食品衛生学 第2章:食品と微生物

第2章

食品衛生学 第一部 食品衛生の基礎

食品と微生物

はじめに

前章で学んだ危害要因(ハザード)のうち、実際の食中毒の原因として最も多いのは微生物である。令和7年(2025年)の全国の食中毒1,172件のうち、ノロウイルス、カンピロバクター、ウエルシュ菌などの微生物によるものが大半を占め、患者数で見ればその割合はさらに大きい(第3章参照)。

微生物は目に見えない。においも味もないまま食品の中で増え、ときには毒素を残す。見た目もにおいも普通の菓子が、食中毒の原因になるのはこのためである。食品衛生の仕事の多くは、この目に見えない相手の性質を知り、「どうすれば増えないか」「どうすれば死ぬか」を考えることから始まる。

一方で、微生物はすべてが敵ではない。パン酵母、乳酸菌、麹菌のように、人は昔から微生物の力を借りて食品をつくってきた。菓子づくりでも、パン生地の発酵、サワークリームやヨーグルト、酒まんじゅうの皮などに微生物が働いている。

本章では、食品にかかわる微生物の種類と形、微生物が増えるための条件(栄養・水分・温度・酸素・pH)、食品が微生物に汚染される道すじ、そして食品の微生物の状態を調べるための菌数と衛生指標菌について学ぶ。ここで学ぶ内容は、第3章から第8章の食中毒、第12章から第14章の衛生管理を理解するための土台になる。

1. 微生物とは何か

1-1. 微生物の種類

微生物とは、肉眼では見えないほど小さな生物の総称である。食品衛生で扱う主な微生物は、次のとおりである。

種類大きさの目安特徴食品とのかかわりの例
細菌約1μm(1mmの1000分の1)前後単細胞。分裂によって増える。食品中で増殖できる食中毒菌、腐敗細菌、乳酸菌、納豆菌
真菌(カビ)菌糸は肉眼で見えることもある菌糸をのばし、先端に胞子をつくって増える。好気性食品のカビ、カビ毒、麹菌、青カビチーズ
真菌(酵母)数μm〜10μm程度(細菌より大きい)単細胞。主に出芽によって増えるパン酵母、清酒酵母、ジャムやはちみつの発酵
ウイルス細菌の10分の1〜100分の1(ノロウイルスは約30〜40nm)細胞をもたない。生きた細胞の中でしか増殖できないノロウイルス、A型・E型肝炎ウイルス
原虫数μm〜数十μm単細胞の動物クリプトスポリジウム(水を介した感染)

1μm(マイクロメートル)は1mmの1000分の1、1nm(ナノメートル)は1μmの1000分の1である。黄色ブドウ球菌は直径約1μmの球形で、ノロウイルスはその20分の1ほどの大きさしかない。

教材によっては、細菌とウイルスの中間的な性質をもつリケッチア(生きた細胞の中でしか増えない細菌の仲間)も微生物の分類にあげられる。

微生物のうち、食品を腐らせたり、食中毒や感染症を起こしたりして、人の生活にとって害になるものを、まとめて衛生微生物とよぶことがある。

1-2. 細菌の形と分類

細菌は、形によって大きく三つに分けられる。

形特徴主な菌
球菌球形。並び方によって、ぶどうの房状(ブドウ球菌)、鎖状(連鎖球菌)などがある黄色ブドウ球菌
桿菌棒状。鞭毛をもつものや、芽胞をつくるものがある大腸菌、サルモネラ属菌、ボツリヌス菌、ウエルシュ菌、セレウス菌
らせん菌らせん状、またはS字・カモメの翼のように曲がった形カンピロバクター

腸炎ビブリオやコレラ菌は、わずかに曲がった短い桿菌(コンマ状)で、教材によっては「らせん菌」の仲間として扱われることもある。

細菌は、グラム染色という染め方によっても分けられる。濃い紫色に染まるものをグラム陽性菌、紫色が抜けて赤色(ピンク色)に染まるものをグラム陰性菌という。細胞の外側の壁の構造の違いによるもので、消毒薬や抗菌薬の効き方にもかかわる。

分類主な食中毒菌
グラム陽性菌黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、ウエルシュ菌、セレウス菌、リステリア
グラム陰性菌サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌などの病原大腸菌、エルシニア

