食品学 第4章:色・味・香り

第4章

食品学 第一部 食品の成分のはなし

色・味・香り

はじめに

私たちが食品を「おいしい」と感じるとき、舌で感じる味だけを判断しているのではない。目で見る色、鼻で感じる香り、口の中の食感、さらには音や温度まで、すべての感覚を合わせて、おいしさを判断している。こうした食品の二次機能(嗜好機能)を生み出すのが、色素成分、呈味成分(味の成分)、香気成分(香りの成分)である。

菓子は、おいしさそのものを価値とする食品である。いちごの赤、抹茶の緑、焼き菓子の香ばしさ、バニラの甘い香り、チョコレートのほろ苦さは、すべて特定の成分によって生まれている。そして、これらの成分の多くは、pH、温度、光、金属などの条件によって、色や味や香りを変える。

本章では、食品の色・味・香りの成分の種類と性質を整理し、最後に、食品に含まれる有害な成分(自然毒)の要点にふれる。加熱による焼き色(褐変)は、次の第5章で学ぶ。

1. 食品の色素

1-1. 色素の分類

食品の色素は、水に溶けるかどうかと、起源によって、次のように分けられる。

分類色素色
脂溶性(油に溶ける)カロテノイド黄・橙・赤
脂溶性クロロフィル緑
水溶性(水に溶ける)アントシアニン赤・紫・青
水溶性フラボノイド(狭い意味)無色〜淡黄
動物の色素(たんぱく質と結合)ミオグロビン、ヘモグロビン赤(第9章)
加工でできる色素メラノイジン、カラメル、メラニン褐色(第5章)

カロテノイドやクロロフィルは油に溶けるので、油で炒めると油に色が移る。アントシアニンは水に溶けるので、なすをゆでるとゆで汁が紫色になり、ぶどうの皮の色はジュースに溶け出す。

1-2. カロテノイド

カロテノイドは、黄色から赤色を示す脂溶性の色素である。植物だけでなく、えび・かに・さけ・卵黄など、動物性食品にも含まれる。動物の体内ではつくられず、えさに含まれるものが体にたまる。カロテノイドは、カロテン類とキサントフィル類に分けられる。

分類色素食品
カロテン類β-カロテン、α-カロテンにんじん、かぼちゃ、ほうれんそう、マンゴー
カロテン類リコピントマト、すいか
キサントフィル類ルテイン卵黄、ほうれんそう、とうもろこし
キサントフィル類β-クリプトキサンチン温州みかん
キサントフィル類カプサンチン赤唐辛子、赤ピーマン、パプリカ
キサントフィル類アスタキサンチンえび、かに、さけ、ます
キサントフィル類フコキサンチンこんぶ、わかめ(褐藻)

カロテノイドは熱に比較的強く、ゆでたり焼いたりしても色が残りやすい。ただし、二重結合が多いため、光や酸素によって酸化されると色があせる。

β-カロテンなどは、体内でビタミンAに変わるプロビタミンAでもある。リコピンにはビタミンAとしての働きはない。

アスタキサンチンは、えびやかにの殻の中では、たんぱく質と結合して青灰色を示している。加熱するとたんぱく質が変性して離れ、アスタキサンチン本来の赤色が現れる。ゆでたえびやかにが赤くなるのはこのためである。さけの身の色もアスタキサンチンによる。

卵黄の黄色は、鶏のえさに含まれるルテインなどのカロテノイドによる。えさによって卵黄の色は変わり、卵黄の色の濃さは栄養価とは直接関係しない。

1-3. クロロフィル

クロロフィル(葉緑素)は、植物の葉緑体に含まれ、光合成を行う緑色の脂溶性色素である。分子の中心にマグネシウムを持つ。

クロロフィルは、条件によって次のように変化する。

条件変化色
酸、長時間の加熱マグネシウムが外れてフェオフィチンになる黄褐色(くすんだ緑)
アルカリ(重曹など)分子の一部が外れてクロロフィリンになる鮮やかな緑(水溶性になる)
銅・鉄と結合マグネシウムが銅などに置きかわる安定した緑

青菜を長くゆでたり、酢を加えたりすると、くすんだ黄褐色になる。これは野菜自体に含まれる有機酸が加熱で溶け出し、クロロフィルがフェオフィチンに変わるためである。青菜を色よくゆでるには、たっぷりの湯で短時間にゆで、すぐに冷水にとる。ゆでるときにふたをしないのは、揮発する酸を逃がすためといわれる。

