食品衛生学 第二部 食中毒
ウイルス性食中毒と経口感染症
はじめに
日本の食中毒で、患者数が最も多い病因物質はノロウイルスである。令和7年(2025年)には、全国の食中毒の患者24,727人のうち、18,566人(約4分の3)がノロウイルスによるものであり、事件数でも462件で1位となった(第3章参照)。
ウイルスは、これまで学んだ細菌とは性質が大きく異なる。食品の中では増えない。そのかわり、ごく少量で感染し、人から人へ次々と広がる。そして、多くのウイルス性食中毒は、汚染された原材料よりも、ウイルスをもった人の手を通じて起こる。つまり、ノロウイルス対策の中心は、温度管理よりも、調理する人の健康管理と手洗いにある。
本章では、前半でノロウイルスを中心に、ウイルス性食中毒の性質と予防、消毒の方法、嘔吐物の処理を学ぶ。後半では、コレラや赤痢のように、飲食物を通じて感染する経口感染症と、感染症法による就業制限を学ぶ。感染症法の詳しい内容は衛生法規の本の地域保健法と感染症法の章で扱い、公衆衛生の視点からの感染症は公衆衛生学の本の感染症予防の章で扱う。ここでは、食品を扱う人に必要な範囲に絞って整理する。
1. ウイルス性食中毒の特徴
1-1. 細菌との違い
ウイルスによる食中毒を理解するために、細菌との違いを先に整理しておく(第2章参照)。
| 項目 | 細菌 | ウイルス |
|---|---|---|
| 大きさ | 約1μm前後 | 細菌の10分の1〜100分の1(ノロウイルスは約30〜40nm) |
| 食品の中での増殖 | 増える(条件がそろえば) | 増えない(人の腸の細胞の中でだけ増える) |
| 感染に必要な数 | 多くは数万個以上(少量で感染する菌もある) | ごく少量(ノロウイルスは10〜100個程度) |
| 人から人への感染 | 一部の菌で起こる | よく起こる |
| 予防の中心 | つけない・増やさない・やっつける | 持ち込まない・ひろげない・つけない・やっつける |
ウイルスは食品の中で増えないため、細菌のように「冷蔵して増やさない」ことは予防にならない。ウイルスに汚染された食品は、冷蔵庫の中で何日たっても、ウイルスの数は減らないまま残る。
1-2. 主なウイルス
| ウイルス | 主な感染源・原因食品 | 潜伏期間の目安 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| ノロウイルス | 調理従事者の手指、二枚貝(カキなど) | 24〜48時間 | 冬に多い。食中毒の患者数で最多 |
| サポウイルス | 調理従事者の手指、二枚貝 | 24〜48時間 | ノロウイルスに似た胃腸炎 |
| ロタウイルス | 人から人(主に乳幼児) | 1〜3日 | 乳幼児の冬〜春の下痢。白っぽい便 |
| A型肝炎ウイルス | 二枚貝、汚染された水・食品 | 2〜6週間(平均約4週間) | 発熱、倦怠感、黄疸。四類感染症 |
| E型肝炎ウイルス | 豚・イノシシ・シカの肉やレバーの生食・加熱不足 | 2〜9週間(平均約6週間) | 黄疸など。妊婦が感染すると重症化しやすい。四類感染症 |
2. ノロウイルス
2-1. ウイルスの性質
ノロウイルスは、小さな球形のウイルスで、人の腸の細胞の中でだけ増殖する。感染した人の便や嘔吐物には、大量のウイルスが含まれる。
| 性質 | 内容 |
|---|---|
| 食品の中での増殖 | 増えない |
| 感染に必要な数 | 10〜100個程度のごく少量で感染する |
| 環境での強さ | 乾燥や低温に強く、室温でも長く感染力を保つ。冬に流行しやすい理由の一つ |
| 消毒薬への強さ | アルコール(エタノール)が効きにくい。次亜塩素酸ナトリウムが有効 |
| 熱への強さ | 細菌より熱に強い。中心温度85〜90℃・90秒間以上の加熱が必要 |
| 型 | 遺伝子の型が多く、変異しやすい。一度かかっても、何度でも感染する |
2-2. 症状
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 潜伏期間 | 24〜48時間 |
