食品衛生学 第三部 食品と化学物質
食品中の有害物質
はじめに
前の2章では、食品に意図して加える化学物質として、食品添加物を学んだ。本章では、食品に意図せずに含まれてしまう有害な物質を学ぶ。
食品に含まれる有害物質の多くは、少量をすぐに食べて中毒を起こすというよりも、少しずつ長い期間にわたって食べ続けることで、健康に影響するおそれがあるもの(慢性毒性)である。発がん性のあるカビ毒、体にたまる有害金属、環境中に長く残る化学物質などがこれにあたる。そのため、国は食品ごとに基準値や規制値を定め、検査によって、基準をこえる食品が流通しないようにしている。
本章では、カビ毒、有害金属と過去の公害・事故、環境汚染物質、加工や調理でできる物質、残留農薬と動物用医薬品、器具・容器包装、放射性物質、そして異物を学ぶ。
菓子づくりとのかかわりで最も重要なのは、ナッツ類、カカオ豆、乾燥果実、穀類などの製菓材料に含まれることがあるカビ毒、とくにアフラトキシンである。また、焼き菓子の焼き色の部分にできるアクリルアミドや、店で使う型やボウルなどの器具・容器包装の決まりも、菓子をつくる人に直接かかわる。
1. カビ毒(マイコトキシン)
1-1. カビ毒とは
カビ毒(マイコトキシン)は、カビがつくる毒素である。カビ毒による健康被害は、一度に大量に食べて起こる急性の中毒はまれで、長期間食べ続けることによる慢性毒性(発がん性、肝臓や腎臓への障害など)が問題になる。
カビ毒には、次のような特徴がある。
- 多くのカビ毒は熱に強く、ふつうの加熱調理では分解されない
- カビが見えなくなっても(カビの部分を取り除いても、加熱してカビが死んでも)、カビ毒は食品に残る
- 収穫前の畑で、あるいは収穫後の乾燥・保管・輸送の間に、カビが生えてつくられる
カビ毒をつくる主なカビは、アスペルギルス属(コウジカビの仲間)、ペニシリウム属(アオカビの仲間)、フザリウム属(アカカビの仲間)である。
1-2. 主なカビ毒
| カビ毒 | つくるカビ | 主に含まれる食品 | 特徴と基準 |
|---|---|---|---|
| アフラトキシン | アスペルギルス属(アスペルギルス・フラバスなど) | ピーナッツ、ナッツ類(アーモンド、ピスタチオ、ヘーゼルナッツなど)、とうもろこし、香辛料、カカオ豆、乾燥果実(干しいちじくなど) | 天然物の中で最も強い発がん性の一つ(肝臓がん)。熱帯・亜熱帯の高温多湿の地域で多い。総アフラトキシン(B1・B2・G1・G2の合計)として10μg/kgをこえる食品は販売できない |
| アフラトキシンM1 | (アフラトキシンB1が牛の体内で変化したもの) | 牛乳 | アフラトキシンを含む飼料を食べた牛の乳に出る。乳に0.5μg/kgの規格がある |
| デオキシニバレノール | フザリウム属(アカカビ) | 小麦、大麦、とうもろこし | 赤かび病にかかった麦にできる。嘔吐などを起こす。小麦に1.0mg/kgの規格基準がある |
| パツリン | ペニシリウム属など | りんご(傷んだもの)、りんごジュース | 傷んだりんごを原料にすると混入する。りんごジュースに0.050ppmの規格がある |
| オクラトキシン | アスペルギルス属、ペニシリウム属 | 穀類、コーヒー豆、乾燥果実、ワイン | 腎臓への毒性 |
| シトリニン | ペニシリウム属 | 黄変米 | 腎臓への毒性。戦後、輸入米がカビで黄色くなった「黄変米」が問題になった |
アフラトキシンには、B1・B2・G1・G2などの種類があり、B1の毒性が最も強い。
1-3. アフラトキシンの規制
アフラトキシンは、日本国内の農産物からはほとんど見つかっていない。問題になるのは、主に輸入されるナッツ類、とうもろこし、香辛料、乾燥果実などである。そのため、検疫所での輸入時の検査が重視されている(第1章参照)。違反が多い国の特定の食品には、検査命令がかけられ、検査に合格しなければ輸入できない。
1-4. デオキシニバレノールの基準