重曹を加えると緑色は鮮やかになるが、組織がやわらかくなりすぎ、ビタミンCやB₁も壊れやすくなる。

抹茶やピスタチオの緑もクロロフィルによる。クロロフィルは光・熱・酸で退色しやすいため、抹茶を使った菓子は、時間がたつと色があせやすい。

1-4. アントシアニン

アントシアニンは、赤・紫・青を示す水溶性の色素で、植物の花・果実・葉・根に広く含まれる。ポリフェノールの一種である。

食品主なアントシアニン
なすナスニン
黒豆クリサンテミン
しそ(赤じそ)シソニン
いちごカリステフィン
ぶどう、ブルーベリー、カシス、紫いも、紫キャベツ、赤かぶさまざまなアントシアニン

アントシアニンの最大の特徴は、pHによって色が変わることである。

pH色
酸性赤
中性紫
アルカリ性青〜緑

梅干しを漬けるときに赤じそを入れると、梅の酸によってしそのアントシアニンが鮮やかな赤になる。一方、紫いもの粉を重曹入りの生地に混ぜると、アルカリによって青緑色に変わる。

また、アントシアニンは鉄やアルミニウムなどの金属イオンと結合すると、色が安定して濃くなる。黒豆を煮るときに鉄鍋を使ったり鉄くぎを入れたりするのは、鉄と結合させて美しい黒色に仕上げるためである。なすの漬物にミョウバン(アルミニウムを含む)を加えるのも、紫色を鮮やかに保つためである。

アントシアニンは熱や光に弱く、加熱を続けると色があせる。いちごジャムを長く煮すぎると、赤がくすんだ茶色になるのはこのためである。

1-5. フラボノイド

狭い意味でのフラボノイドは、無色から淡い黄色の水溶性色素である。小麦粉、玉ねぎ、カリフラワー、れんこん、大豆などに含まれる。

色素食品
ケルセチン玉ねぎの皮
ルチンそば
ヘスペリジン温州みかん(缶詰の白い濁りの原因)
ナリンギングレープフルーツ、夏みかん(苦味の成分でもある)
イソフラボン大豆

フラボノイドは、アルカリ性で黄色になる。中華麺は、小麦粉にかんすい(アルカリ性)を加えるため黄色くなる。重曹を入れた蒸し饅頭やどら焼きの生地が黄色っぽくなるのも、小麦粉のフラボノイドの変化による。

一方、酸性では白くなる。れんこんやカリフラワーを酢を加えた湯でゆでると、白く仕上がる。また、鉄と結合すると緑色や褐色になるため、鉄の包丁で切った玉ねぎやれんこんが黒ずむことがある。

1-6. 藻類の色素

海藻には、クロロフィルとカロテノイドのほかに、たんぱく質と結合した色素が含まれる。のり(紅藻)には、赤色のフィコエリトリンと青色のフィコシアニンが含まれる。干しのりを火であぶると、熱に弱いフィコエリトリンが壊れ、クロロフィルやフィコシアニンの色が目立って、緑色に変わる。

2. 味

2-1. 五基本味

味は、舌などにある味蕾の中の味細胞で感じとられる。現在、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つが基本味とされている。

基本味体にとっての意味(一般的な説明)
甘味エネルギー源(糖)の存在を知らせる
塩味ミネラル(ナトリウム)の存在を知らせる
うま味たんぱく質(アミノ酸)の存在を知らせる
酸味腐敗や未熟を知らせる
苦味毒の存在を知らせる

辛味、渋味、えぐ味は、味蕾の味細胞で感じる基本味ではなく、痛覚や触覚などの刺激として感じられるもので、五基本味には含まれない。

2-2. 甘味

成分食品
ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖砂糖、果実、はちみつ、水あめ
糖アルコール(ソルビトール、キシリトールなど)果実(ソルビトール)、甘味料
ステビオシドステビアの葉
グリチルリチン甘草(かんぞう)
アスパルテーム、スクラロースなど合成甘味料(添加物)

