公衆衛生学 第三部 病気の予防
生活習慣病の予防
はじめに
第3章で学んだように、現在の日本人の死因の第1位は悪性新生物(がん)、第2位は心疾患、第4位は脳血管疾患である。これらはいずれも、毎日の食事、運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が、発病や進行に深くかかわる生活習慣病である。
戦後の日本では、上下水道の整備や予防接種、抗菌薬の普及によって、結核などの感染症が大きく減った。その一方で、食生活の変化、車の普及による運動不足、ストレスの多い生活、そして人口の高齢化によって、生活習慣病が健康問題の中心となった。生活習慣病は、医療費の多くをしめ、健康寿命を縮める大きな原因にもなっている。
生活習慣病の多くは、初めは自覚症状がほとんどないまま、何年もかけて静かに進む。気づいたときには重い病気になっていることも多い。だからこそ、病気になる前の予防と、早期発見が何より大切である。
本章では、生活習慣病の考え方と予防の三段階、主な生活習慣病(がん、循環器病、高血圧、糖尿病、脂質異常症)、メタボリックシンドロームと特定健康診査、喫煙と飲酒、身体活動と休養を学ぶ。生活習慣病と栄養素の関係や、食事の摂り方の詳しい内容は、栄養学の本で扱う。
1. 生活習慣病とは
1-1. 「成人病」から「生活習慣病」へ
がん、心疾患、脳血管疾患などは、かつて「成人病」とよばれていた。主に40歳以上の働き盛りの人に多い病気として、年齢に着目した名前であった。
しかし、研究が進むにつれて、これらの病気は、年齢よりも、若いころからの生活習慣が大きくかかわっていることがわかった。そこで、1996年(平成8年)に、「生活習慣病」という考え方が導入された。生活習慣病は、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」とされている。
| 項目 | 成人病 | 生活習慣病 |
|---|---|---|
| 着目した点 | 年齢(加齢) | 生活習慣 |
| 対策の重点 | 早期発見・早期治療(二次予防) | 生活習慣の改善による発病の予防(一次予防) |
| 対象 | 主に中高年 | 子どもの時期からすべての年代 |
名前を変えたことには、「病気は年をとれば避けられないもの」ではなく、「一人一人が生活習慣を改めることで予防できるもの」という考え方を広める意味があった。
1-2. 主な生活習慣病
| 生活習慣病 | 主に関係する生活習慣 |
|---|---|
| がん(悪性新生物) | 喫煙、飲酒、食塩のとりすぎ、野菜・果物の不足、運動不足、肥満 |
| 循環器病(心疾患・脳血管疾患・高血圧) | 食塩・脂質のとりすぎ、喫煙、飲酒、運動不足、肥満、ストレス |
| 糖尿病(2型) | 食べすぎ、運動不足、肥満 |
| 脂質異常症 | 動物性脂肪のとりすぎ、運動不足、肥満 |
| 肥満 | 食べすぎ、運動不足 |
| 歯周病 | 歯みがきの不足、喫煙 |
| 慢性閉塞性肺疾患(COPD) | 喫煙 |
| アルコール性肝疾患 | 飲酒 |
| 骨粗しょう症 | カルシウムの不足、運動不足 |
⚠️ 結核は感染症であり、生活習慣病ではない。「生活習慣病には、がん・結核・糖尿病がある」という選択肢は誤り。
2. 予防の三段階
2-1. 一次予防・二次予防・三次予防
病気の予防は、病気の進み具合に応じて、次の三段階に分けられる。
| 段階 | 目的 | 具体的な例 |
|---|---|---|
| 一次予防 | 病気にかからないようにする(健康増進・発病予防) | 生活習慣の改善(食事、運動、禁煙、節酒)、健康教育、予防接種、環境の整備 |
| 二次予防 | 病気を早期に発見し、早期に治療して、重くならないようにする | 健康診断、がん検診、特定健康診査、人間ドック |
| 三次予防 | 病気になったあと、悪化や再発を防ぎ、社会復帰を助ける | リハビリテーション、再発予防の保健指導、適切な治療の継続 |
⚠️ 予防接種は一次予防、健康診断は二次予防、リハビリテーションは三次予防である。「予防接種は二次予防」「健康診断は一次予防」は誤り。
生活習慣病の対策では、病気になる前の一次予防がもっとも重視されている。健康日本21も、一次予防を重視した取り組みである(第2章参照)。
2-2. ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチ
生活習慣病の予防の進め方には、二つの方法がある。