デオキシニバレノールは、平成14年(2002年)に、小麦について1.1ppmの暫定基準値が定められていた。その後、令和3年(2021年)に見直され、小麦について1.0mg/kgの規格基準が新たに定められた。
2. 有害金属と公害・事故
2-1. 生物濃縮
有害な金属や化学物質の中には、体の中で分解されにくく、脂肪や臓器にたまるものがある。水や土の中の濃度はわずかでも、プランクトン → 小魚 → 大きな魚 → 人へと、食物連鎖を通じて受け渡されるうちに、体の中の濃度がどんどん高くなる。この現象を生物濃縮という。生物の体の中の濃度と、まわりの水の中の濃度の比を濃縮係数という。
水銀、PCB、ダイオキシン類などは、生物濃縮を起こしやすい物質である。
2-2. 公害による健康被害
公害とは、工場の排水や排煙などによって環境が汚染され、その汚染が人の健康に被害をもたらすものである。食品とかかわりの深い公害病には、次のようなものがある。
| 公害病 | 原因物質 | 発生地域 | 経路と症状 |
|---|---|---|---|
| 水俣病 | メチル水銀(有機水銀) | 熊本県水俣湾周辺(昭和31年に公式確認) | 工場の排水に含まれたメチル水銀が、魚介類に生物濃縮され、それを食べた人に神経の障害(手足のしびれ、視野が狭くなる、言葉の障害、運動の障害など)。胎児にも影響(胎児性水俣病) |
| 新潟水俣病(第二水俣病) | メチル水銀 | 新潟県阿賀野川流域(昭和40年に確認) | 水俣病と同じしくみ |
| イタイイタイ病 | カドミウム | 富山県神通川流域 | 鉱山の排水に含まれたカドミウムが、川の水や米などの農作物を汚染し、長年食べ続けた人に腎臓の障害と骨軟化症(骨がもろくなり、激しい痛み) |
これらの公害をきっかけに、魚介類の水銀や、米のカドミウムについて、規制値や基準値が定められた。
| 物質 | 対象 | 規制値・基準値 |
|---|---|---|
| 水銀 | 魚介類(暫定的規制値) | 総水銀0.4ppm、メチル水銀0.3ppm(マグロ類や深海魚など、一部の魚介類は対象外) |
| カドミウム | 米(玄米と精米) | 0.4ppm |
なお、マグロ類やキンメダイなど、水銀を比較的多く含む魚については、妊婦に対して、食べる量と回数の目安が示されている(胎児への影響を防ぐため)。
2-3. 食品の製造中の事故による健康被害
公害とは別に、食品の製造の途中で有害物質が混入した事故によって、大きな健康被害が起きた例がある。これらは、環境の汚染ではなく、食品の製造工程の問題によるものである点で、公害とは区別される。
| 事故 | 原因物質 | 時期 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 森永ヒ素ミルク事件 | ヒ素 | 昭和30年(1955年) | 乳児用の粉ミルクの製造に使った安定剤(第二リン酸ソーダ)にヒ素が混入していた。西日本を中心に1万人以上の乳児が被害を受け、130人以上が死亡した |
| カネミ油症事件 | PCB(ポリ塩化ビフェニル) | 昭和43年(1968年) | 米ぬか油(食用油)の製造工程で、熱を加えるのに使っていたPCBが油に混入した。西日本を中心に、皮膚の色素沈着、吹き出物(塩素にきび)、手足のしびれなどの被害が出た。PCBが加熱で変化したダイオキシン類も被害にかかわったとされる |
森永ヒ素ミルク事件は、食品添加物の品質(純度)の管理の重要性を示し、食品添加物の規格や食品添加物公定書がつくられるきっかけの一つとなった(第9章参照)。カネミ油症事件をきっかけに、PCBの製造と使用は昭和47年(1972年)以降中止された。
2-4. そのほかの有害元素
| 元素 | 内容 |
|---|---|
| ヒ素 | ひじきには、毒性の強い無機ヒ素が比較的多く含まれる。水で戻し、ゆでこぼすことで減らすことができる。ふつうの食べ方では健康に影響が出る量ではない |