1-3. 芽胞

一部の桿菌は、まわりの環境が悪くなると、菌体の中に芽胞という、熱・乾燥・消毒薬にきわめて強い構造をつくる。芽胞は植物の種にたとえられる。ふだんの活動をほとんど止めた「休眠」の状態で、条件がよくなると発芽して、ふたたび増殖する細菌の姿(栄養型)にもどる。

項目内容
芽胞をつくる主な食中毒菌ボツリヌス菌、ウエルシュ菌、セレウス菌
熱への強さ100℃で加熱しても死滅しにくい。ウエルシュ菌の芽胞には、100℃で1〜4時間の加熱に耐えるものもある
確実に死滅させる方法高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)で121℃・15〜20分など。容器包装詰めの加圧加熱殺菌食品(レトルト食品など)では、中心部を120℃・4分間以上などの条件が定められている(第13章参照)
芽胞をつくらない主な食中毒菌黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、病原大腸菌など。これらは75℃・1分間以上の加熱で死滅する

芽胞をつくる菌で特に注意が必要なのは、加熱したあとである。ふつうの加熱調理では芽胞は生き残り、ほかの菌が死んで競争相手がいなくなった食品の中で、冷めていく途中に発芽して一気に増える。カレーや煮物の大鍋(ウエルシュ菌)、炊いた米や煮た餡(セレウス菌)による食中毒が多いのはこのためである(第4章・第5章参照)。芽胞をつくる菌への対策は、加熱後に速やかに冷やすことと、室温に長く置かないことである。

1-4. 真菌(カビと酵母)

カビは、細い糸のような菌糸をのばして広がり、その先に胞子をつくって増える。食品の表面に見える青や緑、黒、白などの色は、主に胞子の色である。胞子は空気中をただよって広がるため、カビは一度発生すると周囲に広がりやすい。カビの中には、カビ毒(マイコトキシン)をつくるものがあり、なかでもアフラトキシンには強い発がん性がある(第11章参照)。

酵母は、単細胞の真菌で、主に出芽(体の一部がふくらんで分かれる)によって増える。糖を分解してアルコールと二酸化炭素をつくる働きがあり、パンや酒の製造に欠かせない。

カビと酵母の多くは、細菌よりも乾燥や酸に強い。そのため、細菌が増えにくい、糖分の多い食品や酸性の食品でも、カビや酵母が問題になることがある。

1-5. ウイルス

ウイルスは、細菌よりはるかに小さく、自分では増殖するしくみをもたない。人や動物の生きた細胞の中に入りこんで、はじめて増殖する。そのため、ウイルスは食品の中では増殖しない。

食品は、ウイルスにとって「運び屋」にすぎない。ノロウイルスに汚染された菓子は、時間がたってもウイルスの数は増えないが、ごく少量のウイルスで感染するため(第6章参照)、汚染されていれば十分に食中毒の原因になる。ウイルスに対しては、「増やさない」よりも「つけない」「やっつける」ことが重要になる。

1-6. 原虫

原虫は、単細胞の動物である。食品衛生では、水を介して激しい下痢を起こすクリプトスポリジウムがよく知られている。クリプトスポリジウムは、水道水の消毒に使う塩素に強いため、水道水の汚染によって大規模な集団感染を起こした例がある。

1-7. 役に立つ微生物

微生物の中には、人にとって役に立つものも多い。微生物が食品の成分を分解して、人にとって有用な物質をつくることを発酵といい、有害な物質をつくって食べられなくすることを腐敗(または変敗)という。どちらも微生物による分解であり、人にとって役に立つかどうかで呼び分けている(腐敗と変敗の詳しい内容は、食品学の本の成分の変化と食品の変質の章を参照)。

微生物主な利用
酵母パン、清酒、ビール、ワイン
乳酸菌ヨーグルト、チーズ、漬物、サワー種のパン
麹菌(カビ)みそ、しょうゆ、清酒、甘酒
酢酸菌食酢
納豆菌納豆

2. 微生物の増え方

2-1. 細菌は「倍々」で増える

細菌は、1個が2個に、2個が4個にと、分裂によって増える。1回分裂するのにかかる時間を世代時間という。条件がよいとき、大腸菌の世代時間は約20分、腸炎ビブリオは10分程度と、とても短い。

