公衆衛生学 第二部 環境と健康
空気・光・温熱と住居
はじめに
私たちは、一日に約2万回の呼吸をし、太陽の光を浴び、暑さや寒さの中で暮らしている。空気、光、温度、湿度、そして住まい。こうした生活環境は、ふだんは意識されないが、少しでも条件が悪くなると、たちまち健康に影響する。換気の悪い部屋での一酸化炭素中毒、真夏の熱中症、新築の家でのシックハウス症候群は、その代表的な例である。
環境が健康に与える影響を調べ、健康に暮らせる環境を整えることを環境衛生という。第二部では、環境と健康の関係を学ぶ。本章ではまず、私たちをとりまく空気、温熱(暑さ・寒さ)、光、そして住居の衛生を扱う。
試験では、空気の組成、一酸化炭素と二酸化炭素の性質、温熱の4要素、紫外線と赤外線の作用がよく出題される。数値と、作用の取り違え(紫外線と赤外線など)に注意して学ぼう。
菓子店の厨房は、オーブンやガスコンロの熱、ドライアイス、換気など、本章の内容と深くかかわる場所である。製菓とのつながりの節で、厨房で起こりやすい事故とその予防も確認する。
1. 空気
1-1. 空気の組成
地表近くの乾燥した空気は、主に次の成分からなる。
| 成分 | 割合(容積比) |
|---|---|
| 窒素(N₂) | 約78%(78.10%) |
| 酸素(O₂) | 約21%(20.93%) |
| アルゴン(Ar) | 約0.9%(0.93%) |
| 二酸化炭素(CO₂) | 約0.04% |
| その他(ネオン、ヘリウムなど) | ごくわずか |
空気の成分でもっとも多いのは窒素で、窒素と酸素で全体の99%近くをしめる。二酸化炭素はわずか約0.04%である。
⚠️ 空気中で最も多い成分は「酸素」ではなく「窒素」である。二酸化炭素は「約4%」ではなく「約0.04%」。古い教材では0.03%と書かれていることがあるが、二酸化炭素の濃度は年々少しずつ上がっており、現在は約0.04%(約420ppm)である。
1-2. 酸素と酸素欠乏
酸素は、生命の維持に欠かせない。空気中の酸素の濃度が下がると、体に次のような影響が出る。
| 酸素濃度 | 主な症状 |
|---|---|
| 21% | 通常の空気 |
| 18%未満 | 「酸素欠乏」とされる(労働安全衛生法の規則による定義) |
| 16%前後 | 呼吸や脈が速くなる、頭痛、吐き気 |
| 10%前後 | 意識を失う、けいれん |
| 6%以下 | 数回の呼吸で倒れ、呼吸が止まり、死亡する |
酸素欠乏は、換気の悪いタンクやマンホールの中、井戸、穀物や野菜を保管する倉庫、ドライアイスや液体窒素を大量に置いた狭い部屋などで起こりやすい。酸素の少ない空気は見た目や においでは わからないため、一呼吸で倒れることもある。
1-3. 二酸化炭素
二酸化炭素(炭酸ガス)は、無色・無臭の気体で、人の呼吸や、物が燃えることで発生する。空気より重いため、低いところにたまりやすい。
二酸化炭素そのものの毒性は弱く、通常の室内の濃度で健康に害が出ることはない。しかし、人が多く集まる部屋では、二酸化炭素とともに、体臭、湿気、ちりなども増え、空気が汚れてくる。そのため、二酸化炭素の濃度は、室内の空気の汚れを示す指標として使われている。
| 二酸化炭素の濃度 | 意味・影響 |
|---|---|
| 約0.04%(約420ppm) | 外の空気 |
| 0.1%(1,000ppm)以下 | 建築物衛生法の基準(特定建築物の室内) |
| 3〜4% | 頭痛、めまい、呼吸が苦しくなる |
| 7〜10% | 数分で意識を失う |
※ ppm(ピーピーエム)は100万分の1を表す単位で、1%=10,000ppmである。
1-4. 一酸化炭素
一酸化炭素(CO)は、炭素をふくむ燃料(ガス、石油、炭、木など)が、酸素が不足した状態で燃える(不完全燃焼)ときに発生する。
| 性質 | 内容 |
|---|---|
| 色・におい | 無色・無臭・無刺激。発生しても気づきにくい |
| 毒性の仕組み | 血液中のヘモグロビンと結びつく力が、酸素の約200〜250倍強い。そのため、酸素が体に運ばれなくなり、酸素欠乏の状態になる |
