食品衛生学 第二部 食中毒
食中毒の概要と予防
はじめに
食品衛生学の中で、製菓衛生師試験に最も多く出題されるのが食中毒である。どの菌がどの食品で、どのくらいの時間で、どんな症状を起こすのか。どうすれば防げるのか。本書では、第3章から第8章までの6章を使って、食中毒をくわしく学ぶ。
本章はその入口として、食中毒とは何か、どのような種類があるか、日本でどのくらい発生しているか、食中毒が起きたときに何が行われるか、そして、すべての食中毒に共通する予防の考え方を整理する。個々の原因物質については、次章から順に学ぶ。
食中毒の統計は、毎年の発生状況によって大きく変わる。古い教材には「カンピロバクターが事件数の1位」と書かれていることが多いが、その後アニサキスが1位になる年が続き、令和7年(2025年)はノロウイルスが事件数・患者数ともに1位となった。本書では、令和7年の全国の統計を基準とし、令和6年の数値も比べて示す。試験では、受験する年の教材がどの年の統計を使っているかに注意が必要である。
1. 食中毒とは何か
1-1. 食中毒の定義
食中毒とは、飲食物を通じて体に入った有害な微生物や化学物質などによって起こる健康被害のことである。食品衛生法では、食品、添加物、器具、容器包装に起因する中毒を食中毒として扱っている。したがって、食品そのものだけでなく、器具や容器から溶け出した物質による健康被害も食中毒に含まれる。
食中毒の多くは、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの胃腸の症状をともなう急性の健康被害である。ただし、ボツリヌス菌や一部の自然毒のように神経の症状を起こすもの、ヒスタミンのようにじんましんなどアレルギーに似た症状を起こすものもある。
1-2. 「腐っていなくても」起こる
食中毒について最も大切な理解の一つは、食中毒の原因になる食品は、見た目もにおいも味も普通であることが多いということである。
食品を腐らせる細菌(腐敗細菌)と、食中毒を起こす細菌(食中毒菌)は、多くの場合別の菌である。食中毒菌が食中毒を起こすほど増えていても、食品の見た目やにおいはほとんど変わらない。ノロウイルスのように、食品の中で増えもしないものもある。逆に、腐敗した食品は不快で食べる気にならないため、かえって食中毒の原因になりにくいともいえる。
「におわないから大丈夫」「色が変わっていないから大丈夫」という判断は、食中毒の予防には役に立たない。食中毒を防ぐには、感覚にたよらず、温度と時間の管理、手指や器具の衛生、十分な加熱という、作業の決まりを守ることが必要である。
1-3. 食中毒と感染症の関係
ノロウイルス、腸管出血性大腸菌、赤痢菌などは、食品を通じて感染すれば「食中毒」として、人から人へ感染すれば「感染症」として扱われる。同じ病原体でも、感染の経路によって呼び方と対応する法律が異なる(食中毒は食品衛生法、感染症は感染症法)。
かつては、コレラや赤痢などは「伝染病」として、食中毒とは別に扱われていた。現在では、飲食物を介して起きたものであれば、病原体の種類にかかわらず食中毒として扱われる。感染症としての扱いは第6章で学ぶ。
2. 食中毒の分類
2-1. 原因物質による分類
食中毒は、原因となる物質(病因物質)によって、次のように分けられる。
| 大分類 | 中分類 | 主な病因物質 | 本書で扱う章 |
|---|---|---|---|
| 細菌性食中毒 | 感染型 | サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、病原大腸菌(腸管出血性大腸菌など)、ウエルシュ菌、エルシニア、リステリア | 第4章 |
| 毒素型(食品内毒素型) | 黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌(嘔吐型) | 第5章 | |
| ウイルス性食中毒 | — | ノロウイルス、A型・E型肝炎ウイルス、サポウイルス | 第6章 |
| 自然毒食中毒 | 動物性 | フグ毒(テトロドトキシン)、貝毒、シガテラ毒 | 第7章 |
| 植物性 | 毒きのこ、じゃがいもの芽(ソラニン類)、トリカブト、スイセン、青梅 | 第7章 | |
