お菓子の歴史 第四部 行事と菓子
世界と日本の行事の菓子
時代:古代〜現代(一年の暦をめぐって)
はじめに
お正月の花びら餅、ひな祭りの菱餅、こどもの日の柏餅、お月見の団子。クリスマスのシュトーレン、新年のガレット・デ・ロワ、イースターのたまご。
世界中どこでも、人々は、季節の節目や大切な行事に、特別なお菓子を用意してきた。それは、ただ甘くておいしいからではない。お菓子には、神様への感謝、家族の健康や子どもの成長への願い、豊かな実りへの祈り、そして、ともに祝う喜びがこめられている。
行事の菓子は、何百年、ときには千年以上も前から、形を変えながら受け継がれてきた。その一つひとつに、人々の暮らしと信仰と歴史が刻まれている。
この章では、これまで学んできた歴史をふまえながら、一年の暦にそって、日本と世界の行事の菓子を訪ねる。菓子店で働く人にとって、行事の菓子は、一年の仕事の大切な節目でもある。
1. 日本の行事と菓子
1-1. 節句とは
日本の行事の多くは、中国から伝わった暦の考え方がもとになっている。季節の変わり目の日を「節句」と呼び、とくに次の五つの節句(五節句)は、江戸時代に幕府の公式の祝日とされた。
| 五節句 | 日付 | 別名 | 主な菓子・食べ物 |
|---|---|---|---|
| 人日(じんじつ) | 1月7日 | 七草の節句 | 七草がゆ |
| 上巳(じょうし) | 3月3日 | 桃の節句・ひな祭り | 菱餅、ひなあられ、草餅 |
| 端午(たんご) | 5月5日 | 菖蒲の節句 | 柏餅、ちまき |
| 七夕(しちせき) | 7月7日 | 星祭り | 索餅(そうめんの祖先とされる) |
| 重陽(ちょうよう) | 9月9日 | 菊の節句 | 菊酒、栗ごはん |
1-2. お正月 ― 花びら餅
お正月の和菓子として知られる「花びら餅」は、白い餅(または求肥)で、紅色の菱形の餅、甘く煮たごぼう、白みそのあんを包んだ菓子である。
そのもとは、平安時代の宮中の正月行事にあるとされる。宮中では、固いものを食べて長寿を願う「歯固めの儀」が行われ、白い丸い餅と紅色の菱形の餅を重ねた「菱葩(ひしはなびら)」が使われた。歯固めには、鮎(年魚)なども使われたが、江戸時代のはじめごろには、それがごぼうに変わったといわれる。
明治時代になると、茶道の裏千家の家元が、宮中の菱葩をもとにした菓子を、京都の老舗の菓子店につくらせ、新年最初の茶会「初釜」の菓子とした。これが今の「花びら餅」の始まりとされる。
1-3. ひな祭り ― 菱餅とひなあられ
3月3日の上巳の節句は、もとは中国の、水辺で身を清めて厄をはらう行事であった。日本では、平安時代の記録に、3月3日に草を使った草餅をつくる習わしが見られる。
遅くとも江戸時代には、ひな祭りの菓子として菱餅が使われるようになった。江戸時代の菱餅は、緑・白・緑の三段が多かったとされ、今のような桃色(赤)・白・緑の三色になったのは、それより後のことである。上方(京都・大坂)では「引千切(ひちぎり)」と呼ばれる餅菓子も配られた。
ひなあられは、関東では米を膨らませた甘いポン菓子のようなもの、関西ではもち米を揚げた塩味やしょうゆ味のあられが多いなど、地域によって違いがある。
1-4. 端午の節句 ― 柏餅とちまき
5月5日の端午の節句は、江戸時代に、男の子の成長を祝う行事として定着した。
ちまきは、平安時代の辞書『和名類聚抄』にも登場し、5月5日に食べるものと書かれている。もとは、真菰(まこも)の葉で米を包み、灰汁で煮たもので、甘くなかったとされる。中国では、紀元前の詩人屈原をしのんでちまきをつくるようになった、という話が伝わっている。
柏餅は、18世紀の半ばに江戸で生まれたとされる。柏の葉は、新しい芽が出るまで古い葉が落ちないことから、「家が絶えない」縁起のよい葉とされた。江戸時代の風俗を記した『守貞謾稿』によれば、京都・大坂では、男の子の最初の端午にはちまきを配り、2年目からは柏餅を贈ったが、江戸では最初の年から柏餅を贈ったという。今でも、関東では柏餅、関西ではちまきが多く食べられる傾向がある。なお、関西より西の地域では、柏の木が少なかったこともあり、サルトリイバラ(山帰来)の葉で包んだ餅も多い。
