食品学 第一部 食品の成分のはなし
成分の変化と食品の変質
はじめに
食品は、つくられた瞬間から変化を始める。切ったりんごは茶色くなり、焼いた生地には香ばしい焼き色がつき、ナッツは古くなると油くさくなり、生菓子はやがて腐る。これらの変化には、食品にとって望ましい変化と望ましくない変化がある。
焼き色や香ばしい香り、チーズや発酵バターの風味は、人が積極的に利用する変化である。一方、変色、油の劣化、腐敗は、品質を落とし、ときに健康を害する変化である。しかし、両者は別々のしくみで起こるのではない。同じメイラード反応が、焼き菓子では焼き色を生み、粉乳では褐色の劣化を生む。同じ微生物の働きが、ある食品では発酵となり、別の食品では腐敗となる。
本章では、食品の成分が変化するしくみを、褐変、脂質の変化、微生物による変質、酵素による変化、物理的な変化の順に学ぶ。変化のしくみを知ることは、望ましい変化を引き出し、望ましくない変化を防ぐための基礎である。
1. 食品の変化の全体像
食品の変化は、その原因によって、次のように分けて考えることができる。
| 原因 | 主な変化 | 例 |
|---|---|---|
| 化学反応(酵素なし) | 非酵素的褐変、脂質の自動酸化 | 焼き色、カラメル、油の酸化 |
| 酵素 | 酵素的褐変、自己消化、成分の分解 | りんごの変色、肉の熟成、魚の鮮度低下 |
| 微生物 | 腐敗、変敗、発酵 | 生菓子の腐敗、ヨーグルト、みそ |
| 物理的な作用 | 乾燥・吸湿、結晶化、老化、凍結 | パンのぱさつき、チョコレートのブルーム、冷凍焼け |
実際の食品では、これらがいくつも同時に起こっている。
2. 褐変
食品が褐色に変わる現象を褐変という。褐変は、酵素が関与するかどうかによって、酵素的褐変と非酵素的褐変に分けられる。
| 分類 | 主な反応 | 生じる褐色物質 | 例 |
|---|---|---|---|
| 酵素的褐変 | ポリフェノールの酵素による酸化 | メラニン(メラニン様色素) | りんご・バナナ・ごぼうの切り口、紅茶 |
| 非酵素的褐変 | メイラード反応(アミノカルボニル反応) | メラノイジン | パン・焼き菓子の焼き色、みそ、しょうゆ |
| 非酵素的褐変 | カラメル化 | カラメル | カラメルソース、べっこう飴 |
| 非酵素的褐変 | アスコルビン酸(ビタミンC)の分解 | 褐色物質 | 果汁・ジャムの褐変 |
メラニン(酵素的褐変)とメラノイジン(メイラード反応)は名前が似ているため、試験でもよく入れかえて出題される。
2-1. 酵素的褐変
しくみ
りんごやバナナを切って置いておくと、切り口が褐色になる。これは、果実や野菜の細胞に含まれるポリフェノールが、ポリフェノールオキシダーゼなどの酸化酵素によって、空気中の酸素と反応して酸化され、褐色の物質(メラニン様色素)ができるためである。
生きた細胞の中では、ポリフェノールと酵素は別々の場所にあるため、反応は起こらない。切る、すりおろす、つぶすなどで細胞が壊れると、両者が出会い、さらに空気にふれることで褐変が始まる。
酵素的褐変に必要な3つの条件:ポリフェノール(基質)・酵素・酸素
| 食品 | ポリフェノール | 酵素 |
|---|---|---|
| りんご、なし、もも | クロロゲン酸、カテキン類 | ポリフェノールオキシダーゼ |
| ごぼう、れんこん、なす | クロロゲン酸など | ポリフェノールオキシダーゼ |
| バナナ | ドーパミンなど | ポリフェノールオキシダーゼ |
| じゃがいも | チロシン(アミノ酸) | チロシナーゼ |
| やまのいも | ポリフェノール類 | ポリフェノールオキシダーゼ |
防ぎ方
3つの条件のどれかを取り除くか、酵素の働きを抑えれば、酵素的褐変は防げる。
