公衆衛生学 第一部 公衆衛生のしくみ
衛生統計と疫学
はじめに
地域や国の人々がどれくらい健康なのかは、一人一人を見ているだけではわからない。何人が生まれ、何人が亡くなり、何の病気で亡くなっているのか。どの年代の人が増え、どの病気が増えているのか。こうした事実を数字で集め、整理したものが衛生統計である。
衛生統計は、公衆衛生の「健康診断」のようなものである。数字の変化から社会の健康問題を見つけ、対策を立て、その効果を確かめる。そして、病気がなぜ起こるのかを、集団を観察して明らかにする方法が疫学である。第1章で学んだスノウのコレラの調査は、疫学の原点である。
製菓衛生師試験では、本章の内容がもっとも多く出題される。とくに、人口静態統計と人口動態統計の違い、乳児死亡・新生児死亡・周産期死亡などの定義、合計特殊出生率、死因の順位、平均寿命と健康寿命、有病率と罹患率の違い、疫学の研究方法は頻出である。
統計の数値は毎年更新される。本章は、令和7年(2025年)の人口動態統計と令和7年簡易生命表にもとづいて記述する。試験では「最新の傾向」が問われることが多いため、細かな数値よりも、順位、増減の方向、定義を確実に覚えることが大切である。
1. 衛生統計の種類
衛生統計には、主に次のようなものがある。
| 統計の種類 | 内容 | 主な調査 |
|---|---|---|
| 人口静態統計 | ある一定の時点での人口の状態(人数、年齢、性別、職業など) | 国勢調査 |
| 人口動態統計 | 1年間に起きた出生・死亡・死産・婚姻・離婚の数 | 届出にもとづく人口動態調査 |
| 生命表 | 死亡の状況から、各年齢の人があと何年生きられるか(平均余命)を示す | 完全生命表、簡易生命表 |
| 疾病統計 | 病気やけがの状況 | 患者調査、国民生活基礎調査、感染症発生動向調査、食中毒統計 |
人口静態統計は、ある瞬間の人口を写した「写真」、人口動態統計は、1年間の人口の動きを記録した「動画」にたとえることができる。
2. 人口静態統計
2-1. 国勢調査
人口静態統計は、ある一定の時点での人口の状態を調べる統計で、日本では国勢調査によって把握される。国勢調査は、1920年(大正9年)に第1回が行われ、以後5年ごとに、日本に住むすべての人と世帯を対象に行われている。調査の時点は10月1日である。
もっとも新しい国勢調査は令和7年(2025年)に行われた。速報によると、日本の総人口は約1億2,305万人で、前回(2020年)より約310万人減少した。
日本の総人口は、2008年ごろをピークに減少に転じている。「日本の人口は現在も増え続けている」という選択肢は誤りである。
⚠️ 国勢調査は「5年ごと」である。「10年ごと」「3年ごと」とする選択肢は誤り。なお、国勢調査のない年の人口は、総務省が人口推計として毎月公表している。
2-2. 年齢による人口の区分
人口は、年齢によって次の三つに分けられる。
| 区分 | 年齢 |
|---|---|
| 年少人口 | 0〜14歳 |
| 生産年齢人口 | 15〜64歳 |
| 老年人口 | 65歳以上 |
これらを使って、次のような指数が計算される。
| 指標 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 年少人口指数 | 年少人口 ÷ 生産年齢人口 × 100 | 働く世代が支える子どもの割合 |
| 老年人口指数 | 老年人口 ÷ 生産年齢人口 × 100 | 働く世代が支える高齢者の割合 |
| 従属人口指数 | (年少人口+老年人口)÷ 生産年齢人口 × 100 | 働く世代が支える子どもと高齢者の割合 |
| 老年化指数 | 老年人口 ÷ 年少人口 × 100 | 子どもに対する高齢者の割合。高齢化の程度を示す |
2-3. 高齢化率
総人口に占める65歳以上の人口の割合を高齢化率(老年人口割合)という。
| 高齢化率 | よび方 |
|---|---|
| 7%を超える | 高齢化社会 |
| 14%を超える | 高齢社会 |
| 21%を超える | 超高齢社会 |
日本の高齢化率は、1970年に7%、1994年に14%、2007年に21%を超えた。令和8年(2026年)9月の推計では、65歳以上の人口は3,624万人、高齢化率は29.6%で、いずれも過去最高であり、世界でもっとも高い水準にある。