1-5. 嘉祥と和菓子の日
6月16日の「嘉祥(かじょう)」は、室町時代から江戸時代にかけて、さかんに行われた菓子の行事である。
室町時代の武家では、6月16日に弓の勝負をして、負けた人が、中国の宋のお金「嘉定通宝」16枚で食べ物を買い、勝った人にふるまったという。「嘉定」が「嘉祥」や「勝」に通じるとして、縁起のよい行事とされた。江戸時代には、6月16日に大名や旗本が江戸城に集まり、将軍から菓子をいただく「嘉祥頂戴」が、大切な儀式となった。饅頭、羊羹など8種類の菓子が、大広間にずらりと並べられたという。
嘉祥の始まりを、平安時代の848年、仁明天皇が16個の菓子を神前に供えたことに求める話もあるが、これは伝承である。明治時代に嘉祥の行事はすたれたが、1979年、全国和菓子協会は、6月16日を「和菓子の日」と定めた。
1-6. お月見 ― 月見団子
旧暦8月15日の夜の月を「中秋の名月」(十五夜)と呼び、すすきを飾り、団子や里芋などを供えて月を眺める。もともとは、秋の収穫に感謝する行事であったと考えられ、十五夜を「芋名月」と呼ぶ地域もある。
月見団子の形は、地域によって違う。関東では丸い団子をピラミッドのように積み上げることが多く、関西では、里芋の形に似せた細長い団子に、あんを巻くものも見られる。十五夜にちなんで15個供える、という習わしもある。
1-7. 秋から冬 ― ぼたもち・おはぎ、亥の子餅
春と秋の彼岸には、もち米をあんで包んだ「ぼたもち」「おはぎ」を、先祖に供える。春は牡丹の花にちなんで「ぼたもち」、秋は萩の花にちなんで「おはぎ」と呼ぶ、という説がよく知られている。小豆の赤い色には、魔除けの力があると考えられてきた。
亥の子餅は、旧暦10月の最初の亥の日に食べる餅である。もとは宮中の「玄猪(げんちょ)」という行事で、この日に餅を食べると病気にかからないとされた。いのししは子どもをたくさん産むことから、子孫繁栄の願いもこめられている。茶道では、この時期に炉を開く「炉開き」の菓子としても使われる。
1-8. 人生の節目の菓子
日本では、行事だけでなく、人生の節目にも菓子が使われる。
| 節目 | 菓子 | 内容 |
|---|---|---|
| 七五三 | 千歳飴 | 細く長い飴に、長生きの願いをこめる |
| お祝いごと | 紅白饅頭 | 紅と白の組み合わせはおめでたい色 |
| 結婚・出産など | 赤飯、鶴亀の菓子 | 小豆の赤、長寿の鶴と亀 |
| 仏事 | 白い饅頭、落雁 | 先祖への供え物 |
2. 世界の行事と菓子
2-1. 1月 ― ガレット・デ・ロワ
1月6日は、キリスト教で、東方の三博士が幼いイエスを訪ねたことを記念する「公現祭(エピファニー)」である。フランスでは、この日に「ガレット・デ・ロワ(王様のお菓子)」を食べる。
パイ生地に、アーモンドクリーム(フランジパーヌ)を詰めて焼いたもので、中には「フェーヴ」と呼ばれる小さな陶器の人形がひとつだけ隠されている。切り分けたときにフェーヴが当たった人は、その日の王様(または女王様)になり、紙の王冠をかぶって、みんなから祝福される。
フェーヴとは、もともとフランス語で「そら豆」のことである。昔は本物の豆を入れていたが、19世紀の後半ごろから、陶器の人形が使われるようになった。豆で王様を選ぶ風習は、古代ローマの冬の祭り「サトゥルナリア」にさかのぼるともいわれる。南フランスでは、パイではなく、果物の砂糖漬けを飾った輪の形のブリオッシュ「ガトー・デ・ロワ」が食べられる。
2-2. 2〜4月 ― パンケーキデーとイースター
キリスト教では、復活祭(イースター)の前の約40日間を「四旬節」と呼び、昔は肉や卵、乳製品などを控える期間とされていた。その前の日に、家に残った卵やバター、牛乳を使い切るために食べたのがパンケーキである。イギリスでは、この日を「パンケーキデー」と呼び、フライパンでパンケーキを返しながら走る「パンケーキレース」が行われる町もある。フランスでは、同じ時期の「マルディ・グラ(太った火曜日)」に、クレープや揚げ菓子のベニエを食べる。