世代時間20分の細菌が1個あったとすると、次のように増える。

経過時間分裂の回数菌数
20分1回2個
1時間3回8個
2時間6回64個
3時間9回512個
5時間15回約3万個
8時間24回約1,700万個

実際の食品では、栄養や場所に限りがあるため、このとおりに増え続けるわけではない。しかし、条件が整えば、数時間のうちに、わずかな菌が食中毒を起こすほどの数に増えることがわかる。夏場に、作った菓子を室温に数時間置いてしまうことが危険なのは、このためである。

2-2. 増殖曲線

細菌を新しい環境(食品など)に置いたときの、時間と菌数の変化を表したものを増殖曲線という。増殖曲線は、次の四つの時期に分けられる。

時期内容
誘導期(遅滞期)新しい環境になじむための準備期間。菌数はほとんど増えない
対数増殖期分裂をくり返し、菌数が倍々で急激に増える
定常期栄養の不足や老廃物の蓄積で、増える数と死ぬ数がつりあい、菌数が一定になる
死滅期死ぬ菌のほうが多くなり、菌数が減っていく

食品衛生の上で大切なのは、誘導期のうちに手を打つことである。食品を作ったら、菌が対数増殖期に入る前に、冷やす・食べる・加熱するなどの対策をとる。調理から食べるまでの時間を短くすることが「増やさない」の基本である。

3. 微生物が増える条件

微生物が増えるためには、栄養、水分、温度の三つの条件が必要である。これに加えて、酸素とpH(酸性・アルカリ性の度合い)も増え方に大きく影響する。食品の保存や食中毒の予防は、これらの条件のどれかを、微生物にとって不利にすることで成り立っている。

3-1. 栄養

微生物が必要とする栄養は、基本的に人と同じで、たんぱく質、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミンなどである。食品はこれらを豊富に含むため、ほとんどの食品は、水分と温度さえそろえば微生物にとって格好のすみかになる。とくに、たんぱく質を多く含む卵、乳、肉、魚などは、微生物が増えやすい。

栄養を取り除いて微生物を防ぐことはできないため、食品の保存では、残りの条件(水分・温度・酸素・pH)を調整することになる。調理器具や作業台に食品のかすが残っていると、そこが微生物の栄養源になる。洗浄が衛生管理の基本であるのは、このためである(第13章参照)。

3-2. 水分と水分活性

微生物が増えるには水が必要である。ただし、食品中の水のすべてを微生物が利用できるわけではない。食品中の水は、成分と結びついていない自由水と、たんぱく質や糖などの成分と強く結びついた結合水に分けられ、微生物が利用できるのは自由水である。

食品中の自由水の割合の目安を表すのが水分活性(Aw)である。水分活性は0〜1.00の値で表し、値が低いほど微生物は増えにくい(水分活性の定義と測り方は、食品学の本の水分と水分活性の章を参照)。

微生物は、種類ごとに増殖できる水分活性の下限が決まっている。

微生物増殖できる水分活性の下限(目安)
一般的な細菌約0.90
一般的な酵母約0.88
黄色ブドウ球菌(食中毒菌)約0.86
一般的なカビ約0.80
好塩細菌約0.75
耐乾性カビ約0.65
耐浸透圧性酵母約0.60

この表から、次のことがわかる。

  • 微生物の中で、細菌が最も多くの水を必要とし、カビや酵母は乾燥に強い
  • 食中毒菌の中では、黄色ブドウ球菌が比較的乾燥に強い
  • 水分活性が0.60未満になると、ほとんどの微生物が増殖できない

食塩や砂糖を多く加えると、水が食塩や砂糖と結びついて自由水が減り、水分活性が下がる。塩辛やジャムは水分を多く含むが、水分活性が低いため腐りにくい。塩蔵や糖蔵は、この性質を利用した保存法である。

3-3. 温度

微生物は、種類ごとに増えやすい温度が決まっている。増殖できる温度によって、細菌は次の三つに分けられる。

分類最低増殖温度最適な温度(至適温度)最高増殖温度主な例
低温菌−5〜5℃15〜25℃30〜35℃魚の腐敗細菌、リステリア、エルシニア
中温菌5〜10℃25〜40℃45〜55℃食中毒菌の大部分
高温菌30〜45℃50〜60℃70〜90℃一部の芽胞菌(缶詰の変敗など)