| 鉛 | 古い水道管、鉛を含むうわぐすりの陶磁器やガラス器から溶け出すことがある。器具・容器包装には鉛の溶出の規格がある |
| スズ | 缶詰の内面から溶け出すことがある(第8章参照) |
3. 環境汚染物質
3-1. PCB
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、熱に強く、電気を通さない性質から、かつて変圧器やコンデンサーの絶縁油、熱を伝える媒体(熱媒体)などに広く使われた。分解されにくく、脂肪にたまりやすく、生物濃縮を起こす。カネミ油症事件の原因物質であり、現在は製造・使用が禁止されている。魚介類などに暫定的な規制値が定められている。
3-2. ダイオキシン類
ダイオキシン類は、物を燃やすときなどに、意図せずにできてしまう物質である。とくに、塩素を含むものを低い温度(およそ800℃未満)で燃やすと発生しやすい。人工の物質の中で、最も毒性の強いものの一つとされる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な発生源 | ごみの焼却、金属の精錬など |
| 体への入り方 | 人が取りこむダイオキシン類の大部分は食品からであり、その中でも魚介類からが多い |
| 性質 | 分解されにくく、脂肪にたまりやすい。母乳を通じて子にも移る |
| 耐容一日摂取量(TDI) | 体重1kgあたり1日4ピコグラム(pg-TEQ)。現在の日本人の平均的な摂取量は、これを下回っている |
ごみの焼却炉の改善などの対策によって、環境中のダイオキシン類の量は大きく減っている。
3-3. 内分泌かく乱化学物質
内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)とは、体の中に入ると、ホルモンのような働きをしたり、ホルモンの働きを妨げたりするおそれのある化学物質である。ダイオキシン類、PCB、一部の農薬、ビスフェノールA(ポリカーボネート樹脂などの原料)、有機スズ化合物(かつての船底塗料)などが、その可能性を指摘されてきた。人の健康への影響については、研究が続けられている。
4. 加工や調理でできる物質
4-1. アクリルアミド
アクリルアミドは、炭水化物(とくにでんぷんや糖)を多く含む食品を、120℃以上の高温で焼いたり揚げたりしたときにできる物質である。食品の中のアミノ酸の一種アスパラギンと、ぶどう糖や果糖などの還元糖が、加熱によって反応(メイラード反応)するときにできる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 多く含まれる食品 | ポテトチップス、フライドポテト、ビスケット、クッキー、かりんとう、焙じ茶、コーヒー豆の焙煎品など |
| 健康への影響 | 動物実験で発がん性が認められ、国際的な機関が「人に対しておそらく発がん性がある」グループに分類している |
| 基準値 | 日本では基準値は定められていない。国は、事業者の自主的な低減対策を進めている |
アクリルアミドが焼き色や香ばしさと同じ反応からできることは、食品学の本の成分の変化と食品の変質の章で学ぶ。
4-2. トランス脂肪酸
トランス脂肪酸は、油脂に含まれる脂肪酸の一種で、とりすぎると、血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を増やし、心臓の病気(冠動脈疾患)のリスクを高めるとされる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| できるしくみ | 液体の植物油に水素を添加して固める(部分水素添加)ときにできる。牛や羊の肉や乳にも、もともと少し含まれる |
| 多く含まれる食品 | 部分水素添加油脂を使ったマーガリン、ショートニング、ファットスプレッドと、それらを使ったパン、ケーキ、ドーナツ、揚げ菓子など |
| 国際的な目安 | WHOは、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満にするよう勧めている |
