食品学 第二部 食品の種類のはなし
砂糖・甘味料、調味料・香辛料、嗜好飲料
はじめに
第二部の最後に取り上げるのは、食事の主役ではないが、味と香りを決める食品である。
砂糖は、菓子の甘味の主役である。しかし砂糖の役割は甘くすることだけではない。水を抱えて日持ちをよくし、でんぷんの老化を遅らせ、卵の泡を安定させ、焼き色をつけ、煮詰めればあめにもなる。砂糖には精製度や結晶の大きさの違う多くの種類があり、さらに、はちみつ、水あめ、糖アルコール、高甘味度甘味料など、さまざまな甘味料がある。
調味料と香辛料は、少量で食品の味と香りを大きく変える。菓子では、ひとつまみの塩、バニラやシナモンの香りが、仕上がりの印象を左右する。嗜好飲料である茶・コーヒー・ココア・酒類は、それ自体を楽しむだけでなく、抹茶や紅茶の菓子、チョコレート菓子、洋酒の香りを生かした菓子の材料として欠かせない。
本章では、これらの食品の原料・製法・成分の特徴を整理する。菓子の中での砂糖や洋酒の具体的な働きは、製菓理論の本で詳しく扱う。
1. 砂糖
1-1. 砂糖の原料
砂糖の主成分はショ糖(スクロース)である。ショ糖は、ブドウ糖と果糖が結合した二糖類で、還元性を持たない(第3章参照)。砂糖は、主に次の2つの植物からつくられる。
| 原料 | 特徴 | 日本での産地 |
|---|---|---|
| さとうきび(甘しょ) | イネ科の多年草。茎の汁にショ糖を含む。暖かい地域で育つ | 沖縄県、鹿児島県の南西諸島 |
| てん菜(甜菜、ビート、砂糖大根) | ヒユ科の植物。根にショ糖を蓄える。寒い地域で育つ | 北海道 |
さとうきびからつくった砂糖と、てん菜からつくった砂糖は、精製すると成分はほとんど同じになる。日本で消費される砂糖の多くは、海外から輸入した原料糖(粗糖)を国内で精製したものである。砂糖類の品目別自給率(カロリーベース)は約33%(令和7年度)である(第14章参照)。
1-2. 砂糖の製法
さとうきびは、産地の工場で汁をしぼり、石灰などで不純物を除いて煮詰め、結晶を取り出して原料糖(粗糖)にする。原料糖は、精製糖工場に運ばれ、結晶の表面を洗い、溶かし、不純物をろ過し、活性炭などで色を除いてから、再び煮詰めて結晶させる。結晶を取り出したあとに残る液を糖蜜という。
てん菜は、北海道の工場で根を細かく切り、温水でショ糖を溶かし出して、精製・結晶化までを一貫して行う。
1-3. 砂糖の種類
砂糖は、結晶と糖蜜を分けるかどうかによって、分蜜糖と含蜜糖に分けられる。
分蜜糖(精製糖など)
結晶と糖蜜を分離してつくる砂糖である。
| 分類 | 種類 | 特徴 | 菓子での用途 |
|---|---|---|---|
| ハードシュガー(ざらめ糖) | グラニュー糖 | 純度が高く(ショ糖99.9%以上)、結晶が小さめでさらさらしている。くせのない甘さ | 洋菓子全般、メレンゲ、シロップ |
| ハードシュガー | 白双糖(しろざら) | 結晶が大きく、純度が高い | 綿菓子、ゼリー、高級和菓子、果実酒 |
| ハードシュガー | 中双糖(ちゅうざら) | 結晶が大きく、黄褐色(表面にカラメルをかけたもの) | カステラの底、煮物 |
| ソフトシュガー(車糖) | 上白糖 | 結晶が細かく、転化糖液(ビスコ)をかけてあるためしっとりしている。日本で最も多く使われる | 和菓子、家庭の料理 |
| ソフトシュガー | 三温糖 | 上白糖をとったあとの糖液を、加熱を繰り返して煮詰めたもの。黄褐色で、こくと独特の風味がある | 煮物、佃煮、和菓子 |
| 加工糖 | 角砂糖 | グラニュー糖を固めたもの | 飲みもの |
| 加工糖 | 氷砂糖 | 大きな結晶に育てたもの。溶けるのが遅い | 果実酒 |
| 加工糖 | 粉糖(粉砂糖) | グラニュー糖を細かく粉砕したもの。固まりを防ぐためにコーンスターチを加えたものもある | アイシング、仕上げ、クッキー |