イースターは、十字架にかけられたイエスが復活したことを祝う、春の大きなお祭りである。生命の誕生を表すたまごは、イースターの象徴であり、色をつけたゆでたまごや、たまご形のチョコレートが飾られ、贈られる。イギリスの「ホットクロスバン」(十字の模様のついたパン)、イタリアの鳩の形の菓子パン「コロンバ」も、イースターの菓子として知られている。
2-3. 秋 ― 中秋節とハロウィン
中国や台湾などでは、旧暦8月15日の中秋節に、満月のように丸い「月餅」を食べ、家族が集まって月を眺める。日本のお月見と同じ日である。月餅は、家族の団らん(円満)の象徴とされ、親しい人に贈り合う習慣がある。
10月31日のハロウィンは、古代ケルトの、秋の終わりと冬の始まりの祭りに由来するといわれる。子どもたちがおばけなどの仮装をして家々を回り、「トリック・オア・トリート(お菓子をくれないと、いたずらするぞ)」と言ってお菓子をもらう。この習慣は、とくにアメリカで広まり、日本でもかぼちゃのお菓子などが季節の定番となった。
2-4. 12月 ― クリスマスの菓子
クリスマスは、イエスの誕生を祝う行事である。ヨーロッパの国々には、それぞれのクリスマスの菓子がある。
| 国 | クリスマスの菓子 | 内容 |
|---|---|---|
| ドイツ | シュトーレン | 果物の砂糖漬けやナッツを入れ、粉砂糖をまぶした発酵菓子 |
| フランス | ビュッシュ・ド・ノエル | 薪の形をしたロールケーキ |
| イタリア | パネトーネ | ドーム形の、ふんわりした発酵菓子 |
| イギリス | クリスマスプディング | ドライフルーツをたっぷり入れて蒸した菓子 |
| 日本 | いちごのショートケーキ | 戦後に広まった日本独自のクリスマスケーキ |
シュトーレンの記録で確かなもっとも古いものは、1474年のドイツ・ドレスデンの文書とされる。当時は、キリスト教の決まりで、クリスマス前の期間にバターを使うことが禁じられていたため、小麦粉、酵母、水だけでつくる素朴なものであった。ザクセンの君主たちがローマ教皇にバターを使う許しを願い出て、1490年から1491年にかけて、「バター勅書」と呼ばれる教皇の手紙によって、まず君主の家族に、翌年にはドレスデンのパン職人にも、バターを使うことが認められた(第6章参照)。こうして、シュトーレンはバターをたっぷり使った豊かな菓子へと変わっていった。1730年には、ザクセン選帝侯アウグスト強王のために、約1.8トンもの巨大なシュトーレンが焼かれたという。
ビュッシュ・ド・ノエルは「クリスマスの薪」という意味である。ヨーロッパでは、昔、クリスマスに大きな薪を燃やして、一年の幸せを願う習わしがあった。その習わしがすたれたあと、19世紀の後半に、パリの菓子職人たちが、薪の形のケーキとしてよみがえらせたとされる。最初に出版されたレシピは、1890年の菓子職人ピエール・ラカンの本に見られる。
パネトーネは、イタリアのミラノの菓子である。「トーニという職人がつくったパン(パン・ディ・トーニ)」が名前の由来だという伝説があるが、確かな記録で確かめられるのは、1599年に、北イタリアのパヴィアの学校の帳簿に、クリスマスのためのパンの材料が記されていることである。今のような背の高いドーム形のパネトーネは、1919年に、ミラノの菓子職人アンジェロ・モッタが広めたものである。
3. 一年の行事の菓子カレンダー
| 月 | 日本の行事と菓子 | 世界の行事と菓子 |
|---|---|---|
| 1月 | お正月(花びら餅) | 公現祭(ガレット・デ・ロワ) |
| 2月 | 節分、バレンタインデー(チョコレート) | パンケーキデー、マルディ・グラ(クレープ) |