| 日本の状況 | 日本人の平均的な摂取量は総エネルギーの約0.3%で、WHOの目安を下回っている。基準値や表示の義務はない |
近年は、メーカーが製造方法を改良し、マーガリンやショートニングのトランス脂肪酸は大きく減っている。
5. 残留農薬と動物用医薬品
5-1. 農薬の残留
農薬は、作物を病気や害虫から守るために使われる。適正に使えば安全に使えるよう、農薬の登録と使用基準(使える作物、量、回数、収穫前の何日まで使えるか)は、農薬取締法で定められている(農林水産省が担当)。一方、食品に残ってよい農薬の量(残留基準)は、食品衛生法で定められている(基準の策定は消費者庁が担当。第1章参照)。
5-2. ポジティブリスト制度
かつては、残留基準が定められていない農薬については、食品に残っていても規制できなかった。そこで、平成15年(2003年)の食品衛生法の改正にもとづき、平成18年(2006年)5月から、残留農薬等のポジティブリスト制度が始まった。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 残留基準が定められた農薬等 | その基準をこえて残留する食品の販売などを禁止する |
| 残留基準が定められていない農薬等 | 一律基準(0.01ppm)をこえて残留する食品の販売などを禁止する |
| 対象外物質 | 人の健康を損なうおそれがないことが明らかなもの(一部のビタミンなど)。規制の対象外とする |
この制度の対象は、農薬だけでなく、動物用医薬品、飼料添加物も含む(「農薬等」とよぶ)。
一律基準の0.01ppmは、「人の健康を損なうおそれのない量」として定められた、きわめて低い値である。
5-3. ポストハーベスト農薬
ポストハーベスト農薬とは、収穫したあとの農産物に、輸送や保管の間のかびや害虫を防ぐために使う薬剤のことである。輸入の穀類や果物(とくにかんきつ類やバナナ)で使われることがある。日本では、収穫後に使うかびの防止のための薬剤は食品添加物(防かび剤)として扱われ、使用基準が定められている(第10章参照)。
5-4. 動物用医薬品と飼料添加物
家畜や養殖魚の病気の予防や治療に使う抗生物質や合成抗菌剤などの動物用医薬品、飼料に加える飼料添加物が、肉や卵、乳、魚に残ることがある。これらも、ポジティブリスト制度の対象として、残留基準が定められている。動物用医薬品の使用には獣医師の指示が必要で、使ったあと一定期間は出荷できない(休薬期間)。
抗菌剤を必要以上に使うと、抗菌剤が効かない薬剤耐性菌が生まれ、人の病気の治療を難しくするおそれがある。そのため、抗菌剤は必要な場合に限って、適正に使うことが求められている。
6. 器具・容器包装
6-1. 器具・容器包装の規格基準
食品に触れる器具(鍋、ボウル、型、まな板、包丁、機械の部品など)や容器包装(袋、トレー、缶、瓶など)からも、有害な物質が食品に移ることがある。食品衛生法では、器具・容器包装についても、材質ごとに規格基準を定めている。
| 材質 | 主な規格の例 |
|---|---|
| 合成樹脂(プラスチック) | 材質に含まれる有害物質の量、食品に溶け出す物質の量 |
| 金属 | 鉛、ヒ素、カドミウムなどの溶出 |
| 陶磁器、ガラス、ほうろう | 鉛、カドミウムの溶出 |
| ゴム | 有害物質の含有と溶出 |
6-2. 合成樹脂のポジティブリスト制度
平成30年(2018年)の食品衛生法の改正で、合成樹脂(プラスチック)でつくる器具・容器包装について、ポジティブリスト制度が導入された。安全性を評価した物質だけを、使ってよい物質の一覧(ポジティブリスト)に載せ、それ以外の物質は原則として使用できないしくみである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施行 | 令和2年(2020年)6月1日 |
| 経過措置 | 令和7年(2025年)5月31日まで。令和7年6月1日から完全に施行されている |