| 加工糖 | 顆粒状糖 | 溶けやすくした顆粒 | 飲みもの |
三温糖の茶色は、糖蜜を除いていないためではなく、加熱を繰り返す間にできたカラメルの色である。三温糖は分蜜糖であり、黒糖のようにミネラルを多く含むわけではない。
上白糖は、表面の転化糖(ブドウ糖と果糖)のため、グラニュー糖より焼き色がつきやすく、しっとり仕上がる。
含蜜糖
糖蜜を分けずに、さとうきびの汁をそのまま煮詰めて固めた砂糖である。
| 種類 | 特徴 | 菓子での用途 |
|---|---|---|
| 黒糖(黒砂糖) | さとうきびのしぼり汁を煮詰めて固めたもの。ミネラル(カリウム・カルシウム・鉄)が多く、独特の濃い風味がある | 黒糖まんじゅう、かりんとう、黒蜜 |
| 和三盆 | 香川県・徳島県で伝統的な方法でつくる。さとうきび(竹糖)の汁を煮詰めたものを、水を加えて練り、重しをかけて糖蜜を抜く工程を繰り返してつくる。きめが細かく、口どけがよい上品な甘さ | 干菓子、高級和菓子 |
| きび砂糖など | 精製の途中の糖液を煮詰めたもので、ほどよくミネラルと風味を残す | 焼き菓子 |
1-4. 砂糖の性質
砂糖は、菓子の中でさまざまな働きをする。ここでは、食品学で学んだ性質との関係を整理し、詳しい働きは製菓理論の本で扱う。
| 性質 | 内容 | 関連する章 |
|---|---|---|
| 甘味 | ショ糖の甘味は温度によって変わりにくく、甘味の基準となる | 第3章 |
| 溶けやすさ | 非常に溶けやすい。20℃の水100gに約200gが溶ける | — |
| 保水性・吸湿性 | 水を引きつけて離さない。しっとり感を保ち、乾燥を防ぐ | 第2章 |
| 防腐性 | 水分活性を下げて微生物の増殖を抑える(ジャム、ようかん) | 第2章 |
| でんぷんの老化防止 | 求肥・カステラがかたくなりにくい | 第3章 |
| たんぱく質の凝固を遅らせる | プリンをなめらかに固める | 第9章 |
| 泡の安定 | メレンゲの泡を安定させる | 第9章 |
| ペクチンのゲル化 | 高メトキシルペクチンのゲルをつくる | 第8章 |
| 焼き色・香り | 加熱で一部が分解し、メイラード反応やカラメル化に加わる | 第5章 |
| 結晶化 | 煮詰めた糖液を冷やしたりかき混ぜたりすると、再び結晶になる(フォンダン、すり蜜) | 第5章 |
1-5. 転化
ショ糖を酸とともに加熱したり、酵素インベルターゼを作用させたりすると、ブドウ糖と果糖に分解される。これを転化といい、できたものを転化糖という(第3章参照)。シロップにレモン汁や酒石酸を加えて煮詰めると、ショ糖の一部が転化して、結晶化しにくくなる。
2. その他の甘味料
2-1. はちみつ
はちみつは、みつばちが花のみつを集め、体内の酵素で分解・濃縮したものである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 成分 | 水分約18%。糖の大部分は果糖とブドウ糖(転化糖に近い) |
| 甘味 | 果糖が多いため、砂糖より甘く感じられることが多い |
| 色と香り | 花の種類(れんげ、アカシア、そば、百花など)によって色・香り・味が大きく異なる |
| 結晶化 | 気温が低くなる(15℃前後以下)と、ブドウ糖が結晶して白く固まる。品質の劣化ではなく、湯せん(40℃前後)で温めると溶ける |
| 注意 | 1歳未満の乳児には与えない(乳児ボツリヌス症の原因になることがある。栄養学・食品衛生学の本を参照) |
はちみつは、成分表では「砂糖及び甘味類」に分類される(第1章参照)。果糖とブドウ糖は還元糖であるため、焼き菓子に加えると焼き色が濃くなり、吸湿性によってしっとり仕上がる(カステラ、どら焼き)。
2-2. 水あめ