| 方法 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| ハイリスクアプローチ | 健診などで病気になる危険の高い人を見つけ、その人に集中して働きかける | 特定保健指導、高血圧の人への減塩指導 |
| ポピュレーションアプローチ | 危険の高い人だけでなく、集団全体に働きかけ、全体の危険を少しずつ下げる | 食品の減塩、受動喫煙を防ぐ法律、歩きやすいまちづくり、健康教育 |
二つを組み合わせることが効果的である。ポピュレーションアプローチは、第1章で学んだヘルスプロモーションの考え方に通じる。
3. がん
3-1. がんの現状
がん(悪性新生物)は、1981年から日本人の死因の第1位であり、亡くなる人のおよそ4人に1人ががんで亡くなっている(第3章参照)。日本人の約2人に1人が、一生のうちに何らかのがんにかかると推計されている。
部位別の死亡数は、男性は肺がん、女性は大腸がんが第1位である(第3章参照)。
3-2. がんの主な原因
がんの原因には、遺伝的な要因もあるが、多くは生活習慣や感染がかかわっている。
| 原因 | 関係の深いがん |
|---|---|
| 喫煙 | 肺がん、喉頭がん、食道がん、膀胱がん、膵臓がんなど多くのがん。がんの原因として最も大きい |
| 感染 | ヘリコバクター・ピロリ→胃がん、B型・C型肝炎ウイルス→肝がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)→子宮頸がん |
| 飲酒 | 口腔・咽頭・食道・肝臓・大腸・乳房のがん |
| 食塩のとりすぎ | 胃がん |
| 野菜・果物の不足、運動不足、肥満 | 大腸がん、乳がんなど |
3-3. がんを防ぐための新12か条
国立がん研究センターなどは、科学的な根拠にもとづいて、「がんを防ぐための新12か条」を示している。
| 内容 | |
|---|---|
| 1 | たばこは吸わない |
| 2 | 他人のたばこの煙をできるだけ避ける |
| 3 | お酒はほどほどに |
| 4 | バランスのとれた食生活を |
| 5 | 塩辛い食品は控えめに |
| 6 | 野菜や果物は不足にならないように |
| 7 | 適度に運動 |
| 8 | 適切な体重維持 |
| 9 | ウイルスや細菌の感染予防と治療 |
| 10 | 定期的ながん検診を |
| 11 | 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を |
| 12 | 正しいがん情報でがんを知ることから |
⚠️ 新12か条では、飲酒については「お酒はほどほどに」(節酒)とされている。「お酒は飲まない」は誤り。
3-4. がん検診
がん検診は、症状のない人を対象に、がんを早期に発見し、早期に治療して、がんで亡くなる人を減らすための二次予防である。健康増進法にもとづいて市町村が行う、科学的に効果が認められたがん検診は、次の5つである。
| がん検診 | 対象年齢 | 間隔 | 主な検査 |
|---|---|---|---|
| 胃がん検診 | 50歳以上 | 2年に1回 | 胃の内視鏡検査、またはエックス線検査(エックス線検査は40歳以上で年1回も可) |
| 肺がん検診 | 40歳以上 | 年1回 | 胸部エックス線検査(喫煙量の多い人は喀痰検査も) |
| 大腸がん検診 | 40歳以上 | 年1回 | 便潜血検査 |
| 子宮頸がん検診 | 20歳以上 | 2年に1回 | 細胞診(30〜60歳はHPV検査を5年に1回とする方法もある) |
| 乳がん検診 | 40歳以上 | 2年に1回 | マンモグラフィ(乳房エックス線検査) |
日本では、2006年にがん対策基本法が制定され、がんの予防、早期発見、医療の充実、緩和ケア、がん患者の就労支援などが進められている。
4. 循環器病
4-1. 動脈硬化と循環器病
心疾患と脳血管疾患の多くは、動脈硬化をもとにして起こる。動脈硬化は、血管の壁が厚く、かたくなり、血管の内側がせまくなる状態である。高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満、運動不足、加齢などが重なるほど、動脈硬化は進みやすい。
| 病気 | 内容 |
|---|---|
| 虚血性心疾患 | 心臓に血液を送る冠動脈がせまくなったり、つまったりする。一時的に血流が不足する狭心症と、血管がつまって心臓の筋肉が死んでしまう心筋梗塞がある |
| 心不全 | 心臓のポンプの働きが弱まり、全身に十分な血液を送れなくなる。高齢者で増えている |