2-3. 酸味

酸味は、酸から生じる水素イオンによる味である。食品の主な有機酸は次のとおりである。

有機酸食品
クエン酸柑橘類、梅、いちご
リンゴ酸りんご、もも、梅
酒石酸ぶどう、ワイン
乳酸ヨーグルト、漬物、発酵バター
酢酸食酢
コハク酸貝類、清酒(うま味としても働く)
アスコルビン酸果実(ビタミンC)

2-4. 苦味

成分食品
カフェイン茶、コーヒー
テオブロミンカカオ(ココア・チョコレート)
ナリンギングレープフルーツ、夏みかん
リモニン柑橘類の果汁(しばらく置くと苦くなる)
フムロンビール(ホップ)
ククルビタシンきゅうりのへた付近

苦味は、少量であれば食品に深みを与える。チョコレートやコーヒー、柑橘の皮の苦味は、菓子のおいしさの重要な要素である。

2-5. 塩味

塩味は、主に食塩(塩化ナトリウム)のナトリウムイオンによる味である。菓子では量は少ないが、甘味を引き立てる、風味を引き締めるなどの重要な役割を持つ。

2-6. うま味

うま味は、1908年に日本の池田菊苗が、こんぶのだしからグルタミン酸を発見したことに始まる。その後、日本の研究者によって、かつお節のイノシン酸、干ししいたけのグアニル酸が見つかった。

成分種類食品
グルタミン酸アミノ酸こんぶ、トマト、チーズ、緑茶(玉露)
イノシン酸核酸かつお節、煮干し、肉、魚
グアニル酸核酸干ししいたけ
コハク酸有機酸貝類(あさり、しじみ、ほたて)、清酒

アミノ酸系のうま味(グルタミン酸)と、核酸系のうま味(イノシン酸・グアニル酸)を合わせると、うま味が非常に強くなる(相乗効果)。こんぶとかつお節の合わせだしは、この効果を利用している。

2-7. 辛味・渋味・えぐ味

味成分食品
辛味カプサイシン唐辛子
辛味ピペリンこしょう
辛味アリルイソチオシアネートわさび、からし(すりおろすと酵素で生成)
辛味ジンゲロール、ショウガオールしょうが(加熱・乾燥でショウガオールが増える)
辛味サンショオール山椒
辛味アリシンにんにく、ねぎ類
渋味タンニン(カテキン類などのポリフェノール)茶、渋柿、未熟な果実、赤ワイン
えぐ味ホモゲンチジン酸、シュウ酸たけのこ、さといも、ほうれんそう

渋柿の渋味は、水に溶けるタンニン(シブオール)によるものである。アルコールや炭酸ガスで処理する(脱渋)と、タンニンが水に溶けない形に変わり、渋味を感じなくなる。干し柿も同じしくみで甘くなる。タンニンそのものがなくなるわけではない。

2-8. 味の相互作用

2つ以上の味が同時に、または続けて口に入ると、味の感じ方が変わる。

現象内容例
対比効果主となる味に少量の別の味を加えると、主の味が強まるおしるこ・あんこに少量の塩→甘味が強まる、すいかに塩、だしに少量の塩→うま味が強まる
抑制効果一方の味によって、もう一方の味が弱まるコーヒーに砂糖→苦味が弱まる、すし酢の砂糖→酸味がやわらぐ
相乗効果同じ系統の味を合わせると、それぞれの和よりはるかに強まるこんぶ(グルタミン酸)+かつお節(イノシン酸)
変調効果先に口にしたものの影響で、後のものの味が変わる歯みがきのあとのみかんが苦い、濃い食塩水のあとの水が甘く感じる
順応同じ味を続けて味わうと、感じ方が弱くなる甘いものを食べ続けると甘さを感じにくくなる

2-9. 温度と味の感じ方

味の感じ方は、食べるときの温度によって変わる。

  • 甘味は、体温に近い温度で最も強く感じ、冷たいと弱く感じる
  • 塩味・苦味は、温度が低いほど強く感じやすい
  • 酸味は、温度の影響を受けにくい

アイスクリームやシャーベットなど、冷やして食べる菓子は、甘味を弱く感じるため、常温で食べる菓子より糖分を多めに配合することが多い。溶けたアイスクリームを食べると甘すぎると感じるのはこのためである。

3. 香り

3-1. 香りの成分

香りは、食品から空気中に飛び出した揮発性の成分が、鼻の嗅細胞で感じとられるものである。鼻から直接かぐ香りのほか、口の中から喉を通って鼻に抜ける香り(口中香)も、味わいの大きな部分を占める。風邪で鼻がつまると味がよくわからなくなるのは、香りを感じられなくなるためである。

