食品学 第3章:食品の成分

第3章

食品学 第一部 食品の成分のはなし

食品の成分

はじめに

前章では、すべての食品に含まれる「水」を学んだ。本章では、水以外の主な成分である炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルを取り上げる。

これらは栄養学でも学ぶ成分であるが、見る角度が異なる。栄養学は「食べたあと、体の中でどう働くか」を問う。食品学は「食品の中でどのような形で存在し、加熱・冷却・撹拌・保存によってどう変わるか」を問う。たとえば同じでんぷんでも、栄養学では「エネルギー源となる糖質」であり、食品学では「水と熱で糊化し、冷えると老化してかたくなる物質」である。菓子づくりに直接かかわるのは、主に後者の性質である。

本章では、各成分の種類と構造、食品の中での性質を順に整理し、最後に、成分どうしが集まってつくる「食品の状態」(乳化・ゲル・泡など)を学ぶ。栄養素の体内での働き、欠乏症、食事摂取基準は、栄養学の本で扱う。

1. 一般成分

日本食品標準成分表では、食品の基本的な成分として、水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分の5つを測定している。これらを一般成分という。

一般成分内容
水分食品中の水(第2章)
たんぱく質アミノ酸が結合した高分子
脂質有機溶媒に溶ける成分の総称。大部分は中性脂肪
炭水化物糖質と食物繊維
灰分食品を高温で焼いたあとに残る灰の量。ミネラル(無機質)の量の目安になる

一般成分のうち、エネルギー源となるのは、炭水化物、たんぱく質、脂質の3つである(第1章参照)。

2. 炭水化物

2-1. 炭水化物の分類

炭水化物は、炭素・水素・酸素からなる化合物で、糖質と食物繊維に分けられる。

炭水化物 = 糖質 + 食物繊維

糖質 = 炭水化物から食物繊維を除いたもの

糖質は人の消化酵素で消化されてエネルギー源になり、食物繊維は人の消化酵素では消化されない。

炭水化物は、構成する糖の数によって、次のように分類される。

分類糖の数主なもの
単糖類1個(それ以上分解されない)ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース
二糖類2個ショ糖(スクロース)、麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)、トレハロース
少糖類(オリゴ糖)2〜10個程度ラフィノース、スタキオース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖
多糖類多数でんぷん、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、グルコマンナン、寒天

二糖類はオリゴ糖に含めて考えることもある。

2-2. 単糖類

単糖特徴多く含む食品
ブドウ糖(グルコース)生物の主要なエネルギー源。でんぷん・グリコーゲン・セルロースの構成単位ぶどう、果実、はちみつ、水あめ
果糖(フルクトース)糖の中で最も甘い。冷やすと甘味の強い型(β型)が増え、温度が低いほど甘い果実、はちみつ
ガラクトース単独ではほとんど存在しない。乳糖の構成成分(乳糖として牛乳に)

果物を冷やすと甘く感じるのは、果糖の性質による。

2-3. 二糖類

二糖構成還元性特徴・食品
ショ糖(スクロース)ブドウ糖+果糖なし(非還元糖)砂糖の主成分。さとうきび、てん菜
麦芽糖(マルトース)ブドウ糖+ブドウ糖ありでんぷんの分解物。水あめ、麦芽
乳糖(ラクトース)ガラクトース+ブドウ糖あり牛乳・母乳。甘味は弱い
トレハロースブドウ糖+ブドウ糖なし(非還元糖)きのこ・酵母に含まれる。でんぷんの老化を抑え、保水性が高い

還元糖とは、他の物質に電子を与える(還元する)性質を持つ糖である。すべての単糖類と、麦芽糖・乳糖は還元糖である。ショ糖とトレハロースは還元性を持たない。還元糖はアミノ酸と反応して褐色になる(メイラード反応、第5章参照)ため、還元糖が多い材料ほど焼き色がつきやすい。

2-4. 転化糖

ショ糖を、酸または酵素(インベルターゼ)で分解すると、ブドウ糖と果糖が等量ずつ混ざったものができる。これを転化糖という。転化糖は、ショ糖よりも甘味が強く、還元糖であるため焼き色がつきやすく、吸湿性が高い。はちみつの糖は、ほとんどがブドウ糖と果糖であり、転化糖に近い組成をしている。

