栄養学 第三部 食生活と健康のはなし
ライフステージと栄養
はじめに
人は、母親のおなかの中で育ち、生まれ、成長し、大人になり、やがて年を重ねていく。この一生の流れを、いくつかの時期に分けたものをライフステージという。
体の大きさ、成長の速さ、消化のはたらき、かむ力、必要な栄養素の量は、ライフステージによって大きく変わる。赤ちゃんに大人と同じ食事は与えられないし、高齢者に成長期の子どもと同じ量は必要ない。それぞれの時期の体の特徴を知り、それに合った食事をとることが、一生を健やかに過ごすための基本である。
本章では、妊娠期・授乳期・乳児期・幼児期・学童期・思春期・成人期・高齢期のそれぞれについて、体の特徴、栄養で気をつけること、食事摂取基準(2025年版)の要点を整理する。菓子は、子どもから高齢者まで、あらゆる年代の人が口にするものである。それぞれの年代に合った菓子のあり方も、あわせて考えていこう。
1. 妊娠期
1-1. 体の特徴
妊娠期は、母親の体と、おなかの中の赤ちゃん(胎児)の両方を育てる時期である。食事摂取基準では、妊娠期を次の3つに分けている。
| 時期 | 期間 |
|---|---|
| 初期 | 妊娠13週6日まで |
| 中期 | 妊娠14週0日〜27週6日 |
| 後期 | 妊娠28週0日以降 |
- 妊娠すると、胎児・胎盤・羊水のほか、母親の血液や子宮、乳房なども増え、体重が増える
- 血液の量が増えるため、貧血になりやすい
- 初期には、吐き気や食欲の変化(つわり)が起こることが多い
- 後期には、大きくなった子宮が胃や腸を圧迫し、一度に食べられる量が減ったり、便秘になったりしやすい
1-2. 体重の増え方の目安
妊娠中の体重は、増えすぎても、増えなさすぎてもよくない。日本産科婦人科学会は、妊娠前の体格に応じて、次のような目安を示している。
| 妊娠前のBMI | 体重増加量の目安 |
|---|---|
| 18.5未満(低体重) | 12〜15kg |
| 18.5以上25未満(普通体重) | 10〜13kg |
| 25以上30未満(肥満1度) | 7〜10kg |
| 30以上(肥満2度以上) | 個別に対応(上限5kgまでが目安) |
妊娠中の体重の増加が少なすぎると、低出生体重児(出生時の体重が2,500g未満の赤ちゃん)が生まれるリスクが高まる。低出生体重児は、将来、生活習慣病になりやすいことが知られている。若い女性のやせが問題になるのは、このためでもある(第10章参照)。
1-3. 付加量(食事摂取基準2025年版)
妊婦は、ふだんの量に、次の量を付け加えてとる。
| 栄養素 | 初期 | 中期 | 後期 |
|---|---|---|---|
| エネルギー(kcal/日) | +50 | +250 | +450 |
| たんぱく質(推奨量、g/日) | +0 | +5 | +25 |
| 鉄(推奨量、mg/日) | +2.5 | +8.5 | +8.5 |
| 葉酸(推奨量、μg/日) | ― | +240 | +240 |
1-4. 特に気をつける栄養素と食品
葉酸
胎児の脳や脊髄のもとになる神経管は、妊娠のごく初期(妊娠に気づく前)につくられる。葉酸が不足すると、神経管閉鎖障害(二分脊椎など)のリスクが高まる。そのため、妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性、妊娠初期の女性は、ふだんの食事に加えて、サプリメントや栄養素を強化した食品から1日400μgの葉酸をとることが望まれる(第5章参照)。
ビタミンA
妊娠初期に、レバーやうなぎ、サプリメントなどからビタミンA(レチノール)をとりすぎると、胎児に奇形が起こるおそれがある。緑黄色野菜のβ-カロテンは、必要な分だけビタミンAに変わるため心配はない。
鉄
血液の量が増え、胎児も鉄をたくわえるため、中期・後期には鉄の必要量が大きく増える。ヘム鉄やビタミンCを意識してとる。
避けるべきもの・控えるもの
| 対象 | 理由 |
|---|---|
| アルコール | 胎児の発育や脳に障害を与えるおそれがある(胎児性アルコール・スペクトラム障害)。妊娠中は飲まない |
| 喫煙 | 低出生体重児、早産などの原因になる |