| 主な症状 | 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛。発熱は軽いことが多い(38℃以下) |
| 経過 | 多くは1〜2日(長くても数日)で回復する。特別な治療薬はなく、水分補給などの対症療法を行う |
| 注意が必要な人 | 乳幼児や高齢者は、脱水を起こしたり、嘔吐物がのどにつまって窒息したりすることがある |
| 不顕性感染 | 感染しても症状が出ない人もいる。症状がなくても便にはウイルスが出ている |
| 回復後 | 症状がなくなったあとも、1週間から長いときは1か月程度、便にウイルスが出続けることがある |
症状が出ない人や、回復したあとの人も、便を通じてウイルスを広げることがある。「元気だから大丈夫」とは言えない点が、ノロウイルス対策をむずかしくしている。
2-3. 感染の経路
ノロウイルスの感染経路は、次のように整理できる。
| 経路 | 内容 |
|---|---|
| 調理従事者からの汚染 | ウイルスをもった人(症状のない人を含む)が、トイレのあとの手洗いが不十分なまま調理し、手指から食品を汚染する。現在の食中毒の原因として最も多い |
| 二枚貝 | 下水を通じて海に出たウイルスが、カキなどの二枚貝の内臓(中腸腺)に濃縮される。生や加熱不足の二枚貝で感染する |
| 人から人への感染 | 便や嘔吐物に触れた手から口に入る。乾いた嘔吐物から舞い上がったウイルスを吸いこむこともある(飛沫・塵埃感染) |
| 水 | ウイルスに汚染された井戸水などの飲料水 |
かつては、ノロウイルスの食中毒といえばカキなどの二枚貝が原因の代表であった。しかし、現在では、調理従事者を介した汚染が原因の大部分を占め、弁当、仕出し料理、パン、菓子、刻みのりなど、さまざまな食品が原因になっている。令和7年に起きた患者2,000人を超える大規模な食中毒も、仕出し屋の弁当が原因であった。
2-4. 発生の時期
ノロウイルスの食中毒は、冬(11月〜3月ごろ)に多い。令和7年は、1〜3月に年間の患者の約57%が集中した。ただし、一年中起こりうる。
3. ノロウイルスの予防
3-1. 予防の四原則
ノロウイルスは食品の中で増えないため、細菌性食中毒予防の三原則(つけない・増やさない・やっつける)のうち、「増やさない」は対策にならない。そこで、厚生労働省は次の四原則を示している(第3章参照)。
| 原則 | 内容 | 具体的な方法 |
|---|---|---|
| 持ち込まない | 調理場にウイルスを持ち込まない | 下痢・嘔吐などの症状がある人は調理をしない。家族に症状がある人も注意する。日ごろから健康状態を確認・記録する |
| ひろげない | 調理場でウイルスを広げない | 嘔吐物や便を正しく処理する。トイレ、ドアノブ、蛇口など手が触れる場所を消毒する |
| つけない | 食品にウイルスをつけない | 用便後・調理前の手洗いを徹底する。加熱後の食品やそのまま食べる食品には、使い捨て手袋を使う |
| やっつける | ウイルスを不活化する | 加熱は中心温度85〜90℃・90秒間以上。器具は次亜塩素酸ナトリウムや熱湯で消毒する |
3-2. 手洗い
ノロウイルス対策で最も重要なのは手洗いである。ウイルスは手指のしわや爪の間に残りやすいため、次の点に注意して丁寧に洗う。
- 時計や指輪を外し、爪を短く切っておく
- 流水で手をぬらし、石けんを十分に泡立てる
- 手のひら、手の甲、指の間、親指、指先と爪の間、手首まで洗う
- 流水でよくすすぐ(石けんでウイルスを浮かせ、水で流し去るのが手洗いの基本)
- 使い捨てのペーパータオルでふく(共用のタオルは使わない)
- 必要に応じて、2回くり返す(2度洗い)
アルコールによる手指消毒は、ノロウイルスには効果が十分でない。アルコールは手洗いの代わりにはならず、手洗いをしたうえで補助的に使う。
3-3. 加熱
ノロウイルスを不活化するには、食品の中心温度85〜90℃で90秒間以上の加熱が必要とされる。一般の細菌の加熱の目安(75℃・1分間以上)より高い温度と長い時間が必要である。とくに、二枚貝を加熱して食べる場合には、この条件を守る。
3-4. 消毒