| 寄生虫による食中毒 | — | アニサキス、クドア、サルコシスティス | 第8章 |
| 化学性食中毒 | — | ヒスタミン、有害金属、洗剤などの誤用、変敗した油脂 | 第8章 |
2-2. 細菌性食中毒の「感染型」と「毒素型」
細菌性食中毒は、細菌がどのように病気を起こすかによって、感染型と毒素型に分けられる。この違いは、潜伏期間の長さや、加熱で予防できるかどうかに直結するため、試験でも繰り返し問われる。
| 項目 | 感染型 | 毒素型(食品内毒素型) |
|---|---|---|
| しくみ | 食品とともに体に入った生きた菌が、腸の中で増えたり、腸の細胞に入りこんだりして病気を起こす | 菌が食品の中で増殖するときにつくった毒素を食べることで病気を起こす |
| 潜伏期間 | 比較的長い(半日〜数日) | 短い(30分〜数時間のものが多い) |
| 加熱による予防 | 食べる前の十分な加熱で菌を殺せば予防できる | 毒素が熱に強い場合、加熱しても予防できないことがある |
| 主な菌 | サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、病原大腸菌 | 黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌(嘔吐型) |
感染型の中には、腸の中で菌が増えるときに毒素をつくり、その毒素によって症状が出るものもある。腸管出血性大腸菌(ベロ毒素)、ウエルシュ菌、セレウス菌(下痢型)などがこれにあたり、生体内毒素型(感染毒素型)として、感染型・毒素型と並ぶ第三の型に分ける教材もある。
| 分け方 | 感染型 | 生体内毒素型 | 食品内毒素型 |
|---|---|---|---|
| 三つに分ける教材 | サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクターなど | 腸管出血性大腸菌、ウエルシュ菌、セレウス菌(下痢型)など | 黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌(嘔吐型) |
| 二つに分ける教材 | 感染型 | 感染型に含める | 毒素型 |
試験では、使っている教材の分け方で答えることが大切である。本書では二つに分ける方法を基本とし、生体内毒素型にあたる菌は、その性質を各章で説明する。
3. 食中毒の発生状況
3-1. 全国の発生件数と患者数
日本の食中毒の統計は、全国の保健所が調査した結果を厚生労働省がまとめたものである。令和7年と令和6年の全国の発生状況は次のとおりである。
| 項目 | 令和7年(2025年) | 令和6年(2024年) |
|---|---|---|
| 事件数 | 1,172件 | 1,037件 |
| 患者数 | 24,727人 | 14,229人 |
| 死者数 | 2人 | 3人 |
食中毒は、毎年おおむね1,000件前後、患者数は1万〜2万人台で推移している。令和7年は、ノロウイルスによる食中毒が大きく増えたことで、患者数が前年の約1.7倍になった。
なお、この数は保健所に届け出られ、食中毒と判断されたものだけである。症状が軽く医療機関を受診しなかった人や、原因が特定できなかったものは含まれないため、実際の食中毒はこれよりはるかに多いと考えられている。
3-2. 病因物質別の発生状況
病因物質別にみると、事件数の多いものと患者数の多いものは一致しない。この違いが試験でよく問われる。
| 順位 | 事件数(令和7年) | 患者数(令和7年) |
|---|---|---|
| 1位 | ノロウイルス(462件) | ノロウイルス(18,566人) |
| 2位 | アニサキス(280件) | ウエルシュ菌(1,260人) |
| 3位 | カンピロバクター(220件) | カンピロバクター(1,226人) |
大きな分類で見ると、令和7年の事件数は、ウイルス467件、細菌315件、寄生虫305件、自然毒47件、化学物質14件である。
これまでの推移と、それぞれの特徴は次のとおりである。