| カフェイン | とりすぎに注意する(コーヒー・紅茶・緑茶・エナジードリンクなど) |
| 一部の魚(キンメダイ、メカジキ、クロマグロなど) | 食物連鎖で水銀がたまりやすいため、食べる量と回数に注意する。ツナ缶など一般的な魚は、ふつうに食べてよい |
| 加熱殺菌していないナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモン | リステリア菌に感染するおそれがある。妊婦は感染しやすく、胎児に影響することがある |
| 生肉、加熱不十分な肉 | トキソプラズマに感染するおそれがある |
1-5. 妊娠中に起こりやすい病気
| 病気 | 内容 |
|---|---|
| 妊娠高血圧症候群 | 妊娠中に高血圧になる。母子ともに危険な状態になることがある |
| 妊娠糖尿病 | 妊娠中にはじめて見つかる血糖値の異常(第10章参照) |
| 鉄欠乏性貧血 | 血液の量が増えるため起こりやすい |
2. 授乳期
2-1. 体の特徴と付加量
出産後、母親は母乳をつくるために多くのエネルギーと栄養素を使う。
| 栄養素 | 授乳婦の付加量(食事摂取基準2025年版) |
|---|---|
| エネルギー | +350kcal/日 |
| たんぱく質(推奨量) | +20g/日 |
2-2. 母乳
| 種類 | 時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 初乳 | 出産後、数日間 | 黄色っぽく、とろりとしている。免疫物質(分泌型IgA、ラクトフェリン)やたんぱく質を多く含み、赤ちゃんを感染症から守る |
| 移行乳 | 初乳から成乳へ変わる時期 | ― |
| 成乳 | 出産後、約10日以降 | 白く、さらりとしている。乳糖・脂質が多く、エネルギーが高い |
母乳で育てる利点
- 赤ちゃんに必要な栄養素が、消化・吸収されやすい形で含まれている
- 免疫物質を含み、感染症にかかりにくくする
- 赤ちゃんの将来の肥満や2型糖尿病のリスクを下げるとされる
- 母子のふれあいを深める
- 母親の子宮の回復を早める
母乳が出にくいなどの理由で母乳で育てられない場合は、育児用ミルク(乳児用調製粉乳、乳児用調製液状乳=液体ミルク)を使う。育児用ミルクは、母乳の成分に近づけてつくられた特別用途食品である(衛生法規の健康増進法の章を参照)。
授乳中に気をつけること
アルコールやカフェイン、一部の薬は、母乳に移行する。授乳中の飲酒は控え、薬は医師に相談する。
3. 乳児期(0〜1歳)
3-1. 体の特徴
乳児期は、一生のうちで最も成長が速い時期である。
| 項目 | 成長の目安 |
|---|---|
| 体重 | 生まれたときの約3kgが、生後3か月で約2倍、1歳で約3倍 |
| 身長 | 生まれたときの約50cmが、1歳で約1.5倍 |
- 体重1kgあたりのエネルギーや栄養素の必要量は、大人よりはるかに多い
- 体の水分の割合が高く(約70〜80%)、体重あたりの水分の出入りも多いため、脱水になりやすい(第6章参照)
- 消化のはたらきや、腎臓のはたらき、腸内細菌がまだ十分に育っていない
3-2. 離乳
離乳とは、母乳や育児用ミルクだけの栄養から、幼児食に移っていく過程をいう。厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」では、次のような目安を示している。
| 時期 | 月齢の目安 | 食べ方の目安 | 食べものの固さ |
|---|---|---|---|
| 離乳初期 | 生後5〜6か月頃 | 1日1回、なめらかにすりつぶした状態のものを1さじずつ | ポタージュくらい |
| 離乳中期 | 7〜8か月頃 | 1日2回 | 舌でつぶせる固さ(豆腐くらい) |
| 離乳後期 | 9〜11か月頃 | 1日3回 | 歯ぐきでつぶせる固さ(バナナくらい) |
| 離乳完了期 | 12〜18か月頃 | 1日3回+間食1〜2回 | 歯ぐきでかめる固さ(肉だんごくらい) |
離乳で気をつけること
- はちみつは、1歳になるまで与えない(本章3-3参照)