| 脳梗塞 | 脳の血管がつまり、その先の脳の組織が死んでしまう。現在、脳血管疾患でもっとも多い |
| 脳出血 | 脳の血管が破れて出血する。高血圧が大きな原因である |
| くも膜下出血 | 脳の表面の動脈にできたこぶ(動脈瘤)が破れて出血する。激しい頭痛が突然起こる |
脳梗塞や脳出血では、命が助かっても、半身のまひ(半身不随)や言葉の障害などの後遺症が残ることが多く、介護が必要になる大きな原因となっている。
⚠️ 「心筋梗塞を起こすと、回復しても半身不随の後遺症が残る場合が多い」は誤り。半身不随が残ることが多いのは、脳の病気である脳梗塞などの脳血管疾患である。
日本では、2018年に循環器病対策基本法(健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法)が制定された。
4-2. 高血圧
血圧は、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力である。心臓が収縮したときに最も高くなり(収縮期血圧、最高血圧)、心臓が拡張したときに最も低くなる(拡張期血圧、最低血圧)。
| 区分 | 診察室で測った血圧 |
|---|---|
| 正常血圧 | 120/80mmHg未満 |
| 高血圧 | 収縮期140mmHg以上、または拡張期90mmHg以上 |
家庭で測った血圧では、135/85mmHg以上を高血圧とする。高血圧の人の治療では、130/80mmHg未満を目標とすることが基本とされている。
高血圧の約9割は、原因となる特定の病気がない本態性高血圧で、遺伝的な体質に、食塩のとりすぎ、肥満、飲酒、運動不足、ストレスなどが重なって起こる。原因となる病気(腎臓や内分泌の病気など)があるものを二次性高血圧という。
高血圧は、自覚症状がほとんどないまま、脳卒中や心臓病、腎臓病を引き起こすことから、「サイレントキラー」ともよばれる。予防と改善には、減塩がもっとも大切である。日本人の食塩の摂取量の目標量は、成人男性で1日7.5g未満、成人女性で1日6.5g未満、高血圧の人の重症化予防のためには1日6g未満とされている(栄養学の本を参照)。
4-3. 脂質異常症
血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)の量が、多すぎたり少なすぎたりする状態を脂質異常症という。動脈硬化の大きな原因となる。
| 項目 | 脂質異常症とされる値(空腹時) |
|---|---|
| LDLコレステロール(いわゆる悪玉) | 140mg/dL以上 |
| HDLコレステロール(いわゆる善玉) | 40mg/dL未満 |
| 中性脂肪(トリグリセライド) | 150mg/dL以上 |
5. 糖尿病
5-1. 糖尿病とは
糖尿病は、すい臓から出るインスリンというホルモンの働きが不足して、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高い状態が続く病気である。
| 種類 | 原因 | 割合 |
|---|---|---|
| 1型糖尿病 | すい臓のインスリンをつくる細胞がこわれ、インスリンがほとんど出なくなる。子どもや若い人にも起こる。生活習慣とは関係が薄い | 少ない |
| 2型糖尿病 | 遺伝的な体質に、食べすぎ、運動不足、肥満などの生活習慣が加わり、インスリンの出る量が減ったり、効きが悪くなったりする | 大部分(約9割以上) |
生活習慣病として予防の対象となるのは、主に2型糖尿病である。令和6年の国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる者」は約1,100万人と推計されている。
糖尿病は、代謝の病気であり、心疾患や脳血管疾患のような循環器病には分類されない。ただし、動脈硬化を進め、循環器病の大きな原因となる。
⚠️ 「糖尿病は循環器病である」は誤り。糖尿病は糖代謝の異常による病気である。
5-2. 糖尿病の合併症
糖尿病は、初めは自覚症状がほとんどない。しかし、高い血糖値が長く続くと、全身の血管や神経が傷つき、さまざまな合併症を起こす。
| 合併症 | 内容 |
|---|---|
| 糖尿病網膜症 | 目の網膜の血管が傷つき、視力が低下する。失明の原因になる |
| 糖尿病腎症 | 腎臓の働きが低下する。人工透析を始める原因の第1位である |
| 糖尿病神経障害 | 手足のしびれや痛み、感覚の低下。足の傷に気づかず、壊疽を起こすことがある |
| 動脈硬化 | 心筋梗塞、脳梗塞の危険を高める |