| 対象 | 合成樹脂。紙パック(牛乳パックなど)のように、食品に触れる面に合成樹脂の層があるものも対象 |
| 情報の伝達 | 器具・容器包装を製造・販売する事業者は、販売する相手に、ポジティブリスト制度に適合していることを説明する義務がある |
令和6年4月からは、器具・容器包装の規格基準の策定も、消費者庁が担当している(第1章参照)。
7. 放射性物質
7-1. 食品中の放射性物質の基準値
平成23年(2011年)の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、食品中の放射性セシウムについて、次の基準値が定められている(平成24年4月から)。
| 食品の区分 | 放射性セシウムの基準値 |
|---|---|
| 一般食品 | 100 Bq/kg |
| 乳児用食品 | 50 Bq/kg |
| 牛乳 | 50 Bq/kg |
| 飲料水 | 10 Bq/kg |
乳児用食品と牛乳の基準値が一般食品より厳しいのは、子どもは放射線の影響を受けやすいと考えられること、子どもが多く口にする食品であることによる。飲料水が最も厳しいのは、すべての人が毎日多くの量を飲むためである。基準をこえる食品が見つかった地域や品目については、出荷制限が行われる。
7-2. 放射線照射
食品に放射線(ガンマ線)を当てて、殺菌したり、芽が出るのを止めたりする方法を放射線照射という。日本では、じゃがいもの発芽防止の目的に限って、放射線照射が認められている。それ以外の食品に放射線を照射することは認められていない。殺菌の目的や、変色防止の目的での照射は認められていない点に注意する。
8. 食品中の異物
8-1. 異物の分類
食品に混入した、本来含まれるべきでないものを異物という。異物は、その由来によって次のように分けられる。
| 分類 | 例 |
|---|---|
| 動物性異物 | 毛髪、ダニ、昆虫(ハエ、ゴキブリ、ゾウムシなど)、ネズミの毛やふん、鳥の羽 |
| 植物性異物 | 種子、木片、わら、もみがら、紙片、糸くず、カビ |
| 鉱物性異物 | 小石、砂、ガラス片、金属片、陶磁器片、プラスチック片、貝殻片 |
毛髪やダニは「動物性異物」であり、植物性ではない点に注意する。
異物は、健康被害が小さくても、客に強い不快感を与え、苦情の原因になる。ガラス片や金属片のように、けがの原因になるものもある。食品衛生法では、異物の混入などにより人の健康を損なうおそれがある食品の販売を禁止している。
8-2. 異物の混入を防ぐ
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 原材料の確認 | 原材料の受け入れのとき、荷ほどきのときに異物がないか確認する。段ボールなどの外装を作業場に持ち込まない |
| 毛髪の対策 | 帽子やネットで髪の毛を完全に覆う。作業前に粘着ローラーで衣服の毛を取る |
| 器具・機械の点検 | 器具や機械の部品の欠け、ねじのゆるみを作業前後に点検する。必要に応じて金属探知機を使う |
| ガラス・陶器の管理 | 作業場では、ガラスや陶器の器具の使用を最小限にし、割れた場合の処理の手順を決めておく |
| ネズミ・昆虫の対策 | 侵入を防ぎ、定期的に点検・駆除する(第12章参照) |
| ふるい・こし器 | 粉類はふるい、液体はこして、異物を取り除く |
9. 製菓とのつながり
9-1. ナッツ・カカオとアフラトキシン
アフラトキシンが問題になる食品の多くは、菓子の材料である。
| 製菓材料 | 注意点 |
|---|---|
| アーモンド、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、ピーナッツ、ブラジルナッツ | アフラトキシンの検査や検査命令の対象になることが多い |
| カカオ豆(チョコレート、ココア) | 産地での発酵・乾燥の管理が重要 |