- 卵は、離乳初期から、固ゆでにした卵黄を少量ずつ与え始めることができる。食物アレルギーを心配して与えるのを遅らせても、アレルギーを予防できるという根拠はない
- 母乳で育てている場合は、生後6か月頃から鉄が不足しやすい。離乳食で、赤身の魚や肉、レバーなどの鉄を含む食品をとり入れる
- 牛乳を飲みものとして与えるのは、1歳を過ぎてからにする(鉄不足を防ぐため)。料理に使うのは離乳中期からでよい
- 果汁を早くから与える必要はない。ガイドでは、果汁の栄養学的な意味は認められていないとされている
- イオン飲料は基本的に必要ない。多くとりすぎてビタミンB1が不足した例が報告されている
- 薄味にし、塩分・糖分の多いものは控える
3-3. はちみつと乳児ボツリヌス症
はちみつには、ボツリヌス菌の芽胞(菌が休眠状態になった、熱や乾燥に非常に強い形)が含まれていることがある。
- 大人は、腸内細菌がしっかり育っているため、芽胞を食べても、腸の中で菌が増えることはない
- しかし、1歳未満の乳児は、腸内細菌が十分に育っていないため、腸の中で芽胞が発芽して菌が増え、毒素をつくることがある。これを乳児ボツリヌス症という。便秘、元気がない、泣き声が弱い、ミルクの飲みが悪いなどの症状から、呼吸ができなくなることもある
- ボツリヌス菌の芽胞は、ふつうの加熱では死なない。そのため、はちみつを使って焼いた菓子や、はちみつ入りの飲みもの・加工食品も、1歳未満の乳児には与えてはならない
4. 幼児期(1〜5歳)
4-1. 体の特徴
- 乳児期ほどではないが、成長は続いており、体重1kgあたりのエネルギーや栄養素の必要量は大人より多い
- 一方で、胃が小さく、消化のはたらきもまだ未熟なため、一度にたくさん食べられない
- かむ力、飲み込む力が、少しずつ育っていく時期である
- 味覚や食習慣の基礎がつくられ、好き嫌い、遊び食い、食べむらが出やすい
4-2. 間食(おやつ)の役割
幼児にとって、間食は「4回目・5回目の食事」であり、3回の食事だけでは足りないエネルギーや栄養素を補う大切な役割がある。
| 項目 | 目安・ポイント |
|---|---|
| 量 | 1日のエネルギーの10〜20%程度 |
| 回数 | 1〜2歳は1日2回(午前と午後)、3〜5歳は1日1回(午後)が目安 |
| 時間 | 時間を決めて与える。だらだら食べさせない(むし歯の予防にもなる。第10章参照) |
| 内容 | いも、果物、乳製品(牛乳・ヨーグルト・チーズ)、おにぎり、パンなど、食事で不足しがちなものを中心に。甘い菓子や清涼飲料は、量を決めて楽しむ |
間食は、栄養を補うだけでなく、楽しみや気分転換、家族や友だちとのふれあいの時間でもある。
4-3. 窒息と誤えんに注意する
幼児は、奥歯が生えそろっておらず、かむ力・飲み込む力が未熟なため、食べものがのどに詰まる窒息の事故が起こりやすい。
| 食品 | 注意 |
|---|---|
| 豆やナッツ類(ピーナッツ、アーモンドなど) | 硬くてかみ砕く必要がある豆やナッツ類は、5歳以下の子どもには食べさせない(消費者庁の注意喚起)。気管に入ると、肺炎などを起こすことがある |
| ミニトマト、ぶどう | 丸いまま与えない。4等分するなど、小さく切る |
| もち、白玉団子 | 小さく切り、よくかんで食べるよう見守る |
| こんにゃく入りゼリー | 吸い込むように食べると、のどに詰まりやすい |
| あめ、ラムネ、丸い形の菓子 | 走りながら、寝転びながら食べさせない |
食べるときは、座って、少量ずつ、よくかんで食べるよう見守ることが大切である。
4-4. 食物アレルギー
食物アレルギーは、乳幼児に多い(第10章参照)。原因として多いのは、鶏卵、牛乳、小麦であり、近年は木の実類(くるみ、カシューナッツなど)も増えている。成長とともに食べられるようになることも多いが、自己判断で除去したり、食べさせたりせず、医師の指示に従う。
5. 学童期(6〜11歳)
5-1. 体の特徴と栄養
- 身長・体重がゆるやかに増え続ける。高学年になると、思春期の急な成長が始まる子どももいる(女子のほうが早い)
- 運動量が増え、エネルギーの必要量も増える
5-2. 学童期の食生活の課題