食品の香りは、ふつう数十から数百種類の成分が合わさってできている。その中で、その食品らしさを特に強く感じさせる成分をキー化合物という。

3-2. 植物性食品の香り

食品主な香気成分成分の種類
レモン・柑橘類リモネン、シトラールテルペン類
ハッカ(ミント)メントールテルペン類
バナナ酢酸イソアミルエステル類
りんご、いちご、メロンさまざまなエステル類エステル類
ももγ-ウンデカラクトンラクトン類
ぶどうアントラニル酸メチルエステル類
バニラバニリンアルデヒド類
シナモンシンナムアルデヒドアルデヒド類
アーモンド(ビターアーモンド)、杏仁、さくらんぼの種ベンズアルデヒドアルデヒド類
桜の葉クマリン塩漬けすると酵素の作用で生じる
まつたけマツタケオール(1-オクテン-3-オール)、ケイ皮酸メチルアルコール類・エステル類(2つは別の物質)
干ししいたけレンチオニン含硫化合物
にんにくアリシン含硫化合物(切る・つぶすと酵素アリイナーゼで生成)
玉ねぎ・ねぎ硫化アリル類含硫化合物(切ると催涙成分も生成)
わさび・からしアリルイソチオシアネート含硫化合物(すりおろすと酵素ミロシナーゼで生成)
野菜・草の青臭さヘキセナール、ヘキセノール(青葉アルデヒド・青葉アルコール)アルデヒド類・アルコール類

にんにく・わさび・桜の葉のように、もとの食品の中では香りがなく、細胞が壊れたときに酵素の働きでつくられる香りもある。わさびを「目の細かいおろし金で、時間をかけてすりおろす」とよいとされるのは、細胞を十分に壊し、酵素を働かせるためである。

3-3. 動物性食品の香り

食品主な香気成分
魚の生臭さトリメチルアミン(鮮度が落ちると増える)
淡水魚の泥臭さピペリジン、ジェオスミン
バター短い鎖の脂肪酸、ラクトン類
発酵バター・ヨーグルトジアセチル(乳酸菌がつくる)
牛乳の加熱臭含硫化合物

魚の生臭さのもとであるトリメチルアミンは、アルカリ性の物質なので、酢やレモン汁などの酸を加えると揮発しにくくなり、においが抑えられる。しょうがやねぎ、みそを使うと、より強い香りでにおいを隠すことができる(マスキング)。

3-4. 加熱でできる香り

食品を加熱すると、生のときにはなかった香りが生まれる。

反応生じる香り例
メイラード反応(アミノ酸と糖)香ばしい焼き香(ピラジン類など)パン・焼き菓子の皮、焙煎したコーヒー・ナッツ・ごま
ストレッカー分解(メイラード反応にともなう)アルデヒド類チョコレート、ココア
カラメル化(糖だけの加熱)甘く香ばしい香り(フラン類など)カラメル、べっこう飴
脂質の加熱・酸化揚げ物の香り、劣化した油の不快臭揚げ菓子

これらの反応については、次の第5章で詳しく学ぶ。

4. 食品に含まれる有害な成分(自然毒)

食品の中には、もともと人に有害な成分を含むものがある。これを自然毒という。詳しくは食品衛生学の本(準備中)で扱い、ここでは食品学で問われやすいものを整理する。

分類成分食品注意
植物性ソラニン、チャコニンじゃがいもの芽、緑色になった皮芽と緑の部分を厚く取り除く。加熱では壊れにくい
植物性アミグダリン(青酸配糖体)未熟な梅(青梅)、あんず・びわ・ももの種体内で青酸を生じる。梅干し・梅酒にすると減る
植物性リナマリン(青酸配糖体)キャッサバ(苦味種)、一部の豆十分な水さらし・加熱が必要
植物性トリプシンインヒビター生の大豆消化を妨げる。加熱で壊れる
植物性毒きのこの成分ツキヨタケ、カキシメジ、ドクツルタケなど食用きのこと間違えやすい
動物性テトロドトキシンふぐ(卵巣・肝臓など)加熱しても壊れない
動物性シガテラ毒オニカマスなど熱帯・亜熱帯の魚有毒な藻類を食べた魚に蓄積する
動物性貝毒(麻痺性・下痢性)有毒プランクトンを食べた二枚貝加熱しても壊れない
カビ毒アフラトキシン輸入ナッツ類(落花生・ピスタチオなど)、香辛料、とうもろこし強い発がん性。加熱しても壊れにくい