2-5. 糖の甘味度

ショ糖の甘さを1としたときの、主な糖の甘さの目安を示す。

糖甘味度(ショ糖=1)
果糖約1.2〜1.7(低温ほど甘い)
転化糖約1.2前後
ショ糖1.0
キシリトール(糖アルコール)約1.0
マルチトール(糖アルコール)約0.8〜0.9
ブドウ糖約0.6〜0.7
ソルビトール(糖アルコール)約0.6〜0.7
トレハロース約0.45
麦芽糖約0.3〜0.4
乳糖約0.2〜0.3

ショ糖は、温度によって甘さがほとんど変わらないため、甘味の基準として使われる。

2-6. 少糖類(オリゴ糖)と糖アルコール

ラフィノース(3糖)やスタキオース(4糖)は大豆に含まれ、人の消化酵素では分解されにくい。腸内のビフィズス菌の栄養となり、整腸作用がある。フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖も同じ性質を持ち、特定保健用食品に使われている。

糖アルコールは、糖を還元してつくる甘味料で、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、エリスリトールなどがある。むし歯の原因になりにくく、血糖値を上げにくい。甘味料としての性質は第11章で扱う。

2-7. 多糖類

多糖構成・特徴食品
でんぷんブドウ糖が多数結合。植物の貯蔵多糖。次節で詳しく学ぶ穀類、いも類、豆類
グリコーゲンブドウ糖が多数結合。動物の貯蔵多糖。アミロペクチンよりさらに枝分かれが多い肝臓、筋肉、貝類
デキストリンでんぷんが途中まで分解されたもの水あめ、焙焼した小麦粉
セルロースブドウ糖が直鎖状に結合。植物の細胞壁の主成分。人は消化できない野菜、穀類の外皮
ヘミセルロース細胞壁の成分穀類、豆類、野菜
ペクチンガラクツロン酸が主体。細胞と細胞をつなぐ。糖と酸でゲル化する果実(りんご・柑橘の皮)
グルコマンナンブドウ糖とマンノースが結合こんにゃく
寒天(アガロース・アガロペクチン)ガラクトースが主体てんぐさ、おごのり(紅藻)
カラギーナンガラクトースが主体すぎのり、つのまた(紅藻)
アルギン酸マンヌロン酸・グルロン酸が主体こんぶ、わかめ(褐藻)
キチンアミノ糖(N-アセチルグルコサミン)が結合えび・かにの殻、きのこ
イヌリン果糖が多数結合ごぼう、きくいも

2-8. 食物繊維

食物繊維は、人の消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総称である。水に溶けるかどうかで2つに分けられる。

分類主なもの食品での性質
水溶性食物繊維ペクチン、グルコマンナン、アルギン酸、寒天、β-グルカン、イヌリン水を含んでゲル状・粘りのある状態になる
不溶性食物繊維セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン水を吸って膨らむ。食品の歯ごたえ・繊維感になる

3. でんぷん

3-1. でんぷんの構造

でんぷんは、植物の種子・根・茎などに、でんぷん粒という小さな粒として蓄えられている。粒の形と大きさは植物によって異なり、じゃがいもでんぷんの粒は大きく、米でんぷんの粒は小さい。

でんぷんは、ブドウ糖がつながった2種類の分子からなる。

分子構造ヨウ素でんぷん反応性質
アミロースブドウ糖が直鎖状につながり、らせん構造をとる青色老化しやすい。ゲルをつくりやすい
アミロペクチンブドウ糖が枝分かれしながらつながる赤紫色粘りが強い。老化しにくい

うるち米のでんぷんは、アミロース約20%、アミロペクチン約80%からなる。もち米のでんぷんは、ほぼアミロペクチン100%である。もち米の強い粘りと、もちがかたくなりにくい性質は、アミロペクチンによるものである。

3-2. 糊化(α化)

生のでんぷん粒の中では、分子が規則正しく並び、結晶のような構造をつくっている。この状態のでんぷんをβ-でんぷん(生でんぷん)という。β-でんぷんは、かたく、消化されにくい。

でんぷんに水を加えて加熱すると、でんぷん粒が水を吸って膨らみ、規則正しい構造がくずれ、粘りのある透明なのり状になる。この変化を糊化(α化)といい、糊化したでんぷんをα-でんぷんという。糊化すると、やわらかくなり、粘りが出て、消化されやすくなる。