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 朝食の欠食 | 朝食を食べないと、午前中の集中力や体力が落ちる。生活リズムの乱れにもつながる |
| 孤食・個食 | 一人で食べる(孤食)、家族がばらばらのものを食べる(個食)ことが増えている。家族で食卓を囲む共食は、食の楽しさや食習慣を身につける大切な機会である |
| 肥満とやせ | 間食・清涼飲料のとりすぎ、運動不足による肥満。一方で、やせ願望による極端な食事制限も見られる |
| 生活習慣病の芽 | 子どものころの食習慣は大人になっても続きやすい |
5-3. 学校給食
学校給食は、学校給食法にもとづいて実施され、文部科学省の「学校給食摂取基準」にそって献立が立てられている。成長期に必要な栄養をとるとともに、食に関する正しい知識や、望ましい食習慣を身につけるための「生きた教材」とされている。家庭で不足しがちなカルシウムなどを補う役割も大きい。
6. 思春期(おおむね12〜17歳)
6-1. 体の特徴
- 身長・体重が急に増える成長のスパートの時期である。女子は男子より2年ほど早く始まる
- 骨・筋肉・血液が急速に増え、性ホルモンのはたらきで、体つきが大人に近づく
- 女子は月経が始まり、鉄を失うようになる
6-2. 特に必要な栄養素
| 栄養素 | 理由 |
|---|---|
| エネルギー、たんぱく質 | 急速な成長のため。エネルギーの必要量は、男子では15〜17歳で一生の中で最も多くなる |
| カルシウム | 骨が急速に成長し、骨量を増やす最も大切な時期。カルシウムの推奨量は、12〜14歳の男子で1,000mg/日と、一生のうちで最も多い(第6章参照) |
| 鉄 | 血液が増え、女子は月経でも鉄を失うため、鉄欠乏性貧血になりやすい |
6-3. 思春期の食生活の課題
- 朝食の欠食、夜食、コンビニや外食の増加、清涼飲料のとりすぎ
- 特に女子に見られる、やせ願望による無理なダイエット。骨量が増えず、将来の骨粗鬆症の原因になる
- 摂食障害:極端に食べる量を減らしてやせていく神経性やせ症(拒食症)や、大量に食べては吐くなどをくり返す神経性過食症(過食症)がある。心の問題が深くかかわるため、早めに専門の医療機関に相談することが大切である
7. 成人期(18〜64歳)
7-1. 体の特徴
- 体の成長は止まり、20歳代を過ぎると、体の機能は少しずつ低下していく
- 基礎代謝も少しずつ下がる。若いころと同じように食べ、運動量が減ると、太りやすくなる
7-2. 成人期の課題
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 生活習慣病 | 肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、脂質異常症などが増え始める(第10章参照)。40歳からは特定健康診査を受ける |
| 仕事中心の生活 | 不規則な食事時間、外食・中食の増加、飲酒、運動不足、睡眠不足、ストレス |
| 更年期(女性) | 閉経(平均50歳前後)の前後の時期。女性ホルモン(エストロゲン)が急に減り、ほてり・発汗・気分の落ち込みなどの症状のほか、骨粗鬆症や脂質異常症になりやすくなる(第9章参照) |
8. 高齢期(65歳以上)
8-1. 体の特徴
| 変化 | 内容 |
|---|---|
| 筋肉・骨 | 筋肉量・骨量が減る |
| 消化・吸収 | 胃液などの消化液が減り、消化・吸収のはたらきが落ちる |
| かむ・飲み込む | 歯が減ったり入れ歯になったりしてかむ力が落ちる。飲み込む力(嚥下の機能)も落ちる |
| 感覚 | 味覚・嗅覚が鈍くなり、味の濃いものを好むようになる。のどの渇きを感じにくくなる |
| 体の水分 | 体の水分の割合が約50%に減る |
| 生活 | 一人暮らしの増加、食事づくりの負担、食欲の低下、薬の影響 |
食事摂取基準では、高齢者を65〜74歳と75歳以上に分けて基準を示している。
8-2. フレイルとサルコペニア