食中毒菌の大部分は中温菌で、人の体温に近い30〜40℃前後でもっともよく増える。おおむね10〜60℃が食中毒菌の増えやすい温度帯であり、この温度帯に食品を置く時間をできるだけ短くすることが、温度管理の基本である。

低温での保存

食品を低い温度に置くと、多くの微生物は増殖が遅くなる、あるいは止まる。ただし、低温は微生物を殺すのではなく、増殖を抑えているだけ(静菌)である。冷蔵庫から出して室温に戻せば、微生物はふたたび増え始める。

食品衛生法の保存基準では、冷蔵が必要な食品の多くに10℃以下が定められており、冷凍食品は−15℃以下とされている(保存基準の詳細は第12章・第13章参照)。

注意が必要なのは、冷蔵庫の中でも増殖できる細菌がいることである。リステリアやエルシニアは低温菌で、0〜4℃前後でもゆっくり増殖する。また、ボツリヌス菌のE型も、比較的低い温度で増殖できる。冷蔵した食品でも、長く置けば安全とはいえない。

加熱

多くの細菌(芽胞をつくらない状態のもの)は、60℃以上で死滅し始め、75℃・1分間以上の加熱でほとんどが死滅する。牛乳の殺菌に使われる低温保持殺菌(63℃・30分間)も、この性質を利用している。

一方、加熱で死なないものもある。芽胞は100℃でも死滅しにくい(本章1-3参照)。また、細菌がつくった毒素の中には、黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンのように、100℃・30分間の加熱でも壊れないものがある(第5章参照)。ウイルスでは、ノロウイルスの不活化に中心温度85〜90℃で90秒間以上の加熱が必要とされている(第6章参照)。

対象加熱の目安
多くの細菌(芽胞をつくらないもの)75℃・1分間以上
ノロウイルス中心温度85〜90℃・90秒間以上
芽胞100℃でも死滅しにくい。121℃・15〜20分(高圧蒸気滅菌)など
黄色ブドウ球菌のエンテロトキシン100℃・30分間でも壊れない

3-4. 酸素

微生物は、酸素に対する性質によって、次のように分けられる。

分類性質主な例
好気性菌酸素がないと増殖できないカビ、酢酸菌、枯草菌
偏性嫌気性菌酸素があると増殖できない(酸素が毒になる)ボツリヌス菌、ウエルシュ菌
通性嫌気性菌酸素があってもなくても増殖できる大腸菌、サルモネラ属菌、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ(多くの細菌)
微好気性菌空気よりも少ない酸素(5〜15%程度)のときによく増殖するカンピロバクター

酸素を断つ保存法(真空包装、窒素などのガスの置き換え、脱酸素剤)は、カビなどの好気性の微生物を抑えるのに有効である。しかし、偏性嫌気性菌にとっては、酸素のない環境はむしろ好都合である。真空包装した食品や、煮込み料理の大鍋の底のように酸素の少ない場所では、ボツリヌス菌やウエルシュ菌が増えやすい。真空包装や脱酸素剤を使った食品でも、冷蔵が必要なものは冷蔵しなければならない。

3-5. pH

pHは、酸性・アルカリ性の度合いを0〜14の数値で表したもので、7が中性、7より小さいと酸性、大きいとアルカリ性である。

微生物増えやすいpH
多くの細菌中性付近(6.5〜7.5)
酵母・カビ弱酸性(4〜6)
乳酸菌・酢酸菌酸性
コレラ菌・腸炎ビブリオ弱アルカリ性

多くの細菌は中性付近でよく増え、酸性になると増えにくくなる。pH4.6以下では、ボツリヌス菌を含む多くの食中毒菌が増殖しにくくなる。酢漬けやマリネなど、酢や有機酸を使って保存性を高める方法は、この性質を利用している。

ただし、酸性で増えにくくなるのは「増殖」であって、すでについている菌がすぐに死ぬわけではない。また、カビ・酵母・乳酸菌は酸性にも比較的強い。

3-6. 条件の組み合わせ(ハードル理論)