水あめは、でんぷんを酸や酵素で分解(糖化)してつくる、粘りのある甘味料である。
| 種類 | 製法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 酸糖化水あめ | でんぷんを酸で分解 | — |
| 酵素糖化水あめ | でんぷんをアミラーゼで分解 | 現在の主流 |
| 麦芽水あめ | 麦芽のアミラーゼで米やいものでんぷんを分解 | 昔ながらの製法。麦芽糖が多い |
水あめは、ブドウ糖、麦芽糖、オリゴ糖、デキストリンなどの混合物で、甘味は砂糖より弱い。つやを出し、砂糖の結晶化を防ぎ、保湿性が高いため、ようかん、あめ、求肥、ジャム、焼き菓子のしっとり感に使われる。
2-3. 異性化糖
異性化糖は、でんぷんを分解してつくったブドウ糖液に、酵素(異性化酵素)を作用させて、ブドウ糖の一部を果糖に変えた液状の糖である。安価で、冷やすと甘味が強くなるため、清涼飲料水や冷菓に多く使われる。果糖の割合によって、「ぶどう糖果糖液糖」(果糖50%未満)、「果糖ぶどう糖液糖」(果糖50%以上90%未満)、「高果糖液糖」(果糖90%以上)と呼び分けられる。
2-4. メープルシロップ
メープルシロップは、サトウカエデなどの樹液を煮詰めたもので、主成分はショ糖である。カナダが主な産地。煮詰める間のメイラード反応やカラメル化によって、独特の色と香りが生まれる。
2-5. 糖アルコール
糖アルコールは、糖を還元してつくる甘味料である(第3章参照)。
| 糖アルコール | 甘味度(ショ糖=1) | 特徴 |
|---|---|---|
| ソルビトール | 約0.6 | 果実(りんご・なしなど)にも含まれる。保湿性が高い |
| マルチトール(還元麦芽糖) | 約0.8〜0.9 | 砂糖に近い甘さと性質 |
| キシリトール | 約1.0 | 口に入れると清涼感(ひんやり感)がある。むし歯予防のガム |
| エリスリトール | 約0.7〜0.8 | 果実や発酵食品にも含まれる。体内でほとんど利用されず、エネルギーはほぼ0 |
| 還元水あめ | — | 水あめを還元したもの |
糖アルコールの共通の特徴は次のとおりである。
- むし歯の原因になりにくい
- 血糖値を上げにくく、エネルギーが砂糖より低い
- 還元性がないため、メイラード反応による焼き色がつきにくい
- 一度に多くとると、おなかがゆるくなることがある
2-6. オリゴ糖とトレハロース
オリゴ糖(フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖など)は、消化されにくく、腸内のビフィズス菌を増やす働きがある。トレハロースは、甘味がショ糖の約半分で、でんぷんの老化やたんぱく質の変性を抑える働きが強く、餅やあん、生菓子の品質保持に使われる。
2-7. 高甘味度甘味料
ごく少量で強い甘味を持つ甘味料を高甘味度甘味料という。エネルギーをほとんど持たないため、低カロリー食品に使われる。
| 甘味料 | 由来 | 甘味度の目安(ショ糖=1) |
|---|---|---|
| ステビア(ステビオシドなど) | キク科ステビアの葉(天然) | 約200〜300倍 |
| 甘草(グリチルリチン) | マメ科カンゾウの根(天然) | 約150〜250倍 |
| アスパルテーム | 2種類のアミノ酸から合成 | 約200倍 |
| アセスルファムカリウム | 合成 | 約200倍 |
| スクラロース | ショ糖からつくる | 約600倍 |
高甘味度甘味料は、甘味をつけることはできるが、砂糖が持つ保水性・防腐性・焼き色・ボリュームなどの性質は持たない。そのため、菓子で砂糖をそのまま置きかえることはむずかしい。アスパルテームを使った食品には、アミノ酸の一種フェニルアラニンを含む旨の表示が必要である。食品添加物としての扱いは、食品衛生学の本(準備中)で扱う。