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| フレイル | 年をとるとともに心身の活力(筋力・認知機能・社会とのつながりなど)が低下し、健康な状態と要介護の状態の中間にある状態。適切な栄養・運動・社会参加によって、健康な状態に戻ることができる |
| サルコペニア | 年をとるとともに、筋肉量が減り、筋力や身体機能が低下した状態 |
| ロコモティブシンドローム | 骨・関節・筋肉などの運動器の障害で、立つ・歩くなどの移動のはたらきが低下した状態 |
フレイルは、次の5つのうち3つ以上にあてはまる場合とされることが多い(2つまでは「プレフレイル」)。
- 体重が減った(意図しない体重の減少)
- 疲れやすくなった
- 歩く速さが遅くなった
- 握力が弱くなった
- 体を動かすことが減った
8-3. 低栄養を防ぐ
高齢期の栄養で最も大切なのは、食べすぎよりも、食べなさすぎ(低栄養)を防ぐことである。低栄養になると、筋肉が減り、フレイル・サルコペニアが進み、転倒・骨折・感染症・寝たきりにつながる。
食事摂取基準(2025年版)のポイント
食事のポイント
- 肉・魚・卵・大豆製品・乳製品など、たんぱく質を毎食とる
- 主食・主菜・副菜をそろえ、いろいろな食品を食べる
- 骨を守るため、カルシウム・ビタミンDをとり、日光を浴びる
- のどが渇いていなくても、こまめに水分をとる(脱水の予防。第6章参照)
- かむ力や飲み込む力に合わせて、料理の固さや形を工夫する
- 家族や友人と一緒に食べる(共食)。食べる楽しみが、食欲と生きる力を支える
8-4. かむこと・飲み込むことへの配慮
飲み込む力が落ちると、食べものや飲みものが、食道ではなく気管に入る誤えんが起こりやすくなる。誤えんは、誤えん性肺炎の原因になる。
| 食べにくいもの | 食べやすくする工夫 |
|---|---|
| ぱさぱさしたもの(パン、カステラ、ゆで卵の黄身) | 水分を含ませる、ソースやあんをかける |
| 水やお茶など、さらさらした液体 | とろみをつける |
| 硬いもの、繊維の多いもの | やわらかく煮る、細かく刻む、すりつぶす |
| ばらばらになりやすいもの(ひき肉、刻み野菜) | あんでまとめる、ゼラチンや寒天で固める |
| 口の中にはりつくもの(もち、のり) | 避ける、小さく切る |
飲み込みにくい人のための食品は、えん下困難者用食品として、特別用途食品の一つにも位置づけられている(衛生法規の健康増進法の章を参照)。
9. 製菓とのつながり
9-1. ライフステージごとの菓子づくりの注意
| 時期 | 菓子づくりで気をつけること |
|---|---|
| 妊娠期 | 洋酒を使った菓子(ラムレーズン、サバラン、洋酒入りのケーキ)に注意。加熱殺菌していないナチュラルチーズを使った菓子にも注意 |
| 乳児期 | はちみつを使った菓子は、加熱したものでも1歳未満には与えない。表示や販売のときに説明できるようにする |
| 幼児期 | 硬いナッツや豆、丸く小さな菓子、硬いあめは、窒息の危険がある。アレルゲンの表示を正確に |
| 学童期・思春期 | おやつの量と時間。甘い飲みものと菓子の組み合わせによる、砂糖のとりすぎ |
| 成人期 | 生活習慣病を意識した、量や甘さの選択肢 |
| 高齢期 | やわらかく、しっとりしていて、飲み込みやすい菓子が喜ばれる。ムース、プリン、ゼリー、水ようかん、よく蒸した蒸し菓子など。ぱさぱさした焼き菓子は、飲みものと一緒に |
9-2. 一生に寄り添う菓子
誕生日のケーキ、子どものおやつ、学生時代に友だちと食べたドーナツ、大切な人への贈りもの、そしてお年寄りの楽しみのお茶菓子。菓子は、人の一生のさまざまな場面に寄り添っている。食べる人のライフステージを思い浮かべて、安全で、その人に合った菓子をつくることは、菓子をつくる人にとって大切な心づかいである。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1牛乳は、生後6か月から飲みものとして与えるのがよい
Q2食物アレルギーを防ぐため、卵は1歳を過ぎてから与え始める
Q3妊娠初期には、ビタミンAを多くとるほど胎児の発育によい
Q4妊娠後期のたんぱく質の付加量(推奨量)は、+25g/日である