| 方法 | しくみ | 例 |
|---|---|---|
| 加熱する | 酵素を変性させて働きを失わせる(失活) | ゆでる、ブランチング |
| 酸を加える | pHを下げて酵素の働きを弱める。ビタミンCは酸化されたポリフェノールを元に戻す | レモン汁をかける |
| 食塩水につける | 食塩が酵素の働きを妨げる | りんごを薄い食塩水につける |
| 水につける | 空気(酸素)を断つ。ポリフェノールを水に溶け出させる | ごぼう・れんこんを水にさらす |
| 低温にする | 酵素の働きを遅くする | 冷蔵 |
| 空気を断つ | 酸素を除く | ラップで密着させる、真空包装 |
| 砂糖液につける | 酸素を断ち、酵素の働きを弱める | 果物のシロップ漬け |
利用される酵素的褐変
酵素的褐変は、望ましい変化として利用されることもある。紅茶は、茶葉をもんで細胞を壊し、茶葉自身の酵素でカテキン類を酸化させて、テアフラビン(橙赤色)やテアルビジン(赤褐色)をつくったものである。茶の製法では、この酸化を「発酵」と呼ぶが、微生物による発酵ではない。ウーロン茶はこの酸化を途中で止めたもの、緑茶は最初に加熱して酵素を失活させ、酸化させないものである(第11章参照)。
2-2. メイラード反応(アミノカルボニル反応)
しくみ
メイラード反応は、還元糖などのカルボニル化合物と、アミノ酸やたんぱく質などのアミノ化合物が反応し、多くの段階を経て、褐色の物質メラノイジンをつくる反応である。1912年にフランスのメイラードが報告したことから、この名がある。酵素は関与しない。
還元糖 + アミノ化合物(アミノ酸・たんぱく質)→ → → メラノイジン(褐色)+ 香気成分
メイラード反応では、色だけでなく、香ばしい香りも生まれる。反応の途中で、アミノ酸が分解されるストレッカー分解が起こり、アルデヒド類や、焼いた香りのもとになるピラジン類などが生じる。
| 食品 | メイラード反応による変化 |
|---|---|
| パン・焼き菓子 | 表面の焼き色と香ばしい香り |
| コーヒー・ナッツ・ごま | 焙煎による色と香り |
| みそ・しょうゆ | 熟成中に色が濃くなる |
| 肉の焼き色 | 表面の褐色と香り |
| 粉乳・乾燥卵 | 保存中に褐色になる(望ましくない変化) |
反応が進みやすい条件
| 条件 | 進み方 |
|---|---|
| 温度 | 高いほど速い。室温でもゆっくり進む |
| pH | アルカリ性ほど速く、酸性では遅い |
| 水分活性 | 中程度(約0.6〜0.8)で最も進みやすい。水が多すぎても少なすぎても遅い |
| 糖の種類 | 還元糖(ブドウ糖・果糖・麦芽糖・乳糖など)が反応する。単糖は二糖より反応しやすい。ショ糖は非還元糖のため、そのままではほとんど反応しない |
| アミノ化合物 | アミノ酸の種類によって、色や香りが変わる |
ショ糖(砂糖)だけの生地でも焼き色がつくのは、生地の中の卵・牛乳・小麦粉に含まれる還元糖や、加熱中にショ糖の一部が分解してできたブドウ糖と果糖が反応するためである。
メイラード反応のマイナス面
メイラード反応では、アミノ酸のリシンなどが反応に使われて減るため、たんぱく質の栄養価がわずかに下がる。また、炭水化物を多く含む食品を高温(約120℃以上)で焼いたり揚げたりすると、還元糖とアミノ酸の一種(アスパラギン)の反応からアクリルアミドという物質ができることが知られている。アクリルアミドは、とりすぎると健康への影響が心配されるため、ポテトチップスやビスケットなどでは、焼きすぎ・揚げすぎを避けるなどの低減の取り組みが行われている。
2-3. カラメル化
カラメル化は、糖だけを高温で加熱したときに起こる褐変である。アミノ化合物を必要としない点で、メイラード反応と区別される。
