製菓理論 第2章:小麦粉

第2章

第1部 素材編

小麦粉

はじめに

小麦粉は、洋菓子・和菓子・パンのすべてにおいて最も基本となる粉類の原材料である。菓子の骨格を形成するだけでなく、その種類や扱い方によって製品の食感(ふわふわ、サクサク、もちもちなど)が大きく変わる。小麦粉の特性を決定づける最大の要因は「グルテン」というタンパク質の網目構造であり、この理解なくして製菓理論を語ることはできない。本章では、小麦粉の原料と構造、分類、グルテンの形成メカニズムとその制御について体系的に解説する。

1. 小麦粉の原料

1-1. 小麦粒の構造

小麦粒は、以下の3つの部分から構成される。

外皮(ふすま):小麦粒全体の約15%を占める。繊維質やミネラル(灰分)を多く含む。小麦粉の製造においては除去される部分であり、混入が多いほど灰分や繊維が増え、色沢が悪くなり品質が低下する。

胚乳:小麦粒全体の約83%を占める。でんぷんとタンパク質を豊富に含む。小麦粉とは、この胚乳部分を取り出して製粉(挽いて粉にすること)したものである。

胚芽:小麦粒全体の約2%を占める。脂質やビタミンEを含む。製粉時には通常除去される。

1-2. 小麦の品種

小麦の品種は、胚乳の性質によって大きく2種類に分けられる。

硬質小麦:タンパク質含有量が高く、胚乳がガラス質で硬い。強力粉の原料となる。主な産地はアメリカ、カナダなど。

軟質小麦:タンパク質含有量が低く、胚乳が粉質で白い。薄力粉の原料となる。主な産地はアメリカ(西海岸)、日本国内など。

また、播種(種まき)と収穫の時期により「冬小麦」(秋に種をまき初夏に収穫)と「春小麦」(春に種をまき秋に収穫)に分類される。

2. 小麦粉の成分

小麦粉を構成する成分で最も多いのは炭水化物(でんぷん)であり、全体の約70〜75%を占める。タンパク質の含有量は約7〜14%と少ないが、小麦粉の重要な調理特性(粘弾性など)は主にこのタンパク質の含有量と質によって決定される。

その他の成分として、水分(約14%)、脂質(約1.5〜2%)、灰分(ミネラル、約0.3〜2%)、ビタミン類(B1、B2等)を含む。

3. 小麦粉の分類

3-1. タンパク質含有量による分類

小麦粉はタンパク質の含有量と質(グルテンの量と強さ)に基づき、以下の4種類に分類される。

強力粉:タンパク質含有量11.5〜13.5%。グルテンの量が最も多く、強靭で弾力性に富む。主にパン、中華麺、マカロニなどに用いられる。硬質小麦から製造される。

準強力粉:タンパク質含有量10.5〜12.0%。グルテンの量が多く、強い弾力を持つ。パンや中華麺に用いられる。

中力粉:タンパク質含有量8.0〜10.5%。グルテンはやや軟らかい。うどん、乾麺、一部の菓子に用いられる。

薄力粉:タンパク質含有量6.5〜9.0%。グルテンの量が最も少なく、弱い。ケーキ、クッキー、カステラ、天ぷらなどに用いられる。軟質小麦から製造される。製菓においては、グルテンの少ない薄力粉が最も多く使用される。

タンパク質含有量の多い順に並べると、強力粉>準強力粉>中力粉>薄力粉となる。

3-2. 等級による分類

小麦の胚乳は、中心部ほど白く純粋なでんぷんとタンパク質で構成され、外側に行くほど灰分(ミネラル)が増え、外皮(ふすま)の混入が多くなる。小麦粉の等級は、灰分含有量の少ない(=色沢の良い)順に以下のように分類される。

特等粉:灰分が最も少なく、色沢が最も良い。最も胚乳の中心部に近い部分。

1等粉:灰分0.3〜0.4%。一般的に流通する小麦粉の大部分がこの等級。

2等粉:灰分0.5%前後。

3等粉:灰分1.0%前後。

末粉:灰分2〜3%。外皮に最も近い部分であり、色沢が悪い。グルテンやでんぷんの工業的な抽出原料、合板の接着剤、飼料などに使われ、食用には適さない。

等級が高い(灰分が少ない)ほど、色が白く、風味がクリーンで、菓子やパンの仕上がりが良くなる。

4. グルテンの形成と特性

4-1. グルテンとは

グルテンは、小麦粉特有のタンパク質の網目構造である。最も重要な点は、グルテンは小麦粉の中に最初から存在しているものではないということである。

小麦粉にはグルテニンとグリアジンという2種類のタンパク質が含まれている。これらは乾燥した粉の状態では別々に存在しているが、水を加えて練り合わせることで互いに結合し、「グルテン」という網目状の構造を形成する。