実際の食品の保存では、一つの条件だけを極端にするのではなく、いくつかの条件を少しずつ微生物に不利にして、組み合わせて増殖を抑えることが多い。たとえば、水分活性をやや下げ、pHをやや下げ、冷蔵し、包装で酸素を減らす、というように、いくつもの「ハードル(障害物)」を重ねる。この考え方をハードル理論という。一つ一つの条件はゆるやかでも、組み合わせることで、風味をそこなわずに保存性を高めることができる。

4. 食品の汚染

4-1. 一次汚染と二次汚染

食品が微生物に汚染される経路は、大きく二つに分けられる。

種類内容主な例
一次汚染原材料が、生産の段階からもともと微生物をもっていること鶏の腸にいるカンピロバクターが鶏肉につく、卵の殻にサルモネラがつく、土の中の芽胞菌が穀類や野菜につく、海の魚介類に腸炎ビブリオがつく
二次汚染製造・加工・調理・流通の途中で、人・器具・環境などから微生物がつくこと手指から黄色ブドウ球菌やノロウイルスがつく、生肉を切ったまな板で生で食べる食品を切る、ネズミやゴキブリが菌を運ぶ

一次汚染は、原材料の性質であるため完全には防げない。そのため、信頼できる仕入れ先を選ぶこと、適切に保管すること、十分に加熱することが対策になる。

二次汚染は、作業のしかたによって防ぐことができる。とくに、汚染された食品(生の肉・魚・卵の殻など)や手指から、加熱後の食品やそのまま食べる食品へ菌が移ることを、交差汚染とよぶことがある。手洗い、器具の使い分けと洗浄・消毒、作業区域の区分が、二次汚染を防ぐ基本である(第12章・第13章参照)。

4-2. 微生物の汚染源

汚染源主な微生物
土壌芽胞菌(ボツリヌス菌、ウエルシュ菌、セレウス菌)、カビ
水(海水・河川水)腸炎ビブリオ(海水)、病原大腸菌、原虫
空気カビの胞子、芽胞
動物(家畜・ペット・ネズミ・昆虫)サルモネラ属菌、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌
人黄色ブドウ球菌(手指の傷・鼻・のど)、ノロウイルス(便・嘔吐物)、病原大腸菌

4-3. 食品の中の微生物の集団

食品には、一つの種類だけでなく、多くの種類の微生物が同時にすんでいる。その食品の成分、pH、水分活性、保存温度などによって、増えやすい微生物の種類が決まり、食品ごとに特有の微生物の集団(ミクロフローラ)ができる。たとえば、低温で保存した魚では低温菌が、糖分の多い食品ではカビや耐浸透圧性酵母が増えやすい。

5. 微生物を調べる(菌数と衛生指標菌)

5-1. 菌数の測定

食品がどのくらい微生物に汚染されているかを知るために、菌の数を測る。

方法内容主な使われ方
一般生菌数(細菌数)生きている細菌を、標準寒天培地で35℃・48時間培養し、できた集落(コロニー)の数を数える。食品1gまたは1mLあたりの数で表す食品の衛生状態の評価に最も広く使われる。牛乳は1mLあたり5万以下(乳等命令)
総菌数顕微鏡で、死んだ菌も含めてすべての細菌を数える生乳(原料乳)の評価。1mLあたり400万以下(乳等命令)

一般生菌数が多いことは、その食品の原材料、製造の環境、温度管理などのどこかに問題があったことを示す。ただし、一般生菌数は「病原菌がいるかどうか」を直接示すものではない。食中毒菌の有無は、それぞれの菌について別に検査する。

5-2. 衛生指標菌

食品に食中毒菌がいるかどうかを、すべての菌について調べるのは手間がかかる。そこで、ふん便による汚染や、不衛生な取り扱いの「目印」になる菌を調べる。これを衛生指標菌という。

指標菌内容意味
大腸菌群乳糖を分解して酸とガスをつくる、グラム陰性で芽胞をつくらない桿菌のグループ。大腸菌のほか、土や水にいる菌も含む加熱した食品から見つかれば、加熱が不十分だったか、加熱後に汚染されたことを示す
糞便系大腸菌群大腸菌群のうち、44.5℃という高い温度でも増える菌ふん便による汚染の可能性が、より高いことを示す
大腸菌(E. coli)人や動物の腸の中にいる菌ふん便による汚染を直接示す。腸管系の病原菌がいる可能性を示す