| 発生しやすい場所 | 換気の悪い部屋でのガス・石油ストーブ、ガス湯沸かし器、炭火、自動車の排気ガス |
| 予防 | 換気を十分に行う。燃焼器具の点検、警報器の設置 |
空気中の一酸化炭素の濃度と、体への影響は次のとおりである。
| 一酸化炭素の濃度 | 主な症状 |
|---|---|
| 0.02%(200ppm) | 2〜3時間で軽い頭痛 |
| 0.04%(400ppm) | 1〜2時間で頭痛、吐き気 |
| 0.08%(800ppm) | 45分で頭痛、めまい、吐き気。2時間で失神 |
| 0.16%(1,600ppm) | 20分で頭痛、めまい、吐き気。2時間で死亡 |
| 0.32%(3,200ppm) | 30分で死亡 |
| 1.28%(12,800ppm) | 1〜3分で死亡 |
ごくわずかな濃度でも、時間がたつと重い症状になる。中毒が疑われるときは、すぐに窓を開け、患者を新鮮な空気の場所に移し、救急車をよぶ。
⚠️ 「一酸化炭素は、濃度が0.02%(200ppm)になると死に至る」は誤り。0.02%では2〜3時間で軽い頭痛が起こる程度で、濃度が高くなるほど、短い時間で死亡に至る。
⚠️ 一酸化炭素は「無臭」である。「強い刺激臭がある」とする選択肢は誤り。また、ヘモグロビンとの結びつきは「酸素より弱い」のではなく「酸素の約200〜250倍強い」。
1-5. 室内の空気の基準
多くの人が利用する延べ面積3,000m²以上のビル(特定建築物)では、建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)によって、室内の空気の基準が定められている。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 浮遊粉じん | 0.15mg/m³以下 |
| 一酸化炭素 | 6ppm以下 |
| 二酸化炭素 | 1,000ppm(0.1%)以下 |
| 温度 | 18〜28℃ |
| 相対湿度 | 40〜70% |
| 気流 | 0.5m/秒以下 |
| ホルムアルデヒド | 0.1mg/m³(約0.08ppm)以下 |
⚠️ 2022年4月の改正で、一酸化炭素の基準は10ppm以下から6ppm以下に、温度の下限は17℃から18℃に変わった。
2. 温熱環境
2-1. 体温の調節
人の体温は、気温が変わってもほぼ37℃前後に保たれている。体の中でつくられる熱(産熱)と、体の外へ逃げる熱(放熱)のつり合いがとれているからである。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 産熱 | 食べ物のエネルギーから熱がつくられる。主に筋肉と肝臓で多くつくられる |
| 放熱 | 放射(輻射。周りのものへ熱が出ていく)、伝導・対流(空気や物にふれて熱が移る)、蒸発(汗や呼吸で水分が蒸発するときに熱をうばう)。ふだんの室温で安静にしているときは、放射による放熱がもっとも多い |
気温が体温に近づくと、放射や伝導による放熱ができなくなり、汗の蒸発だけが頼りになる。ところが、湿度が高いと汗が蒸発しにくくなる。真夏の高温多湿の環境で熱中症が起こりやすいのは、このためである。
2-2. 温熱の4要素
人が感じる暑さ・寒さ(温熱感覚)は、気温だけで決まるのではない。次の4つの要素が影響する。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 気温 | 空気の温度 |
| 気湿(湿度) | 空気中の水蒸気の量。高いと汗が蒸発しにくく、暑く感じる |
| 気流 | 空気の流れ(風)。風があると放熱が進み、涼しく感じる |
| 輻射熱(放射熱) | 太陽、ストーブ、オーブン、熱い壁などから直接伝わる熱 |
このうち、気温・気湿・気流の三つを「温熱の3要素」とし、これに輻射熱を加えて「4要素」とする。
2-3. 温熱の指標
温熱の要素を組み合わせて、暑さ・寒さの程度を表す指標がつくられている。
| 指標 | 使う要素 | 内容 |
|---|---|---|
| 感覚温度(実効温度) | 気温・気湿・気流 | 人が実際に感じる温度を表す |