3. 調味料
3-1. 食塩
食塩の主成分は塩化ナトリウムである。海水からつくる塩と、岩塩がある。精製塩は塩化ナトリウムが99%以上で、自然塩と呼ばれるものには、にがり成分(マグネシウムなど)が残っているものがある。
菓子では、量はわずかでも、甘味を引き立てる(対比効果、第4章参照)、グルテンを引きしめる(第6章参照)、風味を引き締めるなどの働きをする。
3-2. しょうゆ
しょうゆは、大豆と小麦でつくった麹(こうじかび)に食塩水を加えたもろみを、発酵・熟成させてしぼったものである。発酵には、こうじかび、酵母、乳酸菌がかかわる(第12章参照)。日本農林規格(JAS)では、次の5種類に分けられる。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| こいくちしょうゆ | 生産量の約8割を占める。色・香り・味のバランスがよい |
| うすくちしょうゆ | 色が淡い。関西で多く使われる。色は薄いが、食塩はこいくちより多い |
| たまりしょうゆ | 主に大豆でつくる。とろみとうま味が強い。中部地方 |
| さいしこみしょうゆ | 食塩水の代わりにしょうゆで仕込む。色・味が濃い |
| しろしょうゆ | 主に小麦でつくる。色が非常に淡い |
しょうゆの色は、熟成中のメイラード反応による(第5章参照)。みたらし団子のたれ、せんべいの味付け、和菓子の隠し味に使われる。
3-3. みそ
みそは、蒸した大豆に、麹と食塩を加えて発酵・熟成させたものである。麹の原料によって、米みそ(最も多い)、麦みそ、豆みそ(大豆だけでつくる。八丁みそなど)に分けられる。色は、熟成の期間や温度によって淡色から赤色まで変わり、これもメイラード反応による。白みそ(西京みそなど)は、麹が多く塩分が少ないため、甘みが強い。和菓子では、みそ松風、柏餅のみそあん、くるみゆべしなどに使われる。
3-4. 食酢
食酢は、主成分の酢酸(約4〜5%)を含む酸味の調味料である。
| 種類 | 製法 |
|---|---|
| 醸造酢 | 穀物や果実を、酵母でアルコール発酵させたあと、酢酸菌で酢酸発酵させたもの。米酢、穀物酢、りんご酢、ぶどう酢(ワインビネガー)、バルサミコ酢 |
| 合成酢 | 酢酸を薄めて調味したもの(現在は少ない) |
3-5. みりん
本みりんは、蒸したもち米と米麹を、焼酎(アルコール)の中で熟成させたもので、アルコールを約14%、糖分を多く含む。酒類として酒税法の対象になる。上品な甘味とてり、つやを与え、煮くずれを防ぐ。アルコール分の少ない「みりん風調味料」は、酒類ではない。
3-6. その他の調味料
| 調味料 | 内容 |
|---|---|
| うま味調味料 | グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウムなど(第4章参照) |
| 風味調味料 | かつお節・こんぶなどの粉末やエキスにうま味調味料などを加えたもの(顆粒だし) |
| ソース | ウスターソース、中濃ソース、とんかつソース |
| トマトケチャップ | トマトの濃縮物に砂糖・酢・食塩・香辛料を加えたもの |
| マヨネーズ | 卵黄(または全卵)、植物油、食酢を乳化させたもの(O/W型、第9章参照) |
4. 香辛料
4-1. 香辛料の働き
香辛料(スパイス)は、植物の種子、果実、花、つぼみ、葉、樹皮、根などを乾燥させたもので、少量で食品に香り・辛味・色を与える。葉を使うものを特にハーブと呼ぶことが多い。
| 働き | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 香りづけ(賦香) | よい香りをつける | バニラ、シナモン、ナツメグ、クローブ、カルダモン |
