公衆衛生学 第四部 ライフステージと職場の健康
母子保健・学校保健・高齢者保健
はじめに
人の一生は、母親のおなかの中にいる時期から始まり、乳幼児期、学童期、思春期、成人期を経て、高齢期へと進む。それぞれの時期(ライフステージ)には、それぞれ特有の健康の課題がある。妊娠・出産の安全、赤ちゃんの健やかな成長、子どもの感染症と生活習慣、働く世代の健康、そして高齢期の介護や認知症。
公衆衛生は、こうしたライフステージごとの課題に応じて、さまざまな制度を用意している。母と子の健康を守る母子保健、子どもたちの健康を学校で守る学校保健、高齢者の健康と生活を支える高齢者保健である。第四部では、ライフステージと職場の健康を学ぶ。本章では、この三つの分野と、すべての世代にかかわる精神保健と歯科保健を扱う。
健康日本21(第三次)が重視する「ライフコースアプローチ」は、胎児期から高齢期までを一続きのものとしてとらえ、子どものころからの健康づくりが大人になってからの健康を左右するという考え方である(第2章参照)。
試験では、母子保健法(母子健康手帳、乳幼児健診)、学校保健安全法(健康診断、出席停止、学校医など)、介護保険、高齢期の健康課題(フレイル、認知症)が出題される。各ライフステージの栄養については、栄養学の本で詳しく扱う。
1. 母子保健
1-1. 母子保健の意義
母子保健は、妊娠・出産・育児の時期の母親と、乳幼児の健康を守る取り組みである。母親と子どもの健康状態は、その地域の衛生状態や生活水準、医療の水準を反映する。第3章で学んだ乳児死亡率や周産期死亡率は、母子保健の水準を示す代表的な指標である。
日本の乳児死亡率は、1947年には76.7であったが、現在は1.9(令和7年)と世界でもっとも低い水準にある。この大きな改善は、栄養状態の向上や医療の進歩とともに、母子保健の制度が地域で着実に実施されてきた成果である。
1-2. 母子保健法
母子保健の中心となる法律は、1965年に制定された母子保健法である。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 妊娠の届出 | 妊娠した人は、速やかに市町村長に妊娠の届出をする |
| 母子健康手帳の交付 | 妊娠の届出をした人に、市町村が母子健康手帳を交付する。妊娠中の経過、出産の状況、子どもの成長、予防接種の記録などを記入する |
| 妊婦健康診査 | 妊娠中の母親と胎児の健康状態を定期的に調べる。市町村が費用を助成する |
| 乳幼児健康診査 | 市町村は、1歳6か月児健康診査と3歳児健康診査を行わなければならない。このほか、乳児健診なども行われる |
| 低出生体重児の届出 | 体重2,500g未満の子が生まれたときは、市町村に届け出る |
| 訪問指導 | 保健師などが、新生児や妊産婦の家庭を訪問して、育児や健康の相談にのる |
| 未熟児養育医療 | 入院して治療を受ける必要のある未熟児に、医療費を給付する |
⚠️ 母子健康手帳を交付するのは「市町村」である。「保健所」「都道府県」「医療機関」ではない。
母子保健法の主な業務は、住民に身近な市町村が行う。これは、1994年の地域保健法の制定によって、母子保健サービスが市町村に一元化されたためである(第2章参照)。
1-3. 乳幼児の主な検査と事業
| 事業 | 内容 |
|---|---|
| 新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査) | 生まれて数日の赤ちゃんのかかとから少量の血液をとり、フェニルケトン尿症などの先天性代謝異常症や、先天性甲状腺機能低下症などを調べる。早期に発見し、特殊ミルクや治療を始めることで、障害の発生を防ぐ |
| 新生児聴覚検査 | 生まれつきの聴覚の障害を早く見つける |
| 乳児家庭全戸訪問事業 | 生後4か月までの赤ちゃんがいるすべての家庭を訪問し、子育ての情報提供や相談を行う |
| 産後ケア事業 | 出産後の母親の心身のケアや、育児の支援を行う |
1-4. 子どもと家庭を支える仕組み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| こども家庭庁 | 2023年4月に発足した。母子保健、子育て支援、児童虐待の防止など、子どもに関する行政をまとめて担う(第2章参照)。同じ年にこども基本法が施行された |