グルテニン:ゴムのような強いコシを持つ性質(弾力性)を担う。生地を引っ張ると元に戻ろうとする力を生み出す。

グリアジン:流動性のあるネバネバした性質(粘着性・伸展性)を担う。生地を引っ張ると伸びる力を生み出す。

この2つが組み合わさることで、グルテンは「弾力がありながらよく伸びる」という独特の粘弾性を持つ。しっかりと形成されたグルテンは膜状に伸展し、発酵や加熱で発生した気体(炭酸ガスや水蒸気)を包み込んで保持することができる。パン生地が大きく膨張するのは、グルテンの網目構造がガスを閉じ込めるためである。

小麦粉生地の構造を顕微鏡で観察すると、グルテンの網目の中に丸いでんぷん粒が埋め込まれた構造をしている。

4-2. グルテンの量と菓子の関係

グルテンの量と強さは、菓子の食感を根本的に左右する。

パン(強力粉使用):グルテンが多く強靭 → ふわふわで弾力のある食感。気体を保持して大きく膨らむ。

スポンジケーキ・カステラ(薄力粉使用):グルテンが少なく弱い → 軽くやわらかい食感。過度なグルテン形成は生地を硬くする。

クッキー・パイ(薄力粉+バター):グルテンがバターによって抑制される → サクサクともろい食感(ショートネス)。

4-3. グルテンの特性に影響する因子

グルテンの形成や性質は、配合する材料によって促進されたり抑制されたりする。この制御が製菓技術の核心の一つである。

グルテンの粘弾性を強める因子

ビタミンC(アスコルビン酸):グルテンの形成を促進し、生地の粘弾性を強くする。パン生地の改良剤として使用される。

食塩(塩化ナトリウム):グルテンのコシ(弾力性)を強くする。パンに食塩を加えるのは味付けだけでなく、グルテンを引き締める目的もある。

グルテンを軟らかく、伸びをよくする因子

食酢・アルコール類:酸やアルコールがグルテンを軟らかくし、伸展性を向上させる。シュトゥルーデル(薄く伸ばす生地)などに酢を加えるのはこのためである。

サラダ油(液状油):グルテン分子間の滑りをよくし、生地をなめらかにする。

グルテンのコシを弱め、もろくする因子(ショートニング性)

バター・マーガリン・ショートニング:固形油脂は生地中で薄い膜状に広がり、グルテンの網目形成を物理的に遮断・抑制する。これにより、焼き上がりがサクサクともろい食感(ショートネス)になる。パイやクッキーにバターを多く配合するのはこの原理による。

グルテンの形成を抑制する因子

砂糖:砂糖はグルテンの形成を抑制し、生地を軟らかくする。砂糖を多く配合する菓子生地がやわらかく仕上がるのはこのためである。

5. 小麦粉の製菓における扱い方の原則

5-1. 薄力粉が製菓の基本である理由

洋菓子(スポンジ、バターケーキ、クッキー、シュー生地など)および多くの和菓子(饅頭、カステラなど)では、薄力粉が使用される。これは、製菓においてはグルテンの過度な形成を避けることが基本であるためである。グルテンが多く形成されすぎると、生地が硬く引き締まり、口当たりの悪い製品になる。

5-2. 混ぜ方の原則:「さっくり混ぜる」

薄力粉を加えた後の混合は、必要最小限にとどめる。これは「さっくり混ぜる」「切るように混ぜる」と表現される。練るように長時間混ぜるとグルテンが過度に形成され、スポンジは膨らみにくくなり、クッキーは硬くなる。

ただし、パン生地や中華麺のように、意図的にグルテンを十分に形成させる必要がある製品もある。和菓子の「ちゃぶくさ」は、逆ごね法によりグルテンをしっかり出す珍しい例である。