大腸菌群は、それ自体の多くは病原性をもたないが、加熱で簡単に死ぬため、加熱した食品の衛生的な扱いを確かめる目印として役に立つ。牛乳やアイスクリーム類、加熱食肉製品などには、「大腸菌群陰性」(見つかってはならない)という成分規格が定められている(規格の詳細は第11章参照)。

6. 製菓とのつながり

6-1. 菓子の水分活性と、問題になる微生物

菓子は、種類によって水分活性が大きく異なり、それによって注意すべき微生物も変わる。

菓子の種類水分活性のおよその範囲主に問題になる微生物主な対策
生菓子(生クリームのケーキ、カスタードを使った菓子、ムース、和生菓子の一部)高い(0.90以上が多い)細菌(黄色ブドウ球菌、サルモネラなど)、カビ冷蔵、手指・器具からの汚染防止、早めの消費
半生菓子(ようかん、ジャムを使った焼き菓子、ドライフルーツの菓子など)中程度(0.60〜0.85程度)カビ、耐浸透圧性酵母包装、脱酸素剤、水分活性の管理
焼き菓子(クッキー、ビスケット)、チョコレート、砂糖菓子低い(0.60未満が多い)微生物はほとんど増えない。湿気を吸うと問題になる防湿包装。油脂の酸化に注意(第8章参照)

同じ店の菓子でも、生菓子と焼き菓子では、気をつけるべきことがまったく違う。焼き菓子の保存性が高いのは、焼成によって菌が死ぬからだけではなく、水分活性が低く、あとから菌がついても増えないからである。逆に、焼いたスポンジでも、シロップをしみこませ、生クリームをはさめば、水分活性は上がり、細菌が増える条件がそろう。

6-2. 「加熱したから安全」ではない

菓子の製造では、加熱によって菌を減らしたあとに、冷却、デコレーション、カット、包装など、人の手が入る作業が続く。加熱後の作業で黄色ブドウ球菌などがつけば、加熱の効果は失われる。さらに、芽胞をつくる菌は加熱でも生き残る。

カスタードクリームや餡のように、炊いたあと冷ましてから使うものは、10〜60℃の温度帯をできるだけ早く通過させることが大切である。大きな鍋のままゆっくり冷ますのではなく、浅いバットに薄く広げ、表面をラップで密着させて、氷水や急速冷却機(ブラストチラー)などで一気に冷やす。冷ましたあとは、10℃以下で保存し、その日のうちに使い切る量を炊くのが原則である。

6-3. 脱酸素剤と真空包装の落とし穴

焼き菓子や和菓子の包装に入れる脱酸素剤は、包装の中の酸素を除いて、カビの発生や油脂の酸化を防ぐ。しかし、酸素がなくても増える菌(通性嫌気性菌)や、酸素がないほうが増える菌(偏性嫌気性菌)は抑えられない。水分活性が高く、酸性でない食品を密封して常温に置くと、ボツリヌス菌が増える条件がそろうおそれがある。脱酸素剤や真空包装は「保存料の代わり」でも「冷蔵の代わり」でもないことを理解しておく必要がある。

6-4. 微生物の検査を製造の確認に使う

洋生菓子については、かつて国の「洋生菓子の衛生規範」で、細菌数(1gあたり10万以下)、大腸菌群陰性、黄色ブドウ球菌陰性といった目安が示されていた。衛生規範は、HACCPに沿った衛生管理の制度化にともなって令和3年6月に廃止されたが、自治体によっては、これらの値を自主検査の目安として示しているところがある。

菓子店が自主的に製品の微生物検査を行う場合、一般生菌数は「製造全体の衛生状態」を、大腸菌群は「加熱後の汚染や加熱不足」を、黄色ブドウ球菌は「手指からの汚染」を確かめる目安になる。検査の結果は、作業の手順を見直す手がかりとして使うことが大切である。

6-5. 微生物と仲よくする菓子

菓子づくりでは、微生物を「味方」として使う場面もある。パンやブリオッシュ、サバランの生地は酵母の発酵でふくらみ、サワークリームやヨーグルトを使った菓子には乳酸菌の酸味が生きている。酒まんじゅうや甘酒を使った和菓子には、麹菌と酵母の力が使われている。