⚠️ 高齢化率は「65歳以上」の割合である。「60歳以上」とする選択肢は誤り。
⚠️ 古い教材では、高齢化率を29.1%や29.3%などとしている。毎年少しずつ上がっているため、「約3割」「世界最高水準」と覚えておくとよい。
2-4. 人口ピラミッド
年齢別・男女別の人口をグラフにしたものを人口ピラミッドという。人口ピラミッドの形から、その国の人口の特徴がわかる。
| 型 | 形 | 特徴 |
|---|---|---|
| ピラミッド型(富士山型) | すそが広く、上に向かって細くなる | 出生も死亡も多い。開発途上国に多い |
| つりがね型 | 年少人口と生産年齢人口がほぼ同じ | 出生も死亡も少なく、人口が安定している |
| つぼ型 | すそがすぼまり、中ほどがふくらむ | 出生が減り、人口が減少していく。現在の日本 |
| 星型 | 生産年齢人口が多い | 若い世代が流入する都市部 |
| ひょうたん型 | 生産年齢人口が少ない | 若い世代が流出する農村部 |
日本の人口ピラミッドには、第1次ベビーブーム(1947〜1949年)と第2次ベビーブーム(1971〜1974年)の二つのふくらみがあり、その後は出生数の減少によってすそがすぼまったつぼ型になっている。
3. 人口動態統計
3-1. 人口動態統計とは
人口動態統計は、1年間に起きた出生・死亡・死産・婚姻・離婚の5つのできごとを集計する統計である。出生届や死亡届などの届出をもとに、厚生労働省がまとめる。健康の水準を示す指標として、もっとも広く使われている。
⚠️ 人口動態統計は「1年間」のできごとを集計する。「5年間」とする選択肢は誤り(5年ごとなのは国勢調査)。
3-2. 令和7年(2025年)の人口動態
| 項目 | 令和7年の値 | 傾向 |
|---|---|---|
| 出生数 | 67万1,270人 | 過去最少 |
| 出生率(人口千対) | 5.6 | 低下が続く |
| 合計特殊出生率 | 1.14 | 過去最低(10年連続の低下) |
| 死亡数 | 158万9,533人 | 高い水準が続く |
| 死亡率(人口千対) | 13.3 | 高齢化により上昇傾向 |
| 自然増減(出生数−死亡数) | −91万8,263人 | 19年連続の減少 |
| 婚姻件数(婚姻率) | 48万9,158組(4.1) | 減少傾向 |
| 離婚件数(離婚率) | 17万9,073組(1.50) | — |
| 乳児死亡率(出生千対) | 1.9 | 世界最低水準 |
| 新生児死亡率(出生千対) | 0.9 | 世界最低水準 |
| 周産期死亡率(出産千対) | 3.4 | — |
| 死産率(出産千対) | 22.3 | — |
死亡数が出生数を大きく上回り、人口の自然減が続いている。死亡率(粗死亡率)が上がっているのは、人口の高齢化によって高齢者の死亡が増えているためで、日本人が不健康になったからではない(3-6参照)。
3-3. 出生と合計特殊出生率
出生率は、人口1,000人に対する1年間の出生数である。日本の出生率は、第1次ベビーブームの1947年には34.3であったが、その後、長期的に低下し、令和7年は5.6で、国際的にも低い水準にある。
合計特殊出生率は、15〜49歳の女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が一生の間に産む子どもの数の目安となる。人口を維持するのに必要な水準(人口置換水準)は、約2.1である。2.0ではなく2.1なのは、子どもが大人になるまでに亡くなる場合や、男女の出生の比率を考慮するためである。
| 年 | 合計特殊出生率 | できごと |
|---|---|---|
| 1947年 | 4.54 | 第1次ベビーブーム |
| 1966年 | 1.58 | 丙午(ひのえうま)の年 |
| 1989年 | 1.57 | 丙午の年を下回り、「1.57ショック」とよばれた |
| 2005年 | 1.26 | 当時の過去最低 |
| 2025年 | 1.14 | 過去最低 |
⚠️ 合計特殊出生率は、2016年から10年連続で低下し、令和7年に1.14となった。古い教材の1.20(2023年)や1.15(2024年)は更新されている。
3-4. 死亡に関する指標の定義