| 3月 | ひな祭り(菱餅・ひなあられ)、春の彼岸(ぼたもち)、ホワイトデー | イースター(3〜4月、たまご、ホットクロスバン、コロンバ) |
| 5月 | 端午の節句(柏餅・ちまき) | ― |
| 6月 | 嘉祥・和菓子の日(6月16日) | ― |
| 7月 | 七夕(索餅・そうめん) | ― |
| 9月 | 十五夜(月見団子)、秋の彼岸(おはぎ) | 中秋節(月餅) |
| 10月 | 亥の子(亥の子餅) | ハロウィン |
| 11月 | 七五三(千歳飴) | ― |
| 12月 | クリスマス(ショートケーキ) | クリスマス(シュトーレン、ビュッシュ・ド・ノエル、パネトーネ) |
※ 十五夜、中秋節、彼岸、イースターなどは、年によって日付が変わる。
伝説と史実
よく語られるお話と、確かな記録からわかることを比べてみましょう。カードをタップすると、史実がめくれます。
🔮 よく語られる話「嘉祥は、848年に仁明天皇が16個の菓子を供えたことから始まった」
🔮 よく語られる話「ひな祭りの菱餅は、昔から桃色・白・緑の三色だった」
🔮 よく語られる話「パネトーネは、トーニという職人がつくった『トーニのパン』から名づけられた」
🔮 よく語られる話「シュトーレンは、昔からバターたっぷりのぜいたくな菓子だった」
製菓とのつながり
行事と菓子店の一年
菓子店にとって、行事は一年でもっとも忙しい時期である。クリスマス、バレンタインデー、ひな祭り、こどもの日。行事の菓子は、何週間も前から材料を準備し、計画的に製造する必要がある。たくさんの菓子を短い期間につくるときこそ、衛生管理と温度管理が大切になる。とくに、クリスマスケーキのような生クリームの菓子は、つくってからお客様の手に渡るまで、低温を保つことが欠かせない。
発酵菓子と保存
シュトーレンやパネトーネは、どちらも発酵菓子である。シュトーレンは、バターと砂糖、洋酒に漬けた果物をたっぷり使い、焼いたあとに溶かしバターをしみこませ、粉砂糖をまぶして表面をおおう。こうすることで乾燥を防ぎ、日持ちがよくなる。ドイツでは、クリスマスまでの4週間(アドベント)に、少しずつ切って食べ、日ごとに味がなじんでいくのを楽しむ。パネトーネは、何度も発酵させることで、ふんわりした食感と、長持ちする性質が生まれる。
葉で包む菓子
柏餅、ちまき、桜餅のように、葉で包む菓子は、葉の香りが移るだけでなく、乾燥を防ぎ、手を汚さずに食べられるという利点がある。葉は、使う前によく洗い、衛生的に扱う必要がある。季節の葉を使う和菓子は、日本の四季と結びついた、大切な食文化である。
まとめ
日本の行事の多くは、中国から伝わった暦の考え方がもとになっている。五節句のうち、上巳(3月3日)には菱餅や草餅、端午(5月5日)には柏餅とちまきが食べられる。江戸時代の菱餅は緑・白・緑が多く、柏餅は18世紀半ばに江戸で生まれ、京・大坂ではちまき、江戸では柏餅を贈った。
お正月の花びら餅は宮中の「菱葩」をもとに、明治時代に裏千家の初釜の菓子となった。6月16日の嘉祥は、室町時代の武家の行事や、江戸城の「嘉祥頂戴」として行われ、1979年に「和菓子の日」とされた(848年の起源は伝承)。十五夜の月見団子、彼岸のぼたもち・おはぎ、旧暦10月の亥の子餅など、季節ごとの菓子が受け継がれている。
世界では、1月6日の公現祭にガレット・デ・ロワ(フェーヴで王様を決める)、四旬節の前にパンケーキ、イースターにたまごや菓子パン、中秋節に月餅、クリスマスにシュトーレン(1474年の記録、1490〜1491年のバター勅書)、ビュッシュ・ド・ノエル(1890年のラカンのレシピ)、パネトーネ(1599年の記録、1919年にモッタがドーム形に)が食べられる。
行事の菓子には、神様への感謝と、家族の幸せへの願いがこめられている。次章は巻末として、この本で学んだお菓子の歴史を、年表と人物で振り返る。
※ 本ページは『sweets note. 図書館』のお菓子の歴史 第16章です。製菓衛生師養成課程の科目「社会」のうち、菓子の歴史と文化にあたる内容を扱っています。