ノロウイルスの消毒には、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系の消毒薬)を使う。
| 対象 | 濃度の目安 |
|---|---|
| 調理器具、食器、ドアノブ、トイレの便座、床など | 0.02%(200ppm) |
| 嘔吐物や便が付着した場所、嘔吐物の処理 | 0.1%(1,000ppm) |
家庭用の塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム濃度約5%)を薄めて作る場合、0.02%は約250倍、0.1%は約50倍に薄める。
次亜塩素酸ナトリウムを使うときの注意は次のとおりである。
- 金属を腐食させるため、金属に使ったあとは水でふき取る
- 汚れ(たんぱく質など)があると効果が落ちるため、先に汚れを取り除いてから使う
- 時間がたつと濃度が下がるため、使うたびに作る
- 酸性の洗剤と混ぜると有毒な塩素ガスが発生する。換気をして使う
- 食器や調理器具は、85℃以上の熱湯で1分間以上加熱することでも消毒できる
3-5. 嘔吐物の処理
嘔吐物には大量のウイルスが含まれている。処理を誤ると、処理した人が感染したり、乾いた嘔吐物からウイルスが舞い上がって広がったりする。店内や調理場で嘔吐があった場合は、次の手順で、すばやく、正しく処理する。
- 周りの人を遠ざけ、窓を開けて換気する
- 処理する人は、使い捨てのマスク、手袋、エプロン(ガウン)を着ける。可能なら靴カバーも使う
- 嘔吐物を、ペーパータオルや布で外側から内側に向かって、静かにふき取る(広げないように)
- ふき取ったものはビニール袋に入れ、0.1%の次亜塩素酸ナトリウムをしみこむ程度に入れて、口をしっかり縛る
- 嘔吐物があった床などは、0.1%の次亜塩素酸ナトリウムをしみこませたペーパータオルなどで覆い、しばらく置いてから、ふき取る。その後、水ぶきをする
- 使った手袋・マスク・エプロンも、外側に触れないように外して袋に入れ、密封して捨てる
- 処理が終わったら、石けんと流水で丁寧に手を洗う
カーペットなど、塩素で脱色するものは、スチームアイロンなどで85℃・1分間以上の熱をかける方法もある。
3-6. 調理従事者の健康管理
ノロウイルスの食中毒の多くは、調理する人が原因になる。そのため、施設としての健康管理が欠かせない。
- 毎日、作業前に、下痢・嘔吐・発熱などの症状がないかを確認し、記録する
- 症状がある人は、食品に直接触れる作業をさせない。責任者は、症状を報告しやすい雰囲気をつくる
- 症状がなくなっても、しばらくはウイルスが便に出ていることがあるため、復帰後もしばらくは手洗いを特に丁寧にする。可能であれば、検便でウイルスがいないことを確認してから、食品に直接触れる作業に戻す
- 大量調理施設では、従事者の検便を月に1回以上行い、10月から3月にはノロウイルスの検査を含めることが望ましいとされている(第12章参照)
4. そのほかのウイルス
4-1. A型肝炎ウイルス
A型肝炎は、A型肝炎ウイルスに汚染された水や食品(とくに二枚貝)を通じて感染する。潜伏期間は2〜6週間(平均約4週間)と長く、発熱、倦怠感、食欲不振のあとに、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)が現れる。多くは回復するが、高齢者では重症化することがある。
衛生環境が整った日本では、若い世代の多くが免疫をもっておらず、海外旅行先での感染や、輸入食品による感染が問題になることがある。ワクチンで予防できる。
4-2. E型肝炎ウイルス
E型肝炎は、E型肝炎ウイルスに感染した豚、イノシシ、シカなどの肉やレバーを、生や加熱不足で食べることで感染する。潜伏期間は平均6週間ほどで、症状はA型肝炎に似る。妊婦が感染すると重症化しやすい。
E型肝炎や食中毒菌の危険があることから、平成27年(2015年)から、豚の肉や内臓を生食用として販売・提供することが禁止されている。豚肉や野生の鳥獣の肉(ジビエ)は、中心部まで十分に加熱して食べる。
4-3. サポウイルスとロタウイルス