菓子にかかわるものとして、梅の加工品、あんずの種からつくる杏仁、ナッツ類のカビ毒には注意が必要である。

5. 製菓とのつながり

5-1. 色を美しく保つ

いちご、ラズベリー、カシス、紫いもなどのアントシアニンを使った菓子は、酸性で赤く鮮やかになり、アルカリ性で青く濁る。いちごのムースやジャムにレモン果汁を加えると色が冴え、重曹を使った生地に紫いもを混ぜると、青緑色に変わる。また、アントシアニンは熱や光に弱いため、ジャムは煮すぎず、つくったあとは光をさけて保存する。

抹茶やピスタチオのクロロフィルは、光・熱・酸で黄褐色にあせる。抹茶のケーキの色は、焼成の温度と時間、ショーケースの照明によって変わりやすい。抹茶をしっかり緑に見せたい菓子は、加熱を短くする、照明の当たり方を工夫する、早めに売り切るなどの配慮が必要になる。

重曹を使うどら焼きや蒸し饅頭の生地が黄色っぽく、独特の風味を持つのは、フラボノイドがアルカリで黄色くなるためである。重曹を入れすぎると、色が濃くなりすぎ、苦味も出る。

5-2. 味を組み立てる

あんこやおしるこ、キャラメルにひとつまみの塩を加えると甘味が引き立つのは、対比効果による。塩キャラメルや、塩をきかせたクッキーも、この効果を積極的に使っている。逆に、ビターチョコレートやコーヒーのほろ苦さは、砂糖の甘味によってやわらげられる(抑制効果)。

アイスクリームやシャーベットは、冷たいと甘味を感じにくいため、常温の菓子より甘めに配合する。試作の味見は、実際に食べる温度で行うことが大切である。

5-3. 香りをつくる

焼き菓子の香ばしさは、メイラード反応やカラメル化によって、焼成の中で生まれる。バターの香り(発酵バターのジアセチル)、バニラのバニリン、シナモンのシンナムアルデヒド、柑橘の皮のリモネンは、菓子の印象を決める香りである。桜餅の桜の葉の香り(クマリン)は、葉を塩漬けにすることで初めて生まれる。

香気成分は揮発性であるため、加熱しすぎたり、長く空気にふれさせたりすると失われる。柑橘の皮は使う直前にすりおろし、洋酒やバニラは、加熱の最後や冷ましてから加えるのはこのためである。

試験対策:よくある間違いポイント

試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。

Q1トマトの赤い色素はアントシアニンである

正しくは:トマトの赤はリコピン(カロテノイド)

Q2マツタケオールとケイ皮酸メチルは同じ物質である

正しくは:どちらもまつたけの香りの成分だが、別の物質

Q3黒豆を煮るときに鉄くぎを入れると、アントシアニンが鉄と結合して色が安定する

この文のとおりです。(なすの漬物のミョウバンも同じしくみ)

Q4魚の生臭さの主な成分はジアセチルである

正しくは:魚の生臭さはトリメチルアミン。ジアセチルはバター・ヨーグルトの香り

Q5干ししいたけのうま味成分はコハク酸である

正しくは:干ししいたけはグアニル酸。コハク酸は貝類

Q6こんぶとかつお節の合わせだしは、うま味の相乗効果を利用している

この文のとおりです。(グルタミン酸+イノシン酸)

Q7おしるこに少量の塩を加えると甘味が強く感じられるのは、相乗効果である

正しくは:対比効果。相乗効果はこんぶとかつお節の組み合わせ

Q8アントシアニンは脂溶性の色素である

正しくは:アントシアニンは水溶性。脂溶性はカロテノイドとクロロフィル

Q9五基本味は、甘味・酸味・塩味・苦味・辛味である

正しくは:五基本味は甘味・酸味・塩味・苦味・うま味。辛味は基本味に含まれない

Q10甘味は体温に近い温度で強く感じられ、冷たいと弱く感じられる

この文のとおりです。(冷菓は甘めに配合する)