| こども家庭センター | 2024年4月から、市町村に設置することが努力義務とされた。母子保健(子育て世代包括支援センター)と児童福祉(子ども家庭総合支援拠点)の相談支援を一体的に行う |
| 健やか親子21 | 母子保健の国民運動計画。2001年から始まり、2015年度からは第2次として進められている |
| 成育基本法 | 妊娠期から成人期までの切れ目のない支援を進めるための法律(2019年施行) |
1-5. 母子保健の課題
| 課題 | 内容と対策 |
|---|---|
| 低出生体重児 | 生まれる子どもに占める2,500g未満の割合は、約1割である。母親の妊娠前のやせ、妊娠中の喫煙、高年齢での出産などがかかわる |
| 乳幼児突然死症候群(SIDS) | 健康に見えた赤ちゃんが、眠っている間に突然亡くなる病気。あおむけに寝かせる、できるだけ母乳で育てる、たばこをやめることで、危険を減らせる |
| 妊娠中・授乳中の喫煙と飲酒 | 胎児の発育の遅れや、障害の原因になる |
| 児童虐待 | 児童相談所での相談対応件数は、増加が続いている。児童虐待防止法(2000年)にもとづき、虐待の疑いに気づいた人には通告の義務がある |
| 産後うつ | 出産後の母親の心の不調。産後ケア事業や訪問による早期の支援が大切である |
2. 学校保健
2-1. 学校保健とは
学校保健は、児童・生徒・学生と教職員の健康を守り、育てる取り組みである。学校は、子どもが一日の多くの時間を過ごし、集団で生活する場所であるため、感染症が広がりやすく、生活習慣が身につく大切な場所でもある。
学校保健は、文部科学省の所管であり、学校保健行政(文部科学省 → 教育委員会 → 学校)の系統で行われる(第2章参照)。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 保健教育 | 体育科・保健体育科の授業などで、健康についての知識と、自分で健康を守る力を身につけさせる |
| 保健管理 | 健康診断、健康相談、感染症の予防、学校の環境衛生の管理など |
2-2. 学校保健安全法
学校保健の中心となる法律は、学校保健安全法である。1958年の学校保健法が、2009年に改正されて現在の名前になった。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 就学時の健康診断 | 小学校に入学する前の子どもに、市町村の教育委員会が行う |
| 児童生徒等の健康診断 | 毎学年、6月30日までに行う。身長、体重、視力、聴力、歯、結核などを調べる |
| 職員の健康診断 | 学校の設置者が、教職員に行う |
| 出席停止 | 感染症にかかっている、またはその疑いのある児童生徒について、校長が出席を停止させることができる |
| 臨時休業 | 感染症の予防上必要があるときは、学校の設置者が、学校の全部または一部を休業できる(学級閉鎖、休校) |
| 学校環境衛生基準 | 教室の換気、温度、照度、飲料水、プールの水などの基準を定める |
| 学校安全 | 学校での事故や災害、不審者などへの安全対策 |
学校には、次のような人が置かれている。
| 職 | 役割 |
|---|---|
| 学校医 | 健康診断、健康相談、感染症の予防などにかかわる医師 |
| 学校歯科医 | 歯の健康診断や指導を行う歯科医師 |
| 学校薬剤師 | 学校環境衛生の検査や指導(教室の空気、照度、飲料水、プールの水質など)を行う薬剤師 |
| 養護教諭 | 保健室で、子どものけがや病気の手当て、健康相談、保健指導を行う教員 |
| 保健主事 | 学校の保健に関する活動を計画・調整する教員 |
| 栄養教諭 | 学校給食の管理と、食に関する指導を行う教員(2005年に制度化) |
学校医・学校歯科医・学校薬剤師は、大学を除くすべての学校に置かなければならない。
⚠️ 学校の飲料水やプールの水質、教室の空気などの環境衛生を検査するのは「学校薬剤師」である。学校医ではない。
2-3. 学校で予防すべき感染症
学校保健安全法では、学校で予防すべき感染症を第1種から第3種に分け、出席停止の期間の基準を定めている。