Q5妊娠中は、すべての魚を食べてはいけない
Q6水やお茶などのさらさらした液体は、高齢者にとって最も飲み込みやすい
Q7学校給食は、食に関する指導の生きた教材とされている
Q8妊娠中期のエネルギーの付加量は、+450kcal/日である
Q9離乳の開始は、生後3か月頃が目安である
Q10フレイルとは、要介護の状態のことであり、元に戻ることはない
Q11思春期の女子は、鉄が不足することはない
Q12乳児の体重は、1歳で生まれたときの約2倍になる
Q13閉経後の女性は、骨粗鬆症や脂質異常症になりやすい
Q14ピーナッツは、3歳を過ぎれば安全に食べさせてよい
Q15高齢者は、のどの渇きを感じやすいため、脱水になりにくい
Q16サルコペニアとは、骨量が減って骨折しやすくなった状態である
Q17母乳で育てている場合、生後6か月頃から鉄が不足しやすい
Q18はちみつは、加熱すれば1歳未満の乳児に与えてもよい
Q19高齢者のフレイルの予防には、十分なたんぱく質と運動が大切である
Q20葉酸のサプリメントは、妊娠がわかってから飲み始めればよい
Q21ミニトマトやぶどうは、幼児に与えるときは小さく切る
Q22離乳の完了は、生後9か月頃である
Q23食事摂取基準(2025年版)では、65歳以上の目標とするBMIは21.5〜24.9である
Q241歳未満の乳児にはちみつを与えると、乳児ボツリヌス症になるおそれがある
Q25幼児の体重1kgあたりのエネルギーの必要量は、大人より多い
Q26妊婦は、加熱殺菌していないナチュラルチーズや生ハムによるリステリア菌の感染に注意する
Q27乳児には、離乳開始前から果汁を与える必要がある
Q28幼児の間食は、1日のエネルギーの40%程度が目安である
Q29高齢者の栄養では、食べすぎを防ぐことが最も大切である
Q30初乳は、成乳に比べて免疫物質が少ない
Q31幼児の間食は、栄養的な意味はなく、楽しみのためだけのものである
Q32授乳婦のエネルギーの付加量は、+50kcal/日である
Q33カルシウムの推奨量が一生で最も多いのは、高齢期である
Q34妊娠中の体重の増加が少なすぎると、低出生体重児が生まれるリスクが高まる
まとめ
- 妊娠期(初期〜13週6日/中期〜27週6日/後期28週〜):付加量はエネルギー初期+50・中期+250・後期+450kcal、たんぱく質中期+5・後期+25g、葉酸中・後期+240μg。妊娠を計画した時点から葉酸400μg(サプリなど)。初期のビタミンAのとりすぎ、アルコール、一部の魚の水銀、リステリア菌(非加熱のナチュラルチーズ・生ハム)に注意。体重が増えなさすぎると低出生体重児のリスク
- 授乳期:エネルギー+350kcal、たんぱく質+20g。初乳は免疫物質(分泌型IgA・ラクトフェリン)が多い
- 乳児期:一生で最も成長が速い(体重は3か月で2倍、1歳で3倍)。離乳の開始は5〜6か月、完了は12〜18か月。卵は離乳初期から、牛乳を飲みものにするのは1歳から、果汁は不要。はちみつは1歳まで与えない(乳児ボツリヌス症。加熱した菓子も不可)。母乳育児では6か月頃から鉄に注意
- 幼児期:体重あたりの必要量は大人より多いが胃が小さい。間食は食事の一部で、1日のエネルギーの10〜20%、時間を決めて。硬い豆・ナッツは5歳以下に与えない、ミニトマト・ぶどうは小さく切る
- 学童期:朝食の欠食、孤食・個食、肥満とやせ。家族で食べる共食、学校給食は生きた教材
- 思春期:成長のスパート(女子が早い)。カルシウム(推奨量は12〜14歳男子の1,000mgが最大)と鉄(女子の月経)。無理なダイエットと摂食障害に注意
- 成人期:生活習慣病の予防。女性は更年期以降、骨粗鬆症・脂質異常症になりやすい
- 高齢期:フレイル(健康と要介護の中間、戻れる)、サルコペニア(筋肉量の減少)。低栄養の予防が最重要。たんぱく質15〜20%エネルギー、目標BMI21.5〜24.9。脱水、誤えん(さらさらの液体にはとろみ)に注意。共食が食欲を支える
※ 本書は「日本人の食事摂取基準(2025年版)」「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」と令和8年(2026年)9月時点の情報にもとづいています。