死亡に関する指標は、定義がもっともよく問われる。とくに、年齢(期間)と、分母が「出生」か「出産」かに注意する。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 乳児死亡 | 生後1年未満の死亡 |
| 新生児死亡 | 生後4週(28日)未満の死亡 |
| 早期新生児死亡 | 生後1週(7日)未満の死亡 |
| 死産 | 妊娠満12週以後の死児の出産 |
| 周産期死亡 | 妊娠満22週以後の死産 + 早期新生児死亡 |
| 指標 | 計算式 |
|---|---|
| 乳児死亡率 | 1年間の乳児死亡数 ÷ 1年間の出生数 × 1,000 |
| 新生児死亡率 | 1年間の新生児死亡数 ÷ 1年間の出生数 × 1,000 |
| 死産率 | 1年間の死産数 ÷ 1年間の出産数(出生数+死産数)× 1,000 |
| 周産期死亡率 | (妊娠満22週以後の死産数+早期新生児死亡数)÷(出生数+妊娠満22週以後の死産数)× 1,000 |
乳児死亡率は、母親の健康状態や、地域の衛生状態、生活水準、医療の水準を反映するため、地域の衛生状態を示す重要な指標とされる。日本の乳児死亡率は、1947年には76.7であったが、現在は1.9まで下がり、世界でもっとも低い水準にある。
3-5. 死因の順位
令和7年の主な死因の順位は、次のとおりである。
| 順位 | 死因 | 死亡総数に占める割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 悪性新生物(がん) | 23.8% |
| 2位 | 心疾患(高血圧性を除く) | 13.9% |
| 3位 | 老衰 | 13.5% |
| 4位 | 脳血管疾患 | 6.3% |
| 5位 | 肺炎 | 5.3% |
| 6位 | 誤嚥性肺炎 | 4.1% |
| 7位 | 不慮の事故 | 2.8% |
悪性新生物による死亡は、年間約38万人で、死亡したおよそ4人に1人ががんで亡くなっている。上位の悪性新生物・心疾患・脳血管疾患は、いずれも生活習慣病である(第9章参照)。
死因の順位は、時代とともに大きく変わってきた。
| 時期 | 死因第1位 | 背景 |
|---|---|---|
| 1950年ごろまで | 結核 | 感染症が死因の中心だった |
| 1951〜1980年 | 脳血管疾患 | 感染症が減り、生活習慣病が中心に |
| 1981年〜 | 悪性新生物 | 現在まで第1位が続いている |
その後の主な変化には、次のようなものがある。
| 年 | 変化 |
|---|---|
| 1985年 | 心疾患が脳血管疾患を抜いて第2位になった |
| 2011年 | 肺炎が脳血管疾患を抜いて第3位になった |
| 2017年 | 誤嚥性肺炎を肺炎と分けて集計するようになり、肺炎が第5位に下がった |
| 2018年 | 老衰が脳血管疾患を抜いて第3位になった |
部位別のがんの死亡数(令和7年)は、男女で順位が異なる。
| 順位 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 1位 | 肺 | 大腸 |
| 2位 | 大腸 | 肺 |
| 3位 | 胃 | 膵臓 |
| 4位 | 膵臓 | 乳房 |
| 5位 | 肝臓 | 胃 |
⚠️ 「がんの死亡数は、男女ともに大腸がんが最も多い」は誤り。男性は肺がん、女性は大腸がんが第1位である。
3-6. 粗死亡率と年齢調整死亡率
人口1,000人に対する1年間の死亡数を粗死亡率(単に死亡率ともいう)という。粗死亡率は、高齢者の多い地域や国ほど高くなるため、年齢構成の異なる地域や年代を比べるのには向かない。
そこで、年齢構成の違いの影響を取り除くため、基準となる人口の年齢構成にそろえて計算したものが年齢調整死亡率である。日本の粗死亡率は高齢化によって上がっているが、年齢調整死亡率は長期的に低下しており、国際的にも低い水準にある。
⚠️ 「戦後の日本の死亡率は、諸外国と比べていまだに高い」は誤り。年齢調整死亡率で比べると、日本は世界でもっとも低い国の一つである。
4. 生命表と平均寿命・健康寿命
4-1. 生命表と平均余命
生命表は、ある期間の死亡の状況が今後も変わらないと仮定したときに、各年齢の人が1年以内に死亡する確率や、あと何年生きられるかを示したものである。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 完全生命表 | 国勢調査の人口と人口動態統計をもとに、5年ごとに作成する |