| 種類 | 主な感染症 | 出席停止の期間の基準 |
|---|---|---|
| 第1種 | エボラ出血熱、ペスト、ジフテリア、急性灰白髄炎(ポリオ)、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1など)など(感染症法の一類感染症と、結核を除く二類感染症) | 治癒するまで |
| 第2種 | インフルエンザ、百日咳、麻しん、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、風しん、水痘、咽頭結膜熱、新型コロナウイルス感染症、結核、髄膜炎菌性髄膜炎 | 感染症ごとに定められた期間 |
| 第3種 | コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス、流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎、その他の感染症 | 学校医などが、感染のおそれがないと認めるまで |
第2種の主な感染症の出席停止の期間の基準は、次のとおりである。
| 感染症 | 出席停止の期間の基準 |
|---|---|
| インフルエンザ | 発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで |
| 新型コロナウイルス感染症 | 発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで |
| 麻しん | 解熱した後3日を経過するまで |
| 流行性耳下腺炎 | 耳下腺などのはれが出た後5日を経過し、かつ、全身の状態が良好になるまで |
| 風しん | 発しんが消えるまで |
| 水痘 | すべての発しんがかさぶたになるまで |
| 百日咳 | 特有のせきが消えるまで、または5日間の適正な抗菌薬による治療が終わるまで |
| 咽頭結膜熱 | 主な症状が消えた後2日を経過するまで |
⚠️ 出席停止を決めるのは「校長」、臨時休業(学級閉鎖・休校)を決めるのは「学校の設置者」である。
2-4. 子どもの健康の課題
学校保健統計などからみた、現在の子どもの主な健康の課題には、次のようなものがある。
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 視力の低下 | 裸眼視力1.0未満の子どもの割合が増え、過去最高の水準にある。スマートフォンやゲームなどで近くを見る時間が長いことがかかわっている |
| むし歯 | むし歯のある子どもの割合は、長期的に大きく減っている。それでも、子どもの病気の中では多い |
| 肥満とやせ | 運動不足や食生活の乱れによる肥満と、思春期の女子に多い過度なやせの両方が課題である |
| 生活習慣の乱れ | 朝食の欠食、睡眠不足、運動する子どもとしない子どもの二極化 |
| 心の健康 | いじめ、不登校、心の不調への対応 |
| 食物アレルギー | 学校給食での誤食による事故を防ぐ対策が求められる |
2-5. 学校給食
学校給食法(1954年)にもとづく学校給食は、子どもの栄養の改善と健康の増進、正しい食習慣の形成、食育の推進に大きな役割を果たしている。学校給食の献立は、文部科学省の学校給食実施基準(学校給食摂取基準)をもとに立てられ、調理は学校給食衛生管理基準にもとづいて衛生的に行われる。栄養教諭は、給食を教材として、食に関する指導を行う。
3. 高齢者保健
3-1. 高齢社会の課題
日本は、高齢化率29.6%(令和8年9月)の超高齢社会である(第3章参照)。平均寿命が延びる一方で、平均寿命と健康寿命の差、つまり日常生活に制限のある期間は、男性で約8.5年、女性で約11.6年ある。高齢者保健の目標は、高齢者ができるだけ長く、自立して、住み慣れた地域で暮らせるようにすることである。
3-2. 高齢者の医療と介護の制度
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法) | 1982年の老人保健法が、2008年に改正された。後期高齢者医療制度(75歳以上)と、特定健康診査・特定保健指導(40〜74歳)を定める(第9章参照) |