5-3. ふるいにかける意味

小麦粉を使用前にふるいにかける目的は、①ダマ(固まり)をほぐす、②空気を含ませて生地となじみやすくする、③異物を取り除く、の3つである。

6. 小麦粉以外の穀物粉と製菓

小麦は、穀物の中で唯一グルテンを形成できる穀物である。以下の穀物はグルテンを形成しない。

ライ麦:小麦に近い穀物だが、単独ではグルテンを形成しない。ライ麦パン(プンパニッケル等)は、小麦粉を混合するか、サワー種の酸でライ麦のペントザン(粘性物質)を利用して膨らませる。

大麦:グルテンを形成しない。水溶性食物繊維(β-グルカン)が豊富。麦芽(モルト)はビールの原料。

トウモロコシ:タンパク質「ツェイン」はグルテンを形成しない。コーンスターチ(でんぷん)として製菓に利用される。

ソバ:タデ科の植物(イネ科ではない)。グルテンを形成できないため、麺にする場合はつなぎ(小麦粉や卵)が必要。必須アミノ酸が豊富でルチンを含む。

えん麦(オーツ):オートミールの原料。食物繊維、タンパク質、脂質が穀類の中では比較的豊富。グルテンを形成しない。

7. 小麦でんぷん(浮き粉)

小麦粉からグルテンを洗い流して取り出したでんぷんを「浮き粉(じん粉)」と呼ぶ。小麦でんぷん粒は凸レンズ形で、粒径は5〜40μm。アミロース含量は約30%、アミロペクチン含量は約70%。糊化温度は87.3℃と穀物でんぷんの中ではやや高い。

浮き粉はグルテンを含まないため、加熱すると透明感のある仕上がりになる。和菓子の明石焼き、広東料理の点心(蝦餃の皮)などに用いられる。

試験対策:よくある間違いポイント

試験でよく出る「ひっかけ」の文です。正しいか間違いか、選んでから答えを確かめてください。

Q1小麦粉の主成分はタンパク質

正しくは:主成分は「炭水化物(でんぷん)」で約70〜75%。タンパク質は7〜14%。

Q2小麦粉はタンパク質含有量が少ない順に強力粉・中力粉・薄力粉と分類される

正しくは:タンパク質が「多い順」に強力粉>準強力粉>中力粉>薄力粉。

Q3カステラには強力粉が適している

正しくは:カステラには「薄力粉」が適している。グルテンが少ない方が軽くふんわり仕上がる。

Q4グルテンは小麦粉に最初から含まれている

正しくは:グルテンは小麦粉に「水を加えて練る」ことで初めて形成される。グルテニンとグリアジンが結合して生じる。

Q5小麦粉に含まれるグルテンは炭水化物

正しくは:グルテンは「タンパク質」である。

Q6小麦粉は小麦粒の胚芽を集めたもの

正しくは:小麦粉は「胚乳」部分を製粉したもの。胚芽は全体の約2%で、通常は除去される。

Q7小麦粉のタンパク質は全体の40%を占める

正しくは:タンパク質は約7〜14%。全体の40%ではない。

Q8バターはグルテンの形成を促進する

正しくは:バターはグルテン形成を「抑制」する。薄い膜状に広がりグルテンの網目形成を遮断する。これがサクサクした食感(ショートネス)を生む。

Q9ライ麦は小麦のようなグルテンを形成する

正しくは:ライ麦は単独ではグルテンを形成しない。

Q10オートミールの原料は大麦

正しくは:オートミールの原料は「えん麦(オーツ麦)」。
結果:

まとめ

小麦粉は菓子の骨格を形成する最重要原材料であり、その特性はタンパク質(グルテニンとグリアジン)の含有量と、水を加えて練ることで形成されるグルテンの量・強さによって決定される。強力粉から薄力粉へとタンパク質含有量が減るにつれ、グルテンは少なく弱くなり、より軽くもろい食感の菓子に適する。製菓においてはグルテンの過度な形成を避けるために薄力粉を使用し、「さっくり混ぜる」ことが基本原則となる。一方で、ビタミンC・食塩はグルテンを強化し、バター・砂糖はグルテンを抑制するなど、副材料によるグルテンの制御は菓子の仕上がりを根本的に左右する。小麦粉の性質を正しく理解し、目的に応じて種類と扱い方を選択することが、すべての菓子製造の出発点である。