糊化が始まる温度はでんぷんの種類によって異なるが、おおむね60〜70℃前後である。糊化には水と熱の両方が必要であり、水を加えずに加熱しても糊化は起こらない。

3-3. 老化(β化)

糊化したでんぷんを放置すると、ばらばらになっていた分子が再び集まって規則的に並び、かたく、白く濁り、消化されにくい状態に戻っていく。この変化を老化(β化)という。冷えたご飯がかたくなる、餅がかたくなる、パンがぱさつくのは、でんぷんの老化による。

条件老化の進み方
水分30〜60%進みやすい
温度0〜5℃(冷蔵庫の温度)進みやすい
アミロースが多い進みやすい
水分15%以下(乾燥)ほとんど進まない
60℃以上(保温)ほとんど進まない
冷凍(急速に凍らせる)ほとんど進まない
砂糖・トレハロースを多く加える進みにくい(砂糖が水を引きつけ、分子が並ぶのを妨げる)
乳化剤・油脂を加える進みにくい

老化を防ぐには、糊化した状態で、水分を急に減らす(せんべい・α化米)、高温を保つ、急速に冷凍する、砂糖を加えるなどの方法がある。

3-4. デキストリン化

でんぷんを、水を加えずに高温で加熱すると、分子が切れてデキストリンになる。これをデキストリン化(糊精化)という。小麦粉をバターで炒めてつくるルーや、焙焼した小麦粉は、デキストリン化によって粘りが弱くなり、香ばしさが出る。

4. たんぱく質

4-1. たんぱく質の構造

たんぱく質は、約20種類のアミノ酸がペプチド結合で多数つながった高分子である。アミノ酸の並び方(一次構造)が、らせんやひだなどの部分的な形(二次構造)をつくり、それが折りたたまれて立体的な形(三次構造)になる。いくつかのたんぱく質が集まって一つの働きをする場合もある(四次構造)。たんぱく質の性質は、この立体構造によって決まる。

4-2. 食品のたんぱく質の分類

単純たんぱく質(アミノ酸だけからなる)は、溶ける液体の違いで分類される。

種類溶ける液体主なたんぱく質(食品)
アルブミン水オボアルブミン(卵白)、ラクトアルブミン(乳)
グロブリン薄い塩溶液グリシニン(大豆)、ミオシン(筋肉)、オボグロブリン(卵白)
グルテリン薄い酸・アルカリグルテニン(小麦)、オリゼニン(米)
プロラミンアルコール(70〜80%)グリアジン(小麦)、ツェイン(とうもろこし)、ホルデイン(大麦)
硬たんぱく質ほとんど溶けないコラーゲン(皮・骨・腱)、エラスチン、ケラチン(毛・爪)

複合たんぱく質(アミノ酸以外の成分が結合したもの)

種類結合している成分主なたんぱく質(食品)
糖たんぱく質糖オボムコイド(卵白)、ムチン
リンたんぱく質リン酸カゼイン(乳)、ホスビチン(卵黄)
リポたんぱく質脂質卵黄のリポたんぱく質
色素たんぱく質色素ミオグロビン(筋肉)、ヘモグロビン(血液)

誘導たんぱく質(たんぱく質が加熱・酵素などで変化したもの)には、ゼラチン(コラーゲンを加熱して得る)やペプチドなどがある。

4-3. たんぱく質の変性

たんぱく質の立体構造が、さまざまな条件でくずれ、性質が変わることを変性という。アミノ酸の並び(ペプチド結合)は切れず、立体構造が変わる点が、分解とは異なる。

変性の原因食品での例
加熱卵の熱凝固、肉の色と硬さの変化、牛乳の表面の膜
酸ヨーグルト・チーズ(カゼインの凝固)、魚の酢じめ
アルカリピータン
塩類豆腐(にがりなどで大豆たんぱく質を固める)
撹拌・泡立てメレンゲ(泡の表面でたんぱく質が変性し膜をつくる)
凍結・乾燥凍り豆腐、乾燥卵
酵素チーズ(レンネットによるカゼインの凝固)

4-4. 等電点

たんぱく質は、液体のpHによって電気的な性質が変わる。プラスとマイナスがつり合い、全体として電気を帯びなくなるpHを等電点という。等電点では、たんぱく質どうしが反発しなくなるため、集まって沈殿しやすい。牛乳のカゼインの等電点はpH4.6付近であり、乳酸菌が乳酸をつくってpHが下がると、カゼインが凝固してヨーグルトになる。