| 介護保険法 | 2000年に始まった介護保険制度を定める。保険者は市町村、被保険者は40歳以上(第2章参照) |
| 高齢者虐待防止法 | 高齢者への虐待を防ぎ、養護者を支援する(2006年施行) |
介護保険のサービスを受けるには、市町村による要介護認定を受ける。認定は、要支援1・2と要介護1〜5の7段階である。
| 認定 | 受けられる主なサービス |
|---|---|
| 要支援1・2 | 介護予防サービス(介護予防通所リハビリテーションなど)。状態の悪化を防ぎ、自立した生活を続けることを目的とする |
| 要介護1〜5 | 介護サービス。訪問介護(ホームヘルプ)、通所介護(デイサービス)、短期入所(ショートステイ)、特別養護老人ホームなどの施設サービスなど |
ケアマネジャー(介護支援専門員)が、本人や家族と相談しながら、どのサービスをどう組み合わせて使うか(ケアプラン)をつくる。
3-3. 地域包括ケアシステム
国は、高齢者が、重い要介護の状態になっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けられるよう、住まい、医療、介護、介護予防、生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムづくりを進めている。
その中心となるのが、市町村が設置する地域包括支援センターである。保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)などが、高齢者の総合的な相談、介護予防のケアプランの作成、権利擁護(虐待の防止など)を行っている。
3-4. 介護が必要になる主な原因
介護が必要になった主な原因は、認知症、脳血管疾患(脳卒中)、骨折・転倒、高齢による衰弱、関節の病気などである。脳血管疾患は生活習慣病であり、若いころからの予防が大切である(第9章参照)。
3-5. 高齢期の主な健康課題
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| フレイル | 加齢にともなって、心身の活力(筋力、認知機能、社会とのつながりなど)が低下し、要介護の状態に近づいた状態。「健康」と「要介護」の中間の段階で、適切な対策によって元の状態に戻ることができるのが特徴 |
| サルコペニア | 加齢にともなって、筋肉の量と筋力が低下した状態。フレイルの大きな原因となる |
| ロコモティブシンドローム(運動器症候群) | 骨、関節、筋肉などの運動器の障害によって、立つ、歩くなどの移動の機能が低下した状態 |
| オーラルフレイル | かむ、飲みこむ、話すなどの口の機能が少しずつ衰えた状態。食べられるものが減り、低栄養やフレイルにつながる |
| 低栄養 | 食事の量が減り、たんぱく質やエネルギーが不足した状態。高齢者では、肥満よりも低栄養が問題になることが多い(栄養学の本を参照) |
| 誤嚥性肺炎 | 食べ物や唾液が気管に入って起こる肺炎。高齢者に多く、死因の第6位である(第3章参照) |
| 転倒・骨折 | 骨粗しょう症で骨が弱くなっていると、転倒によって大腿骨などを骨折しやすい。寝たきりの原因になる |
フレイルを防ぐには、栄養(とくにたんぱく質をしっかりとる)、身体活動(歩く、筋力をつける)、社会参加(人と交流する、役割をもつ)の三つが大切とされる。
3-6. 認知症
認知症は、いろいろな病気によって脳の働きが低下し、記憶や判断の力が衰えて、日常生活に支障が出る状態である。原因となる病気では、アルツハイマー型認知症がもっとも多く、次いで、脳梗塞などによる血管性認知症などがある。
認知症の人は、高齢化とともに増えている。国は、2024年1月に認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)を施行し、認知症の人が尊厳を保ちながら、希望をもって暮らせる共生社会の実現を目指している。地域では、認知症について正しく理解し、認知症の人や家族を温かく見守る認知症サポーターの養成も進められている。
4. 精神保健と歯科保健
4-1. 精神保健