ショ糖を加熱すると、約160℃を超えたあたりから分解が進み、無色から淡い黄色、黄金色、褐色へと色づいていく。同時に、甘く香ばしい香り(フラン類など)が生じる。さらに加熱を続けると、苦味が強くなり、最後は黒く焦げる。
| 加熱の程度 | 色 | 味・用途 |
|---|---|---|
| 浅い | 淡い黄金色 | 甘味が強い。べっこう飴、アメ細工 |
| 中程度 | 明るい褐色 | 甘味と香ばしさ。カラメルソース |
| 深い | 濃い褐色 | 苦味が強い。ビターなカラメル、着色用のカラメル |
シロップの煮詰め温度と状態(糸状、ボール状、ハードクラック)については、製菓理論の本で扱う。
「肉や焼き菓子の焼き色はカラメル化による」という記述は誤りである。たんぱく質やアミノ酸を含む食品の焼き色は、主にメイラード反応による。
2-4. アスコルビン酸による褐変
ビタミンC(アスコルビン酸)は、酸化されて分解する過程で、褐色の物質をつくる。果汁やジャム、かんきつ類の加工品が、保存中に褐色になる原因の一つである。
3. 脂質の変化
油脂を含む食品は、保存中や加熱中に、においや味が悪くなる。これを油脂の酸敗(変敗)という。脂質の変化には、主に加水分解と酸化がある。
3-1. 加水分解
油脂(中性脂肪)は、水や熱、またはリパーゼという酵素の働きで分解され、遊離脂肪酸とグリセリンになる。遊離脂肪酸が増えると、酸価が上がり、においや味が悪くなる。バターは、酪酸などの短い鎖の脂肪酸を含むため、分解されると酸っぱいような強い不快臭(いわゆる「バターの酸敗臭」)が出る。
3-2. 自動酸化
自動酸化は、油脂の不飽和脂肪酸が、空気中の酸素と反応して酸化される現象で、光や熱がなくても、常温でゆっくりと連鎖的に進む。
自動酸化は、次のように進む。
- 誘導期:最初はほとんど変化がない時期。酸化防止剤があると長くなる
- 酸化の進行:いったん酸化が始まると、連鎖的に加速する。過酸化脂質(ヒドロペルオキシド)がたまる
- 分解:過酸化脂質が分解して、アルデヒドやケトンなどの低分子の物質ができ、不快なにおい(油やけ臭、古い油のにおい)が生じる
過酸化脂質やその分解物には、食べると腹痛や下痢などを起こすものもある。古い油で揚げた菓子や、長く保存した即席めんによる健康被害が過去に問題になったことがある。
自動酸化を進める要因と防ぎ方
| 進める要因 | 防ぎ方 |
|---|---|
| 酸素 | 密封、脱酸素剤、窒素ガスでの置換、真空包装 |
| 光(特に紫外線) | 遮光(色のついた容器、アルミ包装、暗所での保存) |
| 熱(温度が高い) | 低温で保存する |
| 金属(鉄・銅) | 金属の容器や器具を避ける |
| 不飽和脂肪酸が多い | 酸化しやすい油(魚油、亜麻仁油など)の扱いに特に注意する |
| 水分活性が極端に低い | 乾燥しすぎた食品は特に密封・脱酸素に注意する(第2章参照) |
| — | 酸化防止剤(ビタミンE=トコフェロール、ビタミンCなど)を使う |
植物油には、もともとビタミンE(トコフェロール)が含まれ、天然の酸化防止剤として働いている。
3-3. 加熱による劣化(揚げ油の劣化)
揚げ油を高温で繰り返し使うと、酸化に加えて、油の分子どうしがつながる重合や分解が起こり、次のような変化が現れる。
| 劣化した揚げ油の状態 | 内容 |
|---|---|
| 色が濃くなる | 褐色に着色する |
| 粘りが増す | 重合によって粘度が上がる |
| 泡が消えにくくなる | 揚げ種を入れたときの細かい泡がなかなか消えない |
| 煙が出やすくなる | 発煙する温度が下がる |
| においが悪くなる | 刺激臭、古い油のにおい |
| 酸価が上がる | 遊離脂肪酸が増える |