4-5. 酵素

酵素は、食品や生物の中で化学反応を進めるたんぱく質である。食品中の酵素は、熟成やうま味の生成に役立つ一方で、変色や品質の低下の原因にもなる。酵素はたんぱく質であるため、加熱すると変性して働きを失う(失活)。野菜を冷凍する前に短時間ゆでる(ブランチング)のは、酵素を失活させて変色や劣化を防ぐためである。

5. 脂質

5-1. 脂質の分類

脂質は、水に溶けにくく、エーテルなどの有機溶媒に溶ける成分の総称である。

分類内容主なもの
単純脂質脂肪酸とアルコールが結合したもの中性脂肪(トリアシルグリセロール)、ろう
複合脂質リン酸や糖を含むものリン脂質(レシチン)、糖脂質
誘導脂質上のものから分解などでできるもの脂肪酸、ステロール(コレステロール、エルゴステロール)

食品中の脂質の大部分は、グリセリン(グリセロール)1分子に脂肪酸3分子が結合した中性脂肪である。

5-2. 脂肪酸

中性脂肪の性質は、結合している脂肪酸の種類で決まる。

分類構造主なもの多く含む食品
飽和脂肪酸二重結合を持たないパルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、酪酸バター、ラード、ヘット、パーム油、やし油、カカオバター
一価不飽和脂肪酸二重結合が1つオレイン酸オリーブ油、なたね油
多価不飽和脂肪酸二重結合が2つ以上リノール酸、α-リノレン酸、EPA、DHA大豆油、とうもろこし油、ごま油、魚油

5-3. 油と脂

脂肪酸の種類は、油脂の融点(溶ける温度)を左右する。

  • 飽和脂肪酸が多く、脂肪酸の鎖が長いほど、融点は高く、常温で固体になりやすい(脂:バター、ラード、ヘット)
  • 不飽和脂肪酸が多いほど、融点は低く、常温で液体になりやすい(油:植物油、魚油)

ただし、植物性でもパーム油・やし油・カカオバターは飽和脂肪酸が多く、常温で固体または半固体である。「植物性=液体」「動物性=固体」とは限らない。

不飽和脂肪酸は二重結合の部分で酸化されやすい。二重結合が多い(多価不飽和脂肪酸が多い)油ほど酸化しやすく、魚油は特に酸化しやすい(第5章参照)。

5-4. 油脂の性質を表す数値

数値意味
ヨウ素価不飽和の度合い。高いほど不飽和脂肪酸が多く、液体で酸化しやすい。ヨウ素価の高い順に乾性油・半乾性油・不乾性油に分ける
けん化価脂肪酸の平均的な大きさの目安。値が大きいほど、短い脂肪酸が多い
酸価遊離脂肪酸の量。油脂が劣化(加水分解)すると上がる
過酸化物価酸化の初期にできる過酸化物の量。油脂が酸化すると上がる

酸価と過酸化物価は、油脂の劣化の度合いを調べるときに使われる(第5章参照)。

5-5. 硬化油とトランス脂肪酸

液体の植物油や魚油に、ニッケルなどを触媒として水素を付加すると、不飽和脂肪酸の二重結合が減って飽和に近づき、融点が上がって固体になる。これを硬化油(水素添加油脂)といい、マーガリンやショートニングの原料に使われてきた。

水素添加を途中で止めると(部分水素添加)、その過程でトランス脂肪酸ができることがある。トランス脂肪酸は、とりすぎると心臓の病気のリスクを高めることが知られているため、近年は製造方法を変えて減らす取り組みが進んでいる。日本では、トランス脂肪酸の含有量の表示は義務になっていない。

5-6. リン脂質(レシチン)

レシチンは、リン酸を含む複合脂質で、分子の中に水になじむ部分(親水基)と油になじむ部分(親油基)の両方を持つ。このため、水と油の境目に並んで、両者を混ざった状態に保つ乳化作用を持つ。卵黄と大豆に多く含まれる。中性脂肪には乳化作用はない。

6. ビタミンとミネラル(食品の中での性質)

6-1. ビタミンの安定性

ビタミンは、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)と、水溶性ビタミン(B群・C)に分けられる。体内での働きは栄養学の本で扱い、ここでは調理・加工・保存での性質を整理する。