有用な微生物を使う場合でも、温度や時間の管理を誤ると、有害な微生物が増える余地を与えてしまう。発酵を管理することと、食中毒を防ぐことは、どちらも「微生物の増える条件をコントロールする」という同じ技術の裏表である。

試験対策:よくある間違いポイント

試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。

Q1カンピロバクターは、酸素が多い環境で最もよく増殖する好気性菌である

正しくは:カンピロバクターは微好気性菌。空気より少ない酸素(5〜15%程度)でよく増殖する

Q2大腸菌群は、その多くが強い病原性をもつため、食中毒菌として検査される

正しくは:大腸菌群の多くは病原性をもたない。加熱不足や加熱後の汚染、ふん便による汚染を知る衛生指標菌として検査される

Q3微生物の増殖に必要な三つの条件は、栄養・水分・温度である

この文のとおりです。(ほかに酸素とpHも影響する)

Q4微生物が増殖に利用できるのは、食品の成分と強く結びついた結合水である

正しくは:微生物が利用できるのは自由水

Q5原材料が生産段階からもっている微生物による汚染を、二次汚染という

正しくは:生産段階からもっている汚染は一次汚染。製造・調理の途中でつくのが二次汚染

Q6芽胞は、100℃で数分間加熱すればすべて死滅する

正しくは:芽胞は100℃でも死滅しにくい。確実に死滅させるには121℃・15〜20分などの高圧蒸気滅菌が必要

Q7塩蔵や糖蔵は、食品の水分活性を下げて微生物の増殖を抑える保存法である

この文のとおりです。

Q8微生物の中で、増殖に最も多くの水を必要とするのはカビである

正しくは:最も多くの水を必要とするのは細菌(水分活性約0.90以上)。カビは乾燥に強い(約0.80)

Q9芽胞をつくらない多くの細菌は、75℃で1分間以上加熱すると死滅する

この文のとおりです。

Q10微生物による食品成分の分解のうち、人に有用なものを発酵、有害なものを腐敗という

この文のとおりです。(どちらも微生物による分解で、人にとっての有用性で呼び分ける)

Q11リステリアやエルシニアは、冷蔵庫の中では増殖できない

正しくは:リステリアやエルシニアは低温菌で、冷蔵庫の中でも増殖できる

Q12グラム染色で濃い紫色に染まるものをグラム陽性菌といい、黄色ブドウ球菌はグラム陽性菌である

この文のとおりです。(サルモネラ属菌・大腸菌・カンピロバクターなどはグラム陰性菌)

Q13ウエルシュ菌は、酸素の多い場所でよく増える好気性菌である

正しくは:ウエルシュ菌は偏性嫌気性菌。大鍋の底など酸素の少ない場所で増える

Q14ウイルスは、細菌と同じように食品の中で増殖する

正しくは:ウイルスは生きた細胞の中でしか増殖できないため、食品の中では増殖しない

Q15水分活性が0.60未満の食品では、細菌がもっとも活発に増殖する

正しくは:水分活性が0.60未満ではほとんどの微生物が増殖できない⚠️ 古い教材では「0.50以下で増殖不可」「0.60以下で増殖が阻止される」などと書かれていることがある。いずれも「低いほど増えない」という意味で、本書では食品学の本とそろえて0.60未満とした。

Q16ウエルシュ菌の芽胞は、100℃で1〜4時間の加熱に耐えるものがある

この文のとおりです。(そのため加熱後の急速な冷却が重要)

Q17大腸菌群が加熱した食品から検出された場合、加熱不足か、加熱後の汚染が疑われる

この文のとおりです。(大腸菌群は加熱で死滅しやすいため)

Q18細菌は、出芽によって増殖する

正しくは:細菌は分裂によって増殖する。出芽で増えるのは主に酵母

Q19一般生菌数の測定では、標準寒天培地を用いて20℃で1週間培養する

正しくは:標準寒天培地で35℃・48時間培養する

Q20多くの細菌は、pH4程度の酸性でもっともよく増殖する

正しくは:多くの細菌は中性付近(6.5〜7.5)でよく増殖し、pH4.6以下では多くの食中毒菌が増殖しにくい⚠️ 教材によっては「pH4.5以下」と書かれている。本書では食品学の本とそろえて4.6とした。

