食品学 第二部 食品の種類のはなし
肉類・魚介類・卵類
はじめに
本章からは、動物性食品を学ぶ。動物性食品は、植物性食品に比べてたんぱく質が多く、そのたんぱく質は必須アミノ酸をバランスよく含み、栄養価が高い。一方で、水分とたんぱく質が多いため、微生物が増えやすく、鮮度の低下が速いという共通の特徴を持つ。
本章では、肉類・魚介類・卵類を取り上げる。肉と魚は、菓子との直接のかかわりは少ないが、ゼリーやムースに使うゼラチンは、動物の皮や骨のコラーゲンからつくられる。また、肉の色の変化や死後の変化は、動物性食品の性質を理解するうえで欠かせない。
そして卵は、菓子づくりで最も重要な材料の一つである。スポンジケーキを膨らませる泡、プリンやカスタードを固める力、マヨネーズやバタークリームをなめらかにする乳化の力は、すべて卵のたんぱく質と脂質がもたらす。本章の後半では、卵の構造と成分、そしてその働きを詳しく学ぶ。
1. 肉類
1-1. 肉の構造
食肉として食べる部分は、主に動物の骨格筋である。骨格筋は、細長い筋線維(筋細胞)が束になってできており、その束を結合組織の膜が包んでいる。筋線維の束の間や周りには脂肪組織がある。牛肉の霜降りは、筋肉の中に脂肪が細かく入りこんだものである。
1-2. 肉の成分
| 成分 | 特徴 |
|---|---|
| 水分 | 約60〜75%(脂肪が多い部位ほど少ない) |
| たんぱく質 | 約20%。必須アミノ酸のバランスがよい |
| 脂質 | 部位によって大きく異なる(ヒレ・ももは少なく、ばら・霜降りは多い) |
| 炭水化物 | ほとんど含まない(グリコーゲンが少量) |
| ビタミン | 豚肉はビタミンB₁が多い。レバー(肝臓)はビタミンA・鉄が非常に多い |
| ミネラル | 吸収のよいヘム鉄、亜鉛 |
1-3. 肉のたんぱく質
肉のたんぱく質は、溶ける性質と存在する場所によって、3つに分けられる。
| 分類 | 割合(目安) | 主なたんぱく質 | 性質 |
|---|---|---|---|
| 筋原線維たんぱく質 | 約50% | ミオシン、アクチン | 筋肉の収縮にかかわる。塩溶性(薄い食塩水に溶ける)。加熱で凝固し、肉の固さに影響する |
| 筋形質たんぱく質(筋漿たんぱく質) | 約30% | ミオグロビン、酵素 | 水溶性。肉の色のもと |
| 肉基質たんぱく質 | 約20% | コラーゲン、エラスチン | 結合組織をつくる。水にも塩溶液にも溶けない。多いと肉がかたい |
すじの多い肉やすね肉がかたいのは、肉基質たんぱく質のコラーゲンが多いためである。しかし、コラーゲンは、水とともに長時間加熱すると、ゼラチンに変わって溶け出す。すじ肉や牛すね肉を長く煮込むとやわらかくなり、煮汁が冷えるとゼリー状に固まる(煮こごり)のはこのためである。
1-4. コラーゲンとゼラチン
ゼラチンは、動物の皮や骨に含まれるコラーゲンを、酸やアルカリで処理し、温水で抽出して精製したものである。主な原料は、豚の皮、牛の骨や皮、魚の皮やうろこである。
ゼラチンはたんぱく質であるが、必須アミノ酸のトリプトファンをほとんど含まないため、たんぱく質としての栄養価(アミノ酸スコア)は低い。菓子では、栄養よりも、体温付近で溶けるゲルをつくる性質が重視される(第8章参照)。ゼラチンはアレルギーの表示が推奨される品目の一つである。
1-5. 肉の色
肉の赤い色は、主に筋肉の中の色素たんぱく質ミオグロビンによる。血液の色素であるヘモグロビンも含まれるが、十分に血抜きされた肉の色のほとんどはミオグロビンによる。ミオグロビンの量は、動物の種類や部位によって異なり、牛肉は多く、鶏の胸肉は少ない。