ビタミン弱い条件食品での注意
ビタミンC水に溶ける、熱、酸化、アルカリ、金属(銅・鉄)ゆで汁に溶け出す。切って放置すると減る。果汁は酸化で減る
ビタミンB₁水に溶ける、熱、アルカリ重曹を使うと壊れやすい。米をとぐと減る
ビタミンB₂光(紫外線)牛乳を光にあてると減る
ビタミンA・カロテン酸化、光油と一緒にとると吸収されやすい
ビタミンE酸化(自分が酸化されて他を守る)油脂の酸化防止剤として働く
ビタミンD比較的安定きのこのエルゴステロールは紫外線でビタミンD₂になる

体内でビタミンに変わる物質をプロビタミンという。β-カロテン(体内でビタミンAになる)やエルゴステロール(紫外線でビタミンD₂になる)がその例である。

卵には、ほとんどのビタミンが含まれるが、ビタミンCはほとんど含まれない(成分表で0)。

6-2. ミネラル

食品中のミネラルの量は、灰分として測定される。ミネラルは熱で壊れることはないが、水溶性のもの(カリウムなど)はゆで汁に溶け出す。

食品の中でのミネラルは、他の成分と結びついた形で存在することが多い。牛乳のカルシウムは、カゼインと結びつき、吸収されやすい形で含まれている。一方、ほうれんそうのカルシウムは、シュウ酸と結びついて吸収されにくい。鉄も、肉や魚に含まれるヘム鉄と、植物に含まれる非ヘム鉄とで、吸収率が異なる(栄養学の本を参照)。

ミネラルは、食品の性質にもかかわる。豆腐をつくるにがり(塩化マグネシウム)やすまし粉(硫酸カルシウム)、低メトキシルペクチンを固めるカルシウムは、その例である。

7. 食品の状態(コロイドと物性)

食品の成分は、ばらばらに存在しているのではなく、水の中に油の粒が散らばったり、たんぱく質が網目をつくったりして、さまざまな「状態」をつくっている。

7-1. 分散系とコロイド

ある物質が、別の物質の中に細かい粒となって散らばっている状態を分散系という。散らばっている粒が、目に見えないほど小さい(直径がおよそ100万分の1mm〜1000分の1mm程度の)状態をコロイドという。食品の多くはコロイドである。

散らばっているものまわりのもの名称食品の例
液体(油)液体(水)エマルション(乳濁液)牛乳、生クリーム、マヨネーズ
液体(水)液体(油)エマルションバター、マーガリン
気体(空気)液体泡メレンゲ、ホイップクリーム、ビールの泡
気体(空気)固体固体の泡スポンジケーキ、パン、マシュマロ
固体液体サスペンション(懸濁液)・ゾル抹茶をといた液、みそ汁、でんぷんを溶いた水

7-2. ゾルとゲル

状態内容食品の例
ゾル流動性があり、液体のように流れるソース、ポタージュ、溶かしたゼラチン液、カスタードソース
ゲルゾルが流動性を失い、固まった状態。網目の中に水を閉じこめているゼリー、寒天、ようかん、プリン、こんにゃく、豆腐

ゼラチン液を冷やすとゲル(ゼリー)になり、温めると再びゾルに戻る。寒天やゼラチンのように温度で可逆的に変わるゲルもあれば、卵の熱凝固のように元に戻らないゲルもある。

ゲルを放置すると、網目が縮んで水がにじみ出ることがある。これを離水(離しょう)という。

7-3. エマルション(乳化)

本来混ざり合わない水と油が、一方が細かい粒となってもう一方に散らばった状態をエマルションといい、この状態をつくることを乳化という。

型内容食品の例
水中油滴型(O/W型)水の中に油の粒が散らばる牛乳、生クリーム、マヨネーズ、アイスクリーム
油中水滴型(W/O型)油の中に水の粒が散らばるバター、マーガリン

エマルションを安定させる物質を乳化剤という。食品では、卵黄のレシチン、牛乳のたんぱく質(カゼイン)、大豆レシチン、グリセリン脂肪酸エステル(添加物)などが乳化剤として働く。

生クリームを泡立てすぎるとバターができるのは、O/W型のエマルションが壊れ、脂肪球がくっつき合って、W/O型に近い状態に変わる(転相)ためである。

7-4. テクスチャー

食品を口に入れたときの、かたさ、やわらかさ、粘り、弾力、なめらかさ、もろさなどの感覚をテクスチャー(食感)という。テクスチャーは、食品の二次機能(第1章)の重要な要素である。