| 修正感覚温度 | 気温・気湿・気流・輻射熱 | 感覚温度に輻射熱を加えたもの |
| 不快指数 | 気温・気湿 | 蒸し暑さを表す。75を超えると半数の人が、80を超えるとほとんどの人が不快を感じる |
| WBGT(暑さ指数) | 気温・気湿・輻射熱など | 熱中症の危険度を表す。熱中症の予防に使われる |
2-4. WBGT(暑さ指数)
WBGT(湿球黒球温度)は、熱中症を予防するための指標で、湿度、日射や周りの熱い物からの輻射熱、気温の三つを取り入れている。単位は℃で表すが、気温とは異なる。
WBGTは、湿度の影響がもっとも大きく、次の式で計算される。
| 場所 | 計算式 |
|---|---|
| 屋外(日射あり) | 0.7×湿球温度 + 0.2×黒球温度 + 0.1×乾球温度 |
| 屋内(日射なし) | 0.7×湿球温度 + 0.3×黒球温度 |
※ 湿球温度は湿度の影響を、黒球温度は輻射熱の影響を、乾球温度は気温を表す。
日常生活での熱中症予防の目安は、次のとおりである。
| WBGT | 区分 | 注意すること |
|---|---|---|
| 31以上 | 危険 | 外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する |
| 28以上31未満 | 厳重警戒 | 炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する |
| 25以上28未満 | 警戒 | 運動や激しい作業では、こまめに休む |
| 25未満 | 注意 | 激しい運動や重労働では危険が生じることがある |
環境省と気象庁は、WBGTが33以上と予想されるときに熱中症警戒アラートを、35以上と予想されるときに熱中症特別警戒アラート(2024年4月から)を発表する。
2-5. 熱中症
熱中症は、高温多湿の環境で、体温の調節がうまくいかなくなり、体に熱がこもったり、水分や塩分が失われたりして起こる障害の総称である。症状の重さによって、次の三つに分けられる。
| 重症度 | 主な症状 | 対応 |
|---|---|---|
| Ⅰ度(軽症) | めまい、立ちくらみ、筋肉のこむら返り、大量の汗 | 涼しい場所で休ませ、体を冷やし、水分と塩分をとらせる |
| Ⅱ度(中等症) | 頭痛、吐き気、嘔吐、だるさ(倦怠感) | 自分で水分をとれなければ、医療機関へ |
| Ⅲ度(重症) | 意識障害、けいれん、高い体温 | すぐに救急車をよぶ。体を冷やし続ける |
以前は、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病という分類が使われていた。熱射病は、もっとも重いⅢ度にあたる。
熱中症は、屋外だけでなく、室内でも、夜間でも起こる。高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくく、乳幼児は体温の調節が未熟なため、とくに注意が必要である。
職場では、2025年6月から、事業者に熱中症対策が義務づけられた。WBGT28以上または気温31℃以上の環境で一定時間以上の作業を行う場合、熱中症の疑いのある人を早く見つけて報告する体制と、重症化を防ぐ手順を定め、働く人に周知しなければならない(第11章参照)。
2-6. 寒さによる障害と気圧
寒さによる障害には、体温が35℃以下に下がる低体温症や、手足の指などの組織が凍る凍傷がある。冬の室内では、暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室に移ったときの急な温度変化で血圧が大きく変わり、脳卒中や心筋梗塞を起こすことがある(ヒートショック)。
気圧の変化も健康に影響する。高い山で気圧と酸素が少なくなって起こる高山病や、潜水などで高い気圧の環境から急に気圧の低い環境に戻ったとき、血液中にとけていた窒素が気泡になって起こる減圧症(潜函病)がある。
3. 光
3-1. 光の種類
太陽の光(太陽光線)は、波長によって、紫外線、可視光線、赤外線に分けられる。
| 種類 | 波長 | 特徴 |