心の健康は、すべてのライフステージにかかわる。精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)にもとづき、精神障害者の医療と保護、社会復帰の支援、国民の心の健康の保持と増進が図られている。
| 機関 | 役割 |
|---|---|
| 精神保健福祉センター | 都道府県と指定都市に置かれる、心の健康に関する専門的な相談と支援の中心となる機関 |
| 保健所 | 地域の精神保健の相談、訪問指導(第2章参照) |
| 市町村 | 身近な相談、障害福祉サービス |
日本の自殺による死亡は、ピーク時より減っているものの、毎年多くの人が亡くなっており、とくに若い世代の死因の上位をしめている。自殺対策基本法(2006年)にもとづき、社会全体で自殺を防ぐ取り組みが進められている。悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聴き、必要な支援につなげ、見守る人をゲートキーパーという。
働く人の心の健康については、第11章で扱う。
4-2. 歯科保健
歯と口の健康は、食べる楽しみ、会話、そして全身の健康を支えている。むし歯と歯周病は、歯を失う二大原因である。歯周病は、糖尿病や心臓病、誤嚥性肺炎などとも関係していることがわかってきた。
8020(ハチマルニイマル)運動は、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という運動で、1989年に始まった。20本以上の歯があれば、ほとんどの食べ物をかみくだき、おいしく食べることができるとされる。運動の開始時には、80歳で20本以上の歯がある人はごくわずかであったが、現在は5割を超えるまでになった。
2011年には歯科口腔保健の推進に関する法律が制定され、生涯を通じた歯と口の健康づくりが進められている。
5. 製菓とのつながり
5-1. 妊娠中のお客様への配慮
妊娠中の人は、食べ物に特に注意が必要である。菓子に使われる材料のうち、次のようなものは、妊娠中のお客様から質問を受けることがある。
| 材料 | 注意の理由 |
|---|---|
| 洋酒(ラム酒、キルシュ、ブランデーなど) | 妊娠中・授乳中の飲酒は、胎児や乳児に影響する。加熱しない洋酒を使った菓子(サバラン、生のシロップを打った菓子など)には、アルコールが残っている |
| 加熱殺菌していない乳製品(ナチュラルチーズなど) | 妊娠中はリステリアに感染しやすく、流産や早産の原因になることがある(食品衛生学の本の細菌性食中毒①感染型の章を参照) |
| 生卵や加熱の不十分な卵を使ったクリーム | サルモネラ食中毒の危険 |
| カフェイン(コーヒー、紅茶、チョコレート) | 多量にとると、胎児の発育に影響するおそれがあるため、とりすぎに注意する |
洋酒の使用を表示する、質問に正確に答えられるよう材料を把握しておくといった配慮は、お客様の安心につながる。
5-2. 乳幼児とはちみつ、のどにつまりやすい菓子
1歳未満の乳児には、はちみつを与えてはならない。はちみつにふくまれることのあるボツリヌス菌の芽胞が、腸内環境の整っていない乳児の腸の中で増え、乳児ボツリヌス症を起こすことがあるためである(食品衛生学の本の細菌性食中毒②毒素型の章を参照)。はちみつを使った菓子を販売するときは、1歳未満の乳児に与えないよう注意を表示することが望ましい。
また、乳幼児や高齢者は、かむ力や飲みこむ力が弱く、窒息の事故が起こりやすい。丸いあめやナッツ、ミニトマト、ぶどう、もち、白玉、ゼリー(とくに一口サイズのこんにゃく入りゼリー)などは、のどにつまりやすい食品である。とくに、かたい豆やナッツ類は、5歳以下の子どもには食べさせないよう、国も注意をよびかけている。
5-3. 高齢のお客様と食べる楽しみ
高齢になっても、菓子は大きな楽しみである。季節の和菓子や、思い出の菓子は、食欲を引き出し、人との会話のきっかけにもなる。フレイルの予防には「社会参加」も大切であり、菓子を囲んでお茶を飲む時間は、高齢者の心と体を支える時間にもなる。
一方で、かむ力や飲みこむ力の弱った人には、やわらかく、口の中でまとまりやすく、小さめの菓子が食べやすい。粉っぽくパサつくもの、口の中にはりつくもの、ばらばらになりやすいものは、むせや誤嚥の原因になることがある。お客様の状態に合わせた菓子を提案できることは、高齢社会での菓子店の大切な役割である。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1母子健康手帳は、保健所が交付する