テクスチャーにかかわる性質として、次のものがある。

性質内容例
粘性流れにくさ水あめ、はちみつ、とろみのあるソース
弾性力を加えて変形しても、力を除くと元に戻る性質こんにゃく、グミ、パン生地
可塑性力を加えると変形し、力を除いてもその形を保つ性質バター、マーガリン、粘土状のマジパン

可塑性は、バターを折り込むパイ生地や、絞り出しのクリームなどで重要になる(製菓理論の本の油脂の章を参照)。

8. 製菓とのつながり

8-1. 糖の選び方で変わる菓子

砂糖(ショ糖)は非還元糖で焼き色がつきにくいが、はちみつ・転化糖・水あめ・ブドウ糖は還元糖を含み、焼き色がつきやすい。どら焼きやカステラの皮にはちみつや水あめを使うと、こんがりとした色がつくのはこのためである。また、転化糖やブドウ糖は吸湿性が高く、しっとりした食感を長く保つ。一方で、湿気を吸いやすいため、乾いた食感が求められる菓子では使いすぎに注意する。

8-2. でんぷんの糊化と老化

カスタードクリームは、小麦粉やコーンスターチのでんぷんを牛乳の中で糊化させてとろみをつけている。しっかり沸騰させるのは、でんぷんを十分に糊化させ、粉っぽさをなくすためである。

求肥やすあま、大福の餅がかたくなるのは老化による。砂糖や水あめを多く加えると老化が遅くなるため、求肥は時間がたってもやわらかい。和菓子の餅を冷蔵庫に入れると、0〜5℃という老化しやすい温度になるため、かえってかたくなりやすい。

8-3. たんぱく質の変性を利用する

菓子づくりは、たんぱく質の変性を上手に使う技術でもある。メレンゲは泡立てによる変性、プリンやカスタードは加熱による凝固、レアチーズケーキのゼラチンや、チーズ自体はたんぱく質のゲル化と酸による凝固の例である。いずれも、変性の条件(温度・pH・撹拌の強さ)を調整することで、目的の食感をつくっている。

8-4. 乳化の安定と破壊

生クリームはO/W型のエマルションで、適度に泡立てるとホイップクリームになり、泡立てすぎると転相してバターに近づく。ガナッシュ、バタークリーム、マヨネーズ状のソースは、乳化を保つことでなめらかに仕上がる。分離したガナッシュに少量の温めた生クリームを加えて混ぜ直すのは、水分の割合を整えて、再び乳化させるためである。乳化と油脂の性質は、製菓理論の本で詳しく扱う。

試験対策:よくある間違いポイント

試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。

Q1卵にはビタミンCがほとんど含まれない

この文のとおりです。(成分表で0)

Q2ショ糖は還元糖であり、アミノ酸と反応して褐変しやすい

正しくは:ショ糖は非還元糖。還元糖は単糖類、麦芽糖、乳糖など

Q3果糖は、温度が高いほど甘味が強くなる

正しくは:果糖は温度が低いほど甘味が強い

Q4ビタミンB₂は、熱に最も弱いビタミンである

正しくは:B₂は特に光に弱い。熱やアルカリで壊れやすいのはB₁、熱・酸化に弱いのはC

Q5でんぷんの老化は、60℃以上で最も進みやすい

正しくは:老化は0〜5℃・水分30〜60%で進みやすい。60℃以上ではほとんど進まない

Q6ヨウ素価が低い油脂ほど、不飽和脂肪酸が多い

正しくは:ヨウ素価が高いほど不飽和脂肪酸が多い

Q7部分水素添加によって硬化油をつくる過程で、トランス脂肪酸ができることがある

この文のとおりです。

Q8転化糖は、ショ糖をブドウ糖と果糖に分解したもので、ショ糖より甘く、吸湿性が高い

この文のとおりです。

Q9乳糖はブドウ糖と果糖からなる二糖類である

正しくは:乳糖はガラクトースとブドウ糖。ブドウ糖と果糖はショ糖

Q10トレハロースは単糖類である

正しくは:トレハロースはブドウ糖2分子からなる二糖類

Q11グリコーゲンは植物の貯蔵多糖である

正しくは:グリコーゲンは動物の貯蔵多糖。植物の貯蔵多糖はでんぷん

Q12たんぱく質の変性とは、ペプチド結合が切れてアミノ酸に分解されることである

正しくは:変性は立体構造が変わること。ペプチド結合は切れない

Q13麦芽糖(マルトース)は、ブドウ糖2分子が結合した還元糖である

この文のとおりです。(水あめの主成分)

