砂糖蜜
でっちる生地をもんで滑らかにすること
同割砂糖や粉の分量が同量
なく製品が吸水してべたべたになった状態
ねき水(しとり蜜)水と水飴を合わせた蜜
倍割砂糖をほかの材料の倍量使用すること
半どまり寒天などの表面が完全に固まっていないこと
火取る餡を硬く練ること
ふを切る弾力や粘りをなくすこと
へたる生地の状態が悪くなること
蜜糸煮詰めたシロップが糸状にのびること
もどり材料が時間とともに製品になじみおいしくなること
膨張剤のこと
〜山和菓子特有の計量方法
砂糖のこと
割り勝ち砂糖の量が粉の量より多いこと

試験対策:よくある間違いポイント

試験でよく出る「ひっかけ」の文です。正しいか間違いか、選んでから答えを確かめてください。

Q1生菓子の水分は10%以下

正しくは:生菓子は水分30%以上。10%以下は干菓子。

Q2もなかは生菓子

正しくは:もなかは半生菓子(水分10〜30%)。

Q3カステラは半生菓子

正しくは:カステラは水分30%以上のため生菓子。

Q4餡粒子はでんぷんがタンパク質を包んだもの

正しくは:逆。タンパク質がでんぷん粒を包んだもの。

Q5餡のタンパク質は100℃で凝固する

正しくは:約60℃で凝固する。

Q6びっくり水は豆を早く煮るために加える

正しくは:急激に温度を下げ、皮と内部の温度差を小さくして皮が破れるのを防ぐため。

Q7渋切りは豆を軟らかくするための工程

正しくは:渋切りはサポニンやタンニンなどの渋味成分を除去する工程。

Q8生餡は砂糖を加えて練ったもの

正しくは:生餡は砂糖を加える前の状態。砂糖を加えて練ったものが練り餡。

Q9三つ種とは生地と餡が3:1

正しくは:三つ種は生地が全体の1/3(生地:餡=1:2)。

Q10二つ種とは生地と餡が2:1

正しくは:二つ種は生地と餡が同量(1:1)。

Q11餡を練るときはへらで十分にかき混ぜる

正しくは:へら数は少なく手早く混ぜる。混ぜすぎると餡粒子が壊れる。

Q12和菓子用語の『薬』とは香料のこと

正しくは:「薬」は膨張剤のこと。

Q13『火取る』とは餡を焦がすこと

正しくは:「火取る」は餡を硬く練ること。

Q14平鍋は使用後に水でよく洗う

正しくは:平鍋は水で洗わず、熱いうちに布で汚れをふき取る。
結果:

まとめ

和菓子は水分含量により生菓子(30%以上)・半生菓子(10〜30%)・干菓子(10%以下)に分類され、この区分が保存性を決定づける。和菓子の中核をなす餡は、小豆の子葉細胞内でタンパク質が約60℃で凝固し、糊化したでんぷんを包み込んだ「餡粒子」という構造体である。この構造を壊さずに作ることが製餡技術の要諦であり、びっくり水で皮の破裂を防ぎ、渋切りでサポニン・タンニンを除き、水さらしで不純物を除去し、へら数を抑えて練り上げる、という一連の工程はすべてこの目的に収束する。砂糖は甘味だけでなく、保水性により餡粒子の老化を抑え、水分活性を下げて保存性を高める。生地と餡の比率を示す「二つ種(1:1)」「三つ種(1:2)」という独特の用語も、和菓子を理解するうえで欠かせない基礎知識である。

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