食品衛生学 第二部 食中毒
細菌性食中毒①感染型
はじめに
前章で学んだように、細菌性食中毒は、病気の起こり方によって感染型と毒素型に分けられる。本章では、このうちの感染型を学ぶ。
感染型食中毒は、食品とともに体に入った生きた菌が、腸の中で増えたり、腸の細胞に入りこんだりして起こる。菌が体の中で増えるまでに時間がかかるため、潜伏期間は比較的長い。また、原因は生きた菌なので、食べる前に十分に加熱して菌を殺せば予防できる。
感染型の食中毒菌の多くは、鶏・牛・豚などの家畜や、海の魚介類にもともとついている。つまり、原材料が生産の段階から菌をもっている一次汚染が出発点になることが多い。そこから、生焼け・生食による感染と、包丁・まな板・手指を介した二次汚染が起こる。
本章で扱う菌は、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、病原大腸菌(とくに腸管出血性大腸菌)、ウエルシュ菌、エルシニア、リステリアの7つである。菓子づくりにとって最も身近なのは、卵にかかわるサルモネラ属菌である。
なお、各菌の潜伏期間は、教材によって数値に幅がある。本書では、厚生労働省などの資料で一般的に示されている範囲を「目安」として示す。試験では、「長いか短いか」と、代表的な値(カンピロバクターは2〜7日、など)を押さえておけばよい。
1. 感染型食中毒の全体像
本章で扱う菌の特徴を、先に一覧で整理しておく。
| 菌 | 潜伏期間の目安 | 主な原因食品 | 覚えるべき特徴 |
|---|---|---|---|
| サルモネラ属菌 | 6〜72時間(多くは12〜24時間) | 鶏卵、食肉(とくに鶏肉)とその加工品 | 急な高熱。ネズミ・ペットも汚染源 |
| 腸炎ビブリオ | 8〜24時間(多くは12時間前後) | 生の魚介類(刺身、すし) | 好塩菌(食塩3%前後を好む)。増殖が速い。真水に弱い。夏 |
| カンピロバクター | 2〜7日(多くは2〜5日) | 鶏肉の生食・加熱不足 | 微好気性。少量(数百個程度)で感染。ギラン・バレー症候群 |
| 腸管出血性大腸菌 | 2〜9日(多くは3〜5日) | 牛肉(生食・加熱不足)、生野菜、井戸水 | ベロ毒素。少量で感染。HUS(溶血性尿毒症症候群)。三類感染症 |
| ウエルシュ菌 | 6〜18時間(多くは10時間前後) | カレー、シチュー、煮物などの大量調理 | 偏性嫌気性・芽胞。1件あたりの患者数が多い |
| エルシニア | 半日〜6日 | 豚肉、井戸水 | 低温(冷蔵庫)でも増殖。虫垂炎に似た腹痛 |
| リステリア | 長い(1日〜数週間、平均3週間ほど) | ナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモン | 低温・高い食塩濃度でも増殖。妊婦・高齢者は重症化 |
潜伏期間がとくに長いのはカンピロバクター、腸管出血性大腸菌、リステリアである。潜伏期間が長いと、何を食べたかを思い出しにくく、原因の特定がむずかしい。
2. サルモネラ属菌
2-1. 菌の性質
サルモネラ属菌は、グラム陰性の通性嫌気性の桿菌で、芽胞はつくらない。周りに鞭毛をもち、よく動く。2,500種類以上の型(血清型)があり、その中で食中毒の原因として重要なのが、サルモネラ・エンテリティディス(SE)やサルモネラ・ティフィムリウムなどである。
サルモネラ属菌は、牛・豚・鶏などの家畜、犬や猫などのペット、ネズミ、カメなどの爬虫類の腸の中に広く住んでいる。哺乳類だけでなく、鳥類や爬虫類にもいる点に注意する。
熱には弱く、75℃・1分間以上の加熱で死滅する。一方で、乾燥や低温には比較的強く、乾いた環境や冷凍した食品の中でも長く生き残る。
なお、腸チフス・パラチフスの原因となるチフス菌・パラチフスA菌もサルモネラ属の菌であるが、これらは経口感染症として扱われる(第6章参照)。
2-2. 症状
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 潜伏期間 | 6〜72時間(多くは12〜24時間) |
| 主な症状 | 急な発熱(38〜40℃前後の高熱)、腹痛、下痢(水様便、ときに血便)、吐き気、嘔吐 |