|---|---|---|
| 紫外線 | 短い(約100〜400nm) | 目に見えない。化学作用が強い |
| 可視光線 | 約400〜760nm | 目に見える光。紫・青・緑・黄・橙・赤の色として感じる |
| 赤外線 | 長い(約760nm以上) | 目に見えない。熱作用が強く、熱線ともよばれる |
※ nm(ナノメートル)は10億分の1メートル。
3-2. 紫外線の作用
紫外線には、体によい作用と、害になる作用がある。
| 作用 | 内容 |
|---|---|
| 殺菌作用 | 微生物を殺す。とくに波長260nm付近の紫外線が強い殺菌作用をもつ(殺菌灯に利用される) |
| ビタミンD生成作用 | 皮膚でビタミンDをつくる。ビタミンDが不足すると、子どもではくる病、大人では骨軟化症になる |
| 紅斑作用・色素沈着 | 皮膚が赤くなる(日焼け)。その後、メラニン色素がふえて黒くなる |
| 目への障害 | 角膜や結膜に炎症を起こす(雪眼炎〔雪目〕、電気性眼炎)。長い間浴びると白内障の原因にもなる |
| 皮膚の老化・皮膚がん | 長年浴び続けると、しみ・しわがふえ、皮膚がんの原因になる |
ビタミンDの生成と紅斑作用にかかわる波長290〜320nm付近の紫外線は、ドルノ線(健康線)ともよばれる。
紫外線は、上空のオゾン層によって、有害な短い波長の多くが吸収されている。オゾン層が破壊されると、地上に届く有害な紫外線がふえる(第6章参照)。
⚠️ 「紫外線のビタミンD形成作用が不足すると脚気になる」は誤り。ビタミンDの不足で起こるのはくる病(子ども)・骨軟化症(大人)である。脚気はビタミンB1の不足で起こる。
3-3. 赤外線の作用
赤外線は、物に当たると吸収されて熱に変わる。体を温め、血行をよくする作用があり、暖房器具や治療器具に利用されている。
一方、強い赤外線を長い間浴びると、熱中症や皮膚のやけどの原因になる。また、ガラス工場や製鉄所など、高温の炉を長い間見つめる仕事では、目の水晶体がにごる白内障(ガラス工白内障)が起こることがある。
紫外線と赤外線の作用を取り違える問題がよく出題される。
| 作用 | 紫外線 | 赤外線 |
|---|---|---|
| 殺菌作用 | ある | ない |
| ビタミンDの生成 | ある | ない |
| 日焼け(紅斑) | ある | ない |
| 熱作用(熱線) | 弱い | 強い |
| 白内障 | 原因になる | 原因になる |
⚠️ 「赤外線には殺菌作用がある」「皮膚でビタミンDをつくるのは赤外線である」は誤り。どちらも紫外線の作用である。
3-4. 照明
明るさの程度を照度といい、単位はルクス(lx)で表す。適切な照明には、次の条件が必要である。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 十分な照度 | 作業の内容に応じた明るさがある |
| 明るさにむらがない | 部屋の中や作業面で明るさが均一である |
| まぶしさがない | 光源が直接目に入らず、強い反射がない |
| 適切な光の色 | 自然光に近く、物の色が正しく見える |
照明が不十分だと、目が疲れ、作業の能率が落ち、事故やけがの原因になる。食品を扱う場所では、汚れや異物、食品の色の変化を見落とさないためにも、十分な明るさが必要である。
事務所では、事務所衛生基準規則によって、一般的な事務作業の作業面の照度は300ルクス以上とされている。日常生活では、居間や台所で150〜300ルクス程度が目安とされる。
照明には、光源の光を直接当てる直接照明と、天井や壁に反射させて当てる間接照明がある。直接照明は効率がよいが、まぶしさや影が生じやすい。間接照明はやわらかいが、効率が低い。
4. 住居の衛生
4-1. 健康な住居の条件
住居は、雨や風、暑さや寒さから身を守り、休養と家族の生活の場となる。健康に暮らせる住居には、次の条件が求められる。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 日照・採光 | 日光が入り、明るい。日光は室内を乾燥させ、殺菌する |