揚げ油は、使ったあとこして揚げかすを除き、ふたをして冷暗所に保存し、劣化したら新しい油に替える。
3-4. 油脂の劣化を調べる数値
| 数値 | 何を表すか | 劣化すると |
|---|---|---|
| 酸価(AV) | 遊離脂肪酸の量 | 上がる(加水分解・加熱劣化) |
| 過酸化物価(POV) | 過酸化脂質の量(酸化の初期) | 上がる(酸化が進むと一度上がり、分解が進むと下がることもある) |
| カルボニル価 | アルデヒドなどの量(酸化の後期) | 上がる |
油で揚げた菓子(油菓子)には、国の衛生上の指導の基準として、製品中の油脂の酸価と過酸化物価の上限が定められている(詳しくは食品衛生学の本(準備中)で扱う)。
4. 微生物などによる変質
4-1. 変質の用語
食品の成分が変化して、品質が下がったり、逆に人にとって有用なものになったりする現象には、次のような用語が使われる。
| 用語 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 腐敗 | 微生物の働きで、主にたんぱく質が分解され、悪臭や有害な物質ができる | 肉・魚・卵・クリームの腐敗 |
| 変敗 | 微生物などの働きで、主に炭水化物や脂質が変化し、食用に適さなくなる | ご飯がすっぱくなる、パンにカビが生える |
| 酸敗 | 油脂が酸化・加水分解して、不快なにおいや味が生じる(変敗の一種とすることもある) | 古いナッツ、古い揚げ菓子 |
| 発酵 | 微生物の働きで、人にとって有用なものができる | パン、ヨーグルト、みそ、酒 |
| 自己消化 | 微生物ではなく、食品自身が持つ酵素で成分が分解される | 肉の熟成、魚の鮮度低下、塩辛 |
腐敗と発酵は、微生物が食品の成分を分解するという点では同じ現象である。人にとって有用であれば「発酵」、有害または不快であれば「腐敗」「変敗」と呼び分けている。
4-2. 腐敗によってできる物質
| 物質 | もとになる成分 | 特徴 |
|---|---|---|
| アンモニア | アミノ酸 | 刺激臭 |
| アミン類(ヒスタミン、トリメチルアミンなど) | アミノ酸など | ヒスタミンはアレルギー様食中毒の原因。赤身魚で生じやすい |
| 硫化水素、メルカプタン | 硫黄を含むアミノ酸 | 卵の腐ったようなにおい |
| インドール、スカトール | トリプトファン | 糞便臭 |
ヒスタミンは、いったんできると加熱しても壊れない。腐敗の判定には、揮発性塩基窒素の量などが使われる。魚の鮮度の判定に使うK値については、第9章で学ぶ。
4-3. 自己消化と熟成
動物は死後、筋肉がかたくなり(死後硬直)、その後、筋肉自身の酵素(プロテアーゼなど)の働きで、たんぱく質が分解されてやわらかくなる。これが自己消化である。肉では、自己消化によってうま味成分(アミノ酸、イノシン酸)が増え、やわらかくおいしくなる。これを熟成という。一方、魚は自己消化が速く進み、鮮度の低下につながりやすい(第9章参照)。
5. 酵素による変化
食品に含まれる酵素は、さまざまな変化を起こす。
| 酵素 | 作用する成分 | 食品での変化 |
|---|---|---|
| アミラーゼ | でんぷん | さつまいもを加熱すると甘くなる、やまのいもの消化のよさ、パン生地の発酵を助ける |
| プロテアーゼ | たんぱく質 | 肉の熟成、パイナップル・キウイフルーツでゼラチンが固まらない |
| リパーゼ | 脂質 | 油脂の加水分解(米ぬかの酸敗、バターの劣化) |
| ポリフェノールオキシダーゼ | ポリフェノール | 酵素的褐変 |
| ペクチナーゼ | ペクチン | 果実が熟してやわらかくなる |