| 干しいちじく、デーツなどの乾燥果実 | 乾燥・保管の条件によってカビが生えることがある |
| とうもろこし(コーンスターチ、コーンフレーク) | 輸入原料の検査が行われている |
| 香辛料(ナツメグ、パプリカ、とうがらしなど) | 輸入時の検査の対象になることがある |
菓子店では、ナッツ類などを、信頼できる仕入れ先から、規格書などで品質を確認して購入する。保管は、湿気を避け、涼しい場所で、密封して行う。ナッツにカビが見えたもの、変色したもの、においのおかしいものは、その部分を取り除いて使うのではなく、全体を使わない。アフラトキシンは目に見えず、加熱しても分解されないためである。
9-2. 焼き色とアクリルアミド
アクリルアミドは、クッキーやビスケット、かりんとうなど、焼き菓子や揚げ菓子の焼き色の部分にできる。焼き色と香ばしさは菓子の魅力であるが、必要以上に焼きすぎない、焦がさないことは、アクリルアミドを減らすことにもつながる。
| 低減の工夫の例 | 理由 |
|---|---|
| 必要以上に高温・長時間で焼かない。焦がさない | 高温・長時間ほどアクリルアミドが増える |
| 炭酸水素アンモニウムなどのアンモニウム塩の膨脹剤を、重曹などに置きかえる | アンモニウム塩の膨脹剤は、アクリルアミドを増やすことが知られている |
| 還元糖(ぶどう糖・果糖)の多い糖を減らす | 還元糖がアスパラギンと反応してできるため |
ただし、焼き色や風味が菓子の品質そのものであることも多い。極端な対策ではなく、焼きすぎを避けるという日々の工夫を意識したい。
9-3. 型・ボウル・包装材
菓子店では、多くの器具(型、ボウル、へら、天板、シリコン製のマット、絞り袋)と容器包装(袋、箱、トレー、カップ)を使う。これらは、食品に触れるものとして、食品衛生法の規格に適合したものでなければならない。
- 器具や包装材は、食品用として販売されているものを購入する。合成樹脂のものは、販売業者からポジティブリスト制度に適合していることの説明(仕様書や証明書など)を受けられる
- 食品用でない容器(工作用のプラスチック容器、観賞用の陶器など)を、菓子の型や容器に使わない
- 耐熱温度や使用条件を守る。オーブンに入れてよくない樹脂製品を焼成に使わない
- 古くなって、ひび割れ、欠け、塗装のはがれがある型や器具は、異物混入の原因にもなるため交換する
9-4. 菓子店の異物対策
菓子店で多い異物の苦情は、毛髪、虫、金属片(泡立て器の針金、口金、ステンレスたわしのくず)、紙片、プラスチック片(包装の切れはし)などである。
- 帽子は髪の毛をすべて覆うようにかぶる。作業前に衣服の毛を取る
- 泡立て器の針金の破損や、ミキサーの部品のゆるみを、作業の前後に確認する
- 粉類は使う前にふるう
- 段ボールは作業場に持ち込まず、荷ほどきは作業場の外で行う
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1カビ毒による健康被害は、急性の中毒よりも、長期間摂取による慢性毒性が問題となる
Q2総アフラトキシンとして10μg/kgをこえる食品は、販売できない
Q3ダイオキシン類は、物を高温(1,000℃以上)で燃やしたときに最も発生しやすい
Q4アフラトキシンは、主にりんごジュースに含まれ問題となる
Q5水俣病の原因物質は、カドミウムである
Q6森永ヒ素ミルク事件の原因物質は、鉛である
Q7トランス脂肪酸は、植物油に水素を添加して固める過程でできる
Q8毛髪やダニは、植物性異物に分類される
Q9合成樹脂製の器具・容器包装のポジティブリスト制度は、現在も検討中で、まだ施行されていない
Q10アフラトキシンは熱に弱いため、ナッツを焙煎すれば分解される
Q11放射性セシウムの基準値は、一般食品が10Bq/kg、飲料水が100Bq/kgである
Q12カネミ油症事件の原因物質は、カドミウムである
Q13土砂、ガラス片、陶磁器片は、鉱物性異物に分類される
Q14飲料水・農作物を介したカドミウムの摂取によって、イタイイタイ病が起きた