ミオグロビンは、中心に鉄を持ち、酸素との結びつき方や、鉄の状態、加熱などによって色が変わる。
| 状態 | 色素 | 色 | 起こる場面 |
|---|---|---|---|
| 切った直後(酸素が少ない) | ミオグロビン | 暗赤色(紫赤色) | 真空包装の肉、肉の内部 |
| 空気にふれる | オキシミオグロビン | 鮮赤色 | 切って空気にふれた肉の表面(ブルーミング) |
| 空気に長くふれる(鉄が酸化) | メトミオグロビン | 褐色 | 時間がたった肉の表面 |
| 加熱する | メトミオクロモーゲン | 灰褐色 | 焼いた肉、煮た肉 |
| 亜硝酸塩で処理(塩漬) | ニトロソミオグロビン | 鮮赤色 | 塩漬した肉 |
| 塩漬したものを加熱 | ニトロソミオクロモーゲン | 桃赤色(ピンク) | ハム、ソーセージ、ベーコン |
ハムやソーセージが加熱してもピンク色をしているのは、発色剤の亜硝酸塩(亜硝酸ナトリウム)によって、ミオグロビンが加熱に強い色素に変わるためである。亜硝酸塩には、ボツリヌス菌の増殖を抑える働きもある(添加物については食品衛生学の本(準備中)を参照)。
1-6. 死後硬直と熟成
動物が死ぬと、筋肉の中のエネルギー物質であるATP(アデノシン三リン酸)が次第に減り、筋肉のたんぱく質であるアクチンとミオシンが結合したまま離れなくなる(アクトミオシン)。その結果、筋肉が収縮したままかたくなる。これを死後硬直という。また、筋肉に残ったグリコーゲンが分解されて乳酸ができ、pHが下がる。
死後硬直した肉は、かたく、保水性が低く、うま味も少ないため、食用には適さない。その後、時間がたつと、筋肉自身が持つたんぱく質分解酵素の働き(自己消化)で、筋肉の構造がゆるみ、やわらかくなる(解硬)。さらに、たんぱく質が分解されてアミノ酸(グルタミン酸など)が増え、ATPの分解によってイノシン酸が増えて、うま味が増す。これを熟成という。
| 食肉 | 熟成の期間の目安(低温) |
|---|---|
| 牛肉 | 約10日〜2週間 |
| 豚肉 | 約3〜5日 |
| 鶏肉 | 約半日〜1日 |
1-7. 食肉の脂肪
食肉の脂肪は、飽和脂肪酸が比較的多く、常温では固体である。脂肪の融点は動物によって異なり、口に入れたときの溶け方に影響する。
| 脂肪 | 融点の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 牛脂(ヘット) | 約40〜50℃ | 融点が体温より高く、冷めると口の中で固まりやすい。牛肉料理は温かいうちに食べる |
| 豚脂(ラード) | 約33〜46℃ | 牛脂より融点が低い。冷めても比較的食べやすい |
| 鶏脂 | 約30〜32℃ | 融点が低い |
融点は資料によって幅があるが、牛脂>豚脂>鶏脂の順に高いことを覚えておく。
1-8. 肉の加工品
| 加工品 | 内容 |
|---|---|
| ハム | 豚もも肉などを塩漬し、くん煙・加熱したもの |
| ベーコン | 豚ばら肉を塩漬し、くん煙したもの |
| ソーセージ | ひき肉に調味料・香辛料を加え、ケーシング(腸など)に詰めたもの |
| ラード・ヘット | 豚・牛の脂肪組織を加熱して溶かし出した油脂(第10章参照) |
2. 魚介類
2-1. 魚介類の特徴
| 成分 | 特徴 |
|---|---|
| たんぱく質 | 約20%。必須アミノ酸のバランスがよい。肉基質たんぱく質(コラーゲン)が少なく、肉よりやわらかい |