| 辛味づけ | 辛味をつけ、食欲を増す | こしょう、唐辛子、しょうが、からし、わさび、山椒 |
| 着色 | 色をつける | サフラン、ターメリック、パプリカ、くちなし |
| 臭み消し(矯臭) | 肉や魚の臭みを消す | しょうが、にんにく、ローリエ、ナツメグ |
4-2. 菓子に使われる主な香辛料
| 香辛料 | 使う部分 | 主な成分・特徴 | 菓子の例 |
|---|---|---|---|
| バニラ | ラン科の植物のさや(種子のさや) | 緑色のさやを収穫し、発酵・乾燥(キュアリング)を繰り返すことで、香りの成分バニリンが生じる。マダガスカル産が有名 | カスタード、アイスクリーム、焼き菓子 |
| シナモン | クスノキ科の木の樹皮 | シンナムアルデヒド。セイロンシナモンとカシアがある | アップルパイ、シナモンロール、八つ橋(ニッキ) |
| ナツメグ・メース | 同じ木の種子(ナツメグ)と、種子を包む赤い膜(メース) | 甘く刺激のある香り | 焼き菓子、プディング、肉料理 |
| クローブ | フトモモ科の木のつぼみ | オイゲノール。甘く強い香り | スパイスケーキ、焼きりんご |
| カルダモン | ショウガ科の植物の種子 | さわやかな香り。「香りの王様」とも呼ばれる | 北欧の菓子パン、チャイ |
| アニス・スターアニス(八角) | 果実 | アネトール。甘い香り | 焼き菓子、リキュール |
| ジンジャー | 根茎 | ジンゲロール(第4章参照) | ジンジャーブレッド、ジンジャークッキー |
| オールスパイス | 果実 | シナモン・クローブ・ナツメグを合わせたような香り | スパイスケーキ |
| サフラン | アヤメ科の花のめしべ | 水溶性の黄色の色素クロシン。非常に高価 | サフランパン、着色 |
| ポピーシード(けしの実) | 種子 | 香ばしい | あんパンの飾り、焼き菓子 |
| ミント | 葉 | メントール(清涼感) | チョコレート、デザートの飾り |
くちなしの実の黄色い色素もサフランと同じクロシンで、栗きんとんやたくあんの黄色をつけるのに使われる。
香辛料の香りの成分は揮発性で、光・熱・空気で失われやすい。ホール(形のまま)は香りが長持ちし、パウダー(粉末)は香りが早く失われる。密閉して冷暗所で保存する。
5. 嗜好飲料
5-1. 茶
緑茶、ウーロン茶、紅茶は、どれも同じチャノキ(ツバキ科)の葉からつくられる。違いは、茶葉に含まれる酸化酵素を働かせるかどうか、つまりカテキン類をどの程度酸化させるか(茶の世界ではこれを「発酵」と呼ぶ)による(第5章参照)。
| 分類 | 製法 | 種類 | 色 |
|---|---|---|---|
| 不発酵茶 | 摘んだ葉をすぐに加熱(蒸す・炒る)して酵素を失活させる | 緑茶(煎茶、玉露、かぶせ茶、てん茶・抹茶、番茶、ほうじ茶、釜炒り茶) | 緑(クロロフィル) |
| 半発酵茶 | 酸化を途中で止める | ウーロン茶、包種茶 | 黄〜褐色 |
| 発酵茶 | 葉をもんで細胞を壊し、十分に酸化させる | 紅茶 | 紅〜褐色(テアフラビン、テアルビジン) |
| 後発酵茶 | 加熱して酵素を止めたあと、微生物で発酵させる | プーアル茶、碁石茶 | 褐色 |
紅茶やウーロン茶の「発酵」は、茶葉自身の酵素による酸化であり、微生物による発酵ではない。微生物による発酵を行うのは、プーアル茶などの後発酵茶だけである。
茶の主な成分は次のとおりである。
| 成分 | 味・働き | 多い茶 |
|---|---|---|
| カテキン類(タンニン) | 渋味。抗酸化作用 | 煎茶、番茶 |
| カフェイン | 苦味。興奮作用 | 玉露、抹茶(若い芽に多い) |
| テアニン | うま味・甘味(アミノ酸の一種) | 玉露、抹茶(日光を遮って育てると多くなる) |
| ビタミンC | — | 緑茶(紅茶は製造中にほとんど失われる) |