| 病因物質 | 特徴 |
|---|---|
| ノロウイルス | 患者数では長年1位。1件あたりの患者数が多い。令和7年は事件数でも1位 |
| アニサキス | 1件あたりの患者数はほぼ1人で、患者数は少ないが、事件数は多い。近年は事件数の1位になる年が多く、令和6年も1位(330件) |
| カンピロバクター | 細菌性食中毒の中では事件数が多い。古い教材では「事件数1位」とされていることが多い |
| ウエルシュ菌 | 事件数は少ないが、給食や仕出し弁当などの大量調理で起きるため、1件あたりの患者数が多い |
| 自然毒 | 事件数・患者数は少ないが、死者の割合が高い |
アニサキスの事件数が多くなった背景には、生の魚を食べる機会の増加に加え、統計の分類が細かくなり、医療機関からの届出がされやすくなったこともあると考えられている。
3-3. 季節による違い
食中毒は一年中起きているが、病因物質によって多い季節が異なる。
| 病因物質 | 多い季節 | 理由 |
|---|---|---|
| 細菌性 | 夏(6〜9月ごろ、とくに7月) | 気温と湿度が高く、細菌が増えやすい |
| ウイルス性(ノロウイルス) | 冬(11〜3月ごろ) | ウイルスが低温で長く生き残り、人から人への感染も広がりやすい。令和7年は、1〜3月に年間の患者の約57%が集中した |
| 寄生虫(アニサキス) | 一年中(春にやや多い) | 魚の流通や漁の時期による |
| 自然毒 | 春と秋 | 春は山菜と間違えた有毒植物、秋は毒きのこ |
令和7年の月別の事件数は、2月と3月(それぞれ184件)が最も多く、その多くがウイルスによるものであった。かつては「食中毒は夏のもの」と考えられていたが、現在では、冬はノロウイルス、夏は細菌と、一年を通して注意が必要である。
3-4. 原因施設
原因となった施設では、飲食店が最も多く、令和7年は事件数の約56%を占めている。そのほか、家庭、旅館、仕出し屋、販売店、製造所、事業場(給食施設など)、学校、病院などがある。
家庭での食中毒は、症状が軽いと届け出られないことが多く、統計にあらわれる数は実際より少ないと考えられている。アニサキスによる食中毒では、家庭や販売店(鮮魚店など)が原因施設となる例も多い。
3-5. 大規模な食中毒の例
過去には、一度に数千人から1万人をこえる患者を出した大規模な食中毒が起きている。これらは、日本の食品衛生の制度を見直すきっかけにもなった。
| 年 | 事例 | 病因物質 | その後への影響 |
|---|---|---|---|
| 平成8年(1996年) | 大阪府堺市の学校給食で、患者約1万人、児童3人が死亡 | 腸管出血性大腸菌O157 | 腸管出血性大腸菌感染症が法律上の感染症として扱われるようになり、大量調理施設衛生管理マニュアルが作られた |
| 平成12年(2000年) | 大手乳業メーカーの低脂肪乳などで、患者1万3千人以上 | 黄色ブドウ球菌のエンテロトキシン | 加熱殺菌しても耐熱性の毒素が残ることが広く知られ、乳製品の衛生管理が見直された |
4. 食中毒が起きたとき
4-1. 届出と調査の流れ
食中毒が起きたときの流れは、食品衛生法で定められている(第1章参照)。
- 食中毒の患者、または食中毒の疑いのある患者を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長に届け出なければならない
- 保健所長は、速やかに調査を行い、都道府県知事等に報告する
- 都道府県知事等は、調査の結果を厚生労働大臣に報告する。死者が出た場合や、患者が50人以上の場合など、規模が大きい場合や重大な場合には、直ちに報告する
- 原因がわかれば、原因施設に対して、営業の停止や禁止などの行政処分が行われ、再発防止のための指導が行われる。処分の内容は、多くの自治体で公表される
4-2. 保健所が行う調査
保健所は、食中毒の原因を特定するために、次のような調査を行う。
| 調査 | 内容 |
|---|---|
| 患者の調査 | 発症した日時と症状、何をいつどこで食べたか、ほかに同じものを食べた人はいるか |