| 脂質 | 魚の種類や季節で大きく変わる。旬の時期は脂質が多くなる。EPA・DHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸が多い |
| ビタミン | ビタミンD(特に脂の多い魚)、ビタミンB₁₂ |
| ミネラル | カルシウム(骨ごと食べる小魚)、ヨウ素 |
魚の脂質は不飽和脂肪酸が多いため、酸化しやすく、干物などは油やけしやすい。
2-2. 白身魚と赤身魚
魚の筋肉は、色によって白身魚と赤身魚に分けられる。色の違いは、主に筋肉に含まれるミオグロビン(とヘモグロビン)の量による。
| 分類 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 白身魚 | ミオグロビンが少ない。あまり泳ぎまわらず、海底近くにすむ魚が多い。脂質は比較的少ない | たい、ひらめ、かれい、たら、すずき、ふぐ |
| 赤身魚 | ミオグロビンが多い。長い距離を回遊する魚が多い | まぐろ、かつお、ぶり、さば、いわし、さんま |
さけ・ますは、身が赤い(オレンジ色)が、その色はミオグロビンではなく、えさのえびなどに由来するカロテノイドのアスタキサンチンによる。そのため、さけは白身魚に分類される。
魚の筋肉には、体の側面に沿って、赤黒い色をした血合肉がある。血合肉はミオグロビンや鉄・ビタミンを多く含み、回遊魚で特に発達している。白い部分は普通肉という。
2-3. 魚の死後変化と鮮度
魚も、死後に硬直・解硬・自己消化が進むが、肉に比べて、死後硬直が早く始まり、早く終わる。また、自己消化や腐敗も速く進む。そのため、魚は肉のように時間をかけて熟成させることは少なく、鮮度のよいうちに食べることが基本である。
魚の鮮度を化学的に判定する方法に、K値がある。
K値(%)=(イノシン+ヒポキサンチン)÷(ATPとその分解物すべての合計)× 100
魚が死ぬと、筋肉のATPは、ADP → AMP → イノシン酸(うま味成分)→ イノシン → ヒポキサンチン の順に分解される。死後時間がたつほど、最後の段階のイノシンとヒポキサンチンが増えるため、K値は大きくなる。K値が小さいほど鮮度がよい。刺身にできる鮮度は、おおむね20%以下が目安とされる。
鮮度が落ちると、魚に含まれるトリメチルアミンオキシド(においのない物質)が細菌によって分解され、生臭いにおいのトリメチルアミンができる(第4章参照)。また、さばやまぐろなどの赤身魚では、アミノ酸のヒスチジンが細菌によって分解され、アレルギー様食中毒の原因となるヒスタミンができることがある。
外見での鮮度の見分け方の目安として、目が澄んで張りがある、えらが鮮やかな赤色、腹部に弾力がある、うろこがしっかりついている、などがある。
2-4. 貝類・えび・かに・いか・たこ
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 貝類 | グリコーゲン(甘味・こく)、うま味のコハク酸、タウリンを含む |
| えび・かに | 甘味のアミノ酸(グリシンなど)が多い。殻のアスタキサンチンが加熱で赤くなる(第4章参照)。アレルギーの特定原材料(表示義務) |
| いか・たこ | 低脂肪で、タウリンを多く含む。いかは表示推奨品目 |
2-5. 魚介類の加工品
| 加工品 | 内容 |
|---|---|
| 練り製品(かまぼこ・ちくわ・はんぺん) | 魚肉に食塩を加えてすりつぶす(塩ずり)と、塩溶性たんぱく質(ミオシン・アクチン)が溶け出して粘りのあるすり身になる。これを加熱すると弾力のあるゲル(「足」)になる |
| かつお節 | かつおを煮て、いぶして乾燥させ(荒節)、さらにかび付けをしたもの(枯節)。うま味のイノシン酸が多い |