| クロロフィル | 緑色 | 抹茶、玉露 |
抹茶は、茶摘みの前に覆いをかけて日光を遮って育てた茶葉を、蒸して、もまずに乾燥させ(てん茶)、石臼で細かく挽いたものである。日光を遮ることで、うま味のテアニンが多く、渋味のカテキンが少なくなり、クロロフィルが増えて鮮やかな緑色になる。ほうじ茶は、番茶や煎茶を強く焙煎したもので、香ばしい香りがあり、カフェインが少なめである。
5-2. コーヒー
コーヒーは、アカネ科のコーヒーノキの種子(コーヒー豆)を焙煎し、粉にして湯で抽出したものである。主な品種に、香りと酸味にすぐれたアラビカ種と、苦味が強く病気に強いロブスタ種(カネフォラ種)がある。
| 成分 | 特徴 |
|---|---|
| カフェイン | 苦味。焙煎しても大きくは減らない |
| クロロゲン酸 | ポリフェノール。渋味・酸味。焙煎すると分解されて減る |
| トリゴネリン | 苦味。焙煎で分解されて香りの成分になる |
| 焙煎でできる成分 | メイラード反応やカラメル化による褐色と香り(第5章参照) |
焙煎が浅いと酸味が強く、深いと苦味が強くなる。インスタントコーヒーは、抽出液を噴霧乾燥や凍結乾燥(フリーズドライ)で粉にしたものである。
5-3. ココアとチョコレート
カカオは、アオイ科(旧分類ではアオギリ科)のカカオノキの種子(カカオ豆)である。
カカオ豆からココアとチョコレートができるまでの流れは、次のとおりである。
- 発酵:カカオの実を割り、種子を果肉ごと積み重ねて数日間置く。果肉の糖を微生物(酵母・乳酸菌・酢酸菌)が発酵させ、その熱と酸で種子の中の成分が変化し、チョコレートらしい香りのもとと色ができ、渋味が減る
- 乾燥:天日などで乾燥させて輸出する
- 焙煎:香りと色を引き出す(メイラード反応)
- 皮を除いて砕いたものがカカオニブ
- カカオニブをすりつぶしたものがカカオマス(脂質が約半分以上)
- カカオマスをしぼると、カカオバター(脂)と、しぼりかす(ココアケーキ)に分かれる。ココアケーキを粉にしたものがココアパウダー
- カカオマスに、砂糖、カカオバター、(乳製品)を加えて練り上げたものがチョコレート
ココアパウダーには、アルカリで処理して色を濃くし、酸味をやわらげ、水に分散しやすくしたもの(ダッチプロセス)がある。
カカオの苦味の主な成分はテオブロミンで、カフェインも少量含む(第4章参照)。カカオバターは、常温ではかたく、体温付近で一気に溶ける性質を持つ(第10章参照)。チョコレートを美しく固めるためのテンパリング(温度調整)は、カカオバターの結晶の形をそろえる作業であり、製菓理論の本で扱う。
5-4. 酒類
酒類は、酒税法で、アルコール分1度(1%)以上の飲料と定められている。製造方法によって、次の3つに分けられる。
| 分類 | 製法 | 例 |
|---|---|---|
| 醸造酒 | 原料を発酵させて、そのまま、またはこしてつくる | 清酒(日本酒)、ビール、ワイン |
| 蒸留酒 | 醸造酒やもろみを蒸留して、アルコール分を高めたもの | 焼酎、ウイスキー、ブランデー、ラム、ウォッカ、ジン |
| 混成酒 | 醸造酒や蒸留酒に、果実・香料・糖類などを加えたもの | リキュール、梅酒、本みりん |
醸造酒は、原料の違いによって、発酵のしかたが異なる。
| 発酵のしかた | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 単発酵 | 原料に糖が含まれ、酵母がそのままアルコール発酵する | ワイン(ぶどうの糖) |
| 単行複発酵 | でんぷんを先に糖化し、そのあとでアルコール発酵させる | ビール(麦芽のアミラーゼで糖化) |
| 並行複発酵 | 糖化とアルコール発酵を同じ容器の中で同時に進める | 清酒(こうじかびが糖化し、酵母が発酵) |