| 原因と疑われる施設の調査 | 立入検査、作業の手順と温度管理の記録の確認、従事者の健康状態の確認 |
| 検査 | 患者の便や嘔吐物、残っている食品、保存してある検食、調理器具のふき取り、従事者の便などを、地方衛生研究所などで検査する |
| 疫学的な分析 | 食べた人と食べなかった人、発症した人としなかった人を比べて、共通する食品をしぼりこむ |
原因を特定するためには、食べたものが残っていることと、作業の記録が残っていることがとても重要である。大量調理施設では、原材料と調理済みの食品を一定量ずつ−20℃以下で2週間以上保存することが求められている(検食、第12章参照)。
4-3. 潜伏期間から原因を推測する
食べてから症状が出るまでの時間を潜伏期間という。潜伏期間は病因物質によってほぼ決まっているため、原因を推測する大きな手がかりになる。おおまかな目安は次のとおりである(詳しくは第4〜8章参照)。
| 潜伏期間のおおよその長さ | 主な病因物質 |
|---|---|
| 数分〜1時間ほど | ヒスタミン、一部の自然毒 |
| 30分〜6時間ほど | 黄色ブドウ球菌、セレウス菌(嘔吐型) |
| 半日前後 | 腸炎ビブリオ、ウエルシュ菌、セレウス菌(下痢型)、ボツリヌス菌 |
| 半日〜3日ほど | サルモネラ属菌、ノロウイルス(1〜2日) |
| 2〜7日ほど | カンピロバクター、腸管出血性大腸菌(3〜5日が多い) |
潜伏期間が短いものは、食品の中ですでにできていた毒素や化学物質によるもの、長いものは、体に入った菌やウイルスが体の中で増えてから症状が出るものであることが多い。潜伏期間が長いと、何を食べたかを思い出しにくく、原因の特定がむずかしくなる。
5. 食中毒の予防
5-1. 細菌性食中毒予防の三原則
細菌による食中毒を防ぐ基本は、次の三原則である。
| 原則 | 内容 | 具体的な方法 |
|---|---|---|
| つけない(清潔) | 食品に菌をつけない | 手洗い、器具の洗浄・消毒、器具の使い分け、生の食品とそのまま食べる食品を分けて扱う、作業区域を分ける |
| 増やさない(迅速・冷却) | ついた菌を増やさない | 調理したら早く食べる、すぐに冷やす、冷蔵・冷凍で保存する、室温に長く置かない |
| やっつける(加熱・殺菌) | 菌を殺す | 中心部まで十分に加熱する(75℃・1分間以上)、器具を熱湯や薬剤で消毒する |
三つの原則は、どれか一つを守ればよいというものではない。たとえば、加熱によって菌を殺しても(やっつける)、加熱後に手指から菌がつき(つけない、の失敗)、室温に置けば(増やさない、の失敗)、食中毒は起こる。また、黄色ブドウ球菌のように、食品の中で増えるときに熱に強い毒素をつくるものは、いったん毒素ができてしまうと、加熱しても予防できない。三つを組み合わせて守ることが大切である。
5-2. ノロウイルスの予防の四原則
ノロウイルスは食品の中で増えないため、「増やさない」は対策にならない。そのかわり、ウイルスを調理場に「持ち込まない」こと、調理場で「ひろげない」ことが重要になる。厚生労働省は、ノロウイルスの予防として、次の四つの原則を示している。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 持ち込まない | 下痢や嘔吐の症状がある人は調理をしない。家族の体調にも気を配る |
| ひろげない | 嘔吐物や便を正しく処理する。トイレや手が触れる場所を消毒する |
| つけない | 用便後・調理前の十分な手洗い。使い捨て手袋の使用 |
| やっつける | 中心温度85〜90℃・90秒間以上の加熱。次亜塩素酸ナトリウムによる消毒 |
くわしくは第6章で学ぶ。
5-3. 病因物質ごとの予防の要点
食中毒の予防の考え方は、病因物質の性質によって変わる。第4章から第8章で学ぶ内容を、ここで先に整理しておく。
| 病因物質の性質 | 予防の中心 | 例 |
|---|---|---|
| 食品の中で増え、加熱で死ぬ細菌 | つけない・増やさない・やっつける | サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター |
| 食品の中で熱に強い毒素をつくる細菌 | つけない・増やさない(加熱は効かないことがある) | 黄色ブドウ球菌、セレウス菌(嘔吐型) |
| 芽胞をつくる細菌 | 加熱後に急速に冷やす、室温に置かない | ウエルシュ菌、セレウス菌、ボツリヌス菌 |
| 食品の中で増えないウイルス | 持ち込まない・ひろげない・つけない・やっつける | ノロウイルス |
| 加熱で壊れない自然毒 | 食べない(有毒なものを見分ける、取り除く) | フグ毒、毒きのこ、じゃがいもの芽 |
| 寄生虫 | 冷凍、加熱、目で見て取り除く | アニサキス |
| 化学物質 | 誤用を防ぐ、保管を分ける、鮮度管理 | 洗剤の誤用、ヒスタミン |
5-4. 家庭での予防
厚生労働省は、家庭で食中毒を防ぐためのポイントとして、食品の購入、家庭での保存、下準備、調理、食事、残った食品の六つの場面ごとに注意点を示している。購入のときには消費期限を確認し、肉や魚は分けて包む、帰ったらすぐに冷蔵庫に入れる、冷蔵庫は詰めすぎない、生の肉や魚を切った包丁やまな板は洗ってから熱湯をかける、調理した食品は室温に長く置かない、残った食品は早く冷えるよう浅い容器に小分けして保存する、などである。
菓子店で菓子を買う客にとっても、持ち帰ったあとの保存は食中毒の予防の一部である。
6. 製菓とのつながり
6-1. 菓子による食中毒の例
菓子も、食中毒の原因食品になる。過去に菓子が原因となった食中毒には、次のような例がある。
| 菓子 | 病因物質 | 主な原因 |
|---|---|---|
| まんじゅう、だんご、どら焼き、餅菓子などの和菓子 | 黄色ブドウ球菌 | 素手で成形する作業が多く、手指の傷などから菌がついた |
| 餡を使った餅菓子 | セレウス菌 | 煮た餡を長時間室温に置いた |
| だんご、柏餅 | 腸管出血性大腸菌O157 | 冷却に使う容器(冷却桶)の洗浄・殺菌が不十分だった |
| ティラミスなどの洋生菓子 | サルモネラ属菌 | 殺菌していない液卵を使い、十分に加熱しなかった |
| シュークリーム、ケーキ類 | 黄色ブドウ球菌 | クリームの充填やデコレーションの際に手指から菌がつき、温度管理が不十分だった |
| パン、菓子全般 | ノロウイルス | 調理従事者がウイルスを持ち込み、手指から食品につけた |
これらに共通するのは、加熱したあとの作業に原因があることである。菓子の多くは、加熱して終わりではなく、冷まし、成形し、クリームを詰め、飾り、包装する。その間に人の手や器具が何度も食品に触れる。菓子の食中毒予防では、「やっつける」と同じかそれ以上に、「つけない」と「増やさない」が重要になる。
6-2. 菓子店の三原則
菓子店の作業にあてはめると、三原則は次のようになる。
| 原則 | 菓子店での具体例 |
|---|---|
| つけない | 作業前・卵を割ったあと・トイレのあとの手洗い。手に傷がある人は、手袋をしてもクリームや成形の作業をしない。生の卵を扱う器具と、仕上げに使う器具を分ける。口金や絞り袋は使うたびに洗浄・消毒する |
| 増やさない | カスタードや餡は炊いたらすぐに浅いバットで冷やす。生菓子はショーケースの温度を記録する。作り置きの量を、その日に売り切れる量にする |
| やっつける | カスタードは中心まで十分に沸騰させる。メレンゲやムースに使う卵は、殺菌液卵を使うか、加熱するレシピ(イタリアンメレンゲ、パータ・ボンブなど)を選ぶ |
6-3. 検食と記録が店を守る
菓子店には、大量調理施設のような検食の義務はない。しかし、食中毒の疑いがかかったとき、製品の一部や原材料のロットの記録、冷蔵庫の温度の記録が残っていれば、原因の特定に役立ち、店に原因がないことを示す根拠にもなる。逆に、何も残っていなければ、店の衛生管理を説明することはむずかしい。
日々の記録は、HACCPに沿った衛生管理の柱でもある(第14章参照)。客の健康と店の信用の両方を守るために、記録を習慣にすることが大切である。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1腸管出血性大腸菌やウエルシュ菌のように、腸の中で菌が増えるときに毒素をつくるものを、生体内毒素型として分ける教材もある