Q15ポストハーベスト農薬とは、収穫後の農産物に使用する農薬のことで、貯蔵や輸送中の保存を目的とする
Q16食物連鎖を通じて、生物の体内の物質の濃度が環境中より低くなる現象を、生物濃縮という
Q17水俣病は、工場の排水に含まれたメチル水銀が魚介類に生物濃縮され、それを食べた人に起きた
Q18デオキシニバレノールは、アオカビ(ペニシリウム属)がつくり、主にりんごに含まれる
Q19残留農薬等のポジティブリスト制度では、残留基準が定められていない農薬等は、一律基準0.01ppmで規制される
Q20異物の混入により人の健康を損なうおそれがある食品の販売は、食品衛生法で禁止されている
Q21日本では、バレイショの変色防止を目的に放射線照射が唯一許可されている
Q22PCBは、米ぬか油症(カネミ油症)の原因となったほか、環境汚染が問題となった
Q23ダイオキシン類は体内に残留しやすく、母乳を通じて母から子にも移行する
Q24アクリルアミドは、たんぱく質を多く含む食品を低温でゆでたときにできる
Q25ポストハーベスト農薬は、米国ではほとんど使用されていない
Q26パツリンは、傷んだりんごを原料にしたりんごジュースで問題となる
Q27イタイイタイ病の原因物質は、PCBである
Q28残留農薬のポジティブリスト制度では、残留基準のない農薬は、どれだけ残留していても規制されない
Q29アフラトキシンは、ジャガイモの芽に含まれる自然毒である
Q30カネミ油症事件と森永ヒ素ミルク事件は、工場の排水による環境汚染から起きた公害である
Q31人が取りこむダイオキシン類の大部分は、大気を吸うことによるものである
まとめ
食品には、意図せずに有害物質が含まれることがある。その多くは、長期間の摂取による慢性毒性が問題になるもので、国は食品ごとに基準値や規制値を定めている。
カビ毒では、アスペルギルス属がつくるアフラトキシンが最も重要である。ナッツ類、とうもろこし、香辛料、カカオ豆、乾燥果実などに含まれ、強い発がん性をもち、熱に強い。総アフラトキシン10μg/kgをこえる食品は販売できない。牛乳にはアフラトキシンM1の規格がある。フザリウム属がつくるデオキシニバレノールは小麦に1.0mg/kg、ペニシリウム属などがつくるパツリンはりんごジュースに0.050ppmの規格がある。
公害では、水俣病(メチル水銀、魚介類の生物濃縮、神経障害)とイタイイタイ病(カドミウム、腎臓障害と骨軟化症)が重要である。これとは別に、食品の製造工程での事故として、森永ヒ素ミルク事件(ヒ素、乳児用粉ミルク)とカネミ油症事件(PCB、米ぬか油)がある。魚介類の水銀(総水銀0.4ppm・メチル水銀0.3ppm)、米のカドミウム(0.4ppm)には規制値・基準値がある。ダイオキシン類は低温での焼却などでできる毒性の強い物質で、主に食品(魚介類)から取りこまれ、TDIは4pg/kg体重/日である。
アクリルアミドは、炭水化物の多い食品を120℃以上で焼く・揚げるとできる。トランス脂肪酸は部分水素添加でできる。残留農薬等は、平成18年5月からのポジティブリスト制度で管理され、残留基準のないものは一律基準0.01ppmで規制される。合成樹脂の器具・容器包装にもポジティブリスト制度が導入され、令和7年6月1日から完全施行されている。放射性セシウムの基準値は、一般食品100、乳児用食品・牛乳50、飲料水10(Bq/kg)で、放射線照射はじゃがいもの発芽防止に限って認められている。異物は動物性(毛髪・ダニ・昆虫)、植物性(木片・紙片)、鉱物性(小石・ガラス・金属片)に分けられる。
菓子づくりでは、ナッツ・カカオのアフラトキシン、焼き菓子のアクリルアミド、食品用の器具・容器包装の選び方、異物の混入防止が、とくに大切である。これで第三部を終える。次章からは第四部として、食品の安全を守る衛生管理の実際を学ぶ。まず、施設と、食品を扱う人の衛生管理である。
※ 本書は、令和8年10月時点の法令・制度、令和7年の食中毒統計にもとづいています。