| 干物・塩蔵品 | 乾燥・食塩で水分活性を下げたもの(第2章参照) |
| 魚卵加工品 | いくら(さけの卵)、たらこ、かずのこ(にしんの卵) |
3. 卵類
3-1. 卵の構造
ここでは、最も多く利用される鶏卵について学ぶ。
| 部分 | 内容 |
|---|---|
| 卵殻 | 主成分は炭酸カルシウム。表面に多数の小さな穴(気孔)があり、空気や水分が出入りする。表面はクチクラという膜で覆われる |
| 卵殻膜 | 卵殻の内側の2枚の膜 |
| 気室 | 卵の丸い方(鈍端)にある空気の部屋。古くなると大きくなる |
| 卵白 | 濃厚卵白(盛り上がっている部分)と水様卵白(さらさらした部分)からなる |
| カラザ | 卵黄を卵の中心につなぎとめるひも状の部分 |
| 卵黄 | 卵黄膜に包まれる。表面に胚盤がある |
卵の重量の割合は、おおよそ卵殻:卵白:卵黄 = 1:6:3(約10%:約60%:約30%)である。Mサイズの卵(約60g)では、卵殻が約6g、卵白が約35g、卵黄が約18gになる。
3-2. 卵の成分
日本食品標準成分表(八訂)にもとづく成分の目安(可食部100gあたり)を示す。
| 成分 | 全卵 | 卵白 | 卵黄 |
|---|---|---|---|
| 水分 | 約75g | 約88g | 約50g |
| たんぱく質 | 約12g | 約10g | 約17g |
| 脂質 | 約10g | ほとんど含まない | 約34g |
| 炭水化物 | 少ない | 少ない | 少ない |
卵白は、約9割が水で、残りのほとんどがたんぱく質である。卵黄は、約半分が水で、脂質とたんぱく質が多い。卵の脂質、ビタミンA・D・B₂、鉄のほとんどは卵黄に含まれる。
卵は、ビタミンCと食物繊維以外の栄養素をほぼすべて含み、アミノ酸スコアも100である。ビタミンCはほとんど含まれない(成分表で0)。
3-3. 卵白のたんぱく質
卵白には、さまざまな働きを持つたんぱく質が含まれる。
| たんぱく質 | 卵白たんぱく質の中の割合(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| オボアルブミン | 約54%(最も多い) | 加熱で凝固する。熱凝固性の中心 |
| オボトランスフェリン | 約12% | 鉄と結合し、細菌の増殖を抑える |
| オボムコイド | 約11% | 糖たんぱく質。加熱しても固まりにくく、アレルギーの原因になりやすい |
| オボグロブリン | 約8% | 起泡性にかかわる |
| リゾチーム | 約3.5% | 細菌の細胞壁を分解する溶菌作用を持つ |
| オボムチン | 約3.5% | 濃厚卵白のゼリー状の構造をつくる。泡の安定にかかわる |
| アビジン | 少量 | ビタミン(ビオチン)と結合する。加熱で失活する |
卵が殻の中で比較的腐りにくいのは、卵殻とともに、リゾチームやオボトランスフェリンなど、細菌の増殖を抑えるたんぱく質が卵白に含まれるためである。
3-4. 卵黄の成分
卵黄の脂質は、中性脂肪が約3分の2、リン脂質(主にレシチン)が約3分の1を占め、コレステロールも含む。卵黄の脂質の多くは、たんぱく質と結合したリポたんぱく質の形で存在している。このリポたんぱく質とレシチンが、卵黄の強い乳化性のもとである。
卵黄の黄色は、ルテインなどのカロテノイドによる。これは鶏のえさに由来するもので、えさの種類によって色の濃さが変わる。卵黄の色が濃いからといって、栄養価が高いとは限らない(第4章参照)。
3-5. 卵の性質(調理・製菓での働き)