網膜症・腎症・神経障害は、糖尿病の三大合併症とよばれる。
糖尿病の診断には、血糖値のほか、過去1〜2か月の血糖の状態を表すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が使われる。HbA1cが6.5%以上の場合は、糖尿病が強く疑われる。
6. メタボリックシンドロームと特定健康診査
6-1. 肥満とBMI
肥満の判定には、BMI(ボディ・マス・インデックス)が使われる。
BMI = 体重(kg)÷〔身長(m)× 身長(m)〕
| BMI | 判定(日本肥満学会) |
|---|---|
| 18.5未満 | 低体重(やせ) |
| 18.5以上25未満 | 普通体重 |
| 25以上 | 肥満 |
もっとも病気になりにくいとされるBMIは22で、これを標準体重の目安とする。たとえば、身長1.6mの人の標準体重は、1.6×1.6×22=約56kgである。
肥満のうち、皮下に脂肪がたまる皮下脂肪型肥満よりも、内臓のまわりに脂肪がたまる内臓脂肪型肥満のほうが、生活習慣病を起こしやすい。
6-2. メタボリックシンドローム
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、内臓脂肪の蓄積を基盤として、高血糖、脂質異常、高血圧のうち二つ以上が重なった状態である。一つ一つは軽くても、重なることで動脈硬化が急速に進み、心筋梗塞や脳梗塞の危険が大きく高まる。
日本のメタボリックシンドロームの診断基準は、次のとおりである。
| 区分 | 基準 |
|---|---|
| 必須項目(内臓脂肪の蓄積) | 腹囲(へその高さの腹回り)が、男性85cm以上、女性90cm以上 |
| + 次のうち2つ以上 | ①脂質:中性脂肪150mg/dL以上、またはHDLコレステロール40mg/dL未満 |
| ②血圧:収縮期130mmHg以上、または拡張期85mmHg以上 | |
| ③血糖:空腹時血糖110mg/dL以上 |
⚠️ メタボリックシンドロームの診断基準に、体重、BMI、眼圧、尿酸値はふくまれない。必須の項目は「腹囲」である。また、腹囲の基準は女性のほうが大きい(男性85cm・女性90cm)ことに注意する。
6-3. 特定健康診査・特定保健指導
メタボリックシンドロームに着目した特定健康診査(特定健診、いわゆるメタボ健診)と特定保健指導が、2008年4月から始まった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠となる法律 | 高齢者の医療の確保に関する法律 |
| 実施の義務 | 医療保険者(健康保険組合、協会けんぽ、市町村の国民健康保険など) |
| 対象 | 40〜74歳の医療保険の加入者 |
| 主な検査 | 腹囲、BMI、血圧、血液検査(脂質、血糖、肝機能)、尿検査、喫煙歴などの質問 |
| 特定保健指導 | 健診の結果、生活習慣病の危険が高い人に、危険の程度に応じて「動機付け支援」または「積極的支援」を行い、生活習慣の改善を助ける |
特定健康診査は、がんを見つけるための健診ではなく、メタボリックシンドロームの人や予備群を見つけ、生活習慣の改善につなげるための健診である。
⚠️ 特定健康診査の対象は「40〜74歳」で、実施の義務は「医療保険者」にある。「市町村がすべての住民に行う」「65歳以上が対象」「がんの早期発見に着目した健診」は誤り。
7. 生活習慣の改善
7-1. 喫煙
喫煙は、がん、循環器病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、歯周病、糖尿病など、多くの病気の原因となる、予防できる最大の死亡原因である。たばこの煙には、ニコチン(依存性)、タール(発がん物質をふくむ)、一酸化炭素(酸素の運搬をさまたげる)など、多くの有害物質がふくまれている。妊娠中の喫煙は、低出生体重児や早産の原因にもなる。
本人が吸わなくても、周りの人のたばこの煙を吸わされること(受動喫煙)によって、肺がん、虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群などの危険が高まる。
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| たばこ規制枠組条約 | WHOの条約。2005年に発効し、日本も締約国である |
| 改正健康増進法(受動喫煙対策) | 2018年に改正され、2020年4月に全面施行された。学校、病院、児童福祉施設、行政機関は敷地内禁煙、飲食店や事務所などの多くの人が利用する施設は原則屋内禁煙(喫煙専用室などを除く)。加熱式たばこも対象 |