| 簡易生命表 | 人口推計などをもとに、毎年作成する |
ある年齢の人が、その後平均してあと何年生きられるかを平均余命という。0歳の平均余命を平均寿命という。
⚠️ 平均寿命は「0歳の平均余命」である。「現在の国民の平均年齢」や「その年に亡くなった人の平均年齢」ではない。
4-2. 平均寿命
令和7年簡易生命表による日本の平均寿命は、次のとおりである。
| 性別 | 平均寿命(令和7年) |
|---|---|
| 男性 | 81.35年 |
| 女性 | 87.33年 |
男女の差は5.98年で、女性のほうが長い。1947年の平均寿命は男性50.06年、女性53.96年であったから、この80年ほどで、30年以上も延びたことになる。日本の平均寿命は、男女とも世界でもっとも高い水準にある。
⚠️ 古い教材では、男性81.09年・女性87.13年(2024年)などとしている。平均寿命は毎年わずかに変わるため、「男性は81年台、女性は87年台」「女性のほうが約6年長い」と覚えておくとよい。
4-3. 健康寿命
健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である。2022年の健康寿命は、男性72.57年、女性75.45年であった。
平均寿命と健康寿命の差は、日常生活に制限のある「不健康な期間」を意味する。2022年は、男性約8.5年、女性約11.6年であった。この差を縮めること、すなわち健康寿命の延伸が、健康日本21の大きな目標になっている(第2章参照)。
⚠️ 健康寿命は「病気がない期間」ではなく、「日常生活が制限されることなく生活できる期間」である。また、「0歳の人があと何年生きられるか」を示すのは平均寿命であり、健康寿命ではない。
5. 疾病統計
人々がどのような病気にかかっているかを調べる統計を疾病統計という。病気の広がりを示す主な指標と、主な調査は次のとおりである。
5-1. 病気の広がりを示す指標
| 指標 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 有病率 | ある時点で、集団の中で病気にかかっている人の割合 | ある日に糖尿病の人がどれくらいいるか |
| 罹患率 | 一定の期間に、新たに病気にかかった人の割合 | 1年間に新たにがんと診断された人がどれくらいいるか |
| 受療率 | 調査日に、医療機関で治療を受けた人の割合(人口10万対) | 患者調査で求める |
有病率と罹患率の違いは、浴槽にたとえるとわかりやすい。罹患率は蛇口から新たに流れこむ水の量、有病率はその時点で浴槽にたまっている水の量である。治りにくく長く続く病気(糖尿病など)は、罹患率が低くても有病率が高くなる。
⚠️ 「ある時点で病気にかかっている人の割合」は有病率である。これを「罹患率」とする選択肢は誤り。
5-2. 主な疾病統計の調査
| 調査 | 内容 |
|---|---|
| 患者調査 | 医療機関を利用する患者の状況を調べる。3年ごとに行い、受療率などを求める |
| 国民生活基礎調査 | 世帯の状況、健康、医療、介護、所得などを調べる。抽出された世帯を対象とし、3年ごとに大規模な調査を行う。有訴者率(病気やけがなどで自覚症状のある人の割合)や通院者率を求める |
| 国民健康・栄養調査 | 健康増進法にもとづき、身体の状況、栄養摂取量、生活習慣を毎年調べる |
| 感染症発生動向調査 | 感染症法にもとづき、医師などの届出から感染症の発生状況を把握する |
| 食中毒統計 | 食品衛生法にもとづき、食中毒の事件数・患者数・原因などを集計する(食品衛生学の本の食中毒の概要と予防の章を参照) |
⚠️ 国民生活基礎調査は「全世帯」ではなく、抽出された一部の世帯を対象とする調査である。全世帯・全員を対象とするのは国勢調査である。
6. 疫学
6-1. 疫学とは
疫学とは、人間の集団を対象として、病気や健康状態がどのように分布しているかを調べ、その原因(要因)を明らかにし、予防や対策に役立てる学問である。
疫学では、病気の発生を、病因(病原体、有害物質など)、宿主(人の年齢、性別、体質、免疫など)、環境(気候、住居、職場、社会の状況など)の三つの要因の関係としてとらえる。
6-2. 疫学の研究方法