| 経過 | 多くは数日で回復するが、乳幼児や高齢者は重症化しやすく、死亡する例もある |
高熱が出ることが、ほかの多くの細菌性食中毒との違いである。
2-3. 原因食品と鶏卵
サルモネラ食中毒の原因食品として最も重要なのは、鶏卵とその加工品、そして食肉(とくに鶏肉)とその加工品である。
1980年代の終わりから1990年代にかけて、鶏卵を介したサルモネラ・エンテリティディスの食中毒が世界的に増え、日本でも大きな問題になった。卵がサルモネラに汚染される経路には、次の二つがある。
| 経路 | 内容 |
|---|---|
| 殻の表面の汚染 | 産卵のときに、鶏のふんなどからサルモネラが殻の表面につく。殻のひびや、温度差で殻の中に入りこむこともある |
| 卵の内部の汚染(in egg) | 菌に感染した鶏の卵巣や卵管で、卵ができる段階から卵の内部にサルモネラが入る。殻にひびがなく、外側が清潔な卵でも、ごくまれに内部が汚染されている |
日本では、卵の汚染を減らすために、鶏の飼育段階での対策、卵の洗浄・選別(GPセンター)、温度管理、表示のしくみが整えられ、卵によるサルモネラ食中毒は大きく減った。それでも、卵が汚染されている可能性はゼロではない。
2-4. 鶏卵の決まりと扱い方
鶏卵には、食品衛生法にもとづいて、次のような決まりがある。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 殻付き卵の保存 | 10℃以下で保存することが望ましい(表示でも示される) |
| 殻付き卵の表示 | 生食用の卵には賞味期限(生で食べられる期限)などを表示し、「賞味期限を過ぎたら十分に加熱調理する」旨を示す。加熱加工用の卵には、飲食に供する際に加熱殺菌が必要である旨を表示する |
| 加熱する場合の条件 | 殻付き卵や殺菌していない液卵を加熱殺菌する場合は、70℃・1分間以上、またはこれと同等以上の方法による |
| 液卵の保存 | 8℃以下。凍結した液卵は−15℃以下 |
| 殺菌液卵の成分規格 | サルモネラ属菌が陰性(25g中に検出されない) |
| 未殺菌液卵の成分規格 | 細菌数が1gあたり100万以下 |
卵を扱うときの基本は次のとおりである。
- ひびの入った卵は生食に使わず、十分に加熱して使う
- 卵は使う直前に割る。割り置きをしない(割った卵の中ではサルモネラが増えやすい)
- 卵を割ったあとは、手を洗ってから次の作業に移る。殻に触れた手や器具で、加熱後の食品に触れない
- 生で食べる、または加熱が弱い使い方をする場合は、新鮮な生食用の卵か、殺菌液卵を使う
2-5. 予防
- 卵や食肉は中心まで十分に加熱する(75℃・1分間以上)
- 卵は冷蔵し、割り置きをしない
- 生の卵や肉を扱った手指・器具は、そのつど洗浄・消毒し、二次汚染を防ぐ
- ネズミ・ゴキブリを駆除し、ペットを調理場に入れない
ネズミが持ち込んだサルモネラが、調理場を通じて、卵や肉とは関係のない食品(サラダ、餡、和菓子など)を汚染した例もある。
3. 腸炎ビブリオ
3-1. 菌の性質
腸炎ビブリオは、海水や海の泥の中に住むグラム陰性の通性嫌気性菌で、芽胞はつくらない。昭和25年(1950年)に、大阪府で起きたしらす干しによる食中毒の原因菌として、日本で発見された。
腸炎ビブリオの最大の特徴は、食塩を好むことである。食塩濃度3%前後(海水とほぼ同じ)でよく増え、食塩のない真水の中ではすぐに死ぬ。このような菌を好塩菌という。また、条件がよいと約10分で分裂するほど、増殖がきわめて速い。熱や酸にも弱い。
海水の温度が上がる夏(6〜9月ごろ、とくに8月前後)に、海の中で菌が増え、魚介類につく。冬は海水温が下がり、菌はほとんど見つからない。
3-2. 症状と原因食品
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 潜伏期間 | 8〜24時間(多くは12時間前後) |
| 主な症状 | 激しい腹痛(上腹部の痛み)、水様性の下痢、吐き気、嘔吐、発熱 |
| 主な原因食品 | 生の魚介類(刺身、すし、魚介類の加工品) |