Q21芽胞をつくる食中毒菌には、サルモネラ属菌や黄色ブドウ球菌がある

正しくは:芽胞をつくるのはボツリヌス菌・ウエルシュ菌・セレウス菌。サルモネラ属菌や黄色ブドウ球菌は芽胞をつくらない

Q22脱酸素剤を入れて密封した食品は、すべての細菌の増殖を防げるので、常温で保存できる

正しくは:脱酸素剤で抑えられるのは主にカビなどの好気性の微生物。ボツリヌス菌などの嫌気性菌は、酸素のない環境でかえって増えやすい

Q23市販の牛乳の細菌数の規格は、1mLあたり400万以下である

正しくは:牛乳は1mLあたり5万以下。400万以下は生乳(原料乳)の総菌数の規格

Q24ウイルスは細菌よりも小さく、ノロウイルスの大きさは約30〜40nmである

この文のとおりです。(細菌は約1μm。ウイルスはその10分の1〜100分の1)

Q25食中毒菌の大部分は中温菌であり、人の体温に近い温度でよく増殖する

この文のとおりです。

Q26一般生菌数は、死んだ菌も含めた細菌の数である

正しくは:一般生菌数は生きている細菌の数。死んだ菌も含めるのは総菌数

Q27冷蔵庫で保存すれば、食品中の細菌は死滅する

正しくは:低温は増殖を抑える(静菌)だけで、細菌は死滅しない。室温に戻せば再び増える

Q28クリプトスポリジウムは塩素に強い原虫で、水道水を介した集団感染を起こすことがある

この文のとおりです。

Q29ボツリヌス菌は、酸素を必要とする好気性菌である

正しくは:ボツリヌス菌は偏性嫌気性菌。酸素があると増殖できない

Q30食中毒菌の大部分は、50〜60℃を最適な温度とする高温菌である

正しくは:食中毒菌の大部分は中温菌で、最適な温度は25〜40℃前後

Q31大腸菌の世代時間は、条件がよければ約20分である

この文のとおりです。(腸炎ビブリオはさらに短く10分程度)

Q32黄色ブドウ球菌は、食中毒菌の中では比較的乾燥に強く、水分活性約0.86まで増殖できる

この文のとおりです。
結果:

まとめ

食品にかかわる微生物には、細菌、真菌(カビ・酵母)、ウイルス、原虫などがある。細菌は分裂で増え、形によって球菌・桿菌・らせん菌に、染色によってグラム陽性菌・陰性菌に分けられる。ボツリヌス菌・ウエルシュ菌・セレウス菌は、100℃でも死滅しにくい芽胞をつくるため、加熱後の扱いに注意が必要である。ウイルスは食品の中では増殖しないが、ごく少量で感染するため、「つけない」「やっつける」ことが重要になる。

微生物が増えるには、栄養・水分・温度の三つの条件が必要で、酸素とpHも影響する。微生物が利用できるのは自由水で、その目安が水分活性である。細菌は約0.90、酵母は約0.88、カビは約0.80が増殖の下限の目安で、0.60未満ではほとんどの微生物が増殖できない。食中毒菌の大部分は中温菌で、30〜40℃前後でよく増える。低温は菌を殺すのではなく増殖を抑えるだけで、リステリアやエルシニアは冷蔵庫の中でも増える。酸素については、ボツリヌス菌・ウエルシュ菌が偏性嫌気性菌、カンピロバクターが微好気性菌であることが頻出である。多くの細菌は中性付近でよく増え、pH4.6以下では増えにくい。

食品の汚染には、原材料がもともともっている一次汚染と、製造・調理の途中でつく二次汚染がある。食品の微生物の状態は、生きた菌を数える一般生菌数(標準寒天培地・35℃・48時間)や、加熱不足や加熱後の汚染、ふん便による汚染の目印となる大腸菌群などの衛生指標菌で調べる。

菓子は、種類によって水分活性が大きく異なり、生菓子では細菌、半生菓子ではカビや酵母に注意が必要である。加熱後に人の手が入る工程が多い菓子づくりでは、「加熱したから安全」とは考えず、つけない・増やさないための温度と時間の管理が欠かせない。次章では、こうした微生物などが原因となって起こる「食中毒」の全体像と、その予防の考え方を学ぶ。

※ 本書は、令和8年10月時点の法令・制度、令和7年の食中毒統計にもとづいています。

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