5-5. 菓子に使われる洋酒
洋菓子では、香りづけや風味の強化のために、さまざまな洋酒が使われる。
| 洋酒 | 分類 | 原料・特徴 | 菓子の例 |
|---|---|---|---|
| ブランデー | 蒸留酒 | ぶどうなどの果実の酒を蒸留し、樽で熟成させたもの。コニャック(フランス)が有名 | フルーツケーキ、ガナッシュ |
| カルヴァドス | 蒸留酒 | りんごのブランデー(フランス・ノルマンディー地方) | りんごの菓子 |
| キルシュ(キルシュヴァッサー) | 蒸留酒 | さくらんぼを発酵させて蒸留した無色透明の酒 | シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ、フルーツの菓子 |
| ラム | 蒸留酒 | さとうきびの糖蜜やしぼり汁を発酵・蒸留したもの | サバラン、ラムレーズン、フルーツケーキ |
| グラン・マルニエ | 混成酒(リキュール) | コニャックにオレンジの香りをつけたもの | オレンジの菓子、クレープ・シュゼット |
| コアントロー | 混成酒(リキュール) | オレンジの皮でつくる無色のリキュール(ホワイトキュラソー) | オレンジの菓子 |
| アマレット | 混成酒(リキュール) | 杏仁(あんずの種)などで香りをつけた、アーモンドのような香りのリキュール | ティラミス、焼き菓子 |
| カルーア | 混成酒(リキュール) | コーヒーのリキュール | ティラミス、コーヒーの菓子 |
| クレーム・ド・カシス | 混成酒(リキュール) | カシス(黒すぐり)のリキュール | ムース、ゼリー |
洋酒のアルコールは、加熱しても完全には飛ばないことがある。特に、焼成後にシロップとして打つ(しみこませる)場合や、加熱せずに加える場合は、アルコールがそのまま残る。洋酒を使った菓子は、子どもや妊娠中の人、車を運転する人などに配慮し、使っていることを伝えることが大切である。
6. 製菓とのつながり
6-1. 砂糖を選ぶ
洋菓子では、くせがなく溶けやすいグラニュー糖が基本である。メレンゲやシロップは、グラニュー糖を使うと澄んだ甘さに仕上がる。和菓子では、しっとりとした上白糖が多く使われ、カステラやどら焼きでは、上白糖の転化糖とはちみつ・水あめの還元糖が、焼き色としっとり感を生む。白双糖は、雑味のない上品な甘さが求められる錦玉や高級和菓子に、黒糖・和三盆は、それぞれの風味そのものを味わう菓子に使われる。
6-2. 甘味料で配合を工夫する
砂糖の一部を水あめや転化糖に置きかえると、結晶化を防ぎ、しっとり感を長く保てる。トレハロースは、餅やあんのかたくなるのを防ぐ。糖アルコールや高甘味度甘味料を使えば、エネルギーを抑えた菓子をつくれるが、焼き色、ボリューム、保存性などが変わるため、配合全体の見直しが必要になる。
6-3. 香りで印象を決める
バニラ、シナモン、ナツメグ、クローブ、カルダモン、ジンジャーなどの香辛料、抹茶・紅茶・ほうじ茶・コーヒー・ココアなどの嗜好飲料、ブランデー・ラム・キルシュ・オレンジのリキュールなどの洋酒は、菓子の印象を決める香りの素材である。香りの成分は揮発しやすいため、加えるタイミング(加熱の最後、冷ましてから)と保存方法に注意する。
6-4. ひとつまみの塩
キャラメル、あんこ、チョコレート、クッキーなどに少量の塩を加えると、甘味が引き立ち、味が引き締まる(対比効果)。しょうゆやみそも、みたらし団子やみそ松風のように、和菓子の味の要素として使われる。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1酒税法では、アルコール分1度以上の飲料を酒類という
Q2サフランとくちなしの黄色の色素は、どちらもクロシンである
Q3はちみつの糖の大部分は、果糖とブドウ糖である