| 二次汚染による原因食品 | 魚介類を切った包丁・まな板で調理した、きゅうりの浅漬け、玉子焼き、サラダなど |
3-3. 予防と規格基準
- 魚介類は、真水(水道水)の流水でよく洗う
- 魚介類は低温で保存し(4℃以下が望ましい)、冷蔵庫から出したらできるだけ早く食べる
- 加熱して食べるものは、中心まで十分に加熱する
- 魚介類に使った包丁・まな板・ふきんは、ほかの食品に使う前に洗浄・消毒する
平成13年(2001年)には、生食用の鮮魚介類などに、腸炎ビブリオの成分規格(最確数で1gあたり100以下)、10℃以下の保存基準、殺菌した海水か飲用に適する水で加工することなどが定められた。その後、腸炎ビブリオによる食中毒は大きく減り、現在では、かつてのように事件数の上位に入ることは少なくなっている。
4. カンピロバクター
4-1. 菌の性質
カンピロバクター(主にカンピロバクター・ジェジュニとカンピロバクター・コリ)は、らせん状に曲がったグラム陰性菌で、芽胞はつくらない。鶏、牛、豚、野鳥、ペットなどの腸の中にいる。とくに鶏の腸の中には高い割合で住んでいて、市販の鶏肉からもしばしば見つかる。
カンピロバクターの特徴は次のとおりである。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 酸素 | 微好気性(空気より少ない、5〜15%程度の酸素でよく増える)。ふつうの空気の中では増殖しにくい |
| 温度 | 30〜46℃程度で増殖する。食品の中ではほとんど増えない |
| 感染に必要な菌数 | 数百個程度の少ない菌数で感染する |
| 熱 | 熱に弱く、十分な加熱で死滅する |
| 乾燥 | 乾燥に弱い |
食品の中ではほとんど増えないのに食中毒が多いのは、少ない菌数で感染するためである。生の鶏肉についている菌が、そのまま、あるいは包丁や手指を通じて少し移るだけで、食中毒が起こりうる。
4-2. 症状
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 潜伏期間 | 2〜7日(多くは2〜5日)。ほかの細菌性食中毒より長い |
| 主な症状 | 下痢、腹痛、発熱(38〜39℃前後)、倦怠感、頭痛 |
| 合併症 | 感染から数週間後に、手足のまひなどを起こすギラン・バレー症候群を発症することがある |
4-3. 原因食品と予防
原因食品として最も多いのは、鶏肉の生食(鶏刺し、鶏たたき、鶏わさなど)と加熱不足である。また、生の鶏肉を切った包丁やまな板、触れた手指を介した二次汚染でサラダなどが汚染された例も多い。
- 鶏肉は中心部まで十分に加熱する(中心の色が変わるまで。75℃・1分間以上)。「新鮮だから生で食べても安全」ということはない
- 生の肉を扱ったあとは、手を洗い、包丁・まな板を洗浄・消毒する
- 生の肉用と、そのまま食べる食品用の器具を使い分ける
- 生肉は、ほかの食品に肉汁がつかないよう、冷蔵庫の下段に分けて保存する
5. 病原大腸菌と腸管出血性大腸菌
5-1. 病原大腸菌の分類
大腸菌は、人や動物の腸の中に住む細菌で、そのほとんどは病原性をもたない。しかし、一部に下痢などを起こすものがあり、これをまとめて病原大腸菌(下痢原性大腸菌)という。病原大腸菌は、病気の起こし方によって、次のように分けられる。
| 種類 | 略称 | 特徴 |
|---|---|---|
| 腸管病原性大腸菌 | EPEC | 乳幼児の下痢症の原因になる |
| 腸管侵入性大腸菌 | EIEC | 腸の細胞に入りこみ、赤痢に似た症状(発熱、腹痛、血便)を起こす |
| 腸管毒素原性大腸菌 | ETEC | エンテロトキシン(腸管毒)をつくり、水のような下痢を起こす。旅行者下痢症の主な原因 |
| 腸管出血性大腸菌 | EHEC | ベロ毒素をつくり、出血性の大腸炎を起こす。O157など |
| 腸管凝集付着性大腸菌 | EAggEC | 腸の細胞にくっついて下痢を起こす |
このうち、食品衛生の上で最も重要なのは腸管出血性大腸菌である。
5-2. 腸管出血性大腸菌の性質