卵には、菓子づくりに欠かせない3つの性質がある。
| 性質 | 主に働く部分 | 菓子での例 |
|---|---|---|
| 熱凝固性 | 卵白・卵黄 | プリン、カスタード、焼き菓子の骨格 |
| 起泡性 | 卵白(全卵も) | メレンゲ、スポンジケーキ、シフォンケーキ |
| 乳化性 | 卵黄 | マヨネーズ、バタークリーム、アングレーズソース |
熱凝固性
卵のたんぱく質は、加熱すると変性して固まる。卵白と卵黄では、固まる温度が異なる。
| 部分 | 固まり始める温度 | 完全に固まる温度 |
|---|---|---|
| 卵白 | 約60℃ | 約80℃以上 |
| 卵黄 | 約65℃ | 約70℃ |
卵黄のほうが、固まり始める温度は少し高いが、固まりきる温度は低い。この温度差を利用したのが温泉卵で、65〜70℃程度の湯に一定時間つけると、卵黄は固まり、卵白はやわらかい半熟の状態になる。
卵の凝固は、加えるものによっても変わる。
| 加えるもの | 凝固への影響 |
|---|---|
| 食塩 | 凝固を促進する(固まりやすい) |
| 酸(酢・レモン) | 凝固を促進する |
| 牛乳(カルシウム) | 凝固を促進する |
| 砂糖 | 凝固を遅らせ、固まる温度を高くする。やわらかくなめらかに固まる |
プリンや茶碗蒸しのように、卵を牛乳やだしで薄めて固める料理では、加熱しすぎたり、温度が高すぎたり(約90℃以上)すると、卵液の中の水分が水蒸気になって、表面や内部に小さな穴があく。これをすだちという。すだちを防ぐには、蒸し器のふたをずらすなどして、85〜90℃程度で穏やかに加熱する。
卵を長くゆですぎると、卵黄の表面が暗緑色になることがある。これは、卵白のたんぱく質から生じた硫化水素が、卵黄の鉄と結びついて硫化鉄ができるためである。古い卵や、ゆでたあとすぐに冷やさなかった場合に起こりやすい。
起泡性
卵白を泡立てると、たんぱく質が空気との境目で変性して膜をつくり、細かい泡を保つ。これがメレンゲである。泡立ちやすさと、泡の安定性(泡が消えにくいこと)は、次の条件で変わる。
| 条件 | 泡立ちやすさ | 泡の安定性 |
|---|---|---|
| 新しい卵(濃厚卵白が多い) | 泡立ちにくい | 安定している |
| 古い卵(水様卵白が多い) | 泡立ちやすい | 不安定(消えやすい) |
| 温度が高め(30℃前後) | 泡立ちやすい | やや不安定 |
| 温度が低い(冷やした卵白) | 泡立ちにくい | きめが細かく安定 |
| 砂糖を加える | 泡立ちにくくなる | 安定する(つやが出る) |
| 酸(レモン汁・酒石酸)を少し加える | — | 安定する |
| 油脂や卵黄が混ざる | 泡立たない | — |
メレンゲをつくるときに、ボウルに油分が残っていないようにし、卵黄が混ざらないように卵を割るのは、油脂が泡立ちを強く妨げるためである。砂糖は数回に分けて加えると、泡立てやすさと安定性を両立できる。
乳化性
卵黄は、レシチンとリポたんぱく質を含むため、強い乳化性を持つ。マヨネーズは、卵黄の乳化性によって、酢(水)の中に多量の油を細かい粒として散らばらせた水中油滴型(O/W型)のエマルションである(第3章参照)。
3-6. 卵の鮮度
卵は古くなると、次のように変化する。
- 卵殻の気孔から水分と二酸化炭素が抜け、気室が大きくなる
- 卵白の二酸化炭素が抜けて、pHが上がる(産みたて約7.5→保存によって9以上)
- 濃厚卵白が水様化し、割ったときに平らに広がる
- 卵黄膜が弱くなり、卵黄が平らになり、くずれやすくなる