Q4黒糖は、結晶と糖蜜を分離してつくる分蜜糖である
Q5三温糖は、糖蜜を多く含むため、黒糖と同じくミネラルが多い
Q6抹茶は、日光を遮って育てた茶葉からつくるため、テアニンが多く、カテキンが少ない
Q7砂糖は、さとうきびとてん菜からつくられ、精製すれば成分はほとんど同じである
Q8ブランデーは、さとうきびを原料とする蒸留酒である
Q9分蜜糖には、グラニュー糖、上白糖、三温糖、白双糖などがある
Q10うすくちしょうゆは、色が淡いので、こいくちしょうゆより塩分が少ない
Q11はちみつが白く固まるのは、品質が劣化したためである
Q12グラニュー糖は、転化糖液をかけてしっとりさせた砂糖である
Q13紅茶の発酵は、微生物の働きによるものである
Q14はちみつは、1歳未満の乳児にも安心して与えることができる
Q15てん菜は、主に沖縄県で栽培される砂糖の原料である
Q16バニラの香りの主な成分バニリンは、さやを発酵・乾燥させる過程で生じる
Q17カカオマスをしぼると、カカオバターとココアの原料(ココアケーキ)に分かれる
Q18キルシュは、オレンジを原料とするリキュールである
Q19水あめは、でんぷんを酸や酵素で分解してつくる
Q20茶のうま味成分はカテキンである
Q21清酒は、単行複発酵によってつくられる
Q22キシリトールは、むし歯の原因になりにくい糖アルコールで、口に入れると清涼感がある
Q23上白糖は、グラニュー糖より焼き色がつきにくい
Q24カカオの主な苦味成分はカフェインである
Q25砂糖の主成分はブドウ糖である
Q26糖アルコールは還元糖であるため、焼き菓子に使うとよく焼き色がつく
Q27緑茶、ウーロン茶、紅茶は、それぞれ異なる植物の葉からつくられる
まとめ
砂糖の主成分はショ糖で、さとうきび(沖縄・鹿児島)とてん菜(北海道)からつくられる。糖蜜を分ける分蜜糖には、さらさらで純度の高いグラニュー糖、転化糖液でしっとりした上白糖、カラメルで色づいた三温糖、結晶の大きい白双糖、粉糖、氷砂糖などがあり、糖蜜を分けない含蜜糖には、ミネラルの多い黒糖、きめ細かな和三盆がある。砂糖は甘味だけでなく、保水性・防腐性・老化防止・泡の安定など多くの働きを持つ。
はちみつは果糖とブドウ糖が主で、低温でブドウ糖が結晶する。1歳未満の乳児には与えない。水あめはでんぷんの分解物でつやと保湿を与え、異性化糖はブドウ糖の一部を果糖に変えたものである。糖アルコールは、むし歯になりにくく、エネルギーが低いが、焼き色がつきにくい。高甘味度甘味料は少量で強い甘味を持つが、砂糖のほかの働きは持たない。
調味料では、しょうゆ(こいくち・うすくちは塩分が多い・たまり・さいしこみ・しろ)、みそ、食酢(酢酸菌)、本みりんが発酵によってつくられる。香辛料は香り・辛味・色・臭み消しの働きを持ち、菓子ではバニラ(キュアリングでバニリン)、シナモン、ナツメグ、クローブ、カルダモン、サフラン(クロシン)が重要である。
茶は同じチャノキから、酸化させない緑茶、途中で止めるウーロン茶、十分に酸化させる紅茶がつくられ、この「発酵」は酵素による酸化である。茶のうま味はテアニン、渋味はカテキン、苦味はカフェインである。カカオは微生物で発酵させてから焙煎し、カカオマス・カカオバター・ココアパウダーになる。苦味はテオブロミン。酒類はアルコール分1度以上の飲料で、醸造酒・蒸留酒・混成酒に分けられ、清酒は並行複発酵でつくられる。菓子の洋酒では、ブランデー(ぶどう)、ラム(さとうきび)、キルシュ(さくらんぼ)を区別して覚える。
第二部はここまでとし、次章からは第三部として、食品の加工と保存、表示、食料の生産と消費を学ぶ。
※ 本書は、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年、令和7年度の食料自給率(令和8年8月公表)、令和8年4月施行の改正食品表示基準にもとづいています。