サポウイルスは、ノロウイルスに似た胃腸炎を起こすウイルスで、調理従事者を介した食中毒の原因にもなる。ノロウイルスと同じく、アルコールが効きにくく、次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。
ロタウイルスは、主に乳幼児に、冬から春にかけて、激しい下痢や嘔吐を起こす。便が白っぽくなることがある。主に人から人へ感染する。現在はワクチンの定期接種が行われている。
5. 経口感染症
5-1. 経口感染症とは
経口感染症とは、病原体が口から体に入って感染する感染症のことである。病原体に汚染された飲食物や水、汚染された手指などを介して感染する。食中毒も経口感染の一種であるが、ここでは、とくに感染力が強く、人から人へ広がりやすいものを中心に扱う。
かつて日本では、コレラ、赤痢、腸チフスなどが「法定伝染病」として、食中毒とは別に扱われていた。現在では、これらは感染症法によって分類され、飲食物を通じて感染した場合には食中毒としても扱われる(第3章参照)。
5-2. 感染症法の分類と経口感染症
感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)は、感染症を、感染力や重さなどによって一類から五類などに分類している。食品とかかわりの深いものは、次のとおりである。
| 分類 | 食品とかかわりの深い主な感染症 | 主な措置 |
|---|---|---|
| 三類感染症 | コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス | 医師は直ちに届け出る。患者と無症状病原体保有者は、飲食物に直接接触する業務への就業が制限される |
| 四類感染症 | A型肝炎、E型肝炎、ボツリヌス症など | 医師は直ちに届け出る。動物や飲食物などを介して感染する感染症。就業制限の対象ではない |
| 五類感染症 | 感染性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルスなど)など | 指定された医療機関が発生の状況を報告する |
三類感染症は、「特定の職業に就くことで、集団発生を起こしうる感染症」とされ、食品にかかわる経口感染症がそろって分類されている。この5つは、試験でも繰り返し問われる。
5-3. 三類感染症の主な特徴
| 感染症 | 病原体 | 主な感染源 | 主な症状 |
|---|---|---|---|
| コレラ | コレラ菌 | 汚染された水・魚介類。主に海外(東南アジアなど)で感染 | 「米のとぎ汁」のような大量の水様便と脱水 |
| 細菌性赤痢 | 赤痢菌 | 汚染された水・食品、人から人。少量(10〜100個程度)で感染 | 発熱、腹痛、しぶり腹、粘血便 |
| 腸管出血性大腸菌感染症 | 腸管出血性大腸菌(O157など) | 牛肉、生野菜、人から人 | 腹痛、血便。溶血性尿毒症症候群(第4章参照) |
| 腸チフス | チフス菌 | 汚染された水・食品。主に海外で感染 | 高熱が続く、発疹(バラ疹)、脾臓の腫れ |
| パラチフス | パラチフスA菌 | 汚染された水・食品 | 腸チフスに似るが、やや軽い |
チフス菌とパラチフスA菌はサルモネラ属の菌であるが、食中毒の原因となる一般のサルモネラ属菌(第4章参照)とは区別して扱われる。
5-4. 就業制限
感染症法では、一類から三類の感染症などの患者や無症状病原体保有者(病原体をもっているが症状のない人)について、感染を広げるおそれのある業務への就業を制限している。三類感染症では、飲食物の製造・販売・調製・取扱いの際に、飲食物に直接接触する業務が制限の対象である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる人 | 三類感染症の患者と無症状病原体保有者 |
| 制限される業務 | 飲食物に直接接触する業務(菓子の製造・成形・盛り付けなど) |
| 制限の期間 | 病原体を保有しなくなるまで(検便で陰性が確認されるまで) |
| 制限されない業務 | 飲食物に直接触れない業務(事務など)には就くことができる |
症状がなくなっても、病原体をもっている間は、就業制限は続く。腸管出血性大腸菌などの保菌者と通知された場合は、再度の検便で菌がいないことが確認されるまで、食品に直接触れる業務に戻ることはできない。