腸管出血性大腸菌は、ベロ毒素(志賀毒素ともいう)という強い毒素をつくる大腸菌である。代表的なものはO157で、ほかにO26、O111、O103などがある。「O」は菌の表面の抗原の型を表す。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 住んでいる場所 | 牛などの反すう動物の腸。牛は菌をもっていても症状を示さない |
| 感染に必要な菌数 | 50〜100個程度のごく少ない菌数で感染する |
| 感染の広がり方 | 食品からだけでなく、人から人への二次感染も起こる |
| 熱 | 熱に弱く、75℃・1分間以上の加熱で死滅する |
| 酸 | 酸に比較的強い |
| 法律上の扱い | 腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の三類感染症。患者や無症状の保菌者は、飲食物に直接接触する業務への就業が制限される(第6章参照) |
5-3. 症状
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 潜伏期間 | 2〜9日(多くは3〜5日) |
| 主な症状 | 激しい腹痛、水様性の下痢、血便(出血性大腸炎)。発熱は軽いことが多い |
| 重い合併症 | 発症した人の数%が、溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす。赤血球が壊れ、腎臓の働きが悪くなり、意識障害などを起こすこともある。子どもや高齢者で起こりやすく、死亡することもある |
5-4. 原因食品と大きな事例
原因食品としては、牛肉(生食や、ハンバーグなどのひき肉の加熱不足)、牛のレバー、生野菜(牛のふんで汚染された土や水を介して)、井戸水などがある。
| 年 | 事例 | その後の対策 |
|---|---|---|
| 平成8年(1996年) | 大阪府堺市の学校給食でO157の集団食中毒(第3章参照) | 大量調理施設衛生管理マニュアルの作成 |
| 平成23年(2011年) | 焼肉店のユッケによるO111などの食中毒で、5人が死亡 | 生食用食肉(牛肉)の規格基準の設定(肉の表面から深さ1cm以上の部分まで60℃で2分間以上加熱する、など) |
| 平成24年(2012年) | 北海道で、白菜の浅漬けによるO157の食中毒で、8人が死亡 | 漬物の衛生管理の見直し |
| 平成24年(2012年) | 牛レバーから腸管出血性大腸菌が見つかる | 牛の肝臓(レバー)の生食用の販売・提供を禁止 |
5-5. 予防
- 肉、とくにひき肉は、中心部まで十分に加熱する(75℃・1分間以上)。ひき肉は、表面の菌が中まで混ぜこまれているため、ステーキと違って中心まで加熱が必要である
- 生野菜は流水でよく洗う
- 生の肉を扱った器具・手指からの二次汚染を防ぐ
- 子どもや高齢者には、生や加熱が不十分な肉を食べさせない
- 人から人への感染を防ぐため、トイレのあとの手洗いを徹底する。下痢をしている人は調理をしない
6. ウエルシュ菌
6-1. 菌の性質
ウエルシュ菌は、人や動物の腸の中、土の中などに広く住むグラム陽性の桿菌で、偏性嫌気性(酸素があると増えない)で、芽胞をつくる。ウエルシュ菌の芽胞は熱にとても強く、100℃で1〜4時間の加熱に耐えるものがある。
6-2. 食中毒が起きるしくみ
ウエルシュ菌の食中毒は、次のような流れで起こる。
- 肉や野菜などの原材料に、ウエルシュ菌の芽胞がついている
- 煮込み料理などを加熱しても、芽胞は生き残る。一方、ほかの菌は死に、加熱で鍋の中の酸素も追い出される
- 大きな鍋のままゆっくり冷めると、50℃前後から芽胞が発芽し、酸素の少ない鍋の底などで急激に増える(ウエルシュ菌は、条件がよいと10分ほどで分裂する)
- 食べた菌が腸の中で芽胞をつくるときに毒素(エンテロトキシン)をつくり、下痢などの症状が出る
腸の中で毒素ができてから症状が出るため、生体内毒素型に分類する教材もある(第3章参照)。
6-3. 症状と原因食品
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 潜伏期間 | 6〜18時間(多くは10時間前後) |