| 判定方法 | 見るところ | 新しい卵 |
|---|---|---|
| 比重法(割らない) | 食塩水(約10%)に入れる | 気室が小さく重いため、沈む。古い卵は浮く |
| 透光法(割らない) | 光にかざして気室の大きさを見る | 気室が小さい |
| ハウユニット(割る) | 濃厚卵白の高さと卵の重さから計算 | 値が大きい |
| 卵黄係数(割る) | 卵黄の高さ÷卵黄の直径 | 値が大きい(盛り上がっている) |
| 卵白係数(割る) | 濃厚卵白の高さ÷濃厚卵白の直径 | 値が大きい |
卵の賞味期限は、生で食べられる期限として表示されている。期限を過ぎた卵は、十分に加熱して早めに食べる。卵の保存は、冷蔵(10℃以下)が望ましい。卵の殻にはサルモネラ菌が付着していることがあり、卵の取り扱いについては食品衛生学の本(準備中)で扱う。
3-7. 卵の加工品
| 加工品 | 内容 |
|---|---|
| 液卵 | 割卵して殻を除き、殺菌した液状の卵(全卵・卵白・卵黄)。製菓・製パンで広く使われる |
| 凍結卵 | 液卵を凍結したもの。卵黄は凍結するとゲル化するため、砂糖や食塩を加えて凍結する |
| 乾燥卵 | 液卵を乾燥させて粉末にしたもの。卵白は、保存中のメイラード反応を防ぐため、ブドウ糖を除いてから乾燥させる(脱糖) |
| マヨネーズ | 卵黄の乳化性を利用した調味料 |
| ピータン | あひるの卵をアルカリで処理して、たんぱく質を固めたもの |
卵はアレルギーの特定原材料(表示義務)である。卵白のオボムコイドは加熱しても性質が変わりにくいため、加熱した菓子でもアレルギーを起こすことがある。
4. 製菓とのつながり
4-1. 卵は「三役」の材料
菓子における卵は、泡で膨らませる(起泡性)、熱で固める(熱凝固性)、油と水をつなぐ(乳化性)という3つの役割を一つで果たす。スポンジケーキでは、全卵の泡が生地を膨らませ、焼くとたんぱく質が固まって骨格になる。カスタードクリームでは、卵黄の熱凝固がとろみをつくり、乳化性がなめらかさを生む。
4-2. 泡を思いどおりに
メレンゲは、目的によって泡立て方を変える。きめ細かく安定したメレンゲにしたいときは、冷やした卵白を使い、砂糖を数回に分けて加える。マカロンやダックワーズのように、しっかりした泡が必要な菓子では、卵白を少し寝かせて水様化させることもある。どの場合も、油脂と卵黄の混入は避ける。
4-3. やわらかく固める
プリンやクレーム・ブリュレ、カスタードでは、砂糖が卵の凝固を遅らせ、なめらかな口当たりをつくる。湯せん焼きで温度を穏やかに保つのは、すだちを防ぎ、均一に固めるためである。アングレーズソースは、卵黄が固まりきる前(約80〜85℃前後)で加熱を止めて、とろみをつける。
4-4. ゼラチンと動物性食品
ムース、ババロア、ゼリー、マシュマロに使うゼラチンは、豚・牛・魚のコラーゲンからつくられる。ゼラチンは体温付近で溶けるため口どけがよいが、冷蔵が必要で、たんぱく質分解酵素を含む生の果実とは相性が悪い(第8章参照)。宗教上の理由や食の好みによって、動物由来の原料を避ける人もいるため、ゼラチンの代わりに寒天やペクチンを使った菓子も求められている。
4-5. ラードと菓子
ラード(豚脂)は、中華菓子(月餅、中華風のパイ)や、一部の焼き菓子で、さくさくした食感を出すために使われる(第10章参照)。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1卵白は、卵黄より脂質を多く含む
Q2卵は古くなると、卵白のpHが下がる