| アスコルビン酸オキシダーゼ | ビタミンC | きゅうり・にんじんをすりおろして混ぜると、ビタミンCが酸化される |
| リポキシゲナーゼ | 不飽和脂肪酸 | 大豆の青臭さ |
| ミロシナーゼ | 辛味成分のもと | わさび・からしの辛味の生成 |
| アリイナーゼ | 香気成分のもと | にんにく・玉ねぎの香りの生成 |
酵素は、作用する相手が決まっている(基質特異性)。「アミラーゼはたんぱく質を分解する」「プロテアーゼはでんぷんを分解する」のような組み合わせの入れかえは、試験でよく出る誤りである。
酵素はたんぱく質でできているため、加熱すると失活する。パイナップルやキウイフルーツをゼリーに使うときは、加熱するか缶詰の果実を使えば、ゼラチンが固まる。
6. 物理的な変化
成分の化学的な変化がなくても、食品の品質は物理的な変化によって下がる。
| 変化 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 乾燥 | 水分が失われ、かたくなる | 生菓子の表面の乾き、パンのぱさつき |
| 吸湿 | 空気中の水分を吸い、しける | クッキー・せんべいが湿気る、粉砂糖が固まる |
| でんぷんの老化 | 糊化したでんぷんが再びかたくなる(第3章) | 餅・求肥・パン |
| 砂糖の結晶化 | 溶けていた砂糖が再び結晶になる | フォンダンのつやが消える、ジャムやシロップのざらつき |
| ブルーム | チョコレートの表面が白くなる | 温度変化による油脂の結晶の変化(ファットブルーム)、湿気で溶けた砂糖の再結晶(シュガーブルーム) |
| 冷凍焼け | 冷凍中に氷が昇華して表面が乾燥し、脂質も酸化する | 冷凍した生地や肉の表面が白っぽくかさかさになる |
| 離水 | ゲルから水がにじみ出る(第3章) | ゼリー、ジャム、ヨーグルト |
冷凍焼けは、包装をしっかり密着させ、冷凍庫の扉の開け閉めによる温度の変化を少なくすることで防ぐ。チョコレートのブルームについては、製菓理論の本で詳しく扱う。
7. 製菓とのつながり
7-1. 焼き色をあやつる
焼き菓子の焼き色の多くはメイラード反応によるため、還元糖とアミノ化合物の量で色づき方が変わる。
- はちみつ・転化糖・水あめ・ブドウ糖を加えると、還元糖が増えて焼き色が濃くなる(どら焼き、カステラ)
- 卵・牛乳・脱脂粉乳を加えると、アミノ化合物と乳糖が増えて焼き色がつきやすい
- 重曹を加えると、生地がアルカリ性になり、焼き色が濃くなる
- 生地の表面に卵黄を塗ると、つやのある濃い焼き色になる
逆に、白く焼き上げたい菓子(メレンゲ菓子、白い焼き菓子)では、低温で時間をかけて焼き、還元糖を控える。
7-2. 変色を防ぐ
りんごのタルト、バナナのケーキ、フルーツサンドの果物は、切り口の酵素的褐変に注意が必要である。レモン汁をかける、シロップで煮る(酵素を失活させる)、ナパージュで表面を覆って空気を断つなどの方法が使われる。
7-3. 油の劣化を防ぐ
ナッツ、バター、ドーナツ・かりんとうなどの揚げ菓子、パイやクッキーなど油脂の多い焼き菓子は、酸化による劣化が品質を決める。ナッツは使う分だけ買い、密封して冷暗所や冷凍で保存する。焼き菓子の包装には脱酸素剤を入れ、光を通しにくい袋を選ぶ。揚げ菓子の油は、使用回数を管理し、劣化のサイン(色・粘り・泡・煙・におい)を見逃さないようにする。
7-4. 酵素と果物
生のパイナップル、キウイフルーツ、パパイヤ、いちじく、メロンなどはプロテアーゼを含み、ゼラチンのゼリーを固まらなくしたり、生クリームやヨーグルトに苦味を出したりする。これらの果物をゼラチンと組み合わせるときは、加熱した果物か缶詰を使う。寒天は炭水化物なので、プロテアーゼの影響を受けない。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1酵素的褐変は、加熱すると促進される