| 20歳未満の喫煙の禁止 | 20歳未満の者の喫煙は法律で禁止されている |
| 禁煙の支援 | 一定の条件を満たせば、禁煙治療に医療保険が使える |
7-2. 飲酒
飲酒は、適量を超えると、肝臓の病気(脂肪肝→アルコール性肝炎→肝硬変→肝がん)、がん、高血圧、脳卒中、アルコール依存症などの原因となる。
肝臓は、障害を受けても、かなり進むまで自覚症状が出にくく、「沈黙の臓器」とよばれる。B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎も、自覚症状がないまま肝硬変や肝がんに進むことがある。肝炎ウイルス検査を一度は受けることがすすめられている。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 節度ある適度な飲酒 | 純アルコールで1日平均約20g程度(ビール中びん1本、日本酒1合程度) |
| 生活習慣病のリスクを高める飲酒量(健康日本21) | 純アルコールで1日平均男性40g以上、女性20g以上 |
女性や高齢者、お酒に弱い体質の人は、より少ない量にすることがすすめられる。国は、2024年に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を示した。20歳未満の者の飲酒は、法律で禁止されている。
7-3. 身体活動・運動と休養
身体活動(日常生活での歩行や家事、仕事をふくむ体の動き)と運動は、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、がん、うつ、認知症の予防に効果がある。国の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、次のような目安を示している。
| 対象 | 目安 |
|---|---|
| 成人 | 歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上)。筋力トレーニングを週2〜3日 |
| 高齢者 | 歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日40分以上(1日約6,000歩以上)。筋力・バランス・柔軟性などの運動を週3日以上 |
| 全世代 | 座りっぱなしの時間を減らす |
休養と睡眠も、心身の健康に欠かせない。睡眠不足は、肥満、高血圧、糖尿病、うつ病などの危険を高める。成人では、6時間以上の睡眠を確保することが目安とされている。
8. 製菓とのつながり
8-1. 菓子と生活習慣病
菓子は、砂糖(糖質)と油脂を多くふくみ、エネルギーの高い食品である。食べすぎれば、肥満や2型糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の原因となる。また、バターや生クリーム、ショートニングなどには、飽和脂肪酸が多くふくまれる。
一方で、菓子は、心を満たし、人と人をつなぐ食品でもある(第1章参照)。大切なのは、菓子を「悪いもの」として避けることではなく、1日の食事全体の中で、量と時間を考えて楽しむことである。たとえば、間食は1日200kcal程度を目安とし、食事の代わりにしない、夜遅くに食べない、ゆっくり味わって食べるといった工夫ができる(栄養学の本を参照)。
8-2. 菓子をつくる人ができること
健康日本21(第三次)が重視する「自然に健康になれる環境づくり」(第2章参照)に、菓子店も参加することができる。
| 工夫 | 内容 |
|---|---|
| サイズの工夫 | 小さめのサイズや、食べきりやすい個包装の商品を用意する |
| 甘さ・脂質の工夫 | 素材の風味を生かし、砂糖や油脂の量を見直した商品をつくる |
| 情報の提供 | 栄養成分表示(エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量)をわかりやすく示す |
| 素材の工夫 | 果物、ナッツ、豆、雑穀、乳製品など、ビタミン、ミネラル、食物繊維を補える素材を生かす |
ただし、砂糖を減らすと、保存性が下がり、カビや微生物が増えやすくなることがある。砂糖には、水分を引きつけて微生物が利用できる水を減らす働き(水分活性を下げる働き)があるためである。甘さを控えた菓子では、消費期限の設定や保存方法を見直す必要がある(食品衛生学の本を参照)。健康への配慮は、食品の安全とセットで考えなければならない。