食品を扱う人の検便が重要なのは、症状のない無症状病原体保有者を見つけるためである。
6. 原虫による水系感染
クリプトスポリジウムは、人や牛などの腸に寄生する原虫である。オーシスト(殻に包まれた状態)が、ふん便とともに外に出て、水を汚染する。オーシストは塩素に非常に強いため、ふつうの水道水の塩素消毒では死なない。平成8年(1996年)には、埼玉県で水道水を介して約9,000人が感染する集団発生が起きた。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な感染経路 | 汚染された水道水・飲料水、プール |
| 主な症状 | 激しい水様性の下痢、腹痛。免疫が弱い人では長引く |
| 対策 | 塩素が効きにくいため、水道ではろ過の強化や紫外線処理などで対策する。煮沸すれば死滅する |
井戸水などを使う施設では、水の管理に特に注意する(第12章参照)。
7. 製菓とのつながり
7-1. 菓子とノロウイルス
菓子による食中毒の原因として、近年特に多いのがノロウイルスである。過去には、パン、菓子パン、ケーキ、和菓子、ロールケーキなどで、数百人から千人を超える規模の食中毒が起きている。
菓子がノロウイルスの食中毒の原因になりやすいのは、次の理由による。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 加熱後に手が触れる | 焼き上がった生地へのクリームの塗布、フルーツの飾り付け、カット、包装など |
| 一度に大量に作り、広く配られる | 学校給食のパン、イベントや行事の菓子、贈答品など。1人の従事者から多くの人に広がる |
| 少量で感染する | 手指についたわずかなウイルスで十分に食中毒になる |
| 冷蔵しても減らない | 生菓子を冷蔵しても、ウイルスは減らないまま残る |
7-2. 菓子店でのノロウイルス対策
菓子店では、四原則を次のように実践する。
| 原則 | 菓子店での具体例 |
|---|---|
| 持ち込まない | 毎朝、全員の体調を確認して記録する。下痢・嘔吐・腹痛がある人は、本人が言い出しにくくても、仕上げや包装など食品に直接触れる作業から外す。家族の体調不良も報告してもらう |
| ひろげない | トイレの後の手洗い設備を整え、ドアノブや蛇口を定期的に0.02%の次亜塩素酸ナトリウムでふく。嘔吐物の処理用具(マスク、手袋、エプロン、ペーパータオル、ビニール袋、消毒薬)をひとまとめにして準備しておく |
| つけない | トイレのあとは、作業着を脱ぎ、石けんで2度洗いをしてから作業に戻る。焼成後の作業や、フルーツの盛り付けには使い捨て手袋を使う。手袋を替えるときも手を洗う |
| やっつける | 器具は洗浄後、熱湯や次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。アルコールだけにたよらない |
7-3. 「ひとりの体調不良」が店を止める
ノロウイルスの食中毒では、原因となった店が営業停止の処分を受けるだけでなく、従業員にも感染が広がり、店の営業を続けられなくなることもある。体調が悪いときに休むことは、本人のためだけでなく、客と店と仲間を守るための仕事の一部である。菓子店の責任者は、従業員が体調不良を正直に報告でき、無理に出勤しなくてよい職場をつくることが大切である。
7-4. 菓子に使う果物と二枚貝以外の食品
ノロウイルスは二枚貝のイメージが強いが、海外では、冷凍のベリー類(ラズベリー、いちごなど)を原因とするノロウイルスやA型肝炎の集団発生も報告されている。収穫や加工の段階で、人の手から汚染されたと考えられている。生のまま菓子に飾る果物は、信頼できる仕入れ先から購入し、洗えるものは流水でよく洗う。冷凍のベリーを加熱せずに使う場合は、加熱用か生食用かの表示を確認する。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1ノロウイルスの消毒には、アルコール(エタノール)が最も有効である
Q2三類感染症の無症状病原体保有者は、症状がないので、食品に直接触れる業務に就くことができる