Q2変敗とは、微生物によって主にたんぱく質が分解されることである
Q3ビタミンE(トコフェロール)は、油脂の酸化防止剤として働く
Q4食品の酸化とは、空気中の二酸化炭素によって食品が変質することである
Q5りんごの切り口の褐変は、メイラード反応による
Q6じゃがいもの切り口の褐変は、ポリフェノールオキシダーゼがクロロゲン酸に作用して起こる
Q7ショ糖は還元糖なので、アミノ酸と加熱すると単独でもよく褐変する
Q8メイラード反応は、酸性の条件で進みやすい
Q9油脂の加水分解によって遊離脂肪酸が増えると、酸価が上昇する
Q10メイラード反応は、酵素が関与する褐変である
Q11パンや焼き菓子、肉の焼き色は、主にカラメル化による
Q12微生物が食品の成分を分解して、人にとって有用なものができる場合を発酵という
Q13ヒスタミンは、加熱すれば分解されるので心配はない
Q14カラメル化は、糖だけを高温で加熱したときに起こる非酵素的褐変である
Q15メイラード反応によってメラニンが生じる
Q16生のパイナップルを入れるとゼラチンゼリーが固まらないのは、プロテアーゼがゼラチンを分解するためである
Q17メイラード反応は、温度が低いほど速く進む
Q18肉の熟成は、自己消化によってたんぱく質が分解され、うま味が増す現象である
Q19揚げ菓子は水分が少ないため、油脂の酸化は起こりにくい
Q20紅茶の製造における発酵は、微生物の働きによる
Q21油脂の自動酸化は、光・熱・金属・酸素によって促進される
Q22メイラード反応は、還元糖とアミノ化合物の反応で、褐色のメラノイジンと香気成分を生じる
Q23腐敗とは、食品自身の酵素によって成分が分解されることである
Q24酵素的褐変を防ぐには、加熱・酸の添加・食塩水につける・水にさらすなどの方法がある
Q25劣化した揚げ油は、粘りが減り、泡が消えやすくなる
Q26でんぷんを分解する酵素はプロテアーゼである
まとめ
食品の変化には、酵素なしの化学反応、酵素、微生物、物理的な作用によるものがある。
褐変は、酵素が関与する酵素的褐変と、関与しない非酵素的褐変に分けられる。酵素的褐変は、ポリフェノールがポリフェノールオキシダーゼと酸素によって酸化され、メラニン様色素ができる現象で、加熱・酸・食塩水・水さらしで防げる。紅茶はこれを利用している。非酵素的褐変の代表であるメイラード反応は、還元糖とアミノ化合物から褐色のメラノイジンと香ばしい香りをつくり、高温・アルカリ性・中程度の水分活性で進みやすい。カラメル化は糖だけを高温で加熱して起こる。焼き菓子の焼き色の主役はメイラード反応である。
脂質は、加水分解で遊離脂肪酸が増え(酸価が上がる)、自動酸化で過酸化脂質ができる(過酸化物価が上がる)。自動酸化は酸素・光・熱・金属で進み、密封・遮光・低温・酸化防止剤(ビタミンE)で防ぐ。劣化した揚げ油は、色が濃く、粘りが増し、泡が消えにくくなる。
微生物によるたんぱく質の分解が腐敗、炭水化物や脂質の変化が変敗、油脂の劣化が酸敗、有用なものができれば発酵、食品自身の酵素による分解が自己消化である。酵素は基質が決まっており、アミラーゼはでんぷん、プロテアーゼはたんぱく質、リパーゼは脂質に作用する。
菓子づくりでは、焼き色の調整、果物の変色防止、ナッツや揚げ菓子の酸化防止、果物の酵素への対応に、これらの知識が直接役立つ。第一部はここまでとし、次章からは、個々の食品の特徴を学ぶ。最初は、菓子の土台となる穀類である。
※ 本書は、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年、令和7年度の食料自給率(令和8年8月公表)、令和8年4月施行の改正食品表示基準にもとづいています。