| 換気 | 新鮮な空気が入れかわる |
| 温度・湿度 | 室温は18〜28℃、湿度は40〜70%程度が目安 |
| 防湿 | 結露やカビ、ダニが生じにくい |
| 遮音 | 外の騒音が入りにくい |
| 安全 | 段差や滑りやすい床が少なく、転倒や転落が起こりにくい。火災に強い |
4-2. 換気
換気は、室内の汚れた空気を外の新鮮な空気と入れかえることで、二酸化炭素、一酸化炭素、湿気、におい、化学物質、病原体などをへらす。
| 種類 | 仕組み |
|---|---|
| 自然換気 | 室内と室外の温度差や、風の力によって、窓やすき間から空気が入れかわる |
| 機械換気 | 換気扇や送風機などの機械で、強制的に空気を入れかえる |
窓を開けて換気するときは、向かい合う2か所の窓を開けると、空気の通り道ができて効率よく入れかわる。
4-3. シックハウス症候群
シックハウス症候群は、住宅の建材や家具、接着剤、塗料などから出る化学物質や、カビ、ダニなどによって、室内の空気が汚れて起こる体の不調である。新築や改装したばかりの住宅で起こりやすい。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な原因物質 | ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物。カビ、ダニ |
| 主な症状 | 目がちかちかする、のどの痛み、頭痛、めまい、吐き気、皮膚のかゆみ、だるさ |
| 対策 | 十分な換気。原因物質を出しにくい建材を使う |
国は、2003年の建築基準法の改正で、ホルムアルデヒドを出す建材の使用を制限し、新築の住宅などに24時間換気ができる機械換気設備の設置を義務づけた。また、厚生労働省は、ホルムアルデヒドなどの化学物質について、室内の空気中の濃度の指針値を定めている。
4-4. 結露・カビ・ダニ
気密性の高い住宅では、冬に室内の暖かく湿った空気が冷たい窓や壁にふれて結露が起こりやすい。結露はカビの原因となり、カビをえさにするダニもふえる。カビやダニ(死がいやふん)は、ぜんそくやアレルギー性鼻炎などのアレルギーの原因になる。こまめな換気、適切な湿度の管理、掃除が予防の基本である。
5. 製菓とのつながり
5-1. ドライアイスと二酸化炭素
生菓子やアイスクリームの持ち帰りに使うドライアイスは、二酸化炭素を固めたもので、温度は約−79℃である。ドライアイスは、とけると液体にならずに直接気体の二酸化炭素に変わる(昇華)。1kgのドライアイスからは、約500Lもの二酸化炭素が出る。
狭い保管庫や、窓を閉め切った車の中、密閉した小部屋に大量のドライアイスを置くと、二酸化炭素の濃度が上がり、同時に酸素が少なくなって、頭痛やめまい、意識を失う事故が起こるおそれがある。二酸化炭素は空気より重いため、床の近くや、くぼんだ場所にたまりやすい。ドライアイスは換気のよい場所で扱い、密閉した容器に入れない(容器が破裂するおそれがある)、素手でさわらない(凍傷になる)ことが大切である。お客様に渡すときも、車の中では換気をし、ドライアイスを口に入れないように注意を伝える。
5-2. ガスオーブンと一酸化炭素
ガスオーブンやガスコンロ、湯沸かし器は、換気が悪いと不完全燃焼を起こし、一酸化炭素が発生する。一酸化炭素は無色・無臭で、気づかないうちに中毒になるおそれがある。厨房では、燃焼器具を使うときは必ず換気扇を回すこと、炎の色が赤や黄色っぽいとき(正常な炎は青い)は不完全燃焼を疑うこと、器具を定期的に点検し、ガス警報器(一酸化炭素も検知できるもの)を設置することが大切である。
5-3. 厨房の熱中症
菓子店の厨房は、夏になると、オーブンやコンロの熱、蒸し器や鍋の湯気によって、高温多湿になりやすい。オーブンの前は輻射熱も強く、気温以上に熱がこもる。WBGTが、気温だけでなく湿度と輻射熱を取り入れているのは、まさにこうした環境の危険を正しく評価するためである。
厨房では、換気と冷房で温度と湿度を下げる、オーブンの前での作業を長く続けない、のどが渇く前にこまめに水分と塩分をとる、体調の悪い人を早く見つけるといった対策が必要である。WBGTを測る機器(暑さ指数計)を厨房に置くと、危険を数字で確かめることができる。