疫学の研究は、一般に、記述疫学 → 分析疫学 → 介入疫学の順に進められる。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 記述疫学 | 病気が「誰に、いつ、どこで」起きたかを観察し、表やグラフ、地図にまとめる。そこから原因についての仮説を立てる |
| 分析疫学 | 立てた仮説が正しいかどうかを、比較の方法で検証する。症例対照研究とコホート研究がある |
| 介入疫学(介入研究) | 原因と考えられる要因を取り除いたり、予防の方法を実際に行ったりして、病気が減るかどうかを確かめる |
スノウがコレラの患者の住所を地図に記したのは、記述疫学の代表的な例である。
6-3. 症例対照研究とコホート研究
分析疫学の二つの方法は、よく比較して出題される。
| 項目 | 症例対照研究 | コホート研究 |
|---|---|---|
| 方法 | 病気になった人(症例群)と、病気になっていない人(対照群)を集め、過去にさかのぼって、原因と考えられる要因にさらされていたかを比べる | 要因にさらされている集団と、さらされていない集団を、将来に向かって長期間追跡し、病気の発生率を比べる |
| 時間の向き | 過去にさかのぼる(後ろ向き) | 将来に向かって追跡する(前向き) |
| 求める指標 | オッズ比 | 相対危険(相対リスク)、寄与危険 |
| 時間と費用 | 短い期間で、費用も少ない | 長い期間がかかり、費用も多い |
| 向いている病気 | まれな病気 | 比較的よく起こる病気 |
| 信頼性 | 過去の記憶に頼るため、偏り(バイアス)が入りやすい | 偏りが入りにくく、信頼性が高い |
相対危険は、要因にさらされた集団の発生率が、さらされていない集団の何倍かを示す。たとえば、喫煙者の肺がんの発生率が、非喫煙者の5倍であれば、相対危険は5である。寄与危険は、二つの集団の発生率の差で、その要因を取り除けばどれだけ病気を減らせるかを示す。
⚠️ 「コホート研究は、症例対照研究に比べて結果を早く得ることができる」は誤り。コホート研究は信頼性が高いが、結果を得るまでに長い時間と多くの費用がかかる。
6-4. 介入研究
介入研究の代表は、無作為化比較試験(ランダム化比較試験)である。対象者を、くじ引きのような方法で無作為に二つの群に分け、一方には予防法や治療法を行い、もう一方には行わないで、結果を比べる。無作為に分けることで、年齢や生活習慣などのほかの要因の影響(交絡)を取り除くことができ、もっとも信頼性の高い方法とされる。
6-5. スクリーニング検査
健康診断やがん検診のように、多くの人の中から病気の疑いのある人を見つけ出す検査をスクリーニング検査という。検査の性能は、次の二つの指標で示される。
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| 敏感度(感度) | 病気の人を、正しく「陽性」と判定できる割合 |
| 特異度 | 病気でない人を、正しく「陰性」と判定できる割合 |
敏感度が低い検査では病気の見逃しが増え、特異度が低い検査では病気でない人を病気と疑う誤りが増える。
7. 製菓とのつながり
7-1. 数字が示す、菓子店のお客様の変化
衛生統計の数字は、菓子店にとっても他人事ではない。出生数は年々減り、65歳以上の人は約3割をしめている。子どもの誕生日や七五三のお祝いの菓子を買う家庭が減る一方で、高齢のお客様が増えている。
高齢のお客様には、かむ力や飲みこむ力が弱くなった人もいる。死因の第6位の誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液が気管に入ることで起こる。かたい焼き菓子や、口の中の水分を奪うもの、もちのように粘りの強いものは、高齢者にとって食べにくく、のどにつまらせる危険もある。小さく、やわらかく、食べやすい菓子をつくることは、人口の変化に応える工夫である。
7-2. 平均寿命と健康寿命の差と、食べる楽しみ
平均寿命と健康寿命の差は、女性で約11.6年もある。生活に制限があっても、食べる楽しみは、生活の質を支える大切な要素である。季節の和菓子や、思い出の菓子を味わうことは、心の健康にもつながる。菓子は、人生の最後の時期まで、人に喜びを届けることができる食品である。
7-3. 「記録」は疫学の第一歩