Q3三類感染症の患者と無症状病原体保有者は、飲食物に直接接触する業務への就業が制限される
Q4感染症法の三類感染症には、コレラ・細菌性赤痢・腸管出血性大腸菌感染症・腸チフス・パラチフスがある
Q5現在のノロウイルス食中毒の原因は、ほとんどがカキなどの二枚貝である
Q6A型肝炎は、汚染された二枚貝や水を通じて感染し、潜伏期間は2〜6週間と長い
Q7ノロウイルスの潜伏期間は、30分〜6時間と短い
Q8クリプトスポリジウムは塩素に弱いため、水道水の通常の塩素消毒で十分に防ぐことができる
Q9ノロウイルス予防の四原則は、持ち込まない・ひろげない・つけない・やっつけるである
Q10食品取扱者の検便は、症状のない保菌者を発見するために行う
Q11E型肝炎の主な感染源は、生の二枚貝である
Q12ノロウイルスの予防で最も重要なのは、用便後と調理前の手洗いの徹底である
Q13ノロウイルスに感染しても、症状が出ない人がいる
Q14豚の肉や内臓は、新鮮であれば生食用として提供してよい
Q15近年の食中毒の病因物質別の患者数では、ノロウイルスが最も多い
Q16ノロウイルスによる食中毒は、夏に多く発生する
Q17ノロウイルスを不活化するには、中心温度75℃で1分間以上加熱すればよい
Q18嘔吐物の処理には、0.02%の次亜塩素酸ナトリウムを使う
Q19腸管出血性大腸菌の保菌者と通知された者は、下痢などの症状がなくなれば直ちに調理作業に戻ることができる
Q20ノロウイルスに汚染された可能性のある調理器具は、0.02%の次亜塩素酸ナトリウムか熱湯で消毒する
Q21ノロウイルスは、乾いた嘔吐物から舞い上がって、空気を介して感染することもある
Q22嘔吐物は、ふき取る範囲を広げないよう、内側から外側に向かってふき取る
Q23ノロウイルスは、人の腸の細胞の中でだけ増殖し、食品の中では増殖しない
Q24ノロウイルスに一度感染すると免疫ができるため、二度と感染しない
Q25ノロウイルスは、食品の中で増殖するため、冷蔵保存が予防の中心である
Q26感染症法の三類感染症には、A型肝炎が含まれる
Q27ノロウイルスは、症状がなくなればすぐに便へのウイルスの排出も止まる
Q28ノロウイルスは、100万個以上の大量のウイルスを摂取しなければ発症しない
Q29次亜塩素酸ナトリウムは金属を腐食させないため、金属製の器具にそのまま使ってよい
まとめ
ノロウイルスは、日本の食中毒で患者数が最も多い病因物質であり、令和7年は事件数でも1位となった。ノロウイルスは食品の中では増えず、人の腸の細胞の中でだけ増える。10〜100個程度のごく少量で感染し、人から人へも広がる。潜伏期間は24〜48時間で、嘔吐・下痢などを起こし、冬に多い。症状のない人や、回復後しばらくの人も、便にウイルスを出していることがある。現在の主な原因は、二枚貝よりも調理従事者を介した汚染である。
予防は、持ち込まない・ひろげない・つけない・やっつけるの四原則による。症状のある人を調理に従事させず、用便後・調理前の手洗いを徹底する。加熱は中心温度85〜90℃・90秒間以上、消毒はアルコールではなく次亜塩素酸ナトリウムを使い、調理器具などは0.02%、嘔吐物や便の処理は0.1%とする。嘔吐物は、使い捨てのマスク・手袋・エプロンを着けて、外側から内側へふき取り、密封して捨てる。
そのほか、A型肝炎(二枚貝、潜伏期間2〜6週間)、E型肝炎(豚・イノシシ・シカの生食。豚の生食用の提供は禁止)、サポウイルス、ロタウイルスなどがある。
飲食物を通じて感染する経口感染症のうち、コレラ・細菌性赤痢・腸管出血性大腸菌感染症・腸チフス・パラチフスは、感染症法の三類感染症である。その患者と無症状病原体保有者は、飲食物に直接接触する業務への就業が、病原体を保有しなくなるまで制限される。検便は、症状のない保菌者を見つけるために行う。
菓子は、加熱後に人の手が触れる作業が多く、ノロウイルスの食中毒が起きやすい。従業員の体調管理と、体調不良を報告しやすい職場づくりが、客と店を守る。次章では、微生物ではなく、動物や植物がもともともっている毒による自然毒食中毒を学ぶ。
※ 本書は、令和8年10月時点の法令・制度、令和7年の食中毒統計にもとづいています。