5-4. 照明と異物の見落とし
食品をつくる場所では、十分な明るさが、品質と安全を守る。暗い作業場では、生地に混じった髪の毛やビニール片などの異物、クリームの変色、焼き色のむらを見落としやすい。作業台の照明が切れたり暗くなったりしたときは、すぐに交換することも、衛生管理の一部である(食品衛生学の本の施設と食品取扱者の衛生管理の章を参照)。
試験対策:よくある間違いポイント
試験に出る文です。正しい文(○)と間違った文(×)がまざっています。選んでから答えを確かめてください。
Q1温熱の4要素とは、気温・気湿・気流・気圧である
Q2紫外線は、可視光線よりも波長が長い
Q3一酸化炭素は、炭素をふくむ燃料の不完全燃焼によって発生する
Q4シックハウス症候群の主な原因物質は、二酸化炭素である
Q5赤外線は、微生物に対して殺菌的に作用する
Q6紫外線は、皮膚に当たると赤くなる紅斑作用を起こす
Q7皮膚でビタミンDをつくる作用があるのは、赤外線である
Q8空気の主な組成は、酸素が約41%、窒素が約51%である
Q9空気の成分のうち、最も多いのは酸素である
Q10シックハウス症候群の原因物質の一つとして、ホルムアルデヒドがある
Q11不快指数は、気温と気流から求める指標である
Q12人体からの放熱を左右する空気の物理的な性状には、気温・気湿・気流の3つの要素がある
Q13一酸化炭素は、濃度が0.02%(200ppm)に上がると死に至る
Q14WBGT(暑さ指数)は、気温だけをもとにした熱中症の指標である
Q15熱中症の予防には、WBGT(暑さ指数)が用いられる
Q16一酸化炭素は、酸素よりもヘモグロビンと結びつきにくい
Q17空気中の二酸化炭素の割合は、約4%である
Q18熱中症は屋外でのみ起こり、室内では起こらない
Q19紫外線が目に多量に当たると、角膜や結膜が障害を起こしやすい
Q20二酸化炭素は、室内の空気の汚れには関係しないため、指標として使われない
Q21空気の組成として、窒素と酸素で99%近くをしめる
Q22酸素は、人間の生命の維持に欠かせないものである
Q23一酸化炭素中毒の予防には、換気が最も重要である
Q24赤外線は熱線ともよばれ、長い間目に当たると白内障の原因になる
Q25一酸化炭素には、強い刺激臭がある
Q26紫外線のビタミンD形成作用が不足すると、脚気になる
まとめ
空気は、窒素約78%、酸素約21%、アルゴン約0.9%、二酸化炭素約0.04%からなる。酸素濃度が18%未満になると酸素欠乏とされ、ドライアイスや液体窒素を置いた狭い部屋でも起こりうる。二酸化炭素は毒性は弱いが、室内の空気の汚れの指標とされる(建築物衛生法の基準は1,000ppm以下)。一酸化炭素は不完全燃焼で発生し、無色・無臭で、ヘモグロビンとの結びつきが酸素の約200〜250倍強く、酸素欠乏を起こす。予防の基本は換気である。
暑さ・寒さの感じ方は、温熱の4要素(気温・気湿・気流・輻射熱)で決まる。不快指数は気温と気湿から、WBGT(暑さ指数)は湿度・輻射熱・気温から求め、WBGTは熱中症の予防に使われる(31以上は「危険」)。熱中症はⅠ度〜Ⅲ度に分けられ、意識障害のあるⅢ度はすぐに救急車をよぶ。職場では2025年6月から熱中症対策が義務化された。
太陽光は、波長の短い順に紫外線、可視光線、赤外線に分けられる。紫外線には殺菌作用、ビタミンD生成作用(不足するとくる病)、紅斑作用があり、雪眼炎や皮膚がんの原因にもなる。赤外線は熱線ともよばれ、熱中症や白内障の原因になる。照明は、十分な照度で、むらやまぶしさがないことが大切である。
住居では、日照、換気、温度・湿度、防湿が健康を左右する。シックハウス症候群はホルムアルデヒドなどの化学物質やカビ・ダニが原因で、対策は十分な換気である。
菓子店の厨房では、ドライアイスの二酸化炭素、ガス器具の一酸化炭素、オーブンの輻射熱による熱中症に注意が必要である。次章では、生命に欠かせない水と、私たちの暮らしから出る廃棄物について学ぶ。
※ 本書は、令和7年の人口動態統計、令和7年簡易生命表、令和8年10月時点の法令・制度にもとづいています。