Q2感染型食中毒は、菌が食品中でつくった毒素を食べることで起こるため、潜伏期間が短い
Q3令和7年の全国の食中毒の事件数で最も多い病因物質は、カンピロバクターである
Q4食中毒とは、飲食に起因する健康被害のことである
Q5ウエルシュ菌による食中毒は、1件あたりの患者数が少ないのが特徴である
Q6カンピロバクター食中毒の潜伏期間は、30分〜6時間と短い
Q7潜伏期間は病因物質によっておおよそ決まっているため、原因を推定する手がかりになる
Q8近年の食中毒の患者数では、ノロウイルスが最も多い
Q9サルモネラ属菌による食中毒は、毒素型食中毒である
Q10黄色ブドウ球菌による食中毒は、感染型食中毒である
Q11食品衛生法の食中毒には、器具や容器包装に起因するものは含まれない
Q12細菌性食中毒予防の三原則は、つけない・増やさない・冷凍する、である
Q13毒素型食中毒は、感染型食中毒に比べて潜伏期間が短い
Q14アニサキスによる食中毒は、1件あたりの患者数が多いため、患者数の順位が高い
Q15細菌性食中毒予防の三原則は、菌をつけない・増やさない・やっつけるである
Q16食中毒の患者を診断した医師は、都道府県知事に直接届け出なければならない
Q17ノロウイルスによる食中毒は、夏に最も多く発生する
Q18食中毒は、腐敗した食品を食べたときにだけ起こり、鮮度のよい食品では起こらない
Q19食中毒の原因施設で最も多いのは、家庭である
Q20令和7年の全国の食中毒の事件数は1,172件、患者数は24,727人であった
Q21大量調理施設では、原材料と調理済み食品を−20℃以下で2週間以上保存する
Q22細菌性食中毒は夏に多く、ウイルス性食中毒は冬に多い
Q23食中毒菌は、十分に加熱すればすべて予防できるので、加熱後の取り扱いに注意する必要はない
Q24食中毒の原因施設は、飲食店が最も多い
Q25近年の全国の食中毒の患者数で最も多い病因物質は、腸炎ビブリオである
Q26自然毒による食中毒は、事件数・患者数が多く、死者は少ない
Q27平成8年に堺市の学校給食で起きた大規模な食中毒の原因は、黄色ブドウ球菌である
Q28ノロウイルスの予防では、食品中での増殖を防ぐため、冷蔵保存が最も重要である
まとめ
食中毒とは、飲食物を通じて起こる健康被害であり、食品衛生法では食品・添加物・器具・容器包装に起因するものを扱う。食中毒菌が増えても食品の見た目やにおいはほとんど変わらないため、「腐っていなくても起こる」ことを理解し、感覚ではなく温度・時間・衛生の決まりで防ぐ必要がある。
食中毒は、病因物質によって、細菌性(感染型・毒素型)、ウイルス性、自然毒(動物性・植物性)、寄生虫、化学性に分けられる。感染型は生きた菌によって起こり潜伏期間が比較的長く、毒素型は食品の中でできた毒素によって起こり潜伏期間が短い。黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌・セレウス菌(嘔吐型)が毒素型である。腸の中で毒素をつくるものを生体内毒素型として分ける教材もある。
令和7年の全国の食中毒は1,172件・患者24,727人で、ノロウイルスが事件数(462件)・患者数(18,566人)ともに1位、事件数の2位はアニサキス、3位はカンピロバクターであった。患者数の2位は、1件あたりの患者数が多いウエルシュ菌である。細菌性は夏、ウイルス性は冬に多く、原因施設は飲食店が最も多い。自然毒は件数は少ないが死者の割合が高い。
食中毒の患者を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長に届け出る。予防の基本は、つけない・増やさない・やっつけるの三原則であり、ノロウイルスでは持ち込まない・ひろげないを加えた四原則が示されている。菓子は加熱後に人の手が入る工程が多く、「つけない」「増やさない」が特に重要である。次章からは、病因物質ごとに、その性質と予防を学ぶ。最初は、生きた菌が体に入って起こる「感染型」の細菌性食中毒である。
※ 本書は、令和8年10月時点の法令・制度、令和7年の食中毒統計にもとづいています。