食中毒が起きたとき、保健所は、患者が「誰で、いつ、どこで、何を」食べたかを調べ(記述疫学)、食べた人と食べなかった人の発症率を比べて(分析疫学)、原因の食品を突き止める。菓子店が、製造日、使った材料のロット、温度、出荷先を記録しておけば、原因の特定と被害の拡大防止に大きく役立つ。日々の記録は、店を守る「疫学の第一歩」である。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1年齢構成の異なる集団の死亡状況を比べるときは、年齢調整死亡率を用いる
Q2高齢化率とは、総人口に占める60歳以上の人口の割合である
Q3周産期死亡とは、妊娠満12週以後の死産と新生児死亡を合わせたものである
Q4合計特殊出生率とは、15〜49歳の女性の年齢別出生率を合計したものである
Q5令和7年の日本人の死因の第1位は心疾患である
Q6コホート研究は、症例対照研究に比べて信頼性が高く、結果を早く得ることができる
Q7疫学の研究は、記述疫学、分析疫学、介入疫学の段階に分けられる
Q8死産とは、妊娠満12週以後の死児の出産をいう
Q9新生児死亡とは、生後1年未満の死亡をいう
Q10乳児死亡とは、生後6か月未満の死亡をいう
Q11人口動態統計は、過去5年間に起きた出生・死亡などを把握する統計である
Q12健康寿命とは、0歳の人が今後平均で何年生きられるかを示したものである
Q13乳児死亡率は、地域の衛生状態や生活水準を反映する指標である
Q14日本の出生率は、国際的にみて高い水準にある
Q15患者調査から、受療率が求められる
Q16日本の総人口は、現在も増加を続けている
Q17令和7年の死因の第3位は脳血管疾患である
Q18国勢調査は、10年ごとに行われる
Q19平均寿命とは、現在の国民全体の平均年齢のことである
Q20高齢化の影響により、2018年に老衰が脳血管疾患を上回り、死因の第3位となった
Q21症例対照研究は、病気になった人とならなかった人を比べ、過去にさかのぼって要因を調べる方法で、オッズ比が求められる
Q22平均寿命は、死亡率や乳児死亡率とともに、健康水準を示す指標として国際比較に利用される
Q23罹患率とは、ある時点で、その集団の中で病気にかかっている人の割合である
Q24人口を維持するのに必要な合計特殊出生率は、2.0である
Q25がんの部位別死亡数は、男女ともに大腸がんが最も多い
Q26人口静態統計は、ある一定の時点での人口の状態に関する統計で、日本では国勢調査によって把握される
Q27国民生活基礎調査は、全世帯を対象に行われる
まとめ
衛生統計には、人口静態統計(ある時点の人口の状態。国勢調査、1920年から5年ごと)、人口動態統計(1年間の出生・死亡・死産・婚姻・離婚)、生命表、疾病統計がある。日本の総人口は2008年ごろから減少し、65歳以上の割合(高齢化率)は29.6%(令和8年9月)で世界最高水準の超高齢社会(21%超)である。人口ピラミッドはつぼ型である。
令和7年の人口動態では、出生数67万1,270人、出生率5.6、合計特殊出生率1.14(過去最低、人口置換水準は約2.1)、死亡数158万9,533人、自然増減は19年連続の減少である。乳児死亡は生後1年未満、新生児死亡は生後4週未満、早期新生児死亡は生後1週未満、死産は妊娠満12週以後、周産期死亡は妊娠満22週以後の死産+早期新生児死亡である。乳児死亡率は1.9で世界最低水準である。
死因の順位は、①悪性新生物(1981年から)②心疾患 ③老衰(2018年から)④脳血管疾患 ⑤肺炎。がんの部位別死亡数の第1位は、男性が肺、女性が大腸である。年齢構成の違いを除いて比べるには年齢調整死亡率を用いる。
平均寿命は0歳の平均余命で、令和7年は男性81.35年、女性87.33年。健康寿命は日常生活が制限されることなく生活できる期間で、その延伸が大きな課題である。有病率はある時点で病気にかかっている人の割合、罹患率は一定期間に新たに病気にかかった人の割合である。
疫学は、集団を対象に病気の分布と原因を調べる学問で、記述疫学(仮説を立てる)→分析疫学(症例対照研究=後ろ向き・オッズ比・短期間で安価、コホート研究=前向き・相対危険・長期間で高価だが信頼性が高い)→介入疫学と進められる。
数字の変化は、菓子店のお客様の変化でもある。次章からは第二部として、私たちの健康を左右する環境について学ぶ。まずは、空気・光・温熱と住居である。
※ 本書は、令和7年の人口動態統計、令和7年簡易生命表、令和8年10月時点の法令・制度にもとづいています。