Q3ゼラチンはトリプトファンをほとんど含まないため、アミノ酸スコアが低い
Q4砂糖を加えると、卵のたんぱく質は低い温度で固まりやすくなる
Q5卵白に最も多く含まれるたんぱく質はオボムコイドである
Q6豚肉はビタミンB₁を多く含む
Q7肉の熟成は、微生物の働きによってたんぱく質が分解される現象である
Q8卵の重量の割合は、卵殻:卵白:卵黄=1:3:6である
Q9赤身魚と白身魚の違いは、主に筋肉に含まれるミオグロビンの量による
Q10肉の筋原線維たんぱく質(ミオシン・アクチン)は、薄い食塩水に溶ける塩溶性である
Q11肉を空気にさらすと、まずメトミオグロビンになって鮮赤色になる
Q12魚の鮮度を示すK値は、値が大きいほど鮮度がよい
Q13卵黄は約60℃で凝固し始め、卵白は約70℃で凝固し始める
Q14死後硬直中の肉は、やわらかく、うま味が多い
Q15卵黄係数とハウユニットは、値が大きいほど卵が新しい
Q16卵黄の黄色は、主にルテインなどのカロテノイドによる
Q17魚は肉に比べて死後硬直が遅く始まり、長く続く
Q18牛脂(ヘット)は、豚脂(ラード)より融点が低い
Q19さけは、身が赤いので赤身魚に分類される
Q20卵白には、溶菌作用を持つリゾチームが含まれる
Q21卵にはビタミンCがほとんど含まれない
Q22新しい卵の卵白は、泡立ちにくいが、できた泡は安定している
Q23新しい卵は、食塩水に入れると浮く
Q24卵黄の乳化性は、主にレシチンとリポたんぱく質による
Q25ハムやソーセージのピンク色は、メトミオクロモーゲンによる
Q26メレンゲに少量の油脂を加えると、泡立ちがよくなる
Q27肉の色は、主にヘモグロビンによる
Q28コラーゲンは、長時間加熱してもかたいままで、ゼラチンにはならない
まとめ
肉類のたんぱく質は約20%で、筋原線維たんぱく質(ミオシン・アクチン、塩溶性)、筋形質たんぱく質(ミオグロビン、水溶性)、肉基質たんぱく質(コラーゲン、不溶性)に分けられる。コラーゲンは長時間の加熱でゼラチンになる。肉の色はミオグロビンによるもので、空気で鮮赤色のオキシミオグロビン、時間がたつと褐色のメトミオグロビン、加熱で灰褐色のメトミオクロモーゲン、亜硝酸塩で処理して加熱するとピンク色のニトロソミオクロモーゲン(ハム)になる。死後硬直のあと、自己消化によって解硬・熟成し、うま味が増す。脂肪の融点は牛脂>豚脂>鶏脂である。
魚介類は、ミオグロビンの量で白身魚と赤身魚に分けられ、さけはアスタキサンチンで赤いが白身魚である。魚は死後硬直が早く、鮮度の低下が速い。鮮度はK値(小さいほど新鮮)で判定し、鮮度が落ちるとトリメチルアミンやヒスタミンができる。練り製品は、塩溶性たんぱく質の性質を利用している。
卵は、卵殻:卵白:卵黄がおよそ1:6:3で、卵白は水分約88%で脂質をほとんど含まず、卵黄は脂質約34%である。卵白の主なたんぱく質はオボアルブミンで、リゾチームは溶菌作用を持つ。卵黄のレシチンとリポたんぱく質は乳化性のもとである。卵白は約60℃、卵黄は約65℃で固まり始め、砂糖は凝固を遅らせる。卵白の泡は砂糖と酸で安定し、油脂で泡立たなくなる。卵は古くなると気室が大きくなり、卵白のpHが上がり、濃厚卵白が水様化する。
菓子づくりでは、卵の熱凝固性・起泡性・乳化性の三役を理解することが、ほとんどすべての洋菓子の基礎になる。次章では、もう一つの重要な動物性の材料である乳類と、油脂類を学ぶ。
※ 本書は、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年、令和7年度の食料自給率(令和8年8月公表)、令和8年4月施行の改正食品表示基準にもとづいています。