8-3. 菓子をつくる人自身の健康
菓子をつくる仕事は、試食や余った菓子を口にする機会が多く、早朝からの立ち仕事で生活が不規則になりやすい。自分自身の生活習慣病の予防のためにも、試食の量に気をつけ、睡眠を確保し、毎年の健康診断を必ず受けることが大切である(第11章参照)。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1糖尿病は、循環器病の一つである
Q2肝炎は、初期から黄疸などの自覚症状があるため発見されやすい
Q3喫煙や動物性脂肪のとりすぎは、動脈硬化症の原因となることがある
Q4メタボリックシンドロームの腹囲の基準は、男性90cm以上、女性85cm以上である
Q5日本の糖尿病の大部分は、1型糖尿病である
Q6がんの予防には、生活習慣の見直しと早期発見が重要である
Q7リハビリテーションは、一次予防にあたる
Q8血圧は、心臓が拡張したときに最も高くなる
Q9アルコールのとりすぎにより、脂肪肝、肝硬変を経て肝がんになることがある
Q10がんは、1981年から日本人の死因の第1位である
Q11生活習慣病には、がん(悪性新生物)、結核、糖尿病があげられる
Q12高血圧の大部分は、原因となる病気がはっきりしている二次性高血圧である
Q13メタボリックシンドロームの診断基準には、体重がふくまれる
Q14健康診断は、一次予防にあたる
Q15糖尿病の三大合併症は、網膜症、腎症、神経障害である
Q16メタボリックシンドローム対策として、40〜74歳を対象に特定健康診査が実施されている
Q17心筋梗塞を起こすと、回復しても半身不随の後遺症が残る場合が多い
Q18がんを防ぐための新12か条では、『お酒は飲まない』とされている
Q19がんの部位別死亡数は、男女ともに胃がんが最も多い
Q20血圧は、心臓が収縮したときに最高となり、拡張したときに最低となる
Q21改正健康増進法により、2020年4月から、多くの人が利用する施設は原則屋内禁煙となった
Q22生活習慣病の対策は、成人期だけでなく、幼少期からの生活習慣の改善による予防が重要である
Q23特定健康診査の対象は、65歳以上の高齢者である
Q24メタボリックシンドロームの診断基準には、腹囲、血圧、血糖、脂質が用いられる
Q25予防接種は、二次予防にあたる
Q26特定健康診査は、がんの早期発見に着目した健康診断である
Q27生活習慣病という考え方は、1981年に導入された
Q28生活習慣病の対策では、二次予防が最も重視されている
まとめ
生活習慣病は、食習慣・運動習慣・休養・喫煙・飲酒などの生活習慣が発症・進行にかかわる病気で、1996年に「成人病」から考え方が改められた。年齢よりも生活習慣に着目し、一次予防を重視している。予防は、一次予防(健康増進・発病予防。生活習慣の改善、予防接種)、二次予防(早期発見・早期治療。健康診断、がん検診)、三次予防(悪化・再発の防止と社会復帰。リハビリテーション)の三段階に分けられる。
がんは1981年から死因の第1位で、日本人の約2人に1人がかかる。原因には、喫煙(最大の原因)、感染(ピロリ菌→胃がん、肝炎ウイルス→肝がん、HPV→子宮頸がん)、飲酒、食塩(胃がん)などがある。「がんを防ぐための新12か条」では、お酒は「ほどほどに」とされる。市町村は、胃・肺・大腸・子宮頸・乳の5つのがん検診を行う。
心疾患と脳血管疾患の多くは動脈硬化をもとに起こる。脳梗塞などでは半身不随の後遺症が残りやすい。高血圧は140/90mmHg以上で、約9割が本態性高血圧であり、予防には減塩が大切である。糖尿病はインスリンの働きの不足による糖代謝の病気で、大部分は2型である。三大合併症は網膜症・腎症・神経障害である。
メタボリックシンドロームは、腹囲(男性85cm・女性90cm以上)を必須とし、脂質・血圧・血糖のうち2つ以上が重なった状態である。特定健康診査・特定保健指導は、2008年4月から、40〜74歳を対象に医療保険者に義務づけられている。
喫煙は予防できる最大の死亡原因であり、改正健康増進法(2020年4月全面施行)で受動喫煙対策が強化された。飲酒は、純アルコールで1日平均約20g程度が節度ある適度な量とされる。
菓子は、量と時間を考えて楽しむことで、生活の豊かさを支える食品になる。菓子をつくる人は、健康への配慮と食品の安全を両立させることが求められる。第三部はここまでである。次章からは第四部として、ライフステージごとの健康を学ぶ。まずは、母子保健、学校保健、高齢者保健である。
※ 本書は、令和7年の人口動態統計、令和7年簡易生命表、令和8年10月時点の法令・制度にもとづいています。