Q11えびやかにを加熱すると赤くなるのは、メイラード反応による

正しくは:たんぱく質と結合していたアスタキサンチンが加熱で離れるため

Q12卵黄の黄色は、主にルテインなどのカロテノイドによる

この文のとおりです。(えさに由来する)

Q13クロロフィルは、分子の中心に鉄を持つ

正しくは:中心にあるのはマグネシウム。鉄を持つのはミオグロビン・ヘモグロビン

Q14チョコレート(カカオ)の主な苦味成分はカフェインである

正しくは:カカオの主な苦味成分はテオブロミン

Q15じゃがいもの芽や緑色になった皮には、ソラニンなどの有毒成分が含まれる

この文のとおりです。(加熱では壊れにくい)

Q16クロロフィルは、アルカリ性で黄褐色のフェオフィチンになる

正しくは:フェオフィチンになるのは酸性や長時間の加熱。アルカリでは鮮やかな緑になる

Q17アントシアニンは、酸性で青色、アルカリ性で赤色を示す

正しくは:逆。酸性で赤、アルカリ性で青〜緑

Q18こんぶのうま味成分はイノシン酸である

正しくは:こんぶはグルタミン酸。イノシン酸はかつお節・肉・魚

Q19わさびの辛味成分アリルイソチオシアネートは、すりおろしたときに酵素の働きで生じる

この文のとおりです。

Q20カロテノイドは熱に非常に弱く、加熱するとすぐに分解する

正しくは:カロテノイドは熱に比較的強い。光や酸素による酸化で退色する

Q21バナナの香りの主な成分はリモネンである

正しくは:バナナは酢酸イソアミル。リモネンは柑橘類

Q22グレープフルーツの苦味成分はナリンギンである

この文のとおりです。

Q23渋柿の脱渋は、タンニンを取り除く処理である

正しくは:タンニンは取り除かれず、水に溶けない形に変わるため渋味を感じなくなる

Q24中華麺が黄色いのは、小麦粉のフラボノイドがかんすい(アルカリ)で黄色くなるためである

この文のとおりです。

Q25レモンなど柑橘類の香りの主な成分はリモネンである

この文のとおりです。(テルペン類)

Q26フラボノイドは、アルカリ性で赤色になる

正しくは:フラボノイドはアルカリ性で黄色になる(中華麺、重曹入りの生地)

Q27コーヒーに砂糖を入れると苦味が弱まるのは、対比効果である

正しくは:抑制効果
結果:

まとめ

食品の色は、主に4つの色素によって生まれる。脂溶性のカロテノイド(黄〜赤:β-カロテン、リコピン、ルテイン、アスタキサンチン)は熱に比較的強く、光や酸素で退色する。脂溶性のクロロフィル(緑)は中心にマグネシウムを持ち、酸で黄褐色のフェオフィチンに、アルカリで鮮やかな緑になる。水溶性のアントシアニン(赤〜青)は、酸性で赤、アルカリ性で青になり、鉄やアルミニウムで色が安定する。水溶性のフラボノイド(無色〜淡黄)は、アルカリ性で黄色になる。

味の基本は、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の五基本味で、辛味・渋味・えぐ味は含まれない。うま味は、こんぶのグルタミン酸、かつお節のイノシン酸、干ししいたけのグアニル酸、貝のコハク酸が代表である。味は互いに影響し合い、対比(塩で甘味が強まる)、抑制(砂糖で苦味が弱まる)、相乗(グルタミン酸+イノシン酸)などの効果がある。甘味は冷たいと弱く感じる。

香りは揮発性の成分で、柑橘のリモネン、バナナの酢酸イソアミル、バニラのバニリン、桜の葉のクマリン、魚の生臭さのトリメチルアミンなどがある。まつたけのマツタケオールとケイ皮酸メチルは別の物質である。わさびやにんにくのように、細胞が壊れて酵素が働くことで生まれる香りもある。

菓子づくりでは、pHによる色の変化、塩による甘味の対比、温度による甘味の感じ方の違い、香りの揮発しやすさを理解することが、見た目と味わいの完成度を高める。次章では、焼き色や劣化など、食品の成分が変化するしくみを学ぶ。

※ 本書は、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年、令和7年度の食料自給率(令和8年8月公表)、令和8年4月施行の改正食品表示基準にもとづいています。

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