| 主な症状 | 腹痛、下痢。比較的軽症で、1〜2日で回復することが多い |
| 主な原因食品 | カレー、シチュー、スープ、煮物、肉じゃがなど、大きな鍋でまとめて加熱調理し、そのまま室温に置いたもの |
| 特徴 | 給食施設、仕出し弁当、旅館などの大量調理で起こりやすく、1件あたりの患者数が多い。「給食病」ともよばれる |
「前の日に作ったカレーを、翌日に温め直して食べた」という場面は、ウエルシュ菌の典型である。温め直しで菌は死んでも、増えたときにできた芽胞や、腸の中で毒素をつくる菌が残っていれば食中毒は起こる。
6-4. 予防
- 加熱調理した食品は、速やかに冷却する。大鍋のまま放置せず、小分けにして浅い容器に移し、かき混ぜて空気を入れながら急速に冷やす
- すぐに食べない場合は、10℃以下で冷蔵するか、65℃以上で保温する
- 作り置きを避け、食べる直前に調理する
- 温め直すときは、よくかき混ぜながら中心まで十分に加熱する
大量調理施設衛生管理マニュアルでは、加熱調理した食品を冷却する場合、30分以内に中心温度を20℃付近(または60分以内に10℃付近)まで下げるよう工夫することが示されている。
7. エルシニア
エルシニア・エンテロコリチカは、豚などの動物の腸の中に住むグラム陰性の通性嫌気性菌で、芽胞はつくらない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 0〜4℃の低温でも増殖できる(低温菌)。冷蔵庫の中でもゆっくり増える |
| 潜伏期間 | 半日〜6日 |
| 主な症状 | 発熱、腹痛、下痢。右下腹部の痛みで、虫垂炎(盲腸)と間違えられることがある。発疹や関節の痛みが出ることもある |
| 主な原因食品 | 豚肉とその加工品、井戸水などの飲料水 |
| 予防 | 豚肉は十分に加熱する。冷蔵していても長期間の保存を避ける。生肉からの二次汚染を防ぐ |
8. リステリア
8-1. 菌の性質
リステリア・モノサイトゲネスは、土、水、動物の腸の中など、自然界に広く住むグラム陽性の桿菌で、芽胞はつくらない。ほかの多くの食中毒菌と大きく違うのは、次の性質である。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 低温 | 冷蔵庫の温度(4℃前後)でも増殖できる。0℃付近でもゆっくり増える |
| 食塩 | 食塩濃度が高い食品の中でも増殖できる |
| 熱 | 熱には弱く、十分な加熱で死滅する |
つまり、「冷蔵する」「塩をきかせる」という、ふつうの食中毒菌に効く保存の方法が、リステリアにはあまり効かない。
8-2. 症状とハイリスクの人
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 潜伏期間 | 1日〜数週間と長く、平均して3週間ほどとされる。数か月におよぶこともある |
| 健康な成人 | 症状が出ないか、発熱やかぜのような軽い症状ですむことが多い |
| 重症化しやすい人 | 高齢者、免疫の働きが低下している人(持病や治療のため)。敗血症や髄膜炎を起こし、死亡することもある |
| 妊婦 | 妊婦本人は軽症でも、菌が胎盤を通じて胎児に感染し、流産、死産、新生児の重い感染症の原因になる |
8-3. 原因食品と規格基準
リステリアの原因食品は、加熱せずにそのまま食べる食品で、冷蔵で長く保存されるものである。海外では、ナチュラルチーズ(とくに殺菌していない乳でつくったもの)、生ハム、肉や魚のパテ、スモークサーモン、カット野菜などによる集団発生が報告されている。
日本では、平成26年(2014年)に、非加熱食肉製品(生ハムなど)と、ナチュラルチーズ(ソフトタイプとセミハードタイプ)について、リステリアが1gあたり100以下という規格基準が定められた(包装後に加熱殺菌したものや、食べる前に加熱するものを除く)。
8-4. 予防
- 冷蔵していても、期限内に食べる。開封したら、期限にかかわらず早めに食べる
- 「冷蔵庫に入れているから安全」と考えない。長期間保存しない
- 加熱して食べるものは、十分に加熱する
- 妊婦や高齢者は、殺菌していない乳でつくったナチュラルチーズや、生ハム、スモークサーモンなどの非加熱の食品を控える
9. 製菓とのつながり
9-1. 卵を使う菓子とサルモネラ
菓子は卵をたくさん使う。そして、菓子の中には、卵を生のまま、または加熱が弱い状態で使うものが多い。
| 菓子・部品 | 卵の状態 | 注意点 |
|---|---|---|
| フレンチメレンゲ(生の卵白に砂糖を加えて泡立てる)を使ったムース、スフレの生地 | 生 | 焼成するものは加熱されるが、ムースなど加熱しないものは生のまま |
| ティラミス、ババロアの一部、自家製マヨネーズ | 生、または加熱が弱い | 過去にティラミスでサルモネラの大規模な食中毒が起きている |
| カスタードクリーム | 加熱する | 中心までしっかり沸騰させれば菌は死ぬ。炊き方が弱いと危険 |
| アングレーズソース、クレームブリュレ | 80〜85℃前後の加熱 | 温度と時間を守る |
| イタリアンメレンゲ、パータ・ボンブ | 熱いシロップ(約118〜121℃)を加える | 生のメレンゲより卵が加熱される。ただし、シロップの温度と注ぎ方によって、卵の温度の上がり方は変わる |
菓子店での対策の基本は、次のとおりである。
- 生や加熱の弱い使い方をする卵には、殺菌液卵(サルモネラ陰性の規格がある)を使うか、新鮮な生食用の殻付き卵を使う
- 殻付き卵は10℃以下で保存し、ひびの入った卵は加熱する用途に回す
- 卵は使う直前に割り、割り置きをしない。残った卵液は8℃以下で保存し、その日のうちに使う
- 卵を割る作業と、仕上げの作業の間で、手を洗い、器具を替える
- 卵を使った製品は、加熱後すぐに冷やし、10℃以下で保存する
9-2. 冷蔵ショーケースとリステリア
生菓子は冷蔵ショーケースで販売されることが多い。冷蔵は多くの食中毒菌の増殖を抑えるが、リステリアのように冷蔵庫の中でも増える菌がいることを忘れてはならない。生菓子の消費期限を短く設定するのは、このためでもある。
ナチュラルチーズを使う菓子(レアチーズケーキ、ティラミスのマスカルポーネなど)では、加熱殺菌した乳を原料にしたチーズを使い、開封後は早めに使い切る。冷蔵庫の温度は、できるだけ低く(4℃前後以下を目安に)保ち、温度を記録する。
9-3. 生肉を扱わない菓子店でも
菓子店では、生の肉や魚を扱うことは少ない。しかし、カンピロバクターや腸管出血性大腸菌は、従業員の家庭での食事や、人から人への感染によって、店に持ち込まれることがある。体調が悪いとき、とくに下痢や腹痛があるときは、責任者に報告し、食品に直接触れる作業をしないことが大切である。また、キッシュ、パイ、サンドイッチなどの総菜系の製品を作る店では、肉を扱う器具と菓子の器具を分けることが必要になる。
9-4. 大きな鍋で炊くものとウエルシュ菌
ウエルシュ菌は「カレーの菌」として知られるが、大きな鍋でまとめて煮て、ゆっくり冷ますものは、菓子にもある。肉を使うことは少ないものの、原材料に土由来の芽胞菌がついている可能性はある。大量に炊いた餡やシロップ煮、カスタードなどを、大鍋のまま一晩置いて冷ますような扱いは避け、浅い容器に移して急速に冷やす習慣をつけたい。芽胞をつくる菌への対策は、次章で学ぶセレウス菌にもそのまま当てはまる。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1ウエルシュ菌は好気性菌で、芽胞をつくらない
Q2カンピロバクターに感染したあと、ギラン・バレー症候群を発症することがある
Q3カンピロバクター食中毒の潜伏期間は、30分〜6時間と短い
Q4リステリアは、食塩濃度の高い食品の中では増殖できない
Q5ウエルシュ菌による食中毒は、大量調理で起こりやすく、1件あたりの患者数が多い
Q6殻付き卵や殺菌していない液卵を加熱殺菌する場合は、70℃で1分間以上加熱する
Q7サルモネラ属菌は熱に強く、100℃で1分間加熱しても死滅しない
Q8殻にひびがなく外側が清潔な卵であれば、内部がサルモネラに汚染されていることはない
Q9腸炎ビブリオは増殖が遅いため、魚介類を室温に数時間置いても問題はない
Q10サルモネラ食中毒の原因食品として、鶏卵や食肉が重要である
Q11腸管出血性大腸菌が産生する毒素は、エンテロトキシンである
Q12腸管出血性大腸菌は、100万個以上の多量の菌でなければ感染しない
Q13腸管出血性大腸菌感染症は、人から人へは感染しない
Q14カンピロバクターは食品中ではほとんど増えないが、少ない菌数で感染するため、食中毒が多い
Q15ウエルシュ菌の食中毒を防ぐには、加熱調理した食品を大鍋のままゆっくり冷ますのがよい
Q16感染型食中毒は、食品の中で菌がつくった毒素によって起こるため、加熱では予防できない
Q17腸炎ビブリオによる食中毒は、冬に多く発生する
Q18腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の一類感染症である
Q19サルモネラ属菌による食中毒は、毒素型食中毒である
Q20カンピロバクターは好気性菌で、空気中でよく増殖する
Q21エルシニアやリステリアは、冷蔵庫の中では増殖しない
Q22サルモネラ食中毒では、発熱はほとんどみられない
Q23感染型食中毒は、毒素型食中毒に比べて潜伏期間が長い
Q24サルモネラ属菌は、哺乳類の腸の中にだけ住んでいる
Q25エルシニア食中毒の主な原因食品は、生の魚介類である
Q26カンピロバクターは、多量の菌を摂取しなければ発症しない
Q27リステリアは、妊婦が感染すると胎児に影響し、流産や死産の原因になることがある
Q28腸管出血性大腸菌による食中毒では、溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こすことがあり、子どもや高齢者は特に注意が必要である
Q29腸炎ビブリオによる食中毒を防ぐため、魚介類は真水の流水でよく洗い、低温で保存する
Q30非加熱食肉製品やナチュラルチーズ(ソフト・セミハード)には、リステリアが1gあたり100以下という規格基準がある
Q31サルモネラ属菌は、ネズミやペットも汚染源となるため、調理場からネズミを駆除し、ペットを入れないことが予防になる
Q32新鮮な鶏肉であれば、生で食べてもカンピロバクター食中毒の心配はない
Q33エルシニア食中毒では、右下腹部の痛みのため虫垂炎と間違えられることがある
Q34腸炎ビブリオは、真水の中でよく増殖する
Q35殺菌液卵には、サルモネラ属菌が陰性であるという成分規格がある
まとめ
感染型食中毒は、食品とともに体に入った生きた菌によって起こる。潜伏期間は比較的長く、食べる前の十分な加熱で予防できる。感染型の菌の多くは、家畜や魚介類がもともともっている一次汚染から始まり、生食・加熱不足と、包丁・まな板・手指を介した二次汚染によって食中毒を起こす。
サルモネラ属菌は、鶏卵や食肉が主な原因食品で、高熱が特徴である。哺乳類だけでなく鳥類・爬虫類にも住み、ネズミやペットも汚染源になる。卵は、殻の表面だけでなく内部が汚染されることもあるため、10℃以下で保存し、割り置きをせず、十分に加熱する(殻付き卵や未殺菌液卵の加熱殺菌は70℃・1分間以上)。腸炎ビブリオは食塩3%前後を好む好塩菌で、真水に弱く、増殖が速い。夏の生の魚介類が原因になる。カンピロバクターは鶏肉の生食・加熱不足が原因で、微好気性、少ない菌数で感染し、潜伏期間が2〜7日と長い。
腸管出血性大腸菌(O157など)はベロ毒素をつくり、ごく少ない菌数で感染し、人から人へも広がる。溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こすことがあり、感染症法の三類感染症である。ウエルシュ菌は偏性嫌気性で芽胞をつくり、大鍋で作ったカレーや煮物をゆっくり冷ますと増える。エルシニアとリステリアは冷蔵庫の中でも増殖し、リステリアは妊婦や高齢者で重症化する。
菓子は卵を多く使い、生や加熱の弱い使い方も多い。殺菌液卵の利用、卵の温度管理、割り置きをしないこと、卵を扱う作業と仕上げの作業の間の手洗いが、サルモネラから客を守る基本である。次章では、菌が食品の中でつくった毒素によって起こる「毒素型」の細菌性食中毒を学ぶ。菓子と最も関係の深い黄色ブドウ球菌が登場する。
※ 本書は、令和8年10月時点の法令・制度、令和7年の食中毒統計にもとづいています。