Q21歳未満の乳児には、はちみつを与えてはならない
Q3児童生徒の定期健康診断は、毎学年12月末までに行う
Q4介護保険で、要支援の人は介護サービスを受けることができない
Q5ロコモティブシンドロームとは、口の機能が衰えた状態をいう
Q6インフルエンザによる出席停止の期間の基準は、解熱した後1日を経過するまでである
Q7サルコペニアとは、加齢にともなう筋肉量と筋力の低下をいう
Q8妊娠した人は、速やかに市町村長に妊娠の届出をしなければならない
Q9地域包括支援センターは、高齢者の総合的な相談や介護予防の支援を行う
Q10水痘による出席停止の期間の基準は、発熱がおさまるまでである
Q11学校の飲料水やプールの水質の検査は、学校医が行う
Q12妊娠の届出は、都道府県知事に対して行う
Q13低出生体重児とは、出生時の体重が3,000g未満の子をいう
Q14後期高齢者医療制度の対象は、65歳以上の人である
Q158020運動とは、20歳までに歯を80本にしようという運動である
Q16こども家庭センターは、母子保健と児童福祉の相談支援を一体的に行う
Q17乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険を減らすには、うつぶせに寝かせるのがよい
Q18学校保健は、厚生労働省が所管している
Q19フレイルの予防には、栄養、身体活動、社会参加が大切である
Q20学校保健安全法では、学校で予防すべき感染症を第1種から第3種に分けている
Q21フレイルは、一度なると元の状態に戻ることはない
Q22母子保健法では、1歳児健康診査と2歳児健康診査が市町村に義務づけられている
Q23新生児マススクリーニングでは、フェニルケトン尿症などの先天性代謝異常症を調べる
Q24感染症にかかった児童生徒の出席停止は、学校医が決定する
Q25学校には、学校医・学校歯科医・学校薬剤師を置かなければならない(大学を除く)
Q26介護保険の要介護認定は、要支援1・2と要介護1〜5に分けられる
まとめ
母子保健は、母子保健法(1965年)にもとづき、主に市町村が行う。妊娠した人は市町村長に妊娠の届出をし、市町村が母子健康手帳を交付する。市町村は1歳6か月児と3歳児の健康診査を行わなければならない。2,500g未満の低出生体重児は届け出る。新生児マススクリーニングで先天性代謝異常症を早期に発見する。2023年4月にこども家庭庁が発足し、2024年4月から市町村にこども家庭センターの設置が努力義務とされた。SIDSの予防には、あおむけ寝、母乳、禁煙が大切である。
学校保健は文部科学省の所管で、学校保健安全法にもとづく。児童生徒の健康診断は毎学年6月30日までに行い、出席停止は校長、臨時休業は学校の設置者が決める。学校には学校医・学校歯科医・学校薬剤師(環境衛生の検査)を置く。学校で予防すべき感染症は第1種〜第3種に分けられ、インフルエンザの出席停止は「発症後5日、かつ解熱後2日(幼児3日)」、水痘は「すべての発しんがかさぶたになるまで」である。
高齢者保健では、後期高齢者医療制度(75歳以上)、介護保険(市町村が要支援1・2、要介護1〜5を認定)、地域包括ケアシステムと地域包括支援センターが柱となる。高齢期の健康課題には、フレイル(健康と要介護の中間で、元に戻れる)、サルコペニア(筋肉の減少)、ロコモティブシンドローム(運動器)、オーラルフレイル(口の機能)、低栄養、誤嚥性肺炎、認知症(認知症基本法、2024年1月施行)がある。
精神保健では精神保健福祉センター(都道府県)、自殺対策ではゲートキーパーが大切である。歯科保健では、8020運動(80歳で20本以上、1989年から)が進められている。
菓子店は、妊娠中のお客様への洋酒やチーズの情報、1歳未満の乳児へのはちみつの注意、窒息しやすい菓子への配慮、高齢のお客様の食べやすさへの工夫を通じて、すべての世代の健康にかかわっている。次章では、働く人の健康を守る産業保健(労働衛生)について学ぶ。
※ 本書は、令和7年の人口動態統計、令和7年簡易生命表、令和8年10月時点の法令・制度にもとづいています。