Q14でんぷんは、水を加えずに加熱すると糊化する

正しくは:糊化には水と熱の両方が必要。水なしで高温加熱するとデキストリン化する

Q15酵素はたんぱく質でできているため、加熱すると働きを失う

この文のとおりです。(ブランチング)

Q16グリコーゲンは、アミロペクチンより枝分かれが少ない

正しくは:グリコーゲンはアミロペクチンより枝分かれが多い

Q17ペクチンやグルコマンナンは、不溶性食物繊維である

正しくは:どちらも水溶性食物繊維。不溶性はセルロースなど

Q18糖質と食物繊維を合わせたものを炭水化物という。食物繊維は糖質に含まれる

正しくは:糖質は炭水化物から食物繊維を除いたもの

Q19グリアジンは、卵白に含まれるたんぱく質である

正しくは:グリアジンは小麦のたんぱく質(グルテニンとともにグルテンをつくる)

Q20アミロースはヨウ素でんぷん反応で青色、アミロペクチンは赤紫色を示す

この文のとおりです。

Q21ゲルとは、ゾルが流動性を失って固まった状態である

この文のとおりです。(ゼリー、ようかん、豆腐)

Q22糊化したでんぷんは、水分15%以下に乾燥させると老化しにくい

この文のとおりです。(せんべい、α化米)

Q23中性脂肪(トリアシルグリセロール)は乳化作用をもつ

正しくは:乳化作用をもつのはリン脂質(レシチン)

Q24カゼインはリンたんぱく質で、pH4.6付近(等電点)で凝固する

この文のとおりです。(ヨーグルト・チーズ)

Q25もち米のでんぷんは、アミロース約20%、アミロペクチン約80%からなる

正しくは:これはうるち米。もち米はほぼアミロペクチン100%

Q26グルコマンナンは、たんぱく質の一種である

正しくは:グルコマンナンは炭水化物(難消化性多糖)

Q27バターやマーガリンは水中油滴型(O/W型)のエマルションである

正しくは:バター・マーガリンは油中水滴型(W/O型)。O/W型は牛乳・生クリーム・マヨネーズ

Q28不飽和脂肪酸の多い油脂ほど融点が高く、常温で固体になりやすい

正しくは:不飽和脂肪酸が多いほど融点は低く、液体になりやすい
結果:

まとめ

食品の基本となる成分は、水分・たんぱく質・脂質・炭水化物・灰分の一般成分である。灰分はミネラルの量の目安になる。

炭水化物は糖質と食物繊維からなり、糖の数によって単糖類・二糖類・少糖類・多糖類に分けられる。単糖類と麦芽糖・乳糖は還元糖で焼き色がつきやすいが、ショ糖とトレハロースは非還元糖である。果糖は最も甘く、冷やすとさらに甘くなる。

でんぷんは、直鎖のアミロースと枝分かれのアミロペクチンからなり、うるち米は約20:80、もち米はほぼアミロペクチンだけである。水と熱で糊化し、0〜5℃・水分30〜60%で老化しやすい。砂糖や乾燥・冷凍・保温は老化を抑える。

たんぱく質はアミノ酸がつながった高分子で、加熱・酸・塩・撹拌などで立体構造が変わる(変性)。カゼインは等電点pH4.6付近で凝固し、酵素は加熱で失活する。

脂質の大部分は中性脂肪で、飽和脂肪酸が多いほど融点が高く固体に、不飽和脂肪酸が多いほど液体で酸化しやすい。レシチンは乳化作用を持つ。牛乳・生クリームはO/W型、バター・マーガリンはW/O型のエマルションである。

ビタミンCは水・熱・酸化に、B₁は熱・アルカリに、B₂は光に弱い。菓子づくりでは、糖の選び方、でんぷんの糊化と老化、たんぱく質の変性、乳化の安定が、色・食感・日持ちを左右する。次章では、食品のおいしさを生み出す色・味・香りの成分を学ぶ。

※ 本書は、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年、令和7年度の食料自給率(令和8年8月公表)、令和8年4月施行の改正食品表示基準にもとづいています